青空別荘殺人事件②(美人三姉妹)
何時間か車に揺られ、のり子達は那須高原にある亜璃栖の別荘にに着いた。車の中では亜璃栖ちゃんと色々な話が出来て楽しかったし、さすがは【いかにも高級そうな車】だけあって色々と快適だった。何というか、高級ホテルが移動しているような未知の感覚だったなとのり子は思った。
「長旅お疲れさまでした、ここが那須高原です」
「へえ……確かに夏なのに涼しい」
「標高が高いので、夏でも日中は25℃前後、夜は15℃前後くらいですごしやすいですよ」
「本当だね、空気が美味しくて風が気持ちいい」
いりすは麦わら帽子に片手を添え、軽く深呼吸して満足そうな笑顔を浮かべている。のり子としてもこの天然のクーラーと言えそうな涼しさは満足である、まさに避暑地と言った感じだ。そして、亜璃栖は続けて目の前にある豪邸の説明をしてくれた。
「そして、ここがうちの別荘です。お姉ちゃん達が先に着いてるので、まず軽くお話でも出来たらと思います」
「こ、ここが亜璃栖ちゃんの別荘。何というか……でかい、でかすぎる」
「そうですか?」
「うん……私の家何個分だろ」
何というか、改めて亜璃栖ちゃんはお嬢様なんだなあとのり子は実感した。亜璃栖のお姉さん達をあまり待たせても申し訳ないので、のり子といりすは早速別荘にお世話になることにした。管理人の璃人が2人の荷物をひょいと持ち上げ、先導してくれる。
「あの璃人さん、荷物くらい自分で持ちますけど」
「とんでもございません河澄様、お客様に荷物を持たせるなど」
「のり子さん、お気遣いはありがたいですけど、ここは璃人さんに任せてくださるとありがたいです。こだわりといいますか、誇りみたいなものですので」
「は、はあ……」
「あの、せめて私の分は私が持ちます、さすがに2人分は」
「問題ございません朝福様、このくらい何も感じません」
2泊3日なので、のり子もいりすもそれなりに荷物を持ってきたのだが……それを涼しい顔で持ち上げてスタスタ歩いてる璃人のパワーに、のり子もいりすも目を丸くしていた。
「分かりました、それではお任せします。それと、私のことはのり子で良いですよ、どうも名字呼びだと違和感が」
「私もいりすで良いです、堅苦しいのは苦手ですし」
「むう……しかし」
「璃人さん、お二人が望んでいることですから」
「……かしこまりました。それでは、のり子様にいりす様、お言葉に甘えさせていただきます」
「様呼びもしなくていいんだけどなあ……」
のり子は頭を抱えたが、まあこの辺りが落としどころだろう。礼儀正しくて気遣いもしっかりしている、良い管理人だとのり子は感じたのだった。
***
別荘の中に入ると、のり子といりすは再び目を丸くした。家というか、もはやホテルと言った感じだ。客室だけで一体何部屋あるのだろうとのり子が思っていると、二階から二人の女性が階段を下りてやってきた。
「亜璃栖、そちらがのり子さんといりすさん?」
「そうだよ、絵璃奈お姉ちゃん」
「初めまして、牧野絵璃奈です。亜璃栖を助けてくださり、ありがとうございました」
「いえ、私は少し助言をしただけでして。お礼はこちらのいりすちゃんにお願いします」
「いやいや、私こそこちらののり子先輩が言ったことを伝えただけですから!!」
「ふふ、謙虚な方ですね、2人とも」
見たところ大学生くらいだろうか、確かに亜璃栖ちゃんに似ている。華やかで、亜璃栖ちゃんに負けないくらいの美人だ、性格も気さくで話しやすそうな印象をのり子は受けた。
「初めまして、牧野瑠璃香です。亜璃栖が色々お世話になったみたいで、ありがとうございました。結果として、私と絵璃奈のせいで亜璃栖が皆さんにご迷惑をかける形になってしまいまして……本当に申し訳ございませんでした」
「お気になさらないでください。未遂に終わったわけですし、店側も許してくださって解決したわけですから」
「お気遣いありがとうございます。亜璃栖はまだ幼いので、感情に流されてしまうところがありまして……ですが、姉想いの優しい子なんです」
「はい、それは現場にいた私がよく分かっていますので」
いりすが優しい笑顔で瑠璃香に告げた。絵璃奈さんより年上っぽい感じだ、社会人だろうか。やはり亜璃栖ちゃんに負けないくらいの美人だ、しっかりしていて包容力もあるような印象をのり子は受けた。
「瑠璃香お姉ちゃんも絵璃奈お姉ちゃんも悪くないよ、全部私のせいで」
「亜璃栖ちゃん、さっきも言ったけどもうその話は解決してるんだから、これ以上自分を責めないの」
「は、はい……ありがとうございます、のり子さん」
「亜璃栖から聞いていた通り、お優しい方ですね2人とも。これも何かのご縁です、存分に楽しんでいってくださいね」
「あ、ありがとうございます」
絵璃奈が上品な笑顔で歓迎してくれた。絵璃奈さんも瑠璃香さんも温かく、性格の良さを感じさせる。亜璃栖ちゃんがあれだけ純粋で真っすぐに育ったのも、絵璃奈さんと瑠璃香さんの優しさのおかげでもあるのだろう、のり子は納得した。
「うふふ、それにしてもお二人とも可愛らしいですね。性格も良いですし、さぞかしおモテになるのではないですか?」
「いやいや、瑠璃香さんみたいな凄い美人さんに言われると逆に自信が……」
「何言ってるんですかのり子先輩、先日読者モデルにスカウトされた身で。自信が持てないのは私であって」
「あら、いりすさんものり子さんに負けないくらい可愛らしいと思いますけど?」
