第十四話「スキルの真実」
鑑定士は俺たちに一度だけ目配せし、
懐から丸いクリスタルの魔道具を取り出した。
パチリ、と指を鳴らすと、淡い光を放つ魔法陣が部屋中に広がる。
「これで外部には我々の声も気配も漏れません。……安心して話せますな」
鑑定士は静かにブロックの方へ顔を向ける。
「ブロック殿のスキル――非常に興味深く、希少な能力です。
簡単に言えば……“パーティに降りかかるはずだった不運を、先に自分の小さな失敗として消費できる”能力です」
俺も、ロッタも、シルビアも、思わず顔を見合わせた。
「たとえば、本来なら誰かが致命的な失敗をする“流れ”があると、
ブロック殿が“先回り”して腹痛を起こしたり、転んだり、盾を落としたりする……
その瞬間に“不運”が消費されるため、パーティはその後“ファンブルを回避した状態”で進めるわけです」
「つまり……あの謎の腹痛や、うっかり転ぶのって、全部“身代わり厄払い”みたいなものだったってこと……?」
ロッタが目を見開く。
「そう。いわば、“パーティ全体の厄落とし”が、無意識にブロック殿の小さな失敗で前借りされていたのです」
シルビアが神妙な顔でつぶやく。
「じゃあ……本当に危ない場面、たとえば大型魔獣との戦いみたいな時は?」
鑑定士はゆっくりうなずいた。
「“どんなミスも致命的になる”ような極限状況では、ブロック殿のスキルで消費される不運がそもそもありません。
逆に言えば、その時は“ファンブルの芽”がすべて消えている状態――
つまり、ブロック殿に小さなミスは起きず、パーティは着実な活躍が約束されているのです」
しばし静寂が流れる。
「つまり……どういうこと!?」
その静けさを破ったのは、ブロックだった。
鑑定士は微笑み、ゆっくりとブロックに向き直る。
「分かりやすく言えば――
君が時々うっかり転んだり、お腹を壊したり、妙なタイミングで盾を落としたりするのは、
本来ならパーティに降りかかるはずだった“もっと大きな災難”を、君が“先に身代わりで受け止めている”ということです」
「じゃあ……みんなが無事だったのは……?」
「うむ。君が転ぶことで、“本来起こるはずだったパーティのピンチ”を、一足早く消してしまったのだ。
君のやらかしで“危機回避のポイント”が前借りされている――そう考えていいでしょう」
「ええ……俺、役に立ってたの……?」
ブロックがぽつりとつぶやくと、ロッタとシルビアが同時に大きくうなずいた。
「めちゃくちゃ役に立ってるよ!ブロック!」
「むしろ、今までありがとうって感じ……」
鑑定士はさらに、ひと呼吸おいて付け加える。
「それゆえに、もしこのスキルの真実を、より上位のパーティや有力者たちに知られれば――
ブロック殿、君は“引く手あまた”でしょうな。
どの冒険者も、どの国家も、喉から手が出るほど欲しがる力です」
俺たち全員、思わず息を呑んだ。
「そんなに……?」
「そりゃそうだろ……この能力、パーティの生存率が劇的に上がるってことだぞ……」
ロッタが思わずブロックの肩を掴む。
「ダメだよ、ブロック!ぜったいウチ以外のパーティに取られないでよ!」
「そ、そんな予定ないよ……」
ちょっとだけ、みんなの絆を感じる空気が流れる。
だが、鑑定士はさらに真顔で言った。
「それと、もう一つ……
あなたは“盾”の適性が――致命的に低い。ですから、盾を使っては絶対にいけません。
ろくなことにならないので……」
部屋の空気が一瞬、止まる。
「え……」
ブロックが素で驚いて、みんなの顔を見回す。
「やっぱり……!」
ロッタが思わず声を上げる。
「そ、それ俺たちもずっと思ってたけど、専門家から言われるとリアルすぎて泣けてくるな……」
俺は天を仰いだ。
「盾役なのに……」
シルビアが苦笑い。
「し、しばらく……盾、やめとこうかな……」
ブロックがしゅんとなる。
なんとも言えない空気に包まれる中、俺は心の奥で叫んでいた。
(――つまり、失敗の大部分は厄落としじゃなくて、ただの実力だった可能性があるってことじゃねえか!!)
つい顔にも出ていたのか、ロッタとシルビアがくすくすと笑いを堪えている。
パーティに新たな事実と、微妙な脱力感が訪れた瞬間だった。




