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青空別荘殺人事件⑧(花が語る真実)

 のり子がホールに行くと、そこには今回の事件の関係者全員が集まっていた。高根沢刑事に心の中で感謝し、のり子は一度深呼吸をしてから告げた。


「みなさんに集まってもらったのは他でもありません。今回の事件の……犯人とトリックを説明するためです」


 のり子の言葉に全員が驚き、騒然となった。亜璃栖は驚きと同時に、すがるような眼をしながらのり子に尋ねた。


「ほ、本当ですか、のり子さん。瑠璃香お姉ちゃんを襲った犯人も、動機もですか?」

「うん、全部分かったよ亜璃栖ちゃん。だから……私に任せて」

「……分かりました。のり子さん、お願いします」


 ふといりすの方に目を向けると、どこか悲しそうで心配そうな表情をしていた。いりすちゃんにそんな表情はさせたくない、しかし……たとえ悲しくても目を逸らしてはいけないことがある。のり子は静かに語り始めた。


「では、まず時系列に沿って事件を整理してみましょう。今回の事件で鍵を握るのが一日目の組美さん殺害ですが、先に彰羅さん達のグループが夕食を終え、瑠璃香さんと一緒に談話室で19:30くらいから飲み会を開始。一方で、私達のグループも夕食を終えて20:15くらいからもう一つの談話室で20:15くらいからお喋りを開始しました」

「そうだね。で、20:45くらいに君達のグループが俺達グループに合流して、割とすぐに例の騒動が起きたと」

「……そうですね」


 彰羅の言う例の騒動とは、もちろん亜璃栖が組美に対して激昂した件である。やはりこの件が未だに彼女のことを疑う材料になっているのは否めないとのり子は感じた。


「そして、21:15くらいに組美さんが飲み会を抜けて自室に戻り、22:00~23:00の間に殺害されたというわけです」

「まあ、そんな感じだな。その間にアリバイがない人が大半を占めるが、警察としてはその中でも直前にトラブルを起こし前々から恨んでいた牧野亜璃栖さん、あなたが最有力の容疑者だと踏んでいるのですが」

「そ、そんな。私、やってません……」


 亜璃栖がやはり涙目で否定するが、高根沢刑事がこう思うのは仕方がないだろう。アリバイトリックの謎が解けない限り、警察は動機面で明確な事実がある亜璃栖ちゃんを疑わざるを得ないのだから、とのり子は思った。


「で、のり子さん、君は犯行にトリックが使われたと言っていたが、それはどういうトリックなんだ? あれだけ多くの人が飲み会に参加している状況で、どうやって彼らの目をかいくぐって組美さんを殺しに行けたのか」

「そもそも、かいくぐる必要がないんですよ」

「……何?」

「犯人は死亡推定時刻である22:00~23:00の間に、一歩も組美さんの部屋に入ることなく彼女の殺害に成功したんです。だから、アリバイなんて元々関係ないんですよ」

「ど、どういうことだ? 部屋に入らずにどうやって殺害出来たというんだ」


 高根沢刑事は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。とはいえのり子自身もここまでたどり着くのに苦労したのだ、気持ちは分からないでもないとのり子は思った。


「これは実際に現場を見た方が分かりやすいと思います」


 のり子はそう言い、全員を連れて組美の部屋へと向かった。部屋に着き、のり子は瑠璃香の方を向き、推理を再開した。


「ヒントは瑠璃香さんが教えてくれました。彼女曰く、組美さんの部屋の外からベッドの上の網棚に置いてある花の位置が変わっていることに気付き、その直後に背後から殴られたそうです」

「は、はい、その通りですが……それとトリックに何の関係が?」

「大ありなんですよ、瑠璃香さん。花の位置が変わっていたということは、元々花が置いてあった場所に何か違うものが置かれていたわけです」

「違うもの?」

「……アイスピックですよ、組美さんを殺害した凶器のね。組美さんは首にアイスピックを手で突き立てられて殺されたんじゃない、網棚の隙間から落下したアイスピックが首に刺さって死んだんです」


 のり子はそう言い、ベッドの上の網棚を指差した。この場にいる全員がのり子の説明に驚き、のり子が指差した方向をまじまじと見つめていた。


「よく見ると分かるんですが、あの網棚の隙間は凶器に使われたアイスピックなら通りますし、元々花が置いてあった位置の真下には枕があるんです。つまり……組美さんの首の真下ということになるんです」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。確かにあそこからアイスピックを落とせば真下の犠牲者の首に刺さるだろうが、それは犯人が落とすために部屋に行かないといけないということだろう? しかし、先程君は犯人は22:00~23:00の間は部屋を訪れていないと」

