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河澄のり子のこころ旅~心の闇との戦い~  作者: ここグラ
真夏の夜の純愛殺人事件
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真夏の夜の純愛殺人事件⑩(透明な気持ち)

~のり子視点~


 米緒は警察に連行され、のり子と織絵は森林公園の外で休んでいた。頭をフル回転させ、走り続け、戦い続けたので2人とも疲労困憊だ。今井刑事がそんな二人を気遣い、軽食と飲み物をくれた。生き返る……のり子は深くため息をついた。


「今井刑事、米緒のナイフ、どうでした?」

「ああ、犠牲者3人の血液反応が出たぞ。襲われた織絵君の証言もあるし、決定的な証拠になるだろうな」

「あの男……『あそこまで楽しめたのは初めてかもしれんな』とか『今回は本当に獲物に恵まれていてラッキーだよ』とか言っていたんです。今までの犠牲者……3人だけじゃないと思いますよ」

「ふむ、なるほど。よし、過去の似た傾向で未解決の事件も調べ直してみよう。織絵君、貴重な情報感謝するよ。それじゃ、2人ともゆっくり休んでくれ」


 織絵の情報提供に今井刑事は感謝し、去っていった。いつもお世話になっているけど、今回はちょっとカッコいいところも見れたなあ。あの射撃の腕と溢れる正義感に優しさ……推理は少し苦手かもしれないけど、やっぱり立派な刑事なんだろう。


「のり子ちゃん、織絵ちゃん」

「あ……毬友さん」


 休んでいるのり子と織絵のもとに、毬友がやってきた。まだ悲しみを抱えている感じはするが……僅かながら笑顔を浮かべることが出来るようになったようだ。


「刑事さんから聞いたよ。本当に……本当にありがとう、亜麻の仇を討ってくれて」

「私だけの力じゃありません。織絵ちゃんが頑張ってくれて、今井刑事が協力してくれて……みんなで力を合わせた結果です」

「そうかもしれないけど、のり子ちゃんが中心になって頑張ってくれたって聞いてるよ。本当に凄いね、のり子ちゃんは……凄いなんて言葉じゃ、とても言い表せないくらい」


 毬友はのり子に感謝と尊敬の念を感じているように見える一方で、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。いや、寂しさというより……羨望の念か。


「亜麻ものり子ちゃんも織絵ちゃんも、みんな本当に凄い。誰かを守って、自分で困難を乗り越えて……私だけだな、何も出来ないのは。羨ましいよ……みんなが」

「……亜麻さんが言ってましたよ、『お淑やかで可愛らしい毬友みたいになりたい』って」

「え……?」

「『私はガサツで全然女の子らしくないから、羨ましい』って。私も推理は得意ですけど、女子力みたいのには自信がないですから、お嬢様然とした毬友さんが羨ましいです」

「私も元気さとか明るさとかには自信ありますけど、子供っぽいとも言えますからね。落ち着きのある毬友さんが羨ましいです」

「……」

「人の魅力って千差万別で、みんな違います。自分には魅力がないと思っても、一方でそれを素敵だと思ってくれる人もたくさんいるんです。だから、毬友さんは毬友さんでいいんです。亜麻さんにも、私にも、織絵ちゃんにも……ならなくていいんですよ」


 のり子は優しい笑顔で、毬友に語り掛けた。毬友さんは人の優しさに素直に感謝し、人の長所を素敵だと認めることが出来る真っすぐな心を持っている。お淑やかで可愛らしい一面も含め、とても魅力的な女性だ。だから……自信を持ってほしい。


「……ありがとう。私、のり子ちゃんと織絵ちゃんに出会えて、本当に良かった」

「それは私も同じですよ、毬友さん」

「でも私、やっぱり強くなりたい。大切な人を守れて、自分自身の力で困難を乗り越えられるように。もちろん……誰かになるんじゃなくて、私らしく、ね」

「……はい、頑張ってください!!」


 織絵が太陽のような笑顔で、毬友にエールを送った。毬友はそれを照れ臭そうに受け取り、のり子の方に振り向いた。


「のり子ちゃん……一つお願いがあるの」

「何ですか?」

「本当は3人で一緒、が良かったんだけど、それはもう叶わないから……2人で一緒に、同じ大学に通わない?」

「……」

「亜麻の願いだけど、私の願いでもあるの。考えておいて……くれないかな?」

「……はい」

「それじゃ、またどこかで会おうね」


 毬友は笑顔で手を振り、去っていった。亜麻さんを失った悲しみから立ち直るには時間がかかるだろうけど、心優しい毬友さんを支えてくれる人はたくさんいるだろうから、大丈夫だろう。毬友さんと一緒の大学に行く……一つの選択肢として考えよう。


