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豪雨の沼殺人事件⑦(強くて、危うい)

 のり子は事の顛末を都子に聞き、都子は事細かに説明した。聞き終えるとのり子は一つ息を吐き、考え込んだ。


「大枠は推理通りってところか……都子、倉庫で何を見つけたのか覚えてる?」

「うーん……チラッと見ただけだし暗かったから、良く分からない」

「そっか……」

「ごめんね。あ、でも結構大きなものだったとは思うよ。それが足に当たって動いて、それで気づいたんだけど」


 のり子は都子からの情報を頭の中で整理し、一つの結論を出した。腰を上げ、すみれの方を向いた。


「すみれ、都子の傍にいてあげて。誰が犯人か現状では分からない以上、すみれだけが頼りなの」

「分かった、任せて」

「都子、ちょっと調査に行ってくる。必ず……真相を明らかにして戻ってくるから」

「う、うん」


 そう言い残し、のり子は部屋を出て行った。都子はのり子の姿を見届けた後も、驚きの表情を浮かべていた。


「本当に真っすぐだね……のり子は」

「うん、どこまでも真っすぐで強くて……だからこそ、危うい」

「?」

「大切な人を守るためなら、自分ですべて背負って体を張ることも厭わない。いつの間にか傷だらけになっていて、そこを付け込まれることもある。だから……誰かが支えてあげないといけないの」


 すみれは優しい笑みを浮かべながら、呟いた。のり子を傍で見続けてきたからこそ分かること……すみれの表情を見て、都子もまた優しい笑みを浮かべた。


「何だか……羨ましいな、のり子とすみれの関係。分かりあって、支え合ってるみたいな」

「……特別だから。私にとって、のり子は」

「特別って、どういう意味で?」

「織絵が抱いてる気持ちとは……違うかな」

「あはは、織絵ちゃんも一安心だね」


 素直な笑顔で笑う都子を見て、のり子を支えてくれる子がまた一人増えたのかもしれないとすみれは思ったのだった。


***


 のり子は倉庫に向かう前に、ある場所に向かっていた。事件の真相を解き明かすためにどうしても必要な力……土久の部屋に着き、ドアを開けた。


「はぁ……また君か」

「双葉刑事、お願いがあります」

「却下だ。さすがにこれ以上は甘い顔は出来んぞ」

「お願いします!!」


 不機嫌を通り越して呆れている双葉刑事に、のり子は深々と頭を下げた。唖然としている双葉刑事の目をしっかり見つめながら、のり子は告げた。


「本職の刑事さんからすれば、私のやっていることは探偵ごっこかもしれません。それでも……私は一刻も早く事件を解決して、都子を安心させてあげたいんです。そのために……お願いします、力を貸してください!!」

「……ああもう、分かったよ」

「双葉刑事?」

「あれだけの推理力を見せられて、こんなに頼まれちゃ……断れねぇべが(ないだろうが)」

「あ……ありがとうございます!!」


 のり子は先程よりも深くお辞儀をし、感謝の意を述べた。双葉刑事はバツの悪そうな表情を浮かべ、一つため息をついた。


「今、この部屋を改めて調べているところだ。といっても、これといって新しいことが分かったわけではないがな」

「……双葉刑事、犯人は数回土久さんを殴ったと言ってましたけど、正確には何回ですか?」

「3回だな。血痕は大きく分けて部屋の左下と中央のテーブル付近に集中しているから、前者の位置で2回殴って、後者の位置で最後の一撃を放って止めを刺したという感じだろう」

「ウイスキーグラスは、その時に土久さんが倒れた拍子で落ちて割れたと?」

「そういうことだ。特に不自然なところもないし、正直お手上げでな」


 双葉刑事の説明を聞いた後、のり子は改めて部屋中を見渡した。前回、ここに来た時に感じた違和感……その正体は何なのかを改めて考えてみた。


「……そういうことか」

「もしかして、何か分かったのか?」

「ええ。双葉刑事、もし部屋の中で犯人に突然襲われたらどうします?」

「そりゃ、必死に逃げっぺな(逃げるだろうな)。まずは部屋から出て……あ!!」


 双葉刑事は何かに気づいたのか、驚きの表情を浮かべた。のり子はそれを確認し、説明を続けた。


「そういうことです。部屋の左下で襲われたら、部屋の左上にある出入り口に向かうはずなんです。でも、なぜか土久さんはそこに向かおうとした痕跡がない。これがどういうことなのか、分かりますか?」

「……2回殴られた時点で致命傷を負って、自分はもう殺されると悟った、か」

「はい、だから出入り口に向かわずに中央のテーブル付近に向かった。わざわざそこに向かう必要があるとすれば……犯人が誰かを示す痕跡を残そうとした、となるんです」

「な、なるほど。げんとも(しかし)、筋は通っているが実際は特にこれといった痕跡は残っていなかったんだぞ」


 確かに、あるとすれば割れたウイスキーグラスと僅かにこぼれたウイスキーくらいだ。テーブルの上にはウイスキーの瓶と、水がたっぷり入ったプラスチックのコップが置いてある。


「……双葉刑事、土久さんについての情報を教えてもらえますか? 好きな食べ物でも趣味でも、何でもいいですから」

「まあ、良いが。知っての通り裏社会の人間で、悪質なやり方で金を巻き上げるのが得意でな。小沼若那とはビジネスパートナーだったそうだが、まあ男女の仲もねがった(なかった)わけではないだろう」

