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河澄のり子のこころ旅~心の闇との戦い~  作者: ここグラ
真夏の夜の純愛殺人事件
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真夏の夜の純愛殺人事件④(永遠の別れ)

 のり子は気を失った織絵に必死で呼びかけ、程無くして織絵は目を覚ました。最も、目を覚ましたところで、耐えきれない程の悲しみがなくなるわけではない。織絵は絶え間なく涙を流し、のり子の胸の中で泣き続けた。


 その後、のり子は心也と警察に連絡した。心也は変わり果てた姿になった綾乃を見て、ただただ泣き叫んだ……日付が変われば恋人同士になって2周年だった幸せの絶頂のカップルは、その記念日を迎えることなく永遠の別れをすることとなった。


「……」

「織絵ちゃん……」


 警察が来るのを待っている間、のり子は織絵のことをずっと心配していた。一人にしてほしいと別の場所に行った心也も心配だが、先程から一言も言葉を発しない織絵はそれ以上に心配だった。普段、太陽のような明るさで多くの人を元気にしている織絵だけにだ。


 最も、のり子自身も大丈夫なわけではない。のり子にとって綾乃は既に大切な友人だ、そんな綾乃があんな凄惨な形で殺されたのだから、辛くないわけがない。しかし、目の前の織絵が全く生気の無い顔で座り込んでいるのを見ると、彼女を何とかして助けたいという気持ちの方が強くなり、自分の辛さどころではなくなっているのが実情だ。


「そちらの方が第一発見者の……って、のり子君!?」

「……今井刑事」


 普段ならびっくりするところだが、今ののり子にはそんなリアクションを取れるような気分ではない。とはいえ、知った顔を見つけて少し安心してもいるのだが。


「どうしたんだ、こんなところで」

「今日から織絵ちゃんと一緒に旅行に来ていたんです。それで、犠牲者の女の子とその連れの男の子と仲良くなって、一緒に行動することになって。明日も一緒に遊ぶ約束をしていたんですが……その女の子が行方不明だって連絡を男の子から受けて、探していたら……」

「……何ということだ」


 今井刑事は頭を抱え、やりきれない表情をしていた。彼の目がふとのり子の傍にいる織絵を捉え、その尋常ではない状態の彼女のことが心配になった。


「織絵君は……どうしたんだ?」

「……織絵ちゃんと犠牲者の女の子は凄く気が合ったんです、今日初めて会ったとは思えないくらい。傍から見ても、親友同士になれるんじゃないかって思いました。それなのに……こんな形でもう二度と会えなくなってしまって」


 今井刑事が先程以上にやりきれない表情をしていると、ずっと沈黙を守っていた織絵が口を開き始めた。


「……凄く、良い友達が出来たと思ったんです。可愛くて、明るくて、優しくて、温かくて……一緒にいて心がとても充実したんです」

「織絵ちゃん……」

「心也君ともとても良い関係を築いていて、理想のカップルだなって思いました。あの2人の幸せを応援したいとも思って。その上で、綾乃ちゃんとはずっと付き合いを続けていきたかった。楽しい思い出を、たくさん紡いでいきたかった……」


 織絵の目は、ずっと心の中で描いていた未来を見ていた。気の合う親友同士、手を取り合って笑い合い、助け合う未来……それがもう永遠に叶うことのない未来だと改めて自覚した時、織絵は抑えきれない感情を爆発させた。


「どうして……どうして綾乃ちゃんが殺されないといけないんですか? あんな良い子の幸せな未来を奪う権利が……一体誰にあるっていうんですか!!!!」

「……」

「ヤダよ……もう綾乃ちゃんに会えないなんて。笑顔も見れない、照れてる顔も見れない、声も聞けない、一緒にお喋りも出来ない……悪い夢なら早く覚めてよおおおお!!!!」


 織絵の精神は既に半壊していた、それ程までに織絵の中で綾乃の存在は大きくなっていたのだ。太陽のような明るさと笑顔で、周りの人達を元気にしてくれる織絵。しかし、今の織絵にはそんな姿は1ミリもなかった。のり子はそんな織絵の姿を見て、拳を強く握り、今井刑事に決意に満ちた目で告げた。


「今井刑事……私は今回の事件の犯人を絶対に許しません」

「……」

「今まで私が関わってきた事件の犯人の多くは……耐えきれない程の悲しみを背負っていました。大切な人を奪われたり、傷つけられたり……だから人を殺していいというわけではないですが、まだそこには同情できるところがあり、人の心が残っていました」