「ええ、訪れていませんよ。アイスピックは時間になったら、自動的に犠牲者の首めがけて落下したんですからね」

「じ、自動的に!?」


 のり子の説明に、高根沢刑事はまるで意味が分からないという表情をしていた。のり子は更に続けた。


「高根沢刑事に質問ですが、物を固定するのに使うことが出来て、時間が経つと水に変わってしまうものって何でしょう?」

「……氷か!!」

「正解です。つまり犯人はアイスピックの柄の部分に網棚の網目より大きいサイズの氷の塊を作り、それを犠牲者の首の真上の位置に当たる網棚の部分にアイスピックを網目を通らせた状態で固定しておいたんです。こうすれば氷がストッパーになって最初は落ちませんが、氷が解ければ自動的にアイスピックは落下し、真下の犠牲者の首に刺さります」

「な、なるほど。その仕掛けなら冷蔵庫内の冷凍室を使って簡単に作れるしな」

「そういうことです。冷蔵庫は各部屋に設置されていますから、誰でもできますしね」


 高根沢刑事は納得した表情で首を何度も縦に振っていた。のり子はその反応を確認しつつ、更なる説明をした。


「このトリックを使ったとなると、組美さん殺害の疑問点である、①なぜ首を狙ったのか ②なぜ毒を使ったのか ③なぜ凶器にアイスピックを使ったのか も説明できるんです」

「えっ……その3つにも意味が?」

「はい、絵璃奈さん。まず①ですが、これは手を使って突き立てるのではなく落下によって刺さる仕組みなのでどうしてもパワー不足になり、素肌が見えている首を狙わざるを得ないからです。いくら夏で薄着とはいえ、服の上からだと服が邪魔して刺さらない可能性がありますからね」

「な、なるほど……待って、パワー不足ということはまさか②の理由は」

「おそらく絵璃奈さんが思っている通りですよ。パワー不足になりがちな以上、ただ落とすだけじゃとても急所まで深く刺さるとは思えない。だから、深く刺さらなくても殺せるように毒を使ったんです」


 絵璃奈はのり子の説明に心底驚いた表情を浮かべていた。のり子は少し微笑みを浮かべ、説明を続けた。


「最後に③ですが、これは凶器の構造上、落下させた場合アイスピックが一番しっかり刺さりやすいからです」

「そうなんですか?」

「そうだよ、亜璃栖ちゃん。落下物が接触したモノへ与えるパワー、つまり圧力は接地面積が狭ければ狭いほどパワーが分散されない関係で強くなる。ダーツがああいう形をしているのも刺さりやすいようにするためであって、アイスピックも似た形でしょ?」

「圧力に、接地面積……?」

「例えば同じ人にスニーカーで踏まれるのとハイヒールで踏まれるのだと、後者の方がずっと痛いでしょ? あれはハイヒールのかかとの部分が細いからなんだよ」

「あ……確かに。そういう理由からだったんですね」


 亜璃栖は最初は戸惑いながらも、やっと納得出来た様子だった。のり子の説明を感心しながら聞いていた璃人も、口を開いた。


「なるほど、毒を使っている以上深く刺さらなくても殺すことは出来ますが、刺さったまま固定した状態にはしておきたい。そうしませんと『手で突き立てたのに、なぜ刺さったまま固定されずに周辺に落ちているのか』と疑問を持たれる可能性がありますからね」

「そういうことです、あくまで手で突き立てて殺害したと思ってくれないと困りますからね。だからこそ、アリバイの有無が問題になってくるのであって」


 璃人は納得した表情を浮かべていた。こちらから言わずともこれに気付くとは、そこはさすが璃人さんだとのり子は感心した。それに対し、高根沢刑事も口を開いた。


「つまり、犯人は組美さんが部屋に戻った時刻である21:15から死亡推定時刻の開始の時刻である22:00の間に組美さんの部屋に行ってこの仕掛けを設置して、あとは22:00~23:00の間は部屋に近づかず、仕掛けが作動するのを待てばいいということか。もちろん、氷の大きさを調整して、22:00~23:00の間にアイスピックが落ちるようにしてね」

「はい、おっしゃる通りです。まして睡眠薬を組美さんは飲まされていますから、部屋に戻ればあっという間に寝てしまい、そう簡単には起きません。なので、その仕掛けを設置するのに気づかれる心配もないってことですよ」


 高根沢刑事ももう完全にのり子の推理を認めた上で発言していた。のり子がそれに安心していると、今まで黙っていたいりすが質問をしてきた。


「ですけどのり子先輩、そのトリックが使われたとなると全員に犯行が可能になってしまうってことですよね。どうやって犯人を絞り込めばいいんですか?」

「そんなことはないよ、いりすちゃん。このトリックを実行するメリットは、死亡推定時刻である22:00~23:00の間にアリバイがあっても犯行が可能だってこと。つまり逆説的に言えば、その時間帯にアリバイがあった人こそが犯人だってことになる」

「え……じゃあまさか、犯人は」

「そう、組美さんと悠都さんを殺した犯人は……あなたです!!」

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