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青空別荘殺人事件⑦(受け止める覚悟)

 翌朝、のり子はいりすと一緒に朝早くから殺された組美の部屋に向かっていた。今回の事件の鍵を握るのはやはり組美さん殺しだ、もし何かしらのトリックが使われていたなら……犯人を絞り込むことが出来るかもしれない。この別荘にいるのも今日が最後だ、のり子は改めて気を引き締めた。


「のり子様、いりす様、おはようございます」


 途中で璃人に会った。相変わらず忙しそうだが、今一つ元気がないように見える。おそらくは瑠璃香さんの件が影響しているのだろう。


「璃人さん……責任を感じる気持ちは分かりますが、それだと亜璃栖ちゃんや絵璃奈さんも心配しますよ」

「……お見通しでございますか。お客様に見抜かれてしまうとは、情けない限りです」

「璃人さんが暗くなっても、誰も幸せになりませんよ。ですから……普段通りで良いんです」

「いりす様もお気遣いありがとうございます。ところでのり子様、お聞きしたいことがあるのですが」


 璃人は真剣な目でのり子を見つめている。これは……こちらも包み隠さず真っすぐ答えなくてはいけないとのり子は感じた。


「何でしょう?」

「のり子様は……亜璃栖お嬢様や絵璃奈お嬢様が犯人であると疑っておられますか?」

「……可能性の一つとして考えてはいます」


 いりすはあわあわと焦った顔をしていた。当然だろう、あの三姉妹に従事している人に対して『殺人犯だと疑っています』と言っているのだから。璃人はのり子の目をしばらく見つめた後、ため息をついた。


「強いお方でございますね……あなた様は」

「過大評価ですよ」

「いえ、そんなあなた様だから、多くの人を救い多くの人に慕われているのでしょう」

「璃人さん……」

「残念ながら、私ではこの事件の真相を暴くことは出来ません。それが出来るのは……お嬢様達を救えるのは……おそらくあなた様だけです。よろしく、お願いします」


 璃人は深々とのり子にお辞儀をした。のり子は『分かりました』と短くも決意を秘めた返事をし、璃人と別れて組美の部屋へ向かった。


***


 組美の部屋に着き、ドアを開けると中には高根沢刑事がいた。何だかんだで実力のある彼だ、今回の事件の鍵が組美さん殺しだということは分かっているのだろう。


「高根沢刑事」

「何だ、君か。今度は何の用だ?」

「この部屋を改めて調べたいのですが」


 のり子は包み隠さずストレートに伝えた。予想通りだが、高根沢刑事は呆れた顔をして頭を抱えながら言った。


「あのな、君が頭がキレるのは認めるがこれは本物の殺人事件なんだ、探偵ごっこじゃない」

「刑事さん、のり子先輩はですね」

「待って、いりすちゃん」

「のり子先輩?」


 先日の波後学園の生徒が次々と殺害された大規模殺人事件のことをいりすは言おうとしたのだろうが、のり子はそれを止めた。確かにそれを言えば分かってくれるだろう。だが……いつもそれに頼っていて、この先やっていけるかは分からない。


 のり子が現場を調べるには、どうしても警察の協力が必要だ。その為の信頼を、免罪符のようなものをいつも振りかざして得るような真似はしたくない。目の前で自分の力を認めてもらって、築いていきたい。のり子は語り始めた。


「今回の事件の動機、高根沢刑事は何だと思っています?」

「まあ、牧野家とあの大学生達の確執だろう。実際、一昨日も揉めていたわけだしな」

「なるほど、それもあるかもしれません。ですが、私は違うと思うんです」

「何だと!! どういうことだ?」

「佐間奈津さんという方、知っていますか?」


 のり子は奈津のことについて、事細かに説明した。高根沢刑事はさすがに目を丸くして驚いていた。


「ど、どうやって調べたんだ、そんなこと」

「関係者に一人一人聞き込みをしたんです。高根沢刑事、私は決して軽い気持ちで捜査をしているわけじゃありません。探偵であってもなくても……真相を暴いてこれ以上の犯行を防いだり、大切な人を救いたいという気持ちは同じなんです」

