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河澄のり子のこころ旅~心の闇との戦い~  作者: ここグラ
真夏の夜の純愛殺人事件
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真夏の夜の純愛殺人事件⑥(亜麻と毬友)

「あの、すみません」

「はい、何でしょう……って君は昨日ホテルで会った子だね!」

「こんにちは」


 のり子の提案で目の前の女性2人組と面識のある心也が声をかけた。2人とも心也のことを覚えていてくれたようで、活発そうな方の子は元気に挨拶を、控えめそうな方の子は丁寧に会釈をしてくれた。


「今日は彼女さんは一緒じゃないの? てか、可愛い女の子2人に大人の男の人と一緒って……どんな状況?」

「……綾乃は、今日は一緒じゃないです。と言いますか、もう一緒に歩くことは……」

「え……ど、どうしたの、そんなこの世の終わりみたいな顔して」


 心也の尋常じゃない落ち込み様を不思議に思った活発そうな方の子は、思わず心也に事情を尋ねた。


「昨晩、この辺りで殺人事件が起きたのはご存じですか?」

「は、はい。若い女性が全身数十か所を滅多刺しにされて殺されたとか」

「その犠牲者の女性が……彼の恋人なんです」

「……う、嘘。綾乃ちゃんが……殺された?」


 活発そうな方の子は、今井刑事の説明を受けて顔を真っ青にしてショックを受けていた。控えめそうな方の子も、言葉を失い目を丸くして一筋の涙を流していた。警察からの発表では犠牲者の名前は伏せられていたため、彼女達が殺されたのが綾乃だということを知らなかったのも無理はない。


「私と隣の織絵ちゃんは昨日綾乃ちゃんと心也君と初めて会ったんですけど、気が合って仲良くなって一緒に行動していたんです。ですけど、こんなことになってしまって……刑事さんと一緒に犯人を捜しているんです」

「お姉さん達は昨日、ホテルで綾乃ちゃんと心也君に会ったんですよね?」

「う、うん。初々しくて可愛いカップルだなって思って、話しかけたの。結構話も弾んで、また会うことがあったらもっと話してみたいなって思ったんだけど……」

「あんな素直で可愛い子が殺されるなんて……うう、どうして」


 織絵の質問に、女性2人組は悲しそうな顔で答えた。この2人も昨日初めて会ったのに……つくづく綾乃ちゃんは多くの人に愛されていたんだなあとのり子は実感した。


***


 立ち話も何なので、のり子達が行く予定の飲食店に女性2人組も一緒に向かうことになった。そこで改めて、お互いに自己紹介をした。


「河澄のり子ちゃんっていうんだ。それにしてもしっかりしている子だね、部長とか委員長とかやってたり?」

「いえ、特にそういうのは」


 活発そうな方の子の名前は利越亜麻(りこし あま)、茶色のゆるふわロングボブヘアーに緑色のワンピースが良く似合っている。竹を割ったような性格で付き合いやすそうだ、大学2年生らしい。


「そちらは絵波織絵ちゃんだね。とても可愛くて、キラキラした子……いいなあ、私とは正反対」

「もう、お姉さんもそれだけ可愛いのに何言っているんですか」


 控えめそうな方の子の名前は成田毬友(なりた まゆ)、ハーフアップにしたロングの黒髪に白いブラウスとロングスカートが清楚で魅力的だ。どこか自信がないような言動だが、美人でお嬢様然としていて、実際はかなりモテるだろう。亜麻と同じ大学に通っており、やはり2年生とのこと。


「のり子ちゃんも織絵ちゃんも話しやすくて良い子だね、綾乃ちゃんもそんな感じだったな。なのに、どうして……殺される理由なんてあるわけないのに」

「おかしいよ……こんなの」


 亜麻さんはとても親身になって綾乃ちゃんのことを考えてくれて、毬友さんは言葉は少ないけど心の底から綾乃ちゃんの死を悲しんでいるのが伝わってくる。本当に良い人達なんだな。それだけに犯人候補扱いするのは気が引けるけど……捜査に私情を挟むわけにはいかない。


「綾乃のためにも……力を貸していただけませんか?」

「もちろんだよ、心也君」

「頼りないかもしれないけど……頑張る」


 亜麻と毬友の快い返事に、心也も笑顔を見せた。犯人候補ではあるが、今は同じ目的に向かって進む同志でもある、のり子はそう思いながら質問を始めた。


「昨日、綾乃ちゃんの周囲をうろついていた不審な人物とかいませんでしたか?」

「うーん、特には。そもそも綾乃ちゃんに会ったのが、午前中にホテルで会った一回だけだからね」

「それ以外の時間帯に関しては、分からないの」


 まあ、これに関しては仕方がないか。とはいえ、自分と織絵ちゃんが預かり知らぬ場所と時間の話なだけに、貴重な証言であることに変わりはない。


「昨日お二人がホテルにチェックインした時間はいつなのかと、その時にホテル周辺に不審な人物がいたかどうかを教えてください」

「チェックインしたのは19:30くらいだね。不審な人物は見なかったなあ……そもそも暗くてよく見えなかったし、いたとしても認識できたかどうか」

「暗くて怖かったから、亜麻の服掴んで歩いてたし……」

「まったくもう、ホラー映画好きな癖に暗いところは苦手なんだもんなあ、毬友は」

「つ、作り物と現実は違うんだよ」


 なるほど、19:30ね……不審な人物はやはり見つからずか。それにしても毬友さんがホラー映画が好きなのは意外だ。てっきりそういうのは大の苦手なのかと思っていただけに、のり子はクスッと笑ってしまった。


