第五話「合同依頼の洗礼」
クラウスの「君が欲しい」発言で、応接室の空気が一瞬で冷凍庫になった。
天井のシャンデリアまで凍りついたような気がする。
ロッタは顔が真っ赤どころか、もうマグマ噴火直前だ。
「よ、よよよよろしくお願いします! が、がんばりますっ!」
……おい、テンションの上げどころ絶対間違ってるだろ。
俺の内心ツッコミが宙を舞う。
クラウスはそんなロッタに満面の微笑みを向けて、一歩身を乗り出す。
その動き一つ一つが俺には「営業スマイルの魔王」に見えて仕方ない。
「ロッタさん、あなたのような……その、特別な、ええと、方と協力できるのは本当に光栄です。合同依頼の間、ぜひ一緒に……ぜひ、たくさん、色んなことを……!」
クラウスは珍しく言葉に詰まり、なぜか妙に息が上ずっている。
こっちが見てて恥ずかしくなるレベルだ。
「私、今日から生まれ変わります! なんでも頑張りますから、期待してください!」
(おい、完全にクラウスの“口説き文句”に完堕ちしてるじゃねぇか……)
ロッタはいつも元気だけど、今日はなんだか夢の中のプリンセスみたいだ。
こっちが危機感MAXで胃が縮んでるのをよそに、本人はすっかり王子様の出現を楽しんでいる。
……だが、ここで副リーダーが低い声で、クラウスに静かに釘を刺す。
「クラウス、先走るなお前らしくもない……まただぞ?」
「あ、ああ、すまない……」
クラウスは素直に一歩下がるが、明らかに目が泳いでいる。
俺には“タイミングを測ってるだけ”にしか見えない。
きっと副リーダーがいなかったら、エリュシオン・ブレイズは100人くらいのパーティになってるんじゃなかろうか。
とはいえ、クラウスはすぐに体勢を立て直し、またロッタに柔らかな笑顔を向けた。
「でも、せっかくだから合同依頼の期間中はしっかり交流したい。ロッタさん、食事の好みは? もしよかったら朝食を一緒に――いえ、その、パーティの連携を高めるために……」
「え? あ、私はどっちも好きです! パンもご飯も……でも朝はちょっと弱いかも。クラウスさんは?」
「僕もどちらでも。朝食を一緒にとれば、パーティの雰囲気も……その、いや、連携が……」
……なにその流れ。
恋バナでも始まるのか。
ロッタがどんどんキラキラしだしているのを見て、副リーダーが静かにため息をついた。
俺が不安になる中、ついにギルド受付のサラが申し訳なさそうに立ち上がる。
「え、えーっと……みなさん、すみません。本部から正式な条件が出てまして……」
サラは一瞬、俺たちの方に「ごめんなさい」と目で訴えると、すぐに事務的な口調で説明を続けた。
「今回の依頼は、“パーティ間交流強化”のため、お互いのパーティから一名ずつ交換が絶対条件です。そしてメンバーの選定は、上位パーティ――エリュシオン・ブレイズさんのご意向優先となっております」
その瞬間、室内の空気がさらに冷え込んだ。
俺は納得できず、副リーダーに問いかける。
「それ、どうやって決めるんですか? うちから誰が……?」
副リーダーは肩をすくめ、クラウスとロッタの方を見る。
「……まあ、見ての通りだな。クラウスが“どうしても”というから」
クラウスはまたロッタに爽やか口説きビームを放っている。
ロッタはすっかり夢見心地で、「えへへっ、期待されると燃えちゃいます!」なんて返している。
副リーダーはもう一度ため息をついた。――俺も思わずため息が漏れそうになる。
(……うわ、本当に“女たらし”ってこういうタイプのこと言うのね)
ふいに、誰かがぽつりと呟いた声が耳に入った。
今のクラウスは、その文字通り“女たらし”に見えた。
でも本人の中身は全然違うんだろうな。
サラはそっと気まずそうに目を伏せている。
――ギルド本部のルールも、クラウスの人たらし力も、今はどうしようもない。
そして俺の“危機察知”スキルは、頭の奥でビリビリビリビリと警報を鳴らし続けている。
(このまま流されたらマズい……! 俺がやれることは――)
その瞬間、咄嗟に言葉が口を突いて出た。
「そ、それなら、こっちからも一つ条件がある。それは――」