「……はぁ、分かったよ。今回は許可する」

「本当ですか?」

「さすがに借りを返さない程、警察も恩知らずではないのでな」

「良かったですね、のり子先輩!!」


 いりすが思わず飛び跳ねてしまいそうな笑顔で喜んだ。やはり高根沢刑事は悪い人ではない。多少意地っ張りだが、認めるものはしっかり認めてくれる人なのだろうとのり子は思った。


「それでは、調べさせていただきます」

「あ、そうだ。新たに分かったことなのだがな、根下組美の死体から睡眠薬が検出された」

「睡眠薬、ですか?」

「ああ。まあ、睡眠薬を飲ませることはあの飲み会に参加していた人であれば誰でも出来ただろうし、夕食を作った二ノ瀬璃人にも出来たわけで、犯人を特定は出来んな」

「いえ、だとしても大きな材料になります。少なくとも、今回の犯行が偶然に頼ったものではなく、あの時間に組美さんを自室で眠らせることが前提の計画的なものだと分かったわけですから」


 となると、組美さんは自室に戻ったらすぐにベッドで泥のように眠ってしまうことは予想できるし、ちょっとやそっとのことでは起きない。しかし……なら猶更あのことが説明できないとのり子は思った。


「高根沢刑事、ならどうして犯人は首を刺したんでしょう? 首を刺すより胸を刺した方が確実に殺せますし、毒も必要ないのに」

「そ、それは……素肌だからじゃないのか?」

「今は夏ですよ? 普通に誰しも薄着ですし、実際組美さんも薄着でした、凶器を刺す邪魔になるとはとても思えません」

「た、確かにそうだが」

「ましてアイスピックを使ったのも疑問が残ります。何かしらの理由で首を狙わざるを得ないにしても、急所である頸動脈を狙いやすいナイフの方が良いはずです。返り血にしても、抜いた時に多く出る以上、抜かなければいいわけですからね」


 そう、組美さん殺害の疑問点は大きく分けて3つ。①なぜ首を狙ったのか ②なぜ毒を使ったのか ③なぜ凶器にアイスピックを使ったのか だ。これらが何かしらトリックに関係しているとのり子は思っているのだが……未だに結び付けることが出来ない。


「君の言っていることは最もだが、現実に起きているわけだからな。それこそ、中学生で非力な牧野亜璃栖が自分の弱点を補うためにやったと考えることもできる」

「そ、そんな……」


 いりすが悲しい顔で否定しようとするが、歯切れが悪い。高根沢刑事の言っていることも一理あるし、実際亜璃栖にアリバイはないからだ。のり子はため息をついた。


「おそらく、そんな複雑なトリックではないと思うんです。むしろシンプルだからこそ、証拠が残りにくいと言いますか」

「むう、立証できない分逆にそういうものの方が厄介かもしれんな」


 のり子と高根沢刑事が頭を抱えていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「のり子さん」

「る、瑠璃香さん!? もうお身体は大丈夫なんですか?」

「はい、軽症ですから、入院の必要もないとのことですので」


 のり子が目を丸くして驚いていると、いりすが瑠璃香に心配そうな顔をして尋ねた。


「あの……亜璃栖ちゃんには」

「大丈夫ですよ、真っ先に顔を出しましたから。ふふふ、何だかいりすさん、亜璃栖の本当のお姉さんみたいですね」

「な、何言ってるんですか!? 亜璃栖ちゃんには絵璃奈さんと瑠璃香さんがいるわけで」

「別に増えてはいけない法はありませんからね、亜璃栖も喜ぶと思いますよ」


 さすがに弁論では人生の先輩である瑠璃香には敵わないようだ。こういう包容力のある優しさが彼女の魅力なのだろうとのり子は思う一方で、これは渡りに船だと思った。なにせ彼女は何かのアクシデントで襲われた可能性が高い、話を聞くことで分かることがありそうだ。