 もちろん、身勝手な動機で殺人を犯した者もいた。のり子の宿敵であり、今もなお親友である星嶋さくら……しかし、彼女もまたあまりに周囲の人に恵まれなかったという背景があった。そんな彼女に操られて殺人を犯した榎音三咲もまた身勝手ではあったが、もしさくらに心の闇を利用されることがなければ、今も平和に学園生活を送っていたかもしれない。


「ですが、今回の事件の犯人にはそういうものは何もない。ただただ自分の私利私欲のために、幸せに満ち溢れた心優しい女の子の命をあんな残酷な形で平気で奪うような悪魔です」

「……」

「絶対に私の手で捕まえてみせます。綾乃ちゃんの幸せな未来を奪い、心也君と織絵ちゃんを悲しみのどん底に叩き落した犯人を……絶対に!!」

「のり子君……」


 のり子の決意と怒りに満ちた姿を目の当たりにし、今井刑事も改めて表情を引き締めた。のり子がここまで激怒する姿は彼ですら滅多に見ることはない、それだけに彼も今回の事件の犯人には大きな憤りを感じているのだろう。


「織絵ちゃん……力を、貸してほしいの」

「のり子、さん……」

「私だって泣きたいよ。でも、泣くのは後でも出来る。今すべきなのは……綾乃ちゃんを殺した犯人を突きとめること。私達の手で……捕まえよう!!」


 のり子の言葉で、織絵の精神はギリギリのところで踏みとどまった。言葉そのものもそうだが、かつて自分の命を救ってくれた恩人の言葉だからこそ、織絵の心には響いた。涙を手で拭い、織絵の目に生気が戻った。


「……分かりました。私、やります。綾乃ちゃんのためにも」

「うん。今井刑事、私達は犠牲者の恋人の男の子に会ってきます、その後捜査の詳細を教えてください」

「分かった、こちらも全力を尽くす」

「……ありがとうございます」


 今井刑事の真っすぐな目にのり子は頼もしさを感じ、一礼をしてから心也のところに向かった。綾乃のことを一番知っているのは彼だ、ゆえに彼の協力も不可欠なのである。


「心也君……」

「のり子さんに……織絵ちゃん」


 心也は石垣に座り、俯いていた。目には無数の涙の跡があり、先程までの織絵と同じく目には全く生気が感じられなかった。のり子はそんな彼に言葉をかけようとしたが、何を言えばいいのか分からなかった。織絵も同じく、言葉に詰まっていた。


「その……」

「ありがとう、2人とも。気を遣ってくれてるのは分かります」

「……」


 こんな時も相手のことを考えてくれる、本当に心優しい人だ。しばし静寂が訪れた後、心也が再び口を開いた。


「綾乃と初めて会ったのは、中学2年生の時です。同じクラスになって、とても可愛い子がいるなって思って。可愛いだけじゃなく、心もとても澄んでいて……惹かれるのに時間はかかりませんでした」

「……」

「だけど、こんな魅力的な子が自分なんかを好きになってくれるわけがないとも思ったんです。結構気が合って仲は良かったですけど、それ以上は無理なんじゃないかって思って。それだけに、夏祭りに誘われて告白された時は、天にも昇る心地だったんです」

「……」

「それからたくさん楽しい思い出を積み重ねて、一緒の高校にも行けて、こうして恋人2周年記念の旅行にも行けて、そこで素敵な友達を作ることも出来て」


 素敵な友達……その言葉は明らかにのり子と織絵に向けられたものだった。心也は優しい顔で2人に告げた。


「綾乃は言っていたんです、『織絵ちゃんとは一生付き合っていきたい』って。『親友だと思ってくれていると嬉しい』って」

「綾乃ちゃん……」

「のり子さんのことも言っていました、『とても頼りになる、心優しい先輩だ』って。『ずっと織絵ちゃんのことを支えていってほしい』って」

「……」


 今となっては綾乃の口から聞くことは出来ない、彼女の気持ち。それを伝えられた織絵とのり子の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。