「のり子さん……織絵ちゃん……」

「あ、心也君」


 その後、心也もやってきた。優しい笑顔を浮かべている……それを見て、のり子は安心した。織絵も同じことを思っていそうな表情をしている。


「刑事さんから聞きました。本当に……本当に、ありがとうございました……綾乃の仇を討ってくださって。これで、綾乃も少しは救われると思います」

「心也君も織絵ちゃんも、本当に頑張ったと思う。私が頑張れたのは2人のおかげだよ、ありがとう」

「そんな……織絵ちゃんはともかく、俺は何もできませんでしたし」

「そんなことないよ、綾乃ちゃんの為に一緒に捜査頑張ってくれたじゃない。私はちゃんと見てたよ、心也君の真摯な姿」

「……ありがとう、織絵ちゃん。本当に、綾乃は良い友達を持ったよ」


 そう呟く心也の表情には、まだ辛さが見え隠れしていた。やはり心也にとって、綾乃は大きな存在すぎた……のり子は少し心配だった。


「心也君……これから、どうするの?」

「……しばらく、新しい恋は出来ないと思います。やっぱり俺は綾乃以外考えられませんし」

「……」

「ですから……しばらくはこれを支えにして頑張ろうと思っています」


 のり子と同じく、心配そうな表情を浮かべた織絵を見て、心也はポケットから何かを取り出した。髪留め、だろうか。


「それは?」

「俺が去年、恋人一周年の日に綾乃にプレゼントした物です。綾乃、とても喜んでくれて、それからずっと着けてくれてたんです。今回は来たのが海なので、鞄にしまっていたみたいですが」

「だから、血で汚れないで済んだんだ……」

「はい。ずっと傍で綾乃を彩ってくれていた物ですから、こうして持っていると綾乃の顔が思い浮かぶ気がするんです」


―――


「嬉しい……本当にありがとう心也君。早速着けてみたけど、似合うかな?」

「もちろん。とても可愛いよ、綾乃」

「えへへ」


―――


「綾乃ちゃん……」


 瞳から一筋の涙を流している織絵を見て、心也は優しく微笑んだ。織絵ちゃんが心也君を心配しているのと同様に、心也君も織絵ちゃんが心配なのだろう。


「織絵ちゃん、本当に短い時間だったけど……綾乃と仲良くしてくれて、本当にありがとう。俺は綾乃のことを決して忘れないし、君のことも忘れない」

「心也君……」

「また何かの機会に会えたら良いと思ってるよ。それじゃ」


 そう言い、心也はのり子達に背を向けた。何歩か歩いた後、忘れ物を思い出したように立ち止まり、振り返って織絵に告げた。


「そうだ、織絵ちゃん」

「何?」

「周りがどう思おうと……一番大切なのは、織絵ちゃんの素直な気持ちだと思うよ」

「!!??」

「頑張って」


 心也は笑顔で織絵にエールを送り、今度こそ去っていった。そんな彼の姿を織絵は少し驚いたような表情で見送り、やがて優しく微笑んだ。


「やっぱり……お似合いのカップルだよ」

「織絵ちゃん?」

「いえ、何でもありません」


***


 その後、のり子と織絵は帰り支度をし、バス停に歩いて向かっていた。最寄り駅行きの最終バスまでまだ時間がある、のり子と織絵は今回の旅行を振り返っていた。


「色々なことが……あったね」

「……はい」


 明るく甘酸っぱい雰囲気でスタートした今回の旅行、結果として……多くのモノを失った。心に負った傷は、決して簡単に癒えることはないと思う。だけど……得たモノも確かにあった。心也君と毬友さんとは、今後も良い付き合いを続けていきたい。綾乃ちゃんと亜麻さんとの思い出も……辛いことばかりではない、のり子は噛み締めるように思い出していた。


