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河澄のり子のこころ旅~心の闇との戦い~  作者: ここグラ
真夏の夜の純愛殺人事件
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真夏の夜の純愛殺人事件⑤(疑惑のレストラン)

 午前11時頃、のり子達は前日に行ったレストランの前に集合していた。昨晩、絞り込んだ容疑者に会いに行こうとしたのはいいが、その全員がレストラン関係者で既に店は営業時間外。綾乃の仇を討とうと気持ちが高ぶっていたために気が付かなかったが、全員体も心もかなり疲弊していた。まずはしっかり寝て休み、翌日に備えることになったのだ。


「何だか昨晩の事件の噂をしていた人を結構見かけましたね、のり子さん」

「そうだね。確か警察がこの辺りに緊急で注意喚起をしたんでしたっけ?」

「うむ。『数日前に引き続き、若い女性が全身数十か所を滅多刺しにされて殺害された。みなさん、夜の外出はお控えください』とな」


 織絵の言う通り、今日は昨晩の殺人事件のことを話している人が散見される。警察が注意喚起をした影響だろう、警察の素早い行動にのり子は心の中で今井刑事に感謝した。


「話を聞くとなると、やはり店長さんでしょうか」

「だね、まずは店の責任者に話を聞いて、その後個別に聞こう」

「それじゃ、入りましょうか」


 心也の質問にのり子が答え、織絵が店のドアを開いた。昨日同様店内は混雑しているが、昨日ほどではないように感じる。警察官である今井刑事が店長に事情を説明し、事務所に入れてもらった。


「すみません、忙しい時間帯に」

「いえ、事情が事情ですからね、今日は人員もそれなりにいますし。ところで、そちらの3人は? 見たところ、高校生くらいに見えますが」

「3人とも、昨晩の事件の犠牲者の友達なんです。第一発見者でもありますし、話をする上でいた方が良いと思いましてね」

「そうですか……微力ですが、私に協力できることはいたしますので」


 今井刑事が店長に、上手くのり子と織絵と心也のことを説明した。店長は見たところ、40代くらいの男性だ。スラリとした体型で、服装も所作もしっかりしている。良い歳の取り方をしているというのだろうか、のり子は悪い印象は感じなかった。


「まずはお名前を教えていただきますか」

前城海李(まえしろ かい)です、このレストランの店長を務めております。それにしても、どうしてうちのレストランに聞き込みを?」

「犠牲者が昨日、昼と夕方にこの店に食事に来ていましてね。警察としても犯人の絞り込みに苦労していまして、少しでも関係のあるところには話を聞きたいのですよ」

「なるほど。といっても、見ての通り今は盛夏期なので、こちらとしても業務をこなすのが精一杯であまりお話しできることはございませんが」


 前城……その苗字にのり子は見覚えがあった。昨日の昼にレジを担当してくれた店員さんだ、店長だったのか。


「可能な範囲で良いですので。犠牲者の死亡推定時刻は20:00~21:00ですが、その間この店の店員さんは何をしていましたか?」

「アリバイ、ですか?」

「あくまで参考にです」

「……まあ、良いですけど。先程も言いましたが盛夏期で店内は混雑しているので、お客様への対応で手一杯でトイレに行くのも一苦労な状態なんです。私も含めて、店のスタッフ全員のアリバイは完璧だと思いますが」


 まあ、彼の言うことは妥当か。少なくとも昨日の20:00~21:00に勤務していたスタッフと店長に犯行は無理だろう。逆に言えば、その時間帯はフリーで昼間にレストランに来た時に会ったこの店の関係者なら可能かもしれない。


「店長さん、先程も言いましたが昨日私達は夕方だけじゃなく昼にもここに食事に来たんです。その時勤務していた人って誰ですか?」

「昼か……となると、常に厨房にいて動けない調理担当以外だと、類瀬君と月島さんだな。あと、うちのスタッフではないがゴミ業者の米緒君も関係者と言えばそうか」


 のり子の質問に、前城は3人の名前を挙げた。類瀬、月島、米緒……3人とも見覚えがある苗字だ、昨日の昼に確かにそういうネームプレートをした人と会話をした記憶がのり子にはあった。


「本人にお話を聞くことってできますか? 本人しか分からないこともあるでしょうし」

「まあ、丁度米緒君も来ていることだし、問題ないよ。しかし、君は高校生の割には随分しっかりした受け答えが出来る子だね。うちのスタッフになる気はないかい?」

「いえ……今はそういうことを考えられる状態じゃないので」

「そうか……すまない、無神経だったな」


 前城からの提案を、のり子はきっぱり断った。探偵として活躍しているのり子の会話能力を見抜いたのはさすが店長だが、ちょっと空気が読めない感じがしないでもない.


