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豪雨の沼殺人事件②(福島観光と土砂降りの雨)

 修学旅行当日になり、のり子達は新幹線で東北に向かった。福島県郡山市に着き、担任の教師からの説明が始まった。


「みなさん、これからの四日間ですが、事前に告知した通り一日目と二日目は福島県、三日目と四日目は宮城県となります。今日一日目は班別の自由行動です、明日はこれも事前告知通りですが全体で会津若松市を回りますので、それを考慮して回ってください。それでは、17:00にまたこの郡山駅の改札口前に集合してくださいね」


「ここが郡山かあ。確か、福島県でもトップクラスの大都市なのよね」

「そうね、いわき市と双璧ってところ。福島市も大きいし、県庁所在地でもあるけど」

「そんな大都市が3つも……もしかして福島県って、大きい?」

「面積で言えば第3位よ、都子。ちなみに、1位は北海道で2位は岩手県」

「北海道が1位は何となく想像出来たけど……知らなかった」


 班別行動が始まり、のり子の一言から福島県談義が始まった。解説役はやはりすみれだ、のり子は推理力は抜群だが学校の成績自体は並なので、こういう役は成績優秀なすみれに頼りがちである。その話に都子が喰いつき、その答えに驚いている。ちなみに都子の学校の成績は……正直なところ、褒められたものではない、赤点も珍しくはない程だ。


「時間もないし、早速出発しよう。えっと、最初は日本有数の大きさを誇る湖だっけ?」

「そうね、電車の出発の時刻まで少し時間があるから、駅内にある福島グルメが食べられる店で少し遅い朝ご飯を食べましょう」

「ふふ、やっぱり旅に来たらグルメは外せないわよね。ご飯、ご飯♪」

「都子、新幹線の中でも色々食べていたような気がするんだけど……」

「それは別腹よ、のり子。ほら、行きましょう」


 そう言った都子は、福島グルメが食べられる店でソースをかけたカツが乗った丼と、丸く盛り付けられた餃子を食べていた。旅のスタートから食べすぎのような気がするけど……まあ普段からよく食べるし、それなのに都子ってスタイル良いんだよねえ。正直、羨ましい体質だ。


 その後、電車に乗ってのり子達は例の湖に向かった。福島県を代表する名所なだけあり、観光客もそれなりにいるようだ。


「うわ……広い。話には聞いていたけど、実際に見ると本当に凄いね」

「透明度も凄いでしょ? 鏡に例えられるくらいなんだって」

「本当に綺麗ね……見ているだけで心が癒されるような気がする」

「さっきまでパクパク食べていた人の言う台詞とは思えないんだけど」

「い、良いじゃない。美味しい食事に綺麗な景色、王道の組み合わせでしょ?」


 まあ、それは否定しない。だけど、都子の普段のイメージだともっと大きな声を上げて派手に騒ぎそうな感じがするから、こうして静かに味わってるのを見ると何だか新鮮だなあとのり子は軽く微笑みながら思った。


「うーん、美味しいわねこのラーメン。さすがは日本を代表するラーメンの一つ、チャーシューも山盛りで素晴らしいわ!!」

「本当、さっきみたいな淑やかな感じでずっといればモテるのになあ……都子は」

「何言ってるのよ、せっかく旅行に来たんだから楽しまなきゃ損じゃない。そういう正統派美人は、すみれや詩乃に任せておけばいいのよ」

「はいはい。それにしても、結構朝早くからやってるんだね、このラーメン屋。すみれ、こっちだとそういうものなの?」

「そうね、朝ラーって言って、そんなに珍しいことでもないみたい」


 湖を堪能した後、のり子達は日本を代表するラーメンが食べられる市に来て、そのラーメンを食べていた。ここでも都子の食欲は健在だ。本当、身長もどちらかというと低めだというのに、その小さな体のどこにそんなに入るんだろう。


「そういえば、福島県って他にも有名なラーメンがあったわよね?」

「確か、スープが黒い有名なラーメンがあったような。すみれ、他にはある?」

「南部の東北の玄関口みたいなところにもあるわね」

「良いわね~、まさにラーメン天国♪」

「都子……まさか全部食べようとか思ってないわよね?」

「何言ってるのよ、さすがに一日では無理だって。ちゃんと今日明日に分けるから」


 『結局、全部食べるんかい!!』と、のり子は心の中で都子にツッコミを入れた。でも、全部食べてみたいなあと思っているのは実はのり子も同じなだけに、あまり強く言えないのは内緒である。


***


 その後も色々な場所を回り、グルメも堪能してあっという間に時間はすぎ、17:00が近づいてきた。都子のペースに振り回された感もあるけど、何だかんだで楽しかったのも事実だ。


