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京都涙雨殺人事件⑧(涙雨が止む方へ)

 のり子は朋美の部屋の再捜査を開始した。前回と違う点があるとすれば、宮津刑事が傍にいることだ。頭がキレる上にのり子と同じ信念を持ち、現在同じ方針で事件を調べている。思いもよらぬ形で得た心強い味方、のり子は風向きが変わっているのを確かに感じた。


「ねえのり子ちゃん。この事件が殺人だとすれば、卓巳君は……どうして殺されたんやろか?」

「涼葉?」

「朋美ちゃんは色々な人から事情を聞いて、その中のどれかかもって思えるけど……卓巳君は思い当たらんっちゅうか」

「これは私の憶測でしかないけど……犯人にとって卓巳君殺害は予定外だったんじゃないかな」

「……え?」


 のり子の言葉に、涼葉は目を丸くして驚いた。無理もない、のり子自身も正直なところ信じられないのだ。


「同じ自殺偽装でも、朋美ちゃんの場合は密室トリックに本人の筆跡の遺書と完璧な形を作っているのに対して、卓巳君の場合はそういうのが全くない。そのせいで、私や宮津刑事に他殺の可能性を怪しまれる結果になったわけだし」

「うむ、つまり突発的な犯行やったさかい、そないな偽装工作をする余裕がなかったちゅうことか。となると、動機として濃厚なんは……口封じか」

「ええ。犯人にとってまずい何かを見られたり、知られたからってところでしょう」

「そ、そんな……それだけでまだ高校一年生の卓巳君を殺したっちゅうの!?」

「あの天真爛漫な朋美ちゃんを殺した時点で察してはいたけど……恐ろしく残忍ね、今回の事件の犯人は」


 詩乃が言っていること、それはのり子も感じていた。今回の事件の犯人は……先月織絵ちゃんと一緒に旅行に行った際に巻き込まれた通り魔殺人事件の犯人……あの悪魔に通じるものを感じる。迂闊に探偵という身を明かせば、自分だけじゃなく詩乃と涼葉にも危険が及ぶ可能性がある……そう思い、のり子は自分が探偵だということを未だに関係者に明かしてないのである。


「恐ろしく残忍だけど、一方で頭がキレるのも確かよ、今回の犯人は。出たとこ勝負では倒せない、しっかりと証拠を固めて挑まないと」

「となると、まずは他殺やちゅうことはっきりさせなな。心理的な観点では確かに他殺の可能性が濃なってきたけど、やっぱし本人直筆の遺書の存在がおっきな壁や」

「ですよねえ、この謎を解かない限り他殺と断定して話を進めるのが難しい」


 のり子はスマホで撮った、朋美直筆の遺書の写真を改めて見返した。どう見ても朋美ちゃんを脅して無理矢理書かせたようには見えないし……のり子は頭を抱えた。


「あれ……これって」

「どうしたの、涼葉」

「いや、朋美ちゃんが書いたにしては……変な気が」

「どういうこと?」


 のり子のスマホの画面をひょっこり横から眺めていた涼葉が何かに気付き、のり子に耳打ちをした。のり子はそれを聞き……ハッとした。


「そうか……どうしてそんなことに気付かなかったんだろう」

「どういうこと、のり子」

「つまりね……」


 のり子が詩乃と宮津刑事に説明すると、2人もやはり同じ反応を示した。シンプルではあるが……だからこそ、気付かないことなのかもしれない。


「なるほど、となるとやっぱり」

「そやけどな、これだけではちょい証拠として弱いなあ。もう一押しがあったらええんやけど」

「安心してください、宮津刑事。その観点で見れば……もう一つおかしい点があります」

「なんやと、そらなんや?」


 のり子は3人に説明をし、三者とも納得の表情を浮かべた。これで間違いない、この事件は……他殺だ。


「これで第一関門突破ね、のり子」

「やっぱり凄いで、のり子ちゃん!!」

「何言ってるの、涼葉のおかげよ」

「いや、確かに涼葉君の功績は大きいけど、もう一つの事実に気付いたのは間違いなく君の実力や。どうやらウチの想像以上に……君は凄いのかもしれへんな」


 宮津刑事が、尊敬の眼差しでのり子を見ている。何だかんだで警察に認めてもらえるのは嬉しいし、ありがたいことだ。第一関門は確かに突破できたが……問題はここからだ。


「他殺だってことは分かったけど、問題はやっぱりこの密室トリックね。これを解かないことには、やっぱり自殺ってことになっちゃう」

「のり子ちゃんが前に言うてたやり方は、やっぱり無理なんやろか。ほら、鍵に紐を通して輪っか状にして、部屋の中のどこぞに引っ掛けて片方を引っ張ったら、紐を通して部屋の中に鍵を入れることが出来るっちゅう」