「その3人にお話を聞く前に、店長から見てその3人はどういう印象ですか?」

「3人ともしっかり働いてくれる子だよ。うちの店の営業時間は11:00~22:00で、昼勤は11:00~17:00、夕勤は17:00~22:00でその後1時間ほどクローズ作業があるんだが、類瀬君と月島さんは昼勤を担当してくれている。米緒君は1日に2回程、時刻で言えば13:00頃と20:00頃にゴミを回収しに来るんだ、昨日も20:00に来てくれたしね」

「米緒さんは夜にも来るのですか……ゴミ回収というのはどのくらいかかるんですか?」


 今井刑事の質問は、のり子も気になるところだった。昼のスタッフ2人はもちろんだが、米緒という人もゴミ回収にそれ程時間がかからなければ、犯行は可能だ。


「結構かかりますよ。うちは見ての通り客数が非常に多いので、ゴミもたくさん出るのでね。厨房で出るゴミは店の裏のジャンボペールに入れておくのでこちらの回収はそれほどかからないのですが、問題は店内のゴミなんです」

「店内の、ですか?」

「うちは近くの海水浴場の客が多いのもあって、レストランですが半分海の家でね。注文はお客様がブザーを鳴らすたびに店員が取りに行くのですが、お客様の多さと人員不足の問題もあってテーブルはお客様自身で確保してもらって、食べ終わった後の洗える食器は食器置き場に、使い捨ての物は店内に複数設置してあるゴミ箱にお客様自身の手で捨ててもらうことになっているんですよ」


 確かに席の確保と食器とゴミの処理はセルフサービスだった記憶がある。今の時代、人員不足や労働者の負担軽減でこういうのは珍しくないか。


「となると、その使い捨ての物が多いと?」

「はい、洗う手間を省く意味もあって食器も結構使い捨ての物を使っていますからね。箸やストローもそうですし、店内が混雑している状態で2階まであるうちに設置してあるすべてのゴミ箱のゴミを回収するとなると……まあ40分はかかるでしょうね」

「それはまた重労働ですね」

「ええ、昨日も20:50頃にたくさんの満パンのゴミ袋を抱えて、事務所まで報告に来てくれましたし。後でゴミ箱を確認してもしっかり回収されていましたし、ありがたい話ですよ」


 今井刑事からの質問に答えた前城は、米緒に感謝していた。40分か……事務所への報告も含めればもっとかかるだろうし、このレストランから森林公園までは車で急いで片道15分、つまり往復30分。綾乃ちゃんを見つけて心也君を気絶させ、綾乃ちゃんを殺害するのに急いで15分。犯行は無理かな。


「類瀬さんの具体的な印象を、もっと教えていただけますか?」

「彼はここで働き始めて3年目なんですが、見た目は派手でも仕事は真面目にやってくれる子ですよ。飲みこみも早いですし、顔もカッコいいですから女性客にも人気があります」

「なるほど、看板スタッフというわけですか」

「ただ、女性にだらしないという評判を聞くんですよねえ。うちの女性スタッフを頻繁に遊びに誘ったり、女性のお客様と暇があったら雑談しようとするとか。まあ、度が過ぎているわけではないそうなのでこちらも強く言ったりはしませんが」