「織絵ちゃんは……来て良かったと思う? 今回の旅行」

「……はい」

「そう、なら良かった」


 織絵はどこか上の空な印象だった。色々な複雑な思いが交錯しているのだろう、無理もない。しばらく無言の時間が続き、やがて織絵が口を開いた。


「のり子さん……ちょっと時間良いですか?」

「うん、まだ最終バスの時間まで余裕があるし」

「大事な話が……あるんです」


 そう言った織絵の表情は決意に満ちており、織絵の提案で海の方に向かった。既に海水浴場は閉まっている時刻だが、行ける範囲で海に近い場所を選び、のり子と織絵は向かい合って立っていた。潮の匂いがし、波の音が聞こえ、夜空に美しくマッチしている。


「のり子さん……私と初めて会った時のこと、覚えていますか?」

「うん、もちろん」


 今年の始業式の日、すみれが教室に織絵を連れてきてのり子に紹介をしてくれたのだ。可愛い子だな、それがのり子の織絵に対する第一印象だった。さすがはすみれの妹だなって。明るくて愛嬌があって、自然と周りの人の目を惹きつけてしまう、不思議なスター性があった。まるで太陽みたいな子だなって。のり子にとって、忘れられない思い出だ。


「お姉ちゃんからある程度話は聞いていましたけど、実際に会ったのり子さんは思っていた以上に綺麗でしっかりしていて……頼れる感じがある人でした」

「すみれも織絵ちゃんに何を話していたのやら」

「基本は褒めていましたよ、もうちょっと女の子としての自信を持ってほしいとは言っていましたけど」

「それは今と変わらないね」

「本当ですよ、もう。で、その日から友達……というより、お姉ちゃんの妹ってことで付き合いがスタートして、自分でも思っていた以上にのり子さんと一緒にいる時間が楽しいと感じるようになったんです」

「それは何よりかな、私も織絵ちゃんと一緒にいて楽しかったし」


 教室で織絵ちゃんと一緒に話したり、お昼ご飯を一緒に食べたり。もちろんすみれも一緒ではあったけど、度々クラスメイトに羨ましがられたなあ、それは今も同じだけど。のり子は織絵との思い出を笑顔で振り返っていた。


「楽しいだけじゃなく、助けられることも度々あって。頼れる感じがあるとは最初から思っていましたけど、思っていた以上に頼りがいがあって……カッコよくて優しい、素敵な人だなって思うようになっていきました」

「……」

「自分でも自覚していました、のり子さんはもうただのお姉ちゃんの友達じゃないって。そんな時に、あの恐ろしい大規模連続殺人事件が起きて……私は、のり子さんに命を救われて」


 今でものり子のトラウマになっている、あの事件。心美を失い、心に大きな傷を負っていたのり子にとって、織絵まで失ってしまうかもしれないという悲しみと恐怖感は、今でも決して忘れることはない。それだけに、失わずに済んだ時の嬉しさは言葉では言い表せない程大きなものだった。


「あの時から、更に自分の中ののり子さんを慕う気持ちは大きくなっていって……尊敬とか相性とかでは説明できない域に達しているって、思ったんです。特別な……想いなんじゃないかって」

「……」

「でもその一方で、客観的に見て私の想いはどう映るんだろうとか、どう見られているんだろうって思うようにもなったんです。やっぱり私はお姉ちゃんの妹で、のり子さんも私も女の子で……周りの人は私のことを元気をくれるとかスター性があるとか言ってくれますけど、それってファンがアイドルに向ける応援の気持ちみたいなものじゃないかって」


 誰からも愛され、誰もが羨む女の子としての魅力を持つ織絵ちゃん……だけど、だからこそ悩むこともあるんだろう。多くの人に愛されることと、たった一人に特別に想ってもらうこと……それは似ているようで違う。


 前者を得ることが出来る人は少ない、ゆえに贅沢だと言う人もいるだろう。だけど、そうじゃない。何を優先するか、何を大切にするかは人によって違う。後者を優先し大切にする人にとって、前者がむしろ足枷になっているとしたら……それは切実な問題だ。


「今回の旅行も、いりすが羨ましかったのと命を救ってもらったお礼がしたかったからというのも確かにあります。だけど……心の整理をしたかったからっていうのもあるんです」

「織絵ちゃん……」

「そんな時に綾乃ちゃんと出会って……話をしてみたら、綾乃ちゃん言ってくれたんです。『一番大切なのは織絵ちゃんの素直な気持ちだよ、周りは関係ない』って」

「!?」

「心の枷が外れたような気持ちでした。でも、まだ完全には決心がつかなくて……ですけど、犯人に襲われてのり子さんにまた命を救われて、のり子さんが私のことを『大切な存在だ』って言ってくれて……もう止められないと思いました、この気持ちは。心也君も……応援してくれています」


