第二話「休暇の重み」
ロッタが三日間の休暇に入り、俺たち「ブラッドウルフ隊」は初めて“ロッタ抜き”で依頼に挑むことになった。
初日、ターゲットは中型のスピード型魔獣“クォーツベア”。手ごわい相手だったが、戦闘そのものは問題なくクリアした。
「……静かだな、今日は」
帰り道、妙な静けさに俺がぽつりと呟く。
「うん。ロッタがいたら、今ごろ『勝利の舞!』とかやってたのにね」
シルビアが苦笑する。
「ま、まあ、たまにはこういうのもいいんじゃないか? 大人の落ち着きってやつ?」
ブロックがぎこちなく肩をすくめた。
ギルドに戻って精算を済ませ、テーブルについた直後――ブロックが急に腹を押さえてうずくまる。
「うぐっ……腹が……!」
「おい、大丈夫か?」
「だいじょぶだいじょぶ。ちょっと厄落とし発動しただけ! 休めば治るから!」
俺も、これにはもう慣れている。ブロックのスキルは“厄落とし”と呼ばれる特性で、ときどき強烈な腹痛がやってくる。とはいえ、最近はロッタがいるときはずっと軽かった気がしていた。
「そういえば、最近はブロック、あんまり腹痛訴えてなかったよね」とシルビアが首をかしげる。
「いやー、俺的にはこれが普通なんだけどな。むしろロッタがいるときだけ、なぜか軽かった気が……」
「そうか? 気のせいじゃないか?」
「そうそう、気のせい気のせい! ははっ、よーし、明日は絶好調のはず!」
ブロックは無理やり明るく笑うが、ちょっと顔色が悪い。そんな様子を見ているうちに、俺自身もどこか肩が重いような、落ち着かない気持ちになっていた。
二日目。
依頼そのものは、またも特に大きな問題もなく進んだ。
……はずだったのだが――
「……うーん……」
帰り道、俺は自分でも気づかないうちに何度もため息をついていた。
「ガイル、珍しくずっと難しい顔してない?」
「そうか?」
「なんか、今日はやけに細かいとこ気にしてるよ。シルビア、ちょっとでも手順ミスったら睨まれてたし」
「えっ、そうだった? 自覚ないんだけど……」
「隊長がピリピリしてると、こっちも気を使っちゃうからなー」
「ごめん、なんか調子が狂うな……」
シルビアは静かにうなずいた。
「でも、依頼そのものは問題なかったんだし、ちょっと疲れがたまっただけじゃない? 私も最近、何となく集中しにくい気がしてる」
「そうだな……まあ、今日はもう休もう」
ギルドに戻ると、ブロックは元気そうにしていたが、今度は俺が胃のあたりに違和感を覚える。
「隊長も厄落としか? 俺のスキル、うつった?」
「そんなわけあるか……たぶん寝不足だ」
「でも、ロッタがいないと、何となく空気もどんよりしてるよね」
「まあ、明日は帰ってくる日だしな」
三日目。
今日の依頼は小規模な護衛仕事。特に大きな危険もなく、みんなで協力して任務を終えた。
「おつかれー! いやー、やっぱり静かだと、戦闘も楽な気がするよな?」
ブロックが無理やり明るく言う。
でも、その言葉とは裏腹に、やっぱりテーブルについた途端にブロックはまた腹痛でダウン。
「うう、やっぱりダメかも……ロッタがいたら、何となく楽だった気がするのに……」
「お前……ほんとは無理してただろ」
「バレたか! いや、でもほら、誰かが盛り上げなきゃと思ってさ! 隊長だって、最近ずっと元気ないし!」
「そういうのはロッタの役目だろ」
「俺もやればできるかと思ったんだけどなー。……やっぱ、無理はよくないな」
ブロックは少し寂しそうに、けれどどこかホッとした顔で笑った。
その夜、三人で帰り道を歩きながら――
「ロッタがいないと、パーティってこんなに静かなんだな」
「なんだか、全員にちょっとずつ変な負担がかかってる気がする」
「俺も正直、ロッタが恋しくなったかも……」
冗談めかして笑い合ったけれど、みんな同じ気持ちだった。
……明日からまた賑やかな日々が戻る――そんな期待と、ロッタの存在の大きさを噛みしめながら、俺たちはそれぞれの夜を過ごした。