「瑠璃香さん、話の途中で申し訳ないんですが……襲われた時に何か見ましたか?」

「うーん……丁度この部屋の前を通りがかった時なんですけど、ベッドの上の網棚を見た時に何か違和感を感じたんですよ。そうしたら、背後から頭を殴られまして」

「網棚……もしかして、花ですか?」

「あ、そうです。花の位置がいつもと違っていたんですよ!」


 花の位置……それが何かトリックと関係があるのだろうか。のり子は考えながらベッドにふと目を向けると、倒れたミネラルウォーターのペットボトルが目に入った。


「そういえば、事件当時組美さんの死体やベッド周りは水で濡れていましたね」

「ああ。まあ、そのミネラルウォーターがこぼれたんだろうな。なにせ深酒をしていたんだ、何も不思議じゃない」


 そう、私もそう思ったのだが……もしかして違うのか? だとしたら……のり子の頭の中に一つの仮説が浮かんだ。これなら……すべて辻褄が合う!!


「瑠璃香さん、ありがとうございます。おかげで、すべて解けましたよ」

「解けたというのは?」

「もちろん……犯人の正体とトリックですよ!!」

「な……何だって!!!!」


 高根沢刑事がこれ以上ないくらい目を大きく見開いて、驚きの声を上げた。いりすと瑠璃香も高根沢刑事程ではないが、驚きの表情を浮かべている。


「だ、誰なんだ犯人は!? トリックは!?」

「落ち着いてください、高根沢刑事。まだ証拠がないんです、それを見つけないと」

「そ、そうか。しかし証拠か……警察も懸命に調べたんだがな」


 やはり思った通りトリック自体はシンプルなだけに、証拠は調べても出てこない可能性が高い。となると……犯人にとって予定外の犯行だった瑠璃香さん殺害未遂事件が鍵を握りそうだとのり子は思った。


「瑠璃香さん、犯人に殴られたのは何発ですか?」

「一発、ですけど」

「殴られてから、亜璃栖さんが声をあげて近づいてきたのはどのくらい後ですか?」

「30秒くらい経ってから亜璃栖の声が聞こえて、10秒くらい経ってから亜璃栖が来ました」

「犯人はどの方向に逃げましたか?」

「亜璃栖が来た方向と反対側の方向です、客室方面ですね」


 ……なるほど、これで証拠も問題はない。そして……残る疑問もこれで解決した。のり子は一度深呼吸をし、軽く微笑みを浮かべながら3人に告げた。


「見つけましたよ……証拠も」

「え……じゃあのり子先輩」

「うん、謎は解けたよ……完全に」


 高根沢刑事は唖然としていたが、すぐにのり子と同じく軽く微笑みを浮かべた。やはりこの人も立派な刑事だとのり子は確信した。


「分かった、じゃあホールに関係者を全員集めるように手配してくる。君は……推理を披露する準備をしていてくれ」

「ありがとうございます高根沢刑事、何から何まで」

「……お礼を言うのはこちらの方だよ」


 高根沢刑事はそっと呟き、部屋を出て行った。推理の披露に向けて準備を始めたのり子に、いりすが心配そうな顔で瑠璃香に聞こえないように尋ねた。


「のり子先輩、トリックに亜璃栖ちゃんが設置した花が関係あるってことは、まさか……」

「……いりすちゃん、すべてはこの後明らかにするから」

「で、ですけど!!」

「お願い、いりすちゃん。推理の準備に……集中させて」


 いりすはそう言ったきり、無言で俯いてしまった。目には微かに涙が浮かんでいる。気持ちはよくわかる、絶対にそうであってほしくない真実……それを否定してほしいのだろう。


「のり子さん……」

「瑠璃香さん……」

「何が真実であったとしても……私はすべて受け止めます。ですから、存分に推理をご披露ください」


 覚悟は決まってるという目だ。瑠璃香さんも辛い真実が待ち受けている可能性を悟っているのだろう。強い人だ……この人の前で無様な推理は出来ない、のり子は気を引き締めた。


「行こう……事件の終幕へ」

読んでくださり、ありがとうございました。


次回から解答編に入ります、この事件の犯人は誰でしょうか?


みなさんも推理してみてください。

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