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青空別荘殺人事件⑤(佐間奈津)

 のり子は部屋でいりすと一緒に事件についての情報を整理していた。警察の取り調べで得た情報で掘り下げることが出来ることをまずは掘り下げておきたいのだ。


「まず前提として、これは計画的な殺人。その理由はさっき言ったから分かるよね?」

「アイスピックはまだしも、毒は急には調達できないからですよね」

「うん。そこで気になるのが、どうして犯人は毒を使用したかってこと」

「確実に仕留めるためって、刑事さん言っていませんでした?」

「まあ、その可能性もあるとは思うし、妥当な見解だと思う。でも今回は犯人は明らかに犠牲者の寝込みを襲っている、なら話は別だよ」


 いりすはよく分からないという表情を浮かべている。のり子はいりすに分かりやすいように説明した。


「毒を凶器に塗る利点は、大きな傷を負わせなくても殺害できること。動いている相手を殺そうとしたり、体格やパワー的に不利な場合に効果的なの」

「あ……組美さんは寝ていたわけだから」

「そういうこと。まして組美さんは女性で体格的にも華奢な方だから、わざわざ毒を使う理由がない。普通にナイフを突き立てれば良いわけだしね」

「な、なるほど」

「あと、どうして首を刺したのかもひっかかるのよ」

「え、首を刺したら普通に死ぬからじゃないんですか?」


 いりすはどうしてそれを疑問に思うのか、という表情を浮かべている。まあ、これは無理もないか。のり子は続けた。


「実はそうでもないの。頸動脈を刺すことが出来れば出血多量で死ぬけど、そうじゃなければ首を刺しても案外死ななかったりするのよ」

「そ、そうなんですか?」

「うん。なのに、寝ていて無防備でどこを狙うことも出来るのになぜ首を狙ったのか。それこそ、頸動脈を狙うならナイフとかの方が幅が広くて適切なのに」

「何だか色々腑に落ちない点が散見されますね」

「でしょ? 何だかその辺りに隠された意図を感じるのよね、シンプルな犯行に見えて案外解きづらいかもしれない」


 実際、これといった痕跡も警察は見つけることが出来なかったわけだし、現状では犯人の思うツボなのかもしれない、のり子は歯がゆい思いだった。


「あとは動機だね。現状、亜璃栖ちゃん以外にそこが明確になっていないから、亜璃栖ちゃんが疑われている面もあるし」

「あの大学生5人組に迷惑をかけられているという意味では、瑠璃香さんも絵璃奈さんも同じですよね」

「璃人さんも立場上、同じ動機を抱いても不思議じゃない。瑠璃香さん以外はアリバイもないしね」

「はぁ……私としては、その4人のうちの誰が犯人でも悲しいんですけど」

「それは私も同じだよ……だからこそ、残る大学生4人のことについて知りたいの」


 現状、大学生グループについて情報がなさすぎる。5人仲良しというわけではなく、悠都さんと死んだ組美さんの2人のわがままに他の3人が渋々付き合っているような感じだったし、何か隠された動機が見つかれば亜璃栖ちゃんが疑われている現状を打破できるかもしれない……決して亜璃栖を容疑者リストから外すことなく、のり子は考えた。


「ですけど、どう切り出します? そもそも刑事さんにも疎まれているような感じでしたし、話聞いてくれますかね」

「そこなのよねえ……改めて今井刑事のありがたみを感じるなあ」


 のり子は間違いなく名探偵だが、世間的に見れば一介の女子高生でしかない。いつもはのり子の力を理解してくれている今井刑事がいるから捜査を円滑に進められるのであり、いないとこうも停滞するんだなあとのり子は感じた。あの高根沢刑事が、奈良県警の五條刑事のように物分かりのいい刑事であればいいんだが……


