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ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜  作者: 花乃衣 桃々
◆第1章 ゲームの始まり
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第1話 11月4日


 ふいに画面が光った。

 帰る支度をしていた小春(こはる)は、机の上に置いていたスマホを手に取る。


 新着メッセージの通知だった。

 送信者は“ウィザードゲーム運営”。


(ウィザードゲーム……?)


 聞き覚えのない響きに、訝しむように眉をひそめる。

 そのとき、リュックサックを背負った(れん)が歩み寄ってきた。


「帰ろうぜ、小春」


「あ、うん!」


 頷いてスマホをしまい、鞄を手に立ち上がった。

 教室を出ると、放課後の喧騒(けんそう)に包まれる廊下を歩いていく。


「部活は? 今日もないの?」


「ああ、しばらくは休むから。……そのうち戻るって。心配すんな」


 たたえられた苦笑は実にらしくなくて、小春は釈然(しゃくぜん)としない思いで顔を曇らせる。


 彼と初めて会ったのは、中学校に上がる年の春休みだった。

 そのとき近所に越してきて、未だに腐れ縁が続いている幼なじみという関係だ。


 サッカー部に所属している蓮は、かれこれ1か月くらい前からずっと休部していた。


 中学の頃からサッカー部のレギュラーで、高校でも活躍しているという話をよく聞いていたのに、なぜか突然休部してしまったのだ。

 誰が聞いても適当にはぐらかされるだけで、理由は教えてくれない。


 部活に行かなくなった代わりに、こうして朝も帰りも一緒に登下校するようになった。


 その理由もまた、彼が教えてくれることはなかった。


 そのとき、反対側から歩いてきた男子生徒と目が合った。


「あ、水無瀬(みなせ)向井(むかい)。また明日な」


 去年同じクラスだった和泉(いずみ)だ。

 にこやかに声をかけられ、小春と蓮は顔を上げる。


「じゃあね、和泉くん」


「お疲れ、またなー」


 2年に進級し、ふたりはB組、彼はE組とクラスこそ離れたものの、こうして顔を合わせれば挨拶や軽い会話を交わすことがあった。


 手を振って別れると、昇降口を抜けて校門を潜る。


 他愛もない話をしながら歩を進め、ほどなく住宅街の一角にある小春の家にさしかかった。門前で足を止める。


「じゃあ、また明日ね」


「ああ、寝坊すんなよ。迎えにいくから」


「はいはい……。いいのに、わざわざ送り迎えなんて」


「別にわざわざじゃねぇよ。俺の家そこだぞ、通り道だからついでなだけだ」


 蓮は親指で指し示した。

 道路を挟んで(はす)向かいにある一軒家が彼の家だ。


「そういうことじゃなくて……」


 知りたいのは、どうして突然こうも“過保護”になったのかということだ。


 送り迎えも一緒に登下校するのも、中学時代から振り返ってみてもここ1か月が初めてのこと。

 付き合ってもいないのに、急にどうしたのだろう。


「早く家の中入れ。あと夜はひとりで出歩くなよ」


「……もう、何なの? お母さんよりお母さんみたい」


 小春は苦笑しつつ、言われるがままに門の内側へ入る。

 蓮に手を振ると、玄関のドアを閉めた。




「……あ、忘れてた」


 自室へ上がってスマホを取り出したところで、そういえば妙なゲームのメッセージが来ていたことを思い出す。


 開いてみると、いっそう妙としか言いようのない文言(もんごん)が表示された。


【きたる12月4日、あなたたち2年B組の生徒は全員死にます。

殺されたくなければ“魔術師”を捜し出して皆殺しにすること。

魔術師の中で、あなたが唯一の生存者になったら見逃してあげる。

力を得たくば何かを捨てよ。

時には“運”があなたの生死を分けるもの……結果が悪くても、そのときは諦めるべし!

それじゃ、健闘を祈ってるよ~。

※本ゲームのプレイに拒否権はありません。

※いかなる場合においても異能の譲渡は不可となります。

※魔術師以外を殺害した場合、ペナルティが与えられます。】


 目を通した小春は、眉を寄せたまま首を傾げる。戸惑いに明け暮れた。


 自分がゲームに詳しくないせいもあるかもしれないけれど、こんなゲームは見たことも聞いたこともない。

 どうしてこんなメッセージが届いたのか、心当たりもなかった。


 うとうとしていたときに誤ってリンクを踏んでしまったのだろうか。


 試しに“ウィザードゲーム”と検索してみたけれど、引っかかるどころか「結果が見つかりませんでした」と表示される始末だった。


「おかしいな……。まさかウイルスとかじゃないよね」


 そんな不安に駆られながら、戻るアイコンをタップする。

 しかし、なぜか反応しなかった。


「あれ?」


 画面はメッセージを開いたまま固まっており、何度押しても動かない。

 ホーム画面に戻ることも電源を落とすこともできず、小春の不安はますます膨らんでいく。


 次の瞬間、ぱっと画面が暗転した。

 ほどなく勝手に再起動され、その不自然な挙動に困惑しながらもロックを解除する。


「何、これ……?」


 ホーム画面に羅列(られつ)するアプリの中に、見慣れないアイコンが増えていた。

 黒地の背景に白色の五芒星(ごぼうせい)。名称は“ウィザードゲーム”。


 先ほど強制的にインストールされたみたいだ。

 恐る恐るアイコンに触れ、アプリを開いた。


 画面の中央にはガチャのようなモチーフが大きく表示されている。

 その下にスロットがあり、5個の空きスペースがあった。


 しかし、ゲームと呼ぶには少し粗末な作りだ。

 そんなことを思いながら、ガチャアイコンの下に表示されている文字を追った。


【毎日23時59分に回せるよ!

・必要消費アイテム

①四肢 ②臓器 ③その他身体部位 ④???

好きな番号を選んでね~!

何が出るかはお楽しみ。そして、何を失うかも……】


 その下には確かに番号の振られた4つのボタンがそれぞれある。


 どれかひとつを選択すればガチャを回せるということなのだろう。


 けれど、このラインナップは何なのだろう。

 どことなく気味が悪くて不快感さえ覚えてしまう。


 いずれにしても、これほど奇怪で不可解なゲームをプレイする気などとうに失っていた小春は、早々にホーム画面に戻った。


 その間際(まぎわ)、画面の最下部に小さく書いてある文言が目に入る。


 “トーク画面および本アプリの画面を他者と共有した場合、ペナルティが与えられます”。


(よく分かんないけど、ゲーム好きな蓮なら何か知ってるかも)


 明日にでも聞いてみることにしよう。

 そう考えてスマホをスリープした。


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