「絵璃奈お姉ちゃんの言う通りですよ、のり子さんもいりすさんも美人さんです」
「うう……そんなことは」
いりすが恥ずかしそうに俯いた。3人揃って褒めてくれるが、正直この3人を前にすると自信が持てないのは勘弁してほしい。美人三姉妹、まさにこの言葉がぴったりだ。亜璃栖ちゃんがジュニアアイドルだとすると、絵璃奈さんはアイドルで、瑠璃香さんはモデルと言った感じか。【スエジリ】の編集長が3人まとめてスカウトしそうなレベルだとのり子は思った。
「それじゃ、挨拶はこのくらいにしまして、別荘の中を案内しましょうか。璃人さん、お願いできますか?」
「申し訳ございません、瑠璃香お嬢様。そろそろ本日のもう一組のお客様がいらっしゃる頃合いですので、そちらの準備がありまして」
「ああ……そういえば」
「私達以外に、今日来る人達がいるんですか?」
「ええ、私の大学の知り合いなんですけど、ちょっとね……」
そう言った絵璃奈の顔が少し曇った気がした、瑠璃香も同様だ。のり子がそう感じていると、インターホンが鳴ったので璃人が玄関に向かった。扉が開かれると、大学生くらいの男女5人組が入ってきた。
「璃人さん、今年もお世話になります」
「ようこそいらっしゃいました、島松様」
「絵璃奈さん、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、組美さん。悠都さんも」
悠都さんに組美さんと言われた男女2人が、璃人と絵璃奈に挨拶した。おそらく先程絵璃奈さんが言っていた大学の知り合いだろうが、絵璃奈さんの対応がどこか社交辞令的な感じであまり親しい印象をのり子は受けなかった。
「瑠璃香さんもよろしくお願いします。お父様とお母様は?」
「父と母は海外出張中です、彰羅さん」
「そうですか、それは残念だ」
彰羅さんと言われた男性が、瑠璃香に挨拶した。絵璃奈さん同様、瑠璃香さんの対応もどこか社交辞令的だ。やはり親しい仲ではないのだろう、のり子はそう思った。
「亜璃栖ちゃんもよろしく」
「今年もお世話になりますね」
「はい、よろしくお願いします、臨さんに愛央さん」
臨さんに愛央さんと言われた女性2人が、亜璃栖に挨拶した。亜璃栖ちゃんの明るく無邪気なところは鳴りを潜め、どこか警戒しながら話しているような感じにのり子は見えた。
「そちらの方々は?」
「亜璃栖お嬢様のご友人でございます」
「なるほど。私達、絵璃奈さんの大学の友人なの、よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「璃人さん、早速で申し訳ないんだけど部屋に案内してくれないかな」
「かしこまりました。荷物はお預かりいたします」
のり子は悠都と組美に挨拶し、彼ら5人組の荷物を持って客室に向かった璃人を見送った。彼らが去り、ため息をついた牧野三姉妹に、のり子は気になったことを聞いた。
「絵璃奈さん、あの5人とどういう関係なんですか? 大学の知り合いにしては、どこか他人行儀でしたけど」
「うーん……友人、ではないですね、少なくとも私からすれば。彼ら5人みんな父の会社と親交がある企業のご子息やご息女なんですよ。ですから何と言いますか……父の娘である私や瑠璃香姉さんや亜璃栖のご機嫌取りをしてるんでしょうね」
「ああ、なるほど……」
「絵璃奈が通っている大学は私が以前通っていた大学ですから、おそらく絵璃奈もそこに通うだろうと予想して5人とも入学したんじゃないかと思うんです。ごめんなさい絵璃奈、私が他の大学を勧めていれば」
「ううん、瑠璃香姉さんは何も悪くないよ。というわけなので、父の会社の取引のこともあって、こちらとしてもあまり邪険に扱うこともできないんです。迷惑行為をするわけでもないですし」
確かに難しい問題だ。要は空気を読めていないだけであって、奈良旅館の時のクレーマー連中とはまるで違う。こういう大人の世界の黒い部分にこの歳から関わらないといけないのを見ると、お金持ちというのも楽ではないのかもしれないとのり子は思った。
「あの人達、嫌い。瑠璃香お姉ちゃんと絵璃奈お姉ちゃんを困らせて」
「私達は大丈夫よ亜璃栖、気持ちだけで嬉しいから」
「ちなみに、あの5人の名前は何ていうんですか?」
「のり子さんに挨拶していたのが、島松悠都さんと根下組美さん。瑠璃香姉さんに挨拶していたのが成本彰羅さん、亜璃栖に挨拶していたのが鹿沼臨さんと湯浅愛央さんです」
「本当は日程をずらそうと思ったんですけど、向こうの予約は前から決まっていましたし、来週になると本格的に夏休みになるので、のり子さんといりすさんにもご予定があるんじゃないかと思いまして。すいません」
「謝らないでください、瑠璃香さん。全然気にしていませんから」
「のり子先輩の言う通りです、全然気にしていませんよ」
実際、瑠璃香さんが謝る理由は何もない。むしろ瑠璃香さんが困っている立場なのに、こうして誠意を込めて謝ってくれるのだから、本当に良い人だとのり子は思った。
「ありがとうございます、のり子さん、いりすさん」
「それでは、気を取り直して外に遊びに行きましょう。客室は璃人さんに代わって、私達が案内しますから」
「さあ、のり子さんにいりすさん、こっちです!!」
少し邪魔が入ったが、瑠璃香さんと絵璃奈さんと亜璃栖ちゃんの笑顔を見たら気にならなくなったような気がする。精一杯旅行を楽しもう、のり子は弾むような足取りでそう思った。




