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あの時代  作者: 大井 未知
戦後
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選ぶということ

 ずいぶん昔のことでも、いつまでも心の中にわだかまっていて忘れられず、時折ふっと思い出したりすることがある。そんな中の一つ──。


 もう十年ほども前になるだろうか、何気なくテレビをつけたら白黒の古い洋画を放送していた。

 それは第二次大戦中の話のようで、収容所に連行される長い列のシーンがあって、その中に幼い二人の子を連れた母親がいた。しかし、係官の所で「子どもは一人しか連れていってはいけない」と命令される。母親は必死になって抵抗し、懇願するが聞き入れられず、最後は、ついに──つないでいた年上の子の手を離した。

 「ソフィーの選択」という題の映画だった。母親が子どもを選んだ、ということに私はショックを受けた。私も三人の子持ちなので、彼女の胸のうちが痛いほどよく分かる。また一方で選ばれる子どもたちが、どんなに深く傷ついたかも想像できる。私自身十歳のとき、敗戦による外地からの引き揚げを体験しているせいか、とても他人事には思えない。

 母親にとっても、子どもにとってもそれは命がけの選択であった。


 日本にも似たような話がある。俳優M氏の文章で読んだことなのだが、やはり第二次大戦中、乗っていた船が沈んで海に放り出されたとき、一緒にいた妻と母親が彼にしがみついてきた。とても二人を支えきれないと思った彼は、そのとき意識的に母親の手を離したのだという。幸い母親も助けられて、戦後再会できたが、一緒に食卓を囲んでいても、ある気まずい思いは消えなかったと、氏は述懐している。

 先の子どもも戦後生きて再会できた。しかし母親とのあいだにはしこりが残った。


 普段はこんなことを考えもせずに過ごしているが、もし私がこういう場面に遭遇したらどうするか。

 一般的に言えば、年下の子を選ぶことも、妻を選ぶことも、うなずけることかもしれない。しかし、当事者一人ひとりの身になったら、とてもそうは言えない。

 母親、子ども、妻(夫)、そして老いた母親と、それぞれの気持ちを考えると、人間には「選べないこと」もあるのだという気がする。

 七十を過ぎてこんなことにこだわる必要はないかもしれないが、やはり「命がけの選択」などない世の中であってほしいと私は願っている。

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