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あの時代  作者: 大井 未知
日常
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月見草

 この春、友人から月見草の苗を分けていただいた。

 これは待宵草とは違う本当の月見草で、希少なものなのだということであった。早速地植えにしたが、何とまぁその弱々しいこと。まわりの土を押さえてもすぐに地面に倒れこんで、強く動かしたりすると細い茎が折れてしまう。仕方がないので百円ショップで小さな低い木の柵を買ってきて周りを囲い、茎の先をそっと乗せておいた。

 待宵草も月見草も、いまから百五十年ほど前に日本に渡来し、観賞用として栽培されたものである。待宵草の方はその後野生化してしまったが、月見草は性質が弱く、野生化することなくほとんど姿を消して、今では幻の花といわれている、と本に書かれていたので、私もなるほどと納得した。


 それからしばらく、明るい緑色の葉が元気に生長して月見草は我が家の庭にどうやらおさまった。

 ちょうど夏至のころだったか、夕方七時ごろ庭に下りてそこここの草花の手入れなどしていたとき、振り向くと月見草が一輪ポッと開いていた。蕾があったのも気づかなかったので、突然のことのように思えてたいへん驚いた。薄暮の中に浮かんだ真っ白い月見草は、私の思い込みもあるかもしれないが、やはり胸を打つものがある。


 その夜十二時ごろ、懐中電灯を持って月見草を見に行った。夜中に花の色がピンクに変わり、翌朝しぼむということを確認したかったのである。確かに夕方見たときとは違う風情ではあったが、際立ってピンクというほどでもない。でも次の朝には濃いピンクになってしぼんだ花が、ちゃんと茎の先に付いていた。「一夜花」とでもいうのだろうか、月並みな言い方だけれど自然の働きはほんとうに不思議だし、面白い。

 次の日には二つ、その後、多い日には十くらいの花が毎晩、白く開いてピンクにしぼむ。蕾は細くて葉と同じ色なのでほとんど分からないが、毎朝ピンクを数え続けて約二か月、そろそろ花期も終わりになってきた。

 

 でもいま、私は何となく心が落ちつかない。今年の十五夜は九月十四日である。せっかく「月見草」という名前があるのに、「……月見る月はこの月の月」といわれる中秋の名月を見ることなく花期を終えてしまうのは何故なのだろう。我が家の月見草だけなのか、もしかしたら日本のどこかに明月を賞でる月見草があるのか、それとも、温暖化で暦より気候が早くなってしまったせいなのか? 私が考えても仕方のないことだが──。

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