新たな生活
そして国王と少女の話は決まったようだ。私はどうなるのだろう。
少女は私の袖を掴み、王の間を後にした。私は少女について行った。王宮の敷地内にある少し離れた小屋に入った。小屋の中は無造作に置かれた魔導書の山やよく分からない道具が散乱しており、ゴチャついていた。
「なんかすごい……」
そのまま小屋の2階へ連れられ、1つの部屋に案内された。先程と違い、その部屋はベッド1つと机と椅子、物が少ない殺風景な部屋だった。少女は机の上の本などを片付け、新しいシーツとブランケットを用意してくれた。私の新しい部屋のようだ。
最初の部屋に比べてもより殺風景で質素な部屋だが、少女が私に対して用意してくれたシーツやブランケットは薬草のような匂いはあるがとても暖かかった。
「ありがとう」
私は少女にお礼を言った。少女は何を言ったのか分かってはいないだろうが、少し微笑んだ。
少女は部屋を後にした。ここにはあの見張りの兵士は居ない。きっと少女が新たな見張り役なのだろう。私はベッドに倒れ込んだ。
「生き延びたァァァァ……」
長いため息と共に心からの安堵の声が漏れた。
あの少女は王宮務めの魔術師で、ここは彼女の実験室であり生活空間なのだろう。しばらくして少女はマグカップを2つ持って部屋に訪れた。
中には暖かいミルクだ。1口飲むと、
「甘い……」
とつい口から出ていた。約2ヶ月の間飲んだのは水かワイン。ほとんどはワインだった。だからこのミルクは本当に美味しかった。少女は私をじっと見つめた後に紙と羽根ペンを渡してきた。何を書けと言うのだろうか。少女は少し悩み何かを書き始めた。
「全く読めん……」
少女はその文字と自身に対して指差しながら何か言っている。
「あっ!名前!?」
少女は繰り返しゆっくり発音してくれた。
「ア・ル・ノ・ー・ル・フ」
はじめて少女の名前がわかった。少女の名前は"アルノールフ"。苗字がどれなのか分からないけど名前が分かった。大きな進歩だ。
「アルノールフ」
私がそう言うと少女は頷いて彼女も自身に指差しながら「アルノールフ」と言ってくれた。そして「アル」とだけ言った。そう呼べと言う事なのだろう。
「アル」
と言うと少女はまた頷いてくれた。
私はペンを持ち、名前を書くことにした。
こっちの文字は分からないから
「仕方がない。日本語で書くか。」
羽根ペンは初めて使うから書きにくい。
少し字が汚いけど、私も「さとう みさき」とひらがなで書き、アルと同じように文字と自分に対して指差しながら発音した。
アルも理解したようで、初めて互いの名前を知った。