おまけ 鑑定士の回想
スキル鑑定士という仕事を長く続けていると、数えきれないほどの人間の“強さ”や“脆さ”を目にする。
力の真実、スキルの正体――それが持ち主や仲間たちに与える影響もまた、想像以上に大きい。
本来、スキルはただの“道具”に過ぎないはずなのに、多くの者は、それに人生を託し、時に振り回され、時に救われながら歩んでいる。
今日のあの依頼は――
私の記憶に残る、特別なものだった。
とりわけ興味深かったのは、ブロックの「厄落とし」とでも言うべきスキル。
これは、ただの幸運でも不運でもない。
“パーティ全体に降りかかるはずの不運”――
本来なら誰かが大怪我をしたり命を落とすような“危機”を、あらかじめ自分の身の小さな失敗や体調不良として先に消費してしまう、そんな不思議な能力だ。
派手さはないが、実際にはこれほど集団戦で重宝されるスキルも珍しい。
たとえ小さなミスでも、それが“厄落とし”となって皆の命をつなぎ止める。
現場で危険に立ち向かった者ほど、その意味がどれほど重いかを理解しているものだ。
――だが、このスキルには明確な限界と危うさもある。
“完全な実力不足”には全く無力で、致命的な実力差や無謀な任務に放り込まれれば、いくら不運を消費しようと、最期にはあっけなく命を落とすしかない。
しかも、この力の真価が世間に知れ渡れば、ギルドや上位パーティが目をつけるだろう。本人の意思などお構いなしに、より危険な任務へと引っ張り出され、やがて、その身を滅ぼすかもしれない。
私は、ブロックの素朴な笑顔を思い返しながら、
どうか“厄落とし”が呪いに変わらず、
小さな幸運のまま、仲間たちの中で生き続けてほしい――
そんなささやかな願いが、ふと胸に浮かんだ。
……そして、リーダーのガイル。
彼については、正直不可解な点が多すぎる。
本人は“危機察知”だと信じているが、
私が表層を覗いた限りでは、どこか妙な違和感が拭えなかった。
確かに、“鋭い勘”や“危機を察知する力”のような動きも見て取れる。
しかし、その実は恐怖や不安を過剰に感じ取る――
いわば“臆病虫”というマイナススキルの一種に近い。
普通なら、このスキルで冒険者を続けることなど到底できるはずがない。
それなのに、彼はAランク冒険者としてパーティを率い、堂々と仲間を引っ張り続けている。
なぜだろう――その内面には、まだ私にも解き明かせない「何か」がある。
それはきっと、本人すら気づいていない秘密かもしれないし、あるいは仲間との絆が“力”の在り方を変えているのかもしれない。
(だが、あの様子なら、きっと近いうちにまた、私のもとへ“スキル鑑定”の依頼がやってくるだろう。
その時こそ、ガイルの真の素質や、パーティの“運命”に迫れるかもしれない――
……ふふ、それが今から楽しみでならない)
私は分厚い鑑定書を静かに閉じ、
窓の外に広がる夕焼けと、街の喧騒をしばし眺める。
遠くから聞こえてくる若者たちの声に耳を澄ませながら――
彼らの冒険が幸運に守られ、
仲間の努力と知恵で、どんな苦境も乗り越えられることを、
私はひっそりと祈り続けている。