「そろそろ郡山駅に向かうタイミングかな?」

「そうね、交通機関を使うだけに少し余裕をもって行きたいし」

「ちょっと待って。その前に、一つ寄りたいところがあるのよ。地図見たら見つけちゃって」

「うーん…ここなら寄ってもバスの時刻に間に合いそうだけど。すみれ、どうする?」

「良いんじゃない、明日はこっちには来れないだろうし」

「決まりね!!」


 都子の提案で、乗るバスを一本遅らせてとある湿地に行くことになった。東北は自然が豊かで、湿地も決して少なくない。


「良いわね……湖も良いけど、沼も良いわ。何て言うかこう、自然と一体になった感じが」

「湖と沼か……何が違うの、すみれ」

「水深が深くて底に植物が生育していないものが湖で、水深が浅くて底に植物が生育しているものが沼よ。まあ、定義は割と曖昧なところがあるみたいだけど」

「まあ、そういう細かいことはあまり気にしないし。良いなって思えれば良いのよ」


 何とも都子らしい考えというか。だけど、都子が綺麗な自然が好きなのは今日一日見てきても事実みたいだなあ。のり子は改めて、都子に聞いてみた。


「都子はさ、どうして自然が好きなの?」

「うーん、特に理由とかは考えたことないなあ。てか、自然が好きってそんなに珍しいことかな?」

「いや、至極普通だと思うけど、普段の都子の自由なイメージと少し違うかなって」

「私のイメージねえ……私はただ自分のしたいようにしてるだけよ。特別なことをしているつもりはないし、自然が好きなのもその一つでしかないと思う」


 考えてみればそうか……そういう意味では、都子はごく普通の女の子だ。私は実は結構失礼なことを今まで言ってきたんじゃないか?


「……ごめんね、都子」

「何よ、急に」

「都子のこと、色眼鏡で見ていたのかもしれない」

「……ちょ、ちょっとやめてよ、のり子。別に何も気にしてないし、何だかこっちが申し訳なくなっちゃうじゃない」

「そっか……ありがとう」

「はい、それじゃ丸く収まったところで、そろそろバス停に……って雨!?」


 すみれが場の空気をまとめようとした時、突如雨が降り始めた。しかも結構強めにだ、これは……急いだ方が良いのかもしれない。


「都子、バス停に向かうよ。この辺りは山奥だから、バスを逃すとまずいことになるかも」

「わ、分かった」


 のり子達がバス停に向かう間にも雨はどんどん強さを増し、完全に土砂降り状態になった。幸い折り畳み傘は3人とも持ってきてはいるが、それだけではこの豪雨はとても防ぐことは出来そうにない。


「ふう。結構濡れちゃったけど、バスの時刻には間に合ったね」

「全く、天気予報じゃ雨が降るなんて言ってなかったのに。困ったものね」

「のり子、すみれ、ごめんね……私が寄りたいところがあるなんて言ったから」

「間に合ったんだから良いじゃない、気にしないの」


 すみれが言ったように、天気予報でも分からなかった程の突然の雨なのだ、都子が責任を感じる必要はない。のり子は都子を気遣い、バスが来るのを待っていたが……時刻表に書いてある時刻になっても一向にバスが来る気配がない。


「どうしたんだろう、雨で遅れているとしても遅すぎじゃない?」

「ちょっとバス会社に電話してみるわね」


 すみれがスマホを取り出し、バス会社に電話をし始めた。すると、すみれは目を見開き驚きの声をあげた。


「大雨で土砂崩れが起きて、道が塞がれてバスが来れない!?」

「えっ……」

「分かりました、ありがとうございます」


 すみれは電話を切り、ため息をついた。その横で、都子が青い顔をしていた。先程小さな声をあげてから、顔色がどんどん悪くなっているようだ。


「すみれ、タクシー会社にも電話してみたけどダメみたい。土砂崩れで来れないって」

「山奥だったのが災いしたわね。距離的に駅まで歩いていくのは難しそうだし」

「……」

「こうなると、どこか近くに宿泊施設がないか探すしかないかな」

「そうね、今日郡山駅に行くのは無理だろうし、先生にも連絡しておかないと」

「私のせいだ……私のせいで、こんなことに」


 都子が身体を震わせ、俯きながら自分を責めていた。雨に濡れて判別がしにくいが、その瞳には涙が浮かんでいる。


「ちょっと都子、大袈裟だって」

「私のせいで、のり子とすみれの修学旅行が台無しに。ごめんなさい、本当に……ごめんなさい」


 都子は遂に泣き出してしまった。都子はマイペースだが、何だかんだで周りに気を遣える子だ。思った以上に責任感もあるのかもしれない。


「のり子の言う通りだよ、都子。天気ばかりはどうしようもないことなんだから」

「そういうこと、私とすみれだって都子の提案を了承したんだから責任はあるしね。それに、3人だけでどっかにお泊りっていうのも案外楽しいかもよ?」

「のり子……すみれ……ありがとう」


 都子は涙を拭き、お礼を言った。何だろう、しおらしくなった都子って何だか結構可愛いような気が……まあ、元々美少女ではあるけどさ。そんなことを思いながら、のり子はスマホで周辺の宿泊施設を探し始めたのだった。