「のり子先輩、昨日行った川に行きませんか? 煮詰まっていますし、気分転換に」

「……そうだね」


 事件の捜査のために今日はずっと屋敷内にいたが、やはり気分転換も必要だろう。のり子といりすは川に行くために、管理人である璃人に報告しに行った。


「昨日行った川に、ですか?」

「はい、ちょっと気分転換に」

「……のり子様といりす様の希望は叶えたいですが、2人きりとなると許可は出来ません」

「どういうことですか?」

「……1年前に、あの川で死亡事故があったんです。あの川は急に深くなる場所がありまして、不幸にもそこにはまって流されてしまい、溺死してしまったのです。そのことがあってから、あの川に詳しい人が同行することがあそこに行く条件になりまして」


 そういえば、そんな場所があるって絵璃奈さんが言っていたな。だから注意喚起をしてくれたのか……のり子は心の中で絵璃奈に感謝し、気になることを聞いた。


「その溺死した人の名前、教えていただけませんか?」

「……佐間奈津(さま なつ)様です。今いらしております、絵璃奈お嬢様の大学の知り合いの方々の仲間でした」

「のり子先輩、これってもしかして!?」


 さすがにこれは偶然とは思えない。この事故と今回の事件に何かしらの関わりがある、そう考えるのが自然だろうとのり子は確信した。


***


 のり子としてはすぐに1年前の事故について残る大学生4人に聞きたかったが、外出していたので夕食後にすることにした。のり子といりすはまず臨の部屋を尋ね、彼女は快く中に通してくれた。


「それで、聞きたい事って」

「……無神経なことだというのは分かっていますけど、教えてほしいんです。佐間奈津さんのことを」

「ど、どうしてそのことを!?」

「のり子先輩は実は探偵なんです。警察に協力して、数々の事件を解決しておりまして。波後学園の生徒が次々と殺害された大規模連続殺人事件、知っていますよね?」

「ええ、ニュースでも結構報道されたし。まさかその事件を解決したのが……」

「はい、私です。にわかには信じられないかもしれないですが。」


 そう言い、のり子は臨に波後学園の生徒手帳を見せた。あの事件があまりに大規模だったこともありメディアが大々的に報道したので、この事件を解決したということが皮肉にも最近はのり子が敏腕探偵だということを人に信じさせる有効な手段となっている。


「……分かったわ、話す。私も組美さんが殺されたことと関係あるかもしれないって思うし」

「ありがとうございます。どういう方だったんですか、奈津さんは」

「その名の通り、爽やかな夏のような子だったわ。私は高校時代から同級生で仲が良かったんだけど、男女問わず人気があったわね。可愛くて優しくて素直で……そう、例えるならあなたのような子ね、いりすさん」