 織絵は決意に満ちた表情を崩さず、一度目を瞑り右手の掌で胸を抑えた。ありったけの勇気を振り絞っているように、のり子には見えた。織絵は一度深呼吸をし、のり子の目を改めて真っすぐ見つめて……芯の通った声で告げた。


「私は……絵波織絵は……のり子さんのことが好きです!!!! お姉ちゃんの妹としてじゃなくて、可愛い後輩としてでもなくて……一人の女の子として、私を見てほしい。私と……恋人同士になってください!!!!」


 のり子は驚き、そして優しい微笑みを浮かべた。純粋……だと思った。飾り気のない、純粋な好意。体の奥まで染み渡り、気持ちが良い。こんな透明な気持ちをこれだけ魅力的な女の子から貰うことが出来た自分は、どれだけの幸せ者なのだろう。


 多くの人に元気を与えることが出来る、太陽のような華やかな子。そんな子であっても、たった一人に特別な想いを伝えるということにはこれだけ苦労する。いや、むしろそんな子だからこそ、これだけ悩み苦労したのかもしれない。そんな純粋な気持ちに、中途半端な態度で向き合うわけにはいかない、のり子は決意を固めた。


「ごめんなさい……」


 のり子は申し訳なさそうな表情で告げ、頭を下げた。織絵は目を丸くし、そして悲しそうな表情を浮かべた。微笑みを浮かべてはいるが、無理をしているのはのり子には明らかだった。


「そう……ですよね。私なんかじゃ、無理ですよね。女の子同士っていうのも、やっぱり」

「織絵ちゃん、それは違うよ」

「のり子さん?」

「織絵ちゃんは、とても魅力的な女の子だと思う。私なんかにはもったいない、凄く魅力的な子。男の子だからとか女の子だからとか、私はそういうので判断したりはしない」

「なら、どうして……」

「今の私は……誰の想いにも応えることは出来ないの」

「え……?」


 のり子は、自虐的になっている織絵にすぐに自分の素直な気持ちを告げた。織絵ちゃんに魅力がないなんて、絶対にあり得ない。そんな誤解だけはしてほしくない、のり子はそういう気持ちでいっぱいだった。


「私は……恋愛っていうのがよく分からない。小さい頃から探偵として謎を解くことばかりしてきたからかな、そういうことに縁がなかったんだよね」

「……」

「尊敬されることもあったし、特定の人を大切に思うこともあったよ。だけどね、それが具体的にどういう感情なのか、分からなかった。事件の謎を解けばわかるようになるかもと思うこともあったけど、むしろ余計分からなくなったような気がするの」


 事件の謎を論理的に客観的に解くことと、人の心を理解することは違う。むしろ後者を完全に解いたことは、今まで一度もないのではないか。そんなことが繰り返されるたびに、のり子は周囲の恋愛話に距離感を感じるようになった。


 年頃の女の子なだけに興味自体はある、だがそれが何か分からないのでは盛り上がりようがない。のり子が世間的に見てもかなり可愛い部類に入るにもかかわらず女の子としての自分に自信が持てないのも、そういう背景があるからである。


「だから……私は織絵ちゃんの気持ちに応えることは出来ない。恋愛っていうのが何なのか分からないのに、イエスというわけにはいかないでしょ」

「それは……そうですけど。でもそんなの……あんまりです。恋愛がすべてだなんて言いませんけど、やっぱり人を好きになる気持ちを経験できないっていうのは」

「織絵ちゃん、話は最後まで聞いて」

「え?」

「今まではそうだったけど、最近少しずつ理解出来るようになってきた気がするの。それが恋愛かどうかは分からないけど、ただ仲が良いだけじゃない、それより先に進んだ気持ちっていうのが」

「のり子さん……」


 事件のたびに色々な人に出会って、今までも十分仲が良かった人と更に仲を深めて……理解できないこともあるけど、理解できるようになったこともある。確実に前に進んではいる、だから……のり子は笑顔で織絵に告げた。


「今はこんな答えしか出せないけど、いつか恋愛っていうのが何なのか分かるようになった時に……私にとって織絵ちゃんが唯一無二の存在で、恋人同士になりたいって思える存在だったら……今度は私の方から告白するから」