 今井刑事の質問に、前城は頭を抱えていた。なるほど、接客態度自体は確かに問題なかったけど、そういう一面があるのか。その辺りを本人に聞く必要があるだろう。


「月島さんはどうですか?」

「彼女はここで働き始めて5年目ですが、見た目通り真面目な子ですよ。面倒見も良いですし、接客担当のリーダーみたいな立ち位置です」

「ふむ、頼れるベテランスタッフというわけですか」

「ただ、彼女は自分の私生活のことをほとんど話そうとしないんですよね。別に悪い噂を聞くわけではないですし、他のスタッフからの信頼も厚いんですが、さすがにあそこまで一線を引かれてしまうと邪推する人もいるわけですよ」


 今井刑事の質問に、前城はため息をついていた。なるほど、ただ真面目なだけの子ではない可能性があるということか。鉄壁のガードの理由を聞く必要があるだろう。


「ありがとうございました。それでは、本人にお話を伺ってもよろしいですか?」

「分かりました。では、まずは米緒君を呼んできます」


 前城はそう言って事務所を出て、米緒を呼んできた。前城はホールに戻っていき、のり子達は米緒と挨拶を交わし、自己紹介をしてもらった。フルネームは米緒誠志(よねお せいじ)というらしい。


「あなたの仕事についての詳細は店長から伺っています。一日に2回、13:00頃と20:00頃にゴミを回収しに来るとか。盛夏期なので、かなり時間がかかるようですね」

「まあ、そうですね。でもこればっかりは人が集まる場所の宿命なので、仕方がないです」

「なるほど。ちなみに昨晩20:00~21:00の間、あなたはどこで何をしていましたか?」

「今言ったように、このレストランのゴミを回収していましたよ。回収後は事務所に行って店長に挨拶しましたし、その辺りは店長に聞いていただければ分かるかと」


 今井刑事の質問に、米緒は淀みなく答えた。まあ、店長の証言と食い違っているところは特にないし、問題はないかとのり子は思った。


「ちなみに4日前に昨日と同じく若い女性が殺されたわけですが、その日もここに?」

「ええ、私は週7日間のうち5日間ここに回収に来ていますからね。残り2日間は会社の他の者が来るわけですが」

「なるほど、ありがとうございました」

「お力になれたのなら幸いです。しかし痛ましい事件ですね、若い女性が全身数十か所をナイフで滅多刺しにされて殺害されるとは」

「本当にそうですよ……こんな悪夢のような事件は一刻も早く解決しないといけない、次の犠牲者が出る前にね」


 今井刑事の決意に満ちた目に、のり子は頼もしさを感じた。米緒は挨拶をして帰っていき、今井刑事がそれを前城に報告し、次は類瀬を呼んできてくれた。自己紹介によると、フルネームは類瀬拳(るいせ けん)というらしい。前城はホールに戻っていった。


「あなたのことについては、店長から伺っています。昨日は11:00~17:00にここで働いていたそうですね」

「はい、基本はホールで接客をしていましたよ。何せこれだけ忙しい店で、人員不足なのもあって一人にかかる負担が大きいですからね」

「ふむ。ちなみに昨晩20:00~21:00の間、あなたはどこで何をしていましたか?」

「えっと、それってアリバイ検証って奴ですよね。俺を疑っているんですか?」

「念のためですよ。犠牲者が昨日この店に来たので、関係者には全員聞いているんです」

「まあ、いいですけど。その時間は仕事が終わって帰宅して、ずっと家にいましたよ。一人暮らしですから、証明は出来ないですけどね」


 なるほど、アリバイは無しか。一人暮らしなら行動をあれこれ制限はされないだろうし、昨日は食事中に何度か接客で来ただけに盗聴器を綾乃ちゃんに付けることも可能だろう。


「なるほど。あと、店長から仕事はよくやってくれるが女性に関してだらしないと聞いているのですが、その辺りについてはいかがですか?」

「……まあ、ちょっと女性スタッフを遊びに誘ったり女性客と話したりとかはしますけど、しつこくしたりはしないですし業務に支障がない範囲でのことですよ」

「それでトラブルを起こしたりとかは?」

「勘弁してくださいよ。そりゃ時には非難されることもありますけど、それでさすがに殺人まではしないですよ。まして全身数十か所を滅多刺しなんて、そんな恐ろしいこと」

「まあまあ、あくまで参考までの確認ですから。ご協力ありがとうございました」


 まあ、過度ではないにせよ女性にだらしないのは確かか。類瀬はブツブツ言いながら帰っていき、今井刑事がそれを前城に報告し、次は月島を呼んできてくれた。自己紹介によると、フルネームは月島未亜(つきしま みあ)というらしい。前城はホールに戻っていった。