***


「うーん、なかなかないなあ。やっぱり立地的に難しいかも」

「そもそも当日に宿を取ること自体簡単じゃないしね、それに加えてこの雨だから」

「どうしよう……さすがに11月の雨の日に野宿は無茶すぎるよ。のり子とすみれが、風邪ひいちゃう」


 のり子としては、心が弱っている都子の体調の方が心配なのだが……こういう優しいところが、都子が何だかんだでクラスのみんなから愛されている理由なんだろうな。


「あ!! 一つ見つけたよ、十分歩いていける距離の宿」

「本当!? 部屋は空いてるの、のり子」

「うん、あと一部屋残ってる。これ逃したらもうチャンスないかもしれないし……よし、予約取れたよ!!」

「よ……良かった」


 都子はホッとして力が抜けたのか、その場にヘタリと座り込んでしまった。表情も少し明るくなったように見える、それを見てのり子もすみれも軽く微笑んだ。


「都子、何とかなりそうだからさ。あと少し歩いて、宿でゆっくり休もう」

「う、うん……本当にありがとうね、のり子」

「な、何だか調子狂っちゃうなあ、都子がそんなに大人しいと」

「何よ、人がせっかくお礼言ってるのに」

「あはは、やっぱり都子はちょっと強気なくらいが良いよ。それじゃのり子、私は詩乃に電話して事情伝えるから、都子をお願い」

「了解」


 すみれからの指示でのり子は都子の様子を見ながら宿までの道を先行し、すみれは歩きながら詩乃に電話で事情を説明した。


「ということなの。詩乃、悪いけど先生に伝えておいてくれないかな」

「分かった。何はともあれ、無事で何よりだよ、心配したんだから」

「ごめんね、でももう大丈夫だから。それに……しおらしい都子っていうレアなモノも見れたしね」

「ちょ、すみれ!?」

「し、しおらしい都子ちゃん!? それは……ちょっと見てみたいかも」


 萌希が電話越しで、興味津々で迫ってきた。まあ、その気持ちはわかる、というかクラスの人全員興味あるだろうな。


「あはは、その話は合流したらね。ま、何かあったとしてもこっちにはのり子がいるからさ、安心していいよ」

「……そうね、のり子がいれば大丈夫だと思う」

「うん、のり子ちゃんだもん。それじゃ、また明日ね」


 詩乃と萌希の明るい声を聞くことが出来、のり子も安心した。すみれが電話を切ると、都子はポカンと口を開け、のり子を見つめていた。


「頼りになるとは聞いてたけど……本当に信頼されてるのね」

「まあ、それだけのことを積み重ねてきたからね、のり子は」

「のり子……あなた何者なの? ただの女子高生とは思えないんだけど」

「私は至って普通の女子高生だよ。それじゃ、宿に急ごうか」


 都子の質問を半ば強引に誤魔化しながら、のり子は先導して宿へ急いだ。ごめんね都子、今はまだそのことについて話すことは出来ないんだ……


***


 その後、のり子達は宿に向かって歩き続けた。もう11月で日が短くなり、加えて山奥で相変わらずの土砂降りの雨だ。辺りはもう完全に真っ暗であり、スマホの懐中電灯機能を頼りに歩いている状態だ。


「この辺りだと思うんだけどな」

「湿地のど真ん中という感じね。明るいうちは綺麗だったけど、夜になるとちょっと不気味さも感じるわ」

「そうね……!? ねえ、あれじゃない?」


 都子が示す方向をのり子とすみれが確認すると、確かに宿泊施設らしき建物が立っていた。看板には『ホテル アムン』と書かれている。


「間違いない、あそこよ」

「良かった。ほら都子、あと一息よ」

「うん!!」


 のり子達は疲れと寒さで消耗した体力を振り絞り、目的地にたどり着いた。扉を開けると、従業員らしき人が迎えてくれた。


「こんばんは、ご予約の方でございますか?」

「はい、先程ネットで予約しました河澄のり子です」

「河澄様でございますね……はい、確認いたしました。外は豪雨で大変でしたでしょう、まずはタオルで顔と髪をお拭きください」

「ありがとうございます」

「助かります」


 すみれと都子がお礼を言い、タオルを受け取った。気配りのできる方だ、こういうことを自然と出来るというだけで第一印象は随分と変わる。まずは好印象、というところだろう。


「早速お部屋を案内いたしますね。部屋に荷物を置きましたら、大浴場に行くのをお勧めします。場所はお部屋に向かいながら説明しますので」

「何から何までありがとうございます」

「どういたしまして。私、このホテルの支配人を務めております、平沼謙護(ひらぬま けんご)と申します。以後、お見知りおきを」


 のり子は代表者として、改めて感謝の言葉を述べた。思わぬ形になってしまった修学旅行一日目の夜だが、何だかんだで楽しい夜になるかもしれない、そう思ったのだった。

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