「お二人は昨日の20:00~21:00の間、どこで何をしていましたか?」

「……アリバイ検証?」

「念のため、です」

「私は一日歩いて疲れちゃったから、部屋でずっと寝てたよ。さすがに昨日ははしゃぎすぎたのかな、結構グッスリ眠っちゃった」

「亜麻の邪魔しても悪いから、私はホテルの中を歩き回ったり休憩所でスマホをいじったりしてたの。外に出てないのは、受付の人に聞けば分かると思う」


 つまり、その時間帯お互いを見ていないわけか……とはいえ、外に出ようとすれば受付の人に見つかるだろうし、2人ともアリバイはあるってことかな。


「……」


 心也が何か考え事をしていたのがのり子は気になったが、それほど気にせずその後も質問を続け、終わった後は全員で談笑しながら食事を楽しんだ。綾乃のことで気持ちが沈んでいたのり子も、少し気持ちが和らいだような気がした。


「私、ちょっとトイレ行ってくるね」

「あ、私も行きます」


 亜麻がトイレに立つのと同時に、のり子もトイレに行くことにした。今すぐ行きたいというほどではないが、この後も捜査があるだけに行ける時に行った方が良いだろう。


「のり子ちゃんと織絵ちゃん、仲いいね。特に織絵ちゃんは、のり子ちゃんを凄く慕ってる感じがする」

「ありがたい話ですよ。亜麻さんと毬友さんも、とても仲が良いように見えます。付き合い、長かったりするんですか?」

「ううん、大学1年の時に知り合ったの。性格的には正反対なんだけど、妙に気が合ってね。それから何かと一緒にいることが多くなったの」

「毬友さん、亜麻さんを凄く頼りにしているように見えましたよ。どこか自信なさげな感じがしましたし、活発な亜麻さんに憧れているのかもしれませんね」

「……私の方こそ、毬友に憧れているんだけどね。私はガサツで全然女の子らしくないもん、お淑やかで可愛らしい毬友みたいになりたいの」


 のり子からすれば、亜麻も美人で明るいとても魅力的な女性だ。性格的に正反対と亜麻さんは言ったけど、だからこそこの2人は相性が良いのかもしれない。お互い相手のことに憧れ、相手の良さを尊重できる、本当に良い関係だ。


「亜麻さんも毬友さんも、どちらもとても魅力的な女性ですよ。自信持ってください」

「うん……ありがと。のり子ちゃん、本当に良い子だね。毎日一緒にいたら、楽しいだろうなあ」

「亜麻さん?」

「そうだ!! のり子ちゃん、私の大学に来ない?」

「……ええ!?」

「学年的に1年間しか一緒にいれないけどさ、絶対に楽しいと思うの。織絵ちゃんは……私の卒業後になっちゃうかあ、うーん残念」


 亜麻の急なお誘いに、のり子もびっくりした。とはいえ、悪いお誘いではない気がした。亜麻さんと毬友さんと一緒の大学生活、実に楽しそうだ。

「さ、さすがに急すぎなんでちょっと考えさせてください。でも……楽しそうですね」

「でしょ? 楽しみにしてるよ」


 満面の笑みを浮かべた亜麻を見て、のり子はこの人とはこの先も良い関係を築いていきたいと思った。もちろん犯人候補である以上、疑わないといけないが……もし犯人でなければ、事件が解決した後ももっと色々な話をしたい、そう心の底から思った。


***


 食事が終わり、のり子達は亜麻と毬友に挨拶をしていた。この後はお互い別行動になる、色々な情報と楽しい時間をくれた2人にのり子は感謝の気持ちを伝えた。


「亜麻さんと毬友さんも気を付けてくださいね、特に夜遅くは」

「怖いよね……全身数十か所を滅多刺しなんて」

「へーきへーき、ちゃんと暗くなる前にホテルに戻れば。私に任せて、毬友」

「うん……ありがとう、亜麻」

「それじゃ、また」


 織絵の警告に怖がる毬友を亜麻が励まし、のり子が挨拶をして亜麻と毬友はのり子達とは別方向に歩いて行った。のり子達は引き続き捜査のために別の場所に向かっていたが、その途中でのり子は気になったことを心也に尋ねた。


「そういえば心也君、私が亜麻さんと毬友さんにアリバイを聞いている時に何だか考え事してたけど、どうかしたの?」

「……のり子さん、亜麻さんと毬友さん、嘘ついていますよ」

「え……どういうこと?」


 心也の発言にのり子はびっくりし、詳細を尋ねた。心也は一度深呼吸し、神妙な面持ちで話し始めた。


「毬友さん言ってましたよね、外に出ていないことは受付の人に聞けばわかるって」

「う、うん」

「俺と亜麻さんと毬友さんが泊ってるBホテルは結構年期入ってて古くて、経営している人も年配の方なんで、外出するのを一人一人チェックはしていないんです。もちろん基本は報告してくださいと言われてはいるんですが……その気になれば目を盗んで外出するのは難しくないんです」