「のり子さん……期待して、良いんですか?」

「未来のことは分からないけど、今の私にとって織絵ちゃんは……特別な女の子だよ」

「!!?? ありがとう……ございます。今はそれが聞けただけで……満足です!!!!」


 織絵は嬉し涙を流しつつ、のり子が今まで見た中で一番の眩しい笑みを浮かべた。その後、のり子と織絵はバス停に向かい、バスと電車を乗り継いで帰路に就いた。疲れているのもあって会話は少なめだったが、その時間は温かく優しかった。のり子は思った、これが幸せなのかもしれないと……


***


 織絵との旅行が終わり、残りの夏休みをのり子はのんびり過ごした。今日は9月1日、新学期の始まりの日だ。朝ご飯を食べている時も、通学路を歩いている時も。校舎を目の前にした時も……のり子の頭の中はある心配事でいっぱいだった。


「……すみれ、何て言うかなあ」


 織絵との旅行で自分達の街に帰ってきて、のり子は織絵を彼女の自宅まで送っていった。別れる際、織絵がのり子を気遣ってこう言ったのだ。


―――


「のり子さんの残りの夏休みの平穏の為にも、告白したことは夏休みが終わるまでお姉ちゃんに内緒にしておきますから」


―――


 そのおかげでのり子の残りの夏休みの平穏は守られたのだが……今日はもうそうはいかない。のり子は気を引き締め、教室のドアを開けた。


「おはよう!! って……何、この雰囲気?」


 教室の中は妙に殺伐としていた。ほとんどのクラスメイトがとある一か所に怯えているような感じだ。その一か所には……怒りの炎を背後にまとったすみれがいた。予想通りというか……のり子は思わずため息をついた。教室のドアを閉め、すみれのもとに向かった。


「のーりーこー、待っていたわよ♪」

「どうしたのすみれ、みんな怖がってるよ」

「とぼけないの!! 約束したわよね、変なことはしないって」

「うん、しなかったけど」

「へえ……織絵に告白されといて、よくそんなことが言えるわね」


 すみれの言葉に、他のクラスメイト全員が教室の天井が吹っ飛びそうな程の驚きの声をあげた。クラスのマスコットのような存在の織絵が告白した、当然こういう反応になるだろう。無数の嫉妬の目がのり子に向けられている、のり子は頭を抱えてすみれに告げた。


「いや、確かに告白されたけど、断ったから」

「織絵の何が不満だっていうのよ!!」

「……どうしろっていうのよ、私に」


 まったく、このシスコンお姉ちゃんは……のり子は呆れるしかなかった。詩乃と萌希は最初は驚いていたが、すぐにニヤニヤ顔に変わった。


「何だか想像以上に面白い展開になってきたかも」

「のり子ちゃーん、後で詳しい話聞かせてね♪」


 他人事だと思って……のり子が再び頭を抱えていると、教室の扉が開かれ騒動の原因である女の子が元気に入ってきた。


「こんにちはー、先輩方!!」

「織絵ちゃん、のり子に告白したんだって? 詳しい話、聞かせてよ」

「良いですよ、まずはですね」


 たくさんの人に囲まれ、嬉しそうに織絵は話をしていた。誰からも愛され、たくさんの人に元気を与えることが出来る太陽のような子。だけど今は、特別な光を自分一人に向けてくれているのをのり子は知っている。のり子の視線に気づき、織絵は頬を赤くし、はにかむ様な笑顔をのり子だけに向けた。


「えへへ」


 織絵の会心の笑みに気付き、すみれが再び怒りの炎を背後にまとい、のり子を問い詰め始めた。


「のーりーこー、もっと詳しい話をする必要がありそうね♪」

「はぁ……今日は長い一日になりそう」


 のり子は三度頭を抱えたが、織絵の会心の笑みを見れたことに比べれば些末なことだと思った。いつか恋愛っていうのが何なのか分かるようになった時、自分は織絵ちゃんにどういう答えを出すのだろうか。それはこれから積み重ねていくのだろう。


 だけど……確かなことが一つある。どういう答えを出すにしても……この子の幸せを脅かすモノから体を張って、ずっとこの子を守っていきたいと。それが自分の幸せの一つの形なのだと……そう思いながらのり子は優しい微笑みを浮かべ、織絵の笑顔を見つめたのだった。


          ~『真夏の夜の純愛殺人事件』 完~

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


これにて『真夏の夜の純愛殺人事件』は完結です。この後はショートエピソードを挟み、次の事件に移ります。


今後ののり子の活躍も見守ってくださると幸いです。

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