「店長からあなたについては伺っています。昨日は11:00~17:00にここで働いていたようですが」

「はい、ホールで接客を。忙しい時期なので、連日駆り出されて大変ですが」

「ふむ。4日前に昨日と同じく若い女性が殺されたわけですが、その日もですか?」

「そうですよ、私だけじゃなく類瀬君もです。何せ人員不足ですからね」

「なるほど。ちなみに昨晩20:00~21:00の間、あなたはどこで何をしていましたか?」

「アリバイですか……まあいいです。その時間は家で一人で飲んでいました、一人暮らしなので証明とかはできないですけど」


 この人もアリバイは無しで一人暮らしか。類瀬さんと同じで昨日は食事中に何度か接客で来たから盗聴器を綾乃ちゃんに付けることも可能だろうし、ベテランスタッフなだけに色々なことを知っていてやりやすい面もあるだろう。


「ふむ。ちなみに、店長からあなたは私生活についてほとんど話さないと聞きましたが、その辺りについては」

「……別に、単に仕事とプライベートは分けているだけです。話したところで面倒なことになるだけですし」

「そのせいで邪推する人もいるとか」

「そんなのは言わせておけばいいんです。私は何ら恥じるようなことはしていませんし、そんな輩に関わるのは時間の無駄なだけです」

「これは失礼」


 真面目なだけじゃなく、芯もしっかりしていそうな感じだ。鉄壁のガードの理由は面倒ごとや時間の無駄が嫌いなだけ、それについて何か言われてもスルー出来るだけの精神力を持っている、か……あくまでも表面上では。


「そもそも私から言わせれば、類瀬君や店長の方が非難されて然るべきだと思うんですけどね、女性問題について」

「ほう、類瀬君については伺っておりますが、店長もですか?」

「ええ、類瀬君みたいにオープンではないですから分かりにくいですけどね。立場上言いにくいスタッフもいるでしょうし、レジ会計はうちは手が空いた人が行くんですが、可愛いお客様だとやけに積極的に行こうとしたりしますし。さすがにそのトラブルで全身数十か所を滅多刺し、なんてことまでは言いませんけど」

「なるほど、ご協力ありがとうございました」


 のり子は頭を抱えて前城に呆れていた、自分のことを棚に上げて類瀬さんのことを非難していたのかと。そういえば自分達のレジ会計を担当してくれた時もかなり急いで来てくれたが……あれは織絵ちゃんや綾乃ちゃん目当てだったのだろうか。クーポンをくれたのもまた会いたいからと考えると、少しドン引きするな。


 一通り関係者には聞き終え、前城に挨拶をしてのり子達はレストランを出た。さすがにあれこれ聞いた店では気が引けるので別の場所で昼食を取ろうということになり、スマホで調べた飲食店に話しながら向かうことになった。


「アリバイがないのは類瀬さんと月島さんですか……この2人のどちらかが犯人なんでしょうか、のり子さん」

「今はまだ何とも……現状では情報が足りないからね」


 織絵の質問に、のり子は情報を整理しながら答えた。そもそも昨日ここに来て話した人物はこれで本当に全員なのだろうか……例えば合流して4人で行動する前、つまり綾乃ちゃんと心也君が2人っきりの時に会った人物とか。それなら私と織絵ちゃんが知っているわけがない。


「ねえ心也君、ちょっと聞きたいことが」

「のり子さん、あの2人……」


 のり子が尋ねようとする前に、心也が前方から来る女性2人組を見てのり子に話しかけた。見た感じ、大学生くらいだろうか。


「あの2人がどうしたの?」

「昨日ここに午前中に到着した時、俺と綾乃はまずホテルに大きな荷物を預けに行ったんです。その時にホテルで会って、少しお話をしたんですよ」


 昨日綾乃ちゃんに接触した人物か……話を聞く必要があるだろう。

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