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のり子達の日常:理想の姉とは

「お姉ちゃんか……」


 朝福いりすは学園の廊下を歩きながら、あることに悩んでいた。それは……【お姉ちゃんらしさ】である。以前コンビニで起きた窃盗未遂事件をいりすはのり子の助力もあって解決し、その時のお礼として牧野亜璃栖(まきの ありす)という少女に栃木県那須高原の青空別荘にのり子と一緒に招待された。


 だが、そこで殺人事件に巻き込まれ、亜璃栖は有力な容疑者として警察に疑われた。結果として亜璃栖は犯人ではなく、真犯人はのり子が突きとめたのだが、軽症とはいえ姉の瑠璃香が犯人に襲われたこともあり亜璃栖は精神的にかなり辛い状況にあった。そんな亜璃栖を傍でいりすは支え続け、それもあってか事件後も連絡を取り合う仲になったのだ。一人っ子であるいりすにとっては、可愛い妹が出来たみたいで嬉しいのだが……


「傍にあんな立派なお姉さんがいると、自信無くすんだよねえ……」


 亜璃栖には牧野絵璃奈(まきの えりな)牧野瑠璃香(まきの るりか)という2人の姉がいる。2人とも飛び抜けた美人であり、優しくて包容力もある。そして、亜璃栖も含め3人ともお金持ちのお嬢様である。『スペック高すぎるでしょ!!』といりすは心の中でツッコミを入れた。


 とはいえ、いりすも世間一般的に見ればかなり可愛い部類に入る。加えて絵璃奈と瑠璃香はいりすが亜璃栖を支えてくれたことを認めており、瑠璃香に至っては『亜璃栖も喜ぶと思いますよ』と言ってくれるほどである。傍から見れば何を悩む必要があるのかという感じなのだが……乙女心は複雑である。


「誰か身近にお手本になるような人がいればなあ……」

「こんにちは、いりすちゃん」

「あ、こんにちは、すみれ先輩」


 いりすが黒髪のショートヘアーをいじりながら歩いていると、すみれに会った。いりすの親友である織絵の姉であり、学園内でも屈指の美人と評判の、勉強も運動もできる才色兼備な先輩である。と、ここまで聞けばまさに理想の姉なのだが……


「……いや、確かにスペックは絵璃奈さんと瑠璃香さんに負けないくらいだけどさ」

「?」


 いりすが首をかしげてしまう理由……それはすみれが重度の妹想い……というか、シスコンだからである。とはいえ姉妹仲は非常に良く、織絵もすみれのことを大切に思っているのだが……やっぱり何か違うなあ。


「どうしたの、いりすちゃん。何だか悩んでいるみたいだけど」

「いえ、大したことじゃないので。織絵は多分、教室ですよ」

「別に織絵に会いに行こうと思っていたわけじゃないんだけど……それじゃ、またね」


 そう言い、すみれは廊下を歩いて行った。ああ言ってはいたが、あの方向は織絵といりすの教室である……いりすは頭を抱えながら、再び歩き始めた。理想の姉……理想の姉……そうだ!! いりすは閃いた。


「のり子先輩がいるじゃない!! まさに灯台下暗し……」


 と、名案を思いついたと思ったいりすは、もう一度冷静に考えてみた。のり子先輩は確かに理想の姉……美人で優しくて頼りになって。一人っ子だって言っていたけど、そんなの全く問題にならないくらい……なんだけど。


「理想の姉……すぎるんだよなあ」


 女子高生でありながら敏腕探偵として数々の事件を解決し、親友の織絵の命を二度も救ってくれて、いりす自身も目の前でその推理力の凄さを目の当たりにし、いりすの良さをしっかり見てくれる存在……ダメだ、理想的すぎて足元に行ける自信すらない。高すぎる目標は、自信を喪失するだけだ。


 そもそも、いりす自身元々のり子を慕っており、先日の青空別荘への旅行でその想いは更に強くなった。織絵のように恋心だと自覚しているほどではないが、以前より接する機会が増えた、というより意識的に増やそうとしている自分がいるのも事実だ。いりすにとってのり子は、もはやただの頼れる先輩や姉では片づけられない存在なのである。


「もっとこう、雲の上の存在じゃない人が……!?」


 いりすは廊下の少し先の窓から外を見ている女性を見て、衝撃を受けた。美人でお淑やかで大人っぽい感じ……頭も良さそうだ。雰囲気からして3年生だろうか、まさに思い描いていた理想の姉のような人。いりすはこの人だと思い、話しかけた。


「あの、すいません」

「私、ですか?」

「はい。1年E組の朝福いりすと言います、ちょっとお聞きしたいことがありまして」

「何でしょう?」

「どうやったら、あなたみたいな女性になれますか?」

「は、はぁ……」


 いりすはその女性に事情を話した。とある縁で知り合った年下の可愛い女の子がいて、ありがたいことにその子に慕われていて、自分も妹みたいに思っているということ。その子にとって頼れるお姉さんみたいな存在になりたいが、その子にはとても素敵な姉が2人いて自分は勝てる気がしないこと。どうやったら、その子の姉として自信が持てるか知りたいと。


