第十五話「鑑定士のおせっかい」
鑑定士が儀式を終えると、淡い光の魔法陣が静かに消えていった。
張り詰めていた空気が、ゆるやかに溶けていく。
「ふぅ……」
ロッタがほっと息をつき、ブロックも大きく肩を落とす。
シルビアは小さく手を合わせて、優しく微笑んでいた。
俺もつい、肩の力が抜ける。
鑑定なんて、もっと淡々としたものだと思っていたのに、こんなに気疲れするとは。
だが、その空気を破るように、
鑑定士がふいに俺を見据えた。
「最後に――一つ、おせっかいを」
「……え?」
老人の真剣な眼差しが俺に突き刺さる。
「君は――ブロック殿を絶対に手放してはいけません。
君の持つスキルには、どうやら彼が必要なはずです。
君がどの程度、自分のスキルを理解しているかは分かりませんが……」
心臓が一瞬だけバクンと跳ねる。
「な、なんだよ、それ……どういう意味だ?」
俺が身を乗り出すと、鑑定士はふっと笑って、
わざとらしく大きな本をパタンと閉じた。
「――ここから先は、有料なのでね」
「はあ!? 何だよそれ、せこくないか!?」
「私も生活がかかってましてな。ご用命があれば、またどうぞ」
老人は本当に“仕事モード”の顔でぺこりと頭を下げた。
「気になる……!」
ロッタがじりじりと身を乗り出す。
「ガイル、追いチップ出す?」
シルビアが冗談っぽく言う。
「い、いや、今月の予算が……!」
そんなこんなで、また一つ謎を残したまま、鑑定士との面談は終わった。
* * *
その後、ブロックは盾を使うのをやめて、
持ち前のパワーを生かして、盾役から“攻撃型の前衛”に転向した。
ミスはまあ、相変わらずあるが、なかなか使えるようになってきた。
パーティの連携も、前よりずいぶん良くなった。
戦闘中は、ロッタが明るく声をかけ、シルビアは穏やかに後ろから支えてくれる。
みんなの個性が噛み合って、昔よりもっと“仲間”らしくなった気がする。
……まあ、全部俺様のおかげだけどな!
冒険帰りのギルド酒場。
みんなでテーブルを囲み、今日も反省会という名の打ち上げ。
「ブロック、今日の一撃、めっちゃ頼りになったよ!」
ロッタがグラスを掲げる。
「ううん、やっぱりブロックがいると安心する」
シルビアが微笑む。
「いやいや、そんな……たまたまだよ……」
ブロックが照れくさそうに苦笑い。
「でも、今までの“運の悪さ”を思えば、これからはもっとプラスだね」
ロッタが元気よく笑った。
そんな空気の中、ふと俺は考えていた。
――それにしても、あのとき追放しなくて本当に良かったな。
(さすがは俺のスキル……もしかして、
危機察知よりももっと凄いスキルなんじゃないだろうか)
そんなことを考えながら、俺たち「ブラッドウルフ隊」の日々は―――
「……は、腹が……ぐっ……また……」
その瞬間、全員の顔色がさっと青ざめる。
「……あれ、わ、私も……っ」
ロッタが急に椅子から立ち上がる。
「ちょっと待って……うそ……」
シルビアが静かにテーブルに突っ伏す。
「ま、まさか……またかよ……」
俺の腹もねじ切れるほどの痛みが押し寄せてくる。
俺たち三人、ブロックと同時にトイレへダッシュ。
誰一人立っていられない。
パーティ全滅(腹痛)。
どんな危険な依頼も切り抜けてきた俺たちだが、
腹痛だけは、どうにもならないらしい。
でもこれ、厄落としなんだよな……ぐぅうう……
俺たち「ブラッドウルフ隊」の日々は―――
今日も変わらず、どたばたと続いていくのだった。




