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河澄のり子のこころ旅~心の闇との戦い~  作者: ここグラ
真夏の夜の純愛殺人事件
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真夏の夜の純愛殺人事件⑧(信じる心)

~織絵視点~


「のり子さん……大丈夫かな」


 のり子と今井刑事を少し離れた場所で心也と一緒に見ている織絵は、のり子の様子が気になっていた。レストランで食事を済ませ、エントランスで今井刑事と話すのり子は明らかに焦っていた。ただでさえ亜麻が殺され、大きな精神的ダメージを受けた上に大切な人の命を救えない絶望で一度は心が折れそうになったのだ。織絵の言葉で何とか立ち直ったが、完全ではない。織絵だからこそ、分かる変化である。


「心也君、ちょっとトイレ行ってくるね」

「うん、分かった。ちゃんとのり子さんに伝えてからだよ」

「分かってるって。すいません、ちょっとトイレに行ってきますね」

「ああ、分かった」


 今井刑事は返事をしてくれたが、のり子はしなかった。のり子が織絵の言葉に反応しないななど、普段は考えられない。やっぱり焦ってる……織絵はのり子を心配しながら、トイレに向かった。


「のり子さんに伝えてから、か……」


 織絵は心也の言葉が気になっていた。そういえば、心也君が綾乃ちゃんと最後に話したのって、綾乃ちゃんがトイレに行くって言った時だったな……だから心也君も心配しているのかも。少しの隙を突かれて、それが永遠の別れに繋がることもある……そう思った織絵の瞳から一筋の涙が流れ出た。


「……早く戻ろう。あれ?」


 トイレを済ませ、戻ろうとした時に織絵のスマホのバイブレーションが鳴った。店内だからマナーモードにしていたのだが……画面を見るとメールが届いていた。織絵はすぐにそれを確認すると、送り主は心也だった」


「『ちょっと話したいことがある。のり子さんは刑事さんとの話が忙しそうで邪魔しちゃ悪いから、外で話そう。あまり人に聞かれたくないから、店の裏口で』か……何だろ?」


 織絵はどこかしっくりこない感じがしたが、確かにのり子と今井刑事は随分熱の入った話をしている。こちらはこちらで、少しでも何か力になれる情報を集めるべきだろう。


「すいません、心也君が話があるみたいなのでちょっと外に出てきますね」

「ああ、分かった。あまり遠くに行くんじゃないぞ」

「はーい」


 やはりのり子は返事をしなかった……集中は出来ているようだが、周りが見えていない。織絵には、今ののり子がそういう風に見えた。気になりつつも、織絵はレストランの外に出て裏口に向かった。


「心也くーん、織絵だけどどこにいるの? 話って何?」


 裏口近くに来ても心也が見当たらないので、織絵は心也に呼び掛けた。その時だった、織絵の口元に突然、ハンカチのようなものが当てられた。


「んっ!!??」


 急激に織絵の意識が遠くなり始め、視界が暗くなった。まさか……罠? そう思ったのと同時に、織絵は意識を失った。


***


~のり子視点~


「織絵ちゃん!!??」


 のり子は織絵のいる方向に急いで目を向けたが、そこに織絵はいなかった……心也もだ。


「織絵ちゃん……どこに行ったの、織絵ちゃん!!??」

「何を言ってるんだのり子君、心也君が話があるからって外に行ってくるって言っていたじゃないか」

「え……織絵ちゃんがそう言っていたんですか?」

「ああ、その前はトイレに行くって言っていたぞ。聞いてなかったのか?」


 何てことだ……推理に集中しすぎて、織絵ちゃんの言葉が耳に入っていなかったとは。あれだけ織絵ちゃんを絶対に守ると意気込んでおいて、この醜態……のり子は自分のあまりの不甲斐なさに頭を抱えていた。だが……今はそんなことを考えている場合ではない、一刻も早く織絵ちゃんを見つけないといけない。でないと……


「今井刑事、織絵ちゃんはトイレに行ってからそう言ったんですよね?」

「ああ、トイレから戻ってきてすぐにな。その時には心也君も既にいなかったが」

「……変ですね、何で心也君が先に行く必要があるんです? 織絵ちゃんと一緒に行けばいいじゃないですか」

「た、確かにな」


 状況の不自然さと先程判明した犯人のターゲットの共通項……のり子の頭の中に最悪の可能性が浮かんだ。


「今井刑事、これは……罠です!!」

「わ、罠だと!?」

「織絵ちゃんを呼び出したのは心也君じゃありません……犯人ですよ」

「ど、どういうことだ?」

「さっき言いましたよね、犠牲者全員の共通項が分かったって。それが犯人がターゲットを決める基準だとしたら……次に狙われるのは織絵ちゃんです!!」

「な……何だって!!??」


 そう言うと同時に、のり子は走り出していた。店の外で犯人が織絵を呼び出すのに都合のいい場所……となると、あそこしかない!!


