第一話「ムードメーカーは止まらない」
ここ最近、俺たち「ブラッドウルフ隊」は、ちょっとした快進撃を続けている。
きっかけは、やっぱりブロックが盾を使うのをやめたことだ。
それまで毎回お約束みたいに“やらかし”を繰り返していたブロックが、攻撃型前衛に転向してから、パーティの動きがまるで別物になった。
攻撃も防御も無駄が減り、依頼の成功率も明らかに上がってきた。
ギルドでも「今が旬のパーティ」なんて噂されている。
俺自身も、最近はパーティの仲間といるのが前より楽しくなったと感じている。
だが、それだけじゃない。
最近は、パーティ全体の雰囲気そのものが前より明るい。
それはたぶん――うちのムードメーカー、ロッタの影響だ。
とにかく明るい。声がでかい。魔法も派手。調子に乗るとさらにうるさい。
……だけど、不思議なもので、こいつがいるだけで、どんな場面でも空気が軽くなる。
「ねぇみんな、今日も大成功だね! このまま祝勝会しようよ、ね? ガイル、財布忘れてないよね!?」
その日の依頼帰り、ギルドのカウンター前で、俺たちは祝勝ムードだった。
そんな時、専属受付嬢のサラが呼び止めてきた。
「す、すみません、“ブラッドウルフ隊”の皆さん、本部から合同依頼の特別連絡が届いています」
「どこの奴らだ、俺達と合同依頼とか――」
分厚い封筒を手にとってみれば、封蝋の紋章――《エリュシオン・ブレイズ》。
Aランク上位の有名パーティからのご指名だとわかると、ロッタの目がキラッキラに輝く。
「え!? ちょ、ちょっと待って、ほんとに!? 《エリュシオン・ブレイズ》って、あのイケメンリーダーの……やばい、私、運命感じちゃうかも! ガイル、どうしよう! 一目ぼれされちゃったらどうしよう!?」
俺がため息をつく間もなく、ロッタは一人で盛り上がり続ける。
「合同依頼ってことは、一緒に冒険するんでしょ!? え、もしかして同じテントとか!? うわあ、どうしよう、私、寝癖直しておかなきゃ! いや、でも緊張して魔法失敗したらどうしよう! ガイル、ねぇ、私ほんとにやっていけるかな!?」
その勢いにブロックも「ロッタはいつも主役だな~」とニヤニヤ、
シルビアも「また始まった」と肩をすくめている。
俺は、冗談半分で口を開いた。
「そんなに向こうのリーダーがいいなら、いっそ行けばいいぞ、ロッタ。パーティを――」
――ビリビリビリッ!
――追放、と言いかけて危機察知の警報が脳天を突き抜ける。
このパターン、何度目だよ。
ロッタが一瞬きょとんとした後、ちょっと不安そうな顔でこちらを見る。
「……ごめん、私……うるさかった?」
その声だけは、いつものロッタらしくない。
一瞬だけ、場の空気が静まり返った。
俺は咳払いして、ぶっきらぼうに答える。
「いや、そうじゃない。お前がうるさいのは今さらだしな。……まあ、静かだと逆に心配になる」
シルビアも優しく「ムードメーカーがいないと、パーティが寂しいよ」とフォローし、ブロックも「ロッタはうるさいくらいがちょうどいいよ」とうなずく。
ロッタは少しだけほっとしたように微笑む。
しかし俺は息をついて、表情を引き締める。
「それより――もしかして、また追放警報だったり?」
シルビアにはバレたようだ。
「ええ!?やっぱり追放しようとしたの!?」
「ああ、まあ追放は冗談半分だったが……」
あの感じは、ブロックの時と同じだった。
つまり、ロッタも追放したらヤバいことになるって事だ。
ならやることは一つだな。
「……ロッタ、お前に三日間休暇をやる。これは冗談じゃない。本気だ。ブロックの時と同じだ。お前がいないパーティの様子を見てみたい」
ロッタはしばらく悩んでいたが、やがて元気な笑顔を取り戻す。
「……じゃあ、三日間だけね! 面白いことがあったら、全部あとで聞かせてよ!」
こうして、“ロッタ抜き三日間”という新たな実験がスタートすることになった。
……だが、こいつがいないパーティって、本当にどうなるんだろうな――
俺様もちょっとだけ、不安になっていた。
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