「そういえば、亜麻さんはずっと寝てて毬友さんは違う場所にいたんですよね。となると、2人ともアリバイがないってことに……」

「だからといって2人が嘘をついているとは限らないよ。単に知らないだけかもしれないし、普通はチェックしていると思うでしょ」

「ま、まあ確かにそうですけど」


 織絵が亜麻と毬友を疑い始めたので、のり子は釘を刺した。とはいえ、2人のアリバイがなくなったことは事実だ。のり子は改めて、2人のどちらかが犯人の可能性を考え始めた。


***


 その後捜査を続け、夕食を取るためにのり子達は昨日のレストランに来ていた。何だかんだで美味しく便利な店だ、来てしまうのである。のり子達は店員に注文を告げた、店員のネームプレートには【片瀬】と書いてある。


「かしこまりました。混雑しておりますので、少々お時間を頂きます」

「大丈夫です。それにしてもここまで混雑していると、店員さんも大変ですね」

「まあ、正直おっしゃる通りです。動きづらいですし、店内のどこに誰がいるかも把握しづらいんですよ。各種チェックも結局、閉店してからになってしまうのが実状ですし」


 のり子の質問に、片瀬は頭を抱えて答えた。まあ、こればっかりは仕方がないだろう。今の世の中、人員不足はどこも同じだし人件費の問題もある、ここまで忙しい店となるとそうなるのは避けられないだろう。


「閉店近くになれば、お客さん減るんじゃないですか?」

「ある程度は減りますけど、元の人数が多いですからね。夜遅くになると飲んで騒ぐお客様もいらっしゃいますし、息つく暇もないのは同じです」

「うーん、この店の責任者やってる店長さんってやっぱり凄いんですね」

「まあ、何だかんだで有能な方ですよ。ホール以外の仕事もしっかりこなしていますからね。そのせいで、忙しい時間帯も1時間くらい事務所にこもりっぱなしとかもありましたけど」


 織絵の質問に、片瀬が複雑な顔をしていた。1時間くらい事務所にこもりっぱなし……もしそれが可能であれば、アリバイが崩れるのではないか。のり子はそう思い、片瀬に尋ねた。


「すいません、昨日の20:00~21:00って店長はどうしていました?」

「うーん……混雑してて正直自分の仕事で手一杯だったんで、覚えていないんですよね」

「そうですか……」


 そう言い、片瀬は仕事が忙しいからとテーブルを離れた。これは思わぬ情報を得ることが出来た、新しい可能性を考えなければ。


***


 夕食を済ませてホテルに戻り、のり子は休む間もなく事件のことを考えていた。不明確だった犯人候補が誰なのか、何人いるのかが分かったのは良いのだが、そこから犯人を絞り込むことは結局できなかった。


「のり子さん、犯人は……どうして綾乃ちゃんを狙ったんでしょうか? そりゃ可愛くて魅力的な子でしたけど、海水浴場を見回しても可愛い子は他にもいましたし。その中でも綾乃ちゃんは際立って可愛かったと言えば、そうなのかもしれないですが」


 ……言われてみれば、確かに織絵ちゃんの言う通りだ。人気の海水浴場なだけに、たくさんの可愛い子が遊びに来ていた。その中で綾乃ちゃんを狙ったのはなぜなのか……前みたいに名前か? のり子は【生贄の主】の事件を思い出した。


 いや、あの時と違って今回は綾乃ちゃんのフルネームを知ることは簡単じゃない。知ることが出来たのは……亜麻さんと毬友さんくらいか? そんなことを考えながらのり子は窓の外を見た。もう真っ暗だ、夜の暗闇を見るとどうしても昨日の綾乃のことがのり子の頭をよぎる。綾乃の死体が浮かべていた恐怖と涙に満ちた表情……今夜は何も起きないと良いが。


 ピリリリリ!!!!


 そんなのり子の心配を嘲笑うかのように、のり子のスマホの着信音が鳴り響いた。何度も聞いた悲劇の始まりを告げる音……のり子は嫌な予感が増幅していく中、画面を見た。


「今井刑事……?」


 のり子は冷や汗が止まらない状態でスマホを取り、通話ボタンを押した。


「もしもし?」

「のり子君……新たな犠牲者が出た。やはり全身数十か所をナイフのようなもので滅多刺しにされて殺されていた」

「……犠牲者は、誰ですか?」

「……君の知っている人だよ」

「!!??」


 今井刑事の言葉に、のり子の心臓は一気に跳ねた。顔は真っ青に染まり、体はガクガク震えてきた。まさか……まさか……


「……利越亜麻君だ」


 その瞬間、のり子はスマホを床に落とし、言葉を失った。瞳からは自然と大粒の涙が溢れ出て、ポトリと床に落ちた。


「嘘……」

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