「でも紐をひっかけるところがないし、仮にあったとしても紐を引きずった跡が残るわけでしょ。それに、鍵は朋美ちゃんの右手の掌の中にあって、そこに入れる方法もないし」

「その可能性は警察も考えたんやけどな、おんなじ理由で無理やと判断したんや」


 涼葉の疑問に詩乃が答え、宮津刑事が付け加えをした。やはり宮津刑事もその可能性を疑っていたのか……さすがだけど、やはり壁となる点は同じか。


「引っ掛けるところかあ……何度見ても見当たらないし、そもそも跡が残る問題もあるわけで。宮津刑事、ここって事件当時のままにしてあるんですよね?」

「ああ、もちろんだ。自殺の方針やったが、他殺の可能性がゼロやなかったわけやさかいな」

「ですよねえ。事件当時と変わったところはないんだから、これだけ調べても見つからないなら……!!??」


 その瞬間、のり子の頭の中に電撃が走った。事件当時と変わったところがない……? あるじゃないか、一つだけ。だとしたら、もしかして……


「そうか……だから気が付かなかったのか。そのやり方であれば他の問題も解決できるし、それに」

「どうしたの、のり子」

「ねえ、詩乃。一つ聞きたいんだけど、これとこれの違いって何?」

「まあ色々あるけど、分かりやすい違いと言えば」

「……やっぱり。となると、あの人のあの行動はもしかして」


 のり子の頭の中に一つの仮説が浮かび、同時にある人物のとある行動が気になってきた。


「ねえ、涼葉。前にこの家にお世話になった時さ、ごにょごにょ……」

「う、うん、確かにせやで。今回と違て、前回はそうやった」

「なるほど……だから、あの人はあの行動を」

「あの、のり子ちゃん。話が見えへんねけど」

「涼葉、分かったよ……密室トリックも、犯人の正体も」

「え……えええ!!??」


 のり子の言葉に、涼葉は素っ頓狂な声を上げた。涼葉だけではない、詩乃と宮津刑事も目を丸くして驚いていた。


「ほ、ほんまかのり子君。トリックも犯人も、分かったって」

「はい。みなさんのヒントのおかげです、ありがとうございます」

「そ、それでのり子、犯人は誰なの!?」

「それはね……」


 のり子が告げた事実に、3人とも面食らっていた。のり子は目を閉じ、ため息をついた。悲しい話だが……これが真実なのだ。


「そないな……そないなこと」

「涼葉、気持ちはわかるよ。でも……受け入れないといけない」

「そやけどのり子君、確かに犯人はその人で間違いあらへんやろうが……証拠としてはそら弱い思うで」

「そうなんですよね……誤魔化そうと思えば、いくらでも出来るわけで」


 トリックと犯人は分かっても、証拠がない。のり子が説明した、犯人を見抜くきっかけになった事象も証拠能力自体は低い。そう、物的証拠が必要なのだ。


「ねえのり子、ここまで分かったわけだし、ちょっと小休止入れない? 気分転換に何か食べてさ」

「……そうだね、そういうタイミングかも」

「昨日私が作った夕食の余りが冷蔵庫にしまってあるから、一緒に食べよう」


 言われてみれば、ちょっと突っ走りすぎたかもしれない。本当、詩乃の気遣いには頭が下がる。詩乃のとびきり美味しい料理を食べれば、良いアイデアも浮かぶだろう。


***


「う~ん、美味しい。本当、どんな高級店の料理よりも詩乃の手料理だよね」

「また大袈裟な」

「ううん、のり子ちゃんに同感。ほんま、どれだけ精進したら詩乃ちゃんの足元に行けるんやろ」

「ううむ、こら生半可な店では味わえへんレベルの料理やな。あちこちの料亭からお誘いが来てもおかしない思うで」


 のり子と涼葉だけでなく、京都府警の刑事として長年日本料理の聖地京都に携わっているであろう宮津刑事でさえこの絶賛ぶりである。本当に、詩乃は将来プロの料理人になった方が良いんじゃないかな。でも、私のお嫁さんとして私にだけ作って貰うのも良いなあ……


「はっ!! いけないいけない、また変な妄想を」

「もう、何やってるのよのり子、頬叩いたりして。まだまだあるよ、これはどっちにする?」

「そうだなあ、私はこっちで」

「ウチはこれかな。色々試してみたいし」

「確かになあ、王道も良いけど新しいのも……!!??」


 その時、のり子の頭の中に再び電撃が走った。それ程気にしていなかったけど……もしかしたら、これが。


「ねえ、詩乃。誰が何を選んだか、覚えてる?」

「う、うん。作った身だし、やっぱり気になるから。えっとね……のり子のを選んだのが正忠さんと節奈さんで、涼葉のを選んだのが奏芽さんと夜美さんと莉愛さん。一昨日も見てたけど、同じだと思うよ」

「……なるほど」

「のり子ちゃん、これで何が分かるん? 該当者は複数いるし、一人に絞れるとは思えへんけど」

「いや……そうでもないよ」


 のり子は理由を3人に説明し、全員納得の表情を浮かべた。まさかこんなことが物的証拠になるとは……詩乃には感謝しかないな。


「宮津刑事、今言ったことを調べることって出来ますか?」

「今、報告書を確認してるとこや。のり子君……あんたの言うた通りや」

「そ、それじゃあ」

「うん、謎は解けたよ……完全に」

「のり子……やったね!!」


 詩乃の祝福の言葉に優しい微笑みを浮かべた後、のり子は窓の外を覗き込んだ。涙雨……まだ止む気配はないが、これが朋美ちゃんの涙だとするなら……私が止ませてみせる!!


「朋美ちゃん……待ってて、あと少しだから」

読んでくださり、ありがとうございました。


次回から解答編に入ります、この事件の犯人は誰でしょうか?


みなさんも推理してみてください。

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