「わ、私ですか!?」

「ええ、そうよ」


 なるほど、その例えでどれだけ魅力的な子だったのかというのはのり子は容易に想像できた。いりすちゃんみたいな子なら、そりゃモテないわけがない。


「でも、一年前にここにバカンスに来た時に水難事故で亡くなったの……あの時は私も本当に悲しかった。私が一緒に川に行ってあげていればって、何度も思ったわ」

「奈津さんは一人で川に行ったんですか?」

「ううん、悠都君と組美さんが付いて行ったの。2人が言うには、目を離した隙にいなくなって、見つけた時には既に遠くに流されていて手遅れだったって」


 のり子の質問に、臨は悲しそうな顔で答えた。臨と奈津は仲が良かったのだから、当然だろう。しかし、同行したうちの一人が殺された組美さんか……これは何かありそうだ。


「分かりました、話してくださってありがとうございました」

「どういたしまして」

「……最後に一つだけ良いですか?」

「はい、何でしょう?」

「仮にですけど……奈津さんの死が事故じゃなかったとしたら、どう思います?」

「……許せないですね、絶対に」


 気さくで明るい印象のある彼女の表情が、一転して憎しみに満ちたものに変わった。のり子は何も喋らず、会釈をして彼女の部屋を出た。


「のり子先輩、事故じゃないって、もしかして……」

「……多分、いりすちゃんが想像している通りだよ」

「じゃあ、まさか臨さんが?」

「まだその判断は早いよ」


 勇み足気味のいりすを制止し、のり子は愛央の部屋に向かった。彼女も、快く部屋の中に入れてくれた。


「何でしょう、話というのは」

「先程臨さんからも聞きましたが……佐間奈津さんのことです」

「ど、どうしてそのことを!?」


 いりすが先程と同じくのり子が探偵であることと、先日の大規模連続殺人を解決したことを説明した。愛央は少し戸惑ったが、ゆっくり話し始めた。


「事故の内容のことは、臨さんから聞いていますか?」

「はい、大枠は。愛央さんにお聞きしたいのは、あなたと奈津さんの関係です」

「……奈津さんとは家が近所だったんです。私は奈津さんより一歳年下なんですが、小さい頃から素敵な方で私にとっては憧れで。高校は別になってしまいましたけど大学は頑張って一緒のところに合格できまして」

「愛央さん……」

「去年の旅行も凄く楽しみだったんです、奈津さんと一緒に行けるって。それなのに、あんなことになってしまって……何度も、何度も泣きました」


 いりすが悲しそうな声で愛央の名を呼んだ。臨さんにとっても愛央さんにとっても、奈津さんはとても大切な人だったということか……そしてこの2人はアリバイがない。のり子は2人に疑惑の目を向けざるを得なかった。


「臨さんと愛央さんにそれだけ大切に思われていたなんて、奈津さんは本当に魅力的な人だったんですね」

「私と臨さんだけじゃありません、彰羅さんも魅力的な子だって言っていましたし……絵璃奈さんも」

「絵璃奈さんも、ですか?」


 いりすが目を丸くして、意外なことを聞いたという感じの反応を示した。愛央は予想通りという感じの表情を浮かべ、続けた。


「絵璃奈さんも私達のグループ全員を嫌っていたわけじゃないんです。奈津さんとはむしろ気が合う感じで、仲は結構良いように見えました」

「分かるような気がします。彰羅さんとは普通に話していましたし、臨さんと愛央さんのことも認めているような感じでしたから」


 愛央はのり子の言葉にホッとしていた。絵璃奈が改めて自分のことを悪く思っていないことが分かったからだろう。しかし、こうなると……その可能性も考えないといけないかとのり子は思った。


「分かりました、話してくださってありがとうございました」

「いえ、お気になさらずに」

「……最後に一つだけ良いですか?」

「はい、何でしょうか?」

「仮にですが……奈津さんの死が事故じゃなかったとしたら、どう思います?」

「……憎いですね、殺したいくらいに」


 おしとやかな印象のある彼女の表情が、一転して憎悪に満ちたものに変わった。のり子はやはり何も喋らず、会釈をして彼女の部屋を出た。


「のり子先輩、臨さんだけじゃなく愛央さんも……」

「うん、それに彰羅さんと絵璃奈さんもね。あと……亜璃栖ちゃんも」

「え……どうして亜璃栖ちゃんも? 関係ないじゃないですか」

「お姉ちゃんの敵は私の敵、が亜璃栖ちゃんだよ。絵璃奈さんと仲が良かった奈津さんがもし殺されていたのであれば……あり得ないことじゃない」

「そ、そんな……」


 いりすの悲しい声に心を痛めつつも、次に話を聞く予定である彰羅の部屋に行く途中でのり子のスマホから着信音が鳴り響いた。電話の主は……亜璃栖ちゃん? のり子は通話ボタンを押し、電話に出た。


「もしもし、亜璃栖ちゃん?」

「ひっく……のり子さん、お願いです、早く来てください」


 電話越しの亜璃栖の声は悲しみに満ちており、涙を流しているのが明らかだった。これは……ただ事じゃないとのり子は察した。


「亜璃栖ちゃん、何があったの!! 亜璃栖ちゃん!!」

「瑠璃香お姉ちゃんが……瑠璃香お姉ちゃんが……頭から血を流して倒れているんです。お願いですのり子さん、助けて……」


 その瞬間、のり子の全身の血の気が一気に引いた。

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