「織絵ちゃん!! って……心也君!?」


 のり子が店の裏口に到着し、周囲を探すとそこには倒れている心也の姿があった。今井刑事も遅れてやってきた。


「心也君!! 心也君!! しっかりして」

「ん……のり子さん?」

「心也君、何があったの!?」

「えっと、俺は織絵ちゃんがトイレに行っている時に『外で体調を崩した人がいて、運ぶのに男手がいるから協力してくれませんか』って言われて、外に行ったら後ろから誰かに殴られて」


 心也の言葉を聞き、のり子は周囲を調べた。すると……スマホが落ちているのを発見した。


「やっぱり……心也君は犯人じゃなかったんだね」

「どういうことだ、のり子君」

「見てくださいこのスマホ、心也君のです。で、メールの送信履歴を見ると、織絵ちゃんをここに呼び出す内容のが先程送られています」

「……変だな。こんな文章をわざわざ作らなくても、のり子君の言う通り織絵君が戻ってきたら一緒にいけば良いわけで」

「お、俺はそんなメール送っていません!!」

「そもそも、先に行くにしても電話で良いんですよ。それをしなかったのは、電話だと声でバレてしまうから。つまり、メールを送ったのは別人……織絵ちゃんを誘拐した犯人です」


 のり子の推理に、心也が顔を青くした。綾乃が殺された時と似たような状況……心也は肩を落とし、呟いた。


「俺のせいだ……織絵ちゃんにはのり子さんに声をかけるようにって言っておきながら、自分はそれを怠って付いて行って騙されて。俺は……誰一人守れないのか? 綾乃だけじゃなく、織絵ちゃんも」

「いや……悪いのは俺だ。織絵君が外に行くって行った時に止めていれば……もっと怪しむべきだった」


 心也も今井刑事も自分を責めている。だが、のり子は思った……2人は悪くないと。心也君は優しい子だ、急がないといけない人助けとなれば報告を忘れてしまうのも無理はない、犯人にそこを突かれたわけで。今井刑事も織絵ちゃんの言葉が耳に入っていなかった私の代わりにしっかり聞いてくれていた。悪いのは……私だ!!


「今井刑事、織絵ちゃんが外に出て行ったのはいつですか?」

「そうだな……5~10分前くらいだ」

「それなら……まだ間に合うかもしれない!! 今井刑事、今すぐ森林公園に向かってください、今までのやり方からして犯人は今回も森林公園で犯行を行う可能性が高いです」

「……分かった!!」

「のり子さん……」

「心也君、自分を責めないで。悪いのは私……私が、絶対に織絵ちゃんを守るから!!」


 ここからは殺人鬼との戦いになる。男とはいえ、修羅場をくぐっていない男子高校生である心也は危険だ、のり子は心也にここに残るよう指示した。心也は静かに頷いた。のり子は今井刑事の車に乗り、森林公園に向かった。のり子はひたすら、織絵に電話をかけ続けた。


「お願い……出て、織絵ちゃん」


 レストランから森林公園まで車で急いで約15分……さっきは間に合うって言ったけど、実際のところ状況はかなり悪い。だけど……例えどんなに分の悪い賭けであっても、諦めるわけにはいかない。こんな私を慕い、信じてくれる素敵な後輩の未来を……犯人に奪われてたまるか!! のり子は織絵の無事を祈りつつ、更に電話をかけ続けた。


***


~織絵視点~


「ん……ここは?」


 織絵は仰向けの状態で目を覚まし、周辺を見回した。明らかにレストランの外ではない、地面は土と草に覆われ、視界はかなり暗く悪い。どうしてこんなところに……そう思った織絵の視界に何者かのシルエットが映った。理解したわけではない、しかし織絵は本能的に危険を察知した。


「!!??」


 その人物が手に持ったものを織絵にわざと分かるように見せた。ナイフ……織絵はその瞬間、恐怖で冷や汗をかき顔を青くした。しかし、不思議と体が動かないというわけではなかった。事前に危険を察知したのも大きかった、だからこそそのすぐ後にその人物が振りかぶり、振り下ろしてきたナイフを体を捻ってギリギリでよけることが出来た。


「くっ!!」


 その人物は織絵の思わぬ行動に面食らい、ナイフを地面から抜くのに時間がかかった。その間に織絵は立ち上がり、全速力で逃げた。段々と頭が覚醒し、織絵は理解した。ここは森林公園……自分は例の連続殺人犯に襲われているのだと。


 それにしてもよく犯人からの攻撃を回避できたものだ、織絵は自分でも信じられなかった。織絵はバドミントン部に所属している関係で体力と反射神経は女子としては確かにある方だが、それ以上に【生贄の主】の事件で三咲に殺されかけた経験が大きかった。あの時は恐怖で体が動かなかったが、今回は2回目……一度殺されかけた経験のおかげで今回は体が動いたというのは皮肉な話である。


「スマホ……良かった、取られてない!!」


 マナーモードにしていたので、犯人ものり子からの電話に気付かなかったのだろう。織絵は画面を見て、のり子から無数の着信が来ていることに気付いた。織絵は走りながらすぐにのり子に電話をかけた。スマホを手に持ちながらでは走るのが遅くなるので、スピーカーホンに切り替えてスマホは胸ポケットにしまった。のり子の声が犯人にも聞こえてしまうが、この際仕方がないだろう。


「もしもし、のり子さん!!」

「織絵ちゃん!!?? 良かった……無事で」

「無事……と言いたいところなんですが、今犯人に追われて逃げているんです!!」

「な……」

「場所は森林公園です。何とか時間を稼ぎますから……追ってきてください。のり子さんなら……分かると思います」

「……分かった。絶対に織絵ちゃんを……守るから!!」


 織絵はのり子の心強い言葉を聞き、電話を切った。こんな状況でもあの人の言葉は温かく、勇気と希望をくれる。織絵は全力で走りながら、ポケットからあるモノを取り出した。犯人にバレてはまずいので直接的に言うことは出来なかったが……あの人なら気付いてくれる。


「のり子さん……信じていますよ」

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