「なるほどねえ。でも、どうして私に?」

「理想の姉って感じがしたからです、お姉さん」

「3年F組の清水美雲(しみず みくも)よ、いりすちゃん」

「はい、よろしくお願いします、美雲先輩!!」

「といっても、私自身一人っ子だし、いりすちゃんが言う程お姉さんっぽくはないけどね」

「そうですかねえ。私から見たら、十分に」


 いりすが美雲にそう言いかけた時、美雲は窓の外を遠い目で見つめながら呟いた。


「私の知り合いの子の方が、ずっとしっかりしていてお姉さんっぽいけどね」

「美雲さんの知り合い……3年生の方ですか?」

「ううん、2年生の子よ。ちょっと前に知り合ったんだけどね、私当時大切な人を亡くしてかなり落ち込んでいたの」

「そう、だったんですか……」

「その子も実は私と同じく大切な人を亡くしていて、辛いはずなのに……どうすればいいか分からなくなっていた私を優しく導いてくれて、自身は辛い現実に逃げずに立ち向かって……凄いなって思った」


 美雲は優しく微笑み、その人を尊敬しているような目を空に向けた。綺麗だ、といりすは思った。これだけ素敵な女性にこんな顔をさせる人……一体どれだけ立派な人なのだろう。


「だからね、いりすちゃん、お姉さんらしさに定義なんてないの。年上だからとか、大人っぽいからとか、頭が良いからとか、そういうのじゃない。大切なのは……相手の為にどれだけ想って、行動できるか。いりすちゃんはその子の為に一生懸命理想のお姉さんになろうとしているんでしょ、その時点で立派なお姉さんだと思うけどね」

「美雲さん……ありがとうございます。私、もう迷いません。子供っぽくて頼りないかもしれないですけど、私なりに頑張ってみます」

「うん、その意気だよ。それにしてもその子も幸せ者だね、いりすちゃんみたいな可愛くて素直で優しい子に想ってもらって」

「大袈裟ですよ。私が尊敬している先輩は私なんか足元にも及ばないくらい凄い人なんですから、河澄のり子先輩っていうんですけどね」

「!!」


 その瞬間、美雲は驚きの表情を浮かべた。どうしたんだろう、私何か変なこと言ったかな……いりすは首を傾げた。


「あの、何か?」

「ううん、何でもない。そっか……」

「?」

「じゃあね、いりすちゃん。頑張って」

「はい!!」


***


 いりすは教室に戻り、織絵に事の顛末を話した。ちなみに亜璃栖のことは以前に話したので、織絵も亜璃栖のことは『亜璃栖ちゃん』呼びである。


「なるほどねえ、亜璃栖ちゃんのお姉さんに。私も会ってみたいな、亜璃栖ちゃんに」

「今度機会があったら紹介するよ」

「うん。それにしても……最近よく話すよね、亜璃栖ちゃんのこと」

「そう?」

「え……自覚ないの?」

「別に普通かなって」


 織絵は頭を抱え、ため息をついた。そんなに亜璃栖ちゃんのことばかり話しているかなあといりすが思っていると、織絵が呆れた顔で告げた。


「いりす……あなた、シスコンの素質あるかもよ」

「え?」

「いや、お姉ちゃん程重度じゃないとは思うけどさ」

「……」


 いりすは呆然とし、やがて頭を抱えてため息をついた。確かに大切なのは相手の為にどれだけ想って行動できるかで、その意味ではあの人は良いお姉さんなんだろうけど……ちょっと控えた方が良いかもしれないなあ。


            ~『のり子達の日常:理想の姉とは』 完~

読んでくださりありがとうございました。清水美雲、久しぶりに再登場です。


詳細は『生贄の主殺人事件』と『二人分の幸せと約束』を読んで下さい。


これに加え、『真夏の夜の純愛殺人事件』の登場人物の名前の秘密について今回は語っていきます。


夢井綾乃(ゆめい あやの)緋川心也(ひかわ しんや)


夢+=儚   緋(非)+心=悲


綾乃の儚い命、心也の悲しみを表現しています


遠石美緒(といし みお)利越亜麻(りこし あま)


前者の頭文字・語尾を合わせると『とお』、後者の頭文字・語尾を合わせると『りま』、合わせると『通り魔』になります。通り魔殺人の犠牲者ということですね。


前城海李(まえしろ かい)成田毬友(なりた まゆ)月島未亜(つきしま みあ)米緒誠志(よねお せいじ)類瀬拳(るいせ けん)


5人の頭文字を合わせると『まなつよる(真夏夜)』、語尾を合わせると、『じゅんあい(純愛)』になります。


みなさん、どのくらいお分かりになりましたか?

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