「ふむふむ」

「好きなモノは酒で、見ての通りウイスキーを好んで飲むらしい。で、趣味なんだが……意外なことに園芸らしい」

「え、園芸!?」


 のり子は意外な情報に、耳を疑った。いや、園芸は立派な趣味だけど……あの悪党がねえ。


「正直、想像できないけどな」

「ですよねえ……!!??」


 その瞬間、のり子の頭の中に電撃が走った。そうか……もしそういう意味だとすれば。


「双葉刑事、分かりましたよ……犯人が誰なのか」

「な……何だと!!??」

「ですけど、分かったのはそれだけです。まだまだ調べることはあります」


 のり子は鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をしている双葉刑事を連れて、次の場所へ向かった。一歩前進、といったところか。


***


 相変わらず止むことのない豪雨の中、合羽を着たのり子と双葉刑事がたどり着いたのは底なし沼だ。今回の事件の鍵を握っている場所、改めて調べる必要があるだろう。


「若那さんの死因は溺死。土久さんいわく肝が据わっていて底なし沼にも詳しいことを考えますと、ただ放置しておくだけでは助かる可能性があります」

「まあ、そうなると頭を押さえて溺死させたというのが濃厚だろうな。その時に思った以上に抵抗されたから、殴ったんだろう」

「殴った?」

「ああ、頭部には2回殴られた跡があってな。一回目はもちろん小沼若那の部屋で灰皿を使って、二回目はこの底なし沼でそこらへんにある石でも使ったんだろう」

「2回目は使った凶器が違ったんですね。だろう、ってことは見つかっていない?」

「そういうことだ。まあ、犯人が処分したんだろう、見つけるのは困難だろうな」


 つまり、裏を返せば2回目に殴った凶器が石とは限らないということか……殴った理由も抵抗されたから、とは言い切れないだろう。


「あ、それと新たに分かったことなんだけどな。小沼若那の目と口にガムテープらしきものが貼り付けてあった形跡があったんだ」

「ガムテープ……」

「まあ、助けを呼ばれないようにするためとパニック状態にさせるためだろうな」

「……双葉刑事、手足に縛られた跡とかは?」

「いや、特になかったが」


 双葉刑事の回答を聞き、のり子は首を傾げた。不思議に思ったのか、双葉刑事が尋ねた。


「何か問題でも?」

「大ありですよ。助けを呼ばれないようにするにせよ、パニック状態にするにせよ、手足を縛るのが一番効果的なんです。目と口にガムテープを貼るだけじゃ、剥がせば終わりですから」

「ま、まあ確かにそうだが……だとしたら犯人はどうしてそだ(そんな)中途半端なことを?」

「若那さんに絶対に逃げられない自信があったか、あるいは……中途半端じゃないといけなかったか」


 双葉刑事が首をかしげる一方で、のり子は改めて情報を整理していた。若那が2回殴られていて2回目は凶器もタイミングも分かっていないこと、目と口にガムテープが貼られていたが手足は縛られていなかったこと。そこから導き出される答えは……


「……まさか」

「なじょ(どう)したんだ、上に何かあるのか?」

「……やっぱり、破損してる」

「おい、一体何が」

「双葉刑事、倉庫に行きます」


 振り返り倉庫へ歩き出したのり子を、双葉刑事は首を捻って追いかけた。残るは底なし沼で行われたことの裏付けと証拠……いよいよ大詰めだ。


***


「都子が言うには、見つけたものは結構大きいそうです」

「うーん、げんとも(しかし)さすがにそれだけじゃな、特定するのは難しい」


 のり子は倉庫の中を改めて見渡した。大きなものとなると……折り畳み式のテーブルに椅子、脚立、タライ、ラジカセ、扇風機、絨毯といったところだ。


「……なるほど、これなら」

「?」

「双葉刑事、底なし沼で行われたことが分かりましたよ。都子が見つけたモノもね」

「な……何だと!?」


 双葉刑事は目を丸くして驚いていた。ここまでトントン拍子で謎を解いていくのり子の姿を目の当たりにしては、無理もない。


「残るは証拠ですけど……倉庫内に血痕とかは残っていなかったんですか?」

「ああ。今越都子も頭の傷自体は大したことはねがった(なかった)し、扉の指紋にしても平沼謙護や今越都子、それに君のが付いているくらいで何も不自然なことはないからな」

「そうですか……」


 都子が見つけたモノを調べたとしても、そこに痕跡は残っていないだろう、犯人もそこまで馬鹿ではない。となると、可能性があるとすれば犯人が見落としたもの……のり子は倉庫の中を隅々まで探した。すると……部屋の隅に何かを見つけた。


「これは……何かの破片ですね」

「倉庫の中にある備品が欠けたモノだろうな」

「そう、でしょうか……」


 どこかで見たことがあるような気がする、のり子は記憶を懸命にたどった……!!??


「そうか……これは」

「なじょ(どう)した?」

「双葉刑事、今すぐこれを調べてください。私の想定通りだとすれば……これが証拠になります!!」

「……分かった」


 のり子は双葉刑事と一緒にホテルの中にいる鑑識のもとへ行き、その破片を調べてもらった。結果は……


「どうやら、おめ(君)の言った通りのようだ」

「……決まりですね」


 のり子は一つ息を吐き、窓の外を眺めた。絶えることなく降り続ける豪雨……それが隠していた真相が、今明かされようとしている。


「行こう……事件の終幕へ」

読んでくださり、ありがとうございました。


次回から解答編に入ります、この事件の犯人は誰でしょうか?


みなさんも推理してみてください。

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