「これからも幸せな未来が待っていると思ったんです。綾乃と一緒に、それを築いていきたいと思っていたんです。なのに……なのに……何なんだよ、わけわかんねえ!!!!」


 心也は体を震わせ、あまりに理不尽すぎる現実に抑えきれない怒りと悲しみをぶつけ始めた。口調も乱暴になっているが、誰がそれを責めることが出来ようか。


「綾乃が何したっていうんだよ!! しかもあんな酷い殺され方……あり得ないだろ。綾乃みたいな心優しい子が、あんな目に遭わないといけない理由って何なんだよ!!!!」


 大切な恋人を突然理不尽すぎる形で失った心也は、とめどなく湧き出る怒りと悲しみをどうすることも出来なかった。そんな彼に、織絵が真っすぐな目で話しかけた。


「心也君……一緒に綾乃ちゃんを殺した犯人を捕まえよう」

「え……で、でも俺達みたいな素人にそんなことが出来るわけが」

「大丈夫。のり子さんは……本物の探偵なの」

「……探偵?」


 心也は幾分落ち着きを取り戻し、織絵の言葉に反応した。織絵はそれを見て少し安心し、続けた。


「大っぴらに言うことじゃないから、隠していたけどね。今までもたくさんの事件をのり子さんは解決してきたの。私は……そんなのり子さんに、命を助けられたこともあって」

「……そっか、織絵ちゃんがのり子さんをここまで慕っている理由が分かった気がするよ」

「心也君、今回は探偵であるかないかは問題じゃないの。綾乃ちゃんの友達として、犯人を絶対に許せない。だから捕まえたい、それだけだよ」

「……本当に、綾乃は良い友達を持ったな。分かりました、協力します。このままじゃ、綾乃があまりにも可哀想すぎます」


 心也の目は生気を取り戻し、真っすぐ前を向き始めた。のり子は軽く微笑み、織絵と心也とともに今井刑事のもとに向かった。捜査……開始だ。


***


「犠牲者の夢井綾乃さんの死因は、全身数十か所をナイフのようなもので滅多刺しにされたことによる出血多量死。死亡推定時刻は、20:00~21:00の間だな」

「全身数十か所を滅多刺し……やはり3日前にこの辺りで起きた殺人事件と同一犯ですか?」

「おそらくな。手口が同じでしかもこれだけ残酷なものとなると、そう考えるのが自然だ」


 今井刑事からの捜査報告を受け、のり子は今回の事件の犯人がレストランで聞いた数日前の殺人事件の犯人と同じだと確信を持った。


「3日前の殺人事件の犠牲者は20代前半くらいの女性って聞きましたけど、名前は?」

遠石美緒(といし みお)だ、今回と同じく森林公園で発見された」

「心也君、この名前の女性に心当たりは?」

「いえ、ないですね、綾乃も知らないと思います」


 のり子の質問に、心也が首を横に振って答えた。となると、やはり通り魔殺人か……のり子はそう思ったが、どこか腑に落ちない点も感じた。


「正直、警察としても犯人の絞り込みに苦労していてね。これといった証拠も見つかっていないし、状況から見てどう見ても通り魔殺人だから動機の面で割り出すこともできない」

「そんな……じゃあ、どうしたら」

「……いや、そんなことはないと思うよ」


 のり子の言葉に、他の全員が目を丸くして一斉にのり子の方を向いた。


「どういうことなんだ、のり子君」

「確かに動機としては怨恨の線は薄いです、快楽殺人でしょう。ですけど、じゃあたまたま見つけた子を場当たり的に殺したのかというと違うと思うんです」

「どういうことですか?」

「殺された場所が森林公園だからだよ。私達はホテルに戻るために通らないといけないから通ったけど、そういう理由でもなければ夜中にあんな広くて視界の悪いところ、わざわざ通ったりする?」

「た、確かにしないでしょうね」

「つまり、たまたま通ったんじゃなくて、綾乃ちゃんを尾行していたってこと」


 心也の疑問に、のり子が答えた。そう、これは場当たり的な犯行ではない、あらかじめ綾乃ちゃんにターゲットを定めての計画的犯行だ。


「で、そうなると気になるのが、どうやって綾乃ちゃんの行動を把握していたのかということなんだけど」

「どういうことですか、のり子さん」

「今日、私達って昼にレストランで会ってからずっと4人で行動していたでしょ。もしそれをずっと尾行していたらさすがに周囲に怪しまれるし、私達4人のうちの誰かが気付いていたと思うの」

「た、確かに」

「となると考えられるのが、綾乃ちゃんに盗聴器か何かをこっそりつけて、それで行動を把握していたってこと。これならずっと尾行しなくても行動はある程度把握できるし、夜になって綾乃ちゃんが一人になった隙を狙って襲えば良い」


 のり子の説明に、織絵は納得の表情を浮かべた。盗聴器を付けること自体はそれほど難しいことじゃない、殺害した後に回収すれば証拠も残らない。


「だから、あんな僅かな隙を狙って俺を殴って気絶させて、綾乃を連れ去ることが出来たのか……待ってくださいのり子さん、ということは犯人は」

「そう……今日私達が会った人物の中にいるってことになる。いくら盗聴器を付けること自体は難しくないと言っても、話もしていない赤の他人が突然近づいてきて付けたりしたらさすがに怪しまれるからね」


 これなら候補はかなり絞られる。のり子は今日会った人物を記憶の中から洗い出し、話を聞きに向かった。綾乃の命を奪った犯人を……捕まえるために。

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