のり子達の日常:素朴な魅力
ある日、萌希はすみれを尾行していた。彼女の視線は、すみれのある一部分に集中していた。嫉妬に満ちた表情で思った……やっぱり大きいなと。
「むむむ……どうして同い年でここまで胸の大きさに差があるんだろう」
萌希はのり子と親しい面子の中でも胸が小さい方だ。本人がそれを結構気にしているのに加えて季節は夏、薄着になるのでよりそれが目立つ。なので、胸を大きくする方法を探すために、こうして仲間内でも一番胸が大きいすみれの秘密を探っているのである。
「あれだけ大きくて、しかも美人で頭も性格も良いんだもんなあ……天って二物を与えるよね」
萌希は胸の小ささに加えて、自分が地味なことを気にしている。実際は彼女は世間一般的に見れば可愛い部類であり、共学の学校であれば結構モテるだろうと仲間内では言われている。頭も性格もよく、それこそ【天に二物を与えられた】子なのだが……
「うーん、見たところ変わったところは見当たらないなあ。あれ、あっちから来るのは……織絵ちゃん?」
すみれの進行方向の反対側から、彼女の妹の織絵がやってきた。すみれに負けないほどの美少女であり、人を惹きつける天性のスター性を持つ華やかな子、萌希からすれば自分とは全くの正反対な子である。学園内でこの姉妹を知らない人はいないだろう。
「織絵、これから食堂でも行くの?」
「うん、せっかくだし一緒に行く?」
「そうね」
「それにしても……やっぱりお姉ちゃんって胸大きいよね」
「な、何よ改まって」
「いや、制服が夏服になったから余計目立つっていうか。私も大きくなってはいるんだけど、まだまだ差は大きいなって」
すみれには勝てないにせよ、織絵も1学年下にしては大きい方だ。それなのに更に大きくなっているという現実を前に、萌希は世の中不公平だと頭を抱えた。
「むむむ……」
「ちょ、触らないでよ織絵!!」
「何か大きくなる秘密はないかなと」
「ないわよ、そんなの!!」
な、何だか織絵ちゃんがすみれちゃんの胸を触っているけど……待てよ、そういえば揉むと大きくなるとか聞いたことがあるような。萌希は閃いたという感じの表情を浮かべた。
「もしかして……姉妹で度々ああいうことをしているから2人とも大きいんじゃ!?」
実際はそんな桃色なことはすみれも織絵もしていないのだが、萌希は早速実行に移そうと思ってしまった。普段冷静で聡明な萌希も、乙女心には勝てないのである。
「といっても、他の人に揉んでもらわないと意味ないって言うし、誰に頼んだら……あ、いりすちゃん!!」
萌希が振り向くと、廊下の向こう側からいりすが歩いてきた。そういえば彼女も小さい方だったか、萌希は適任者を見つけたと確信した。
「こんにちは、萌希先輩。どうしたんですか、そんなに目を輝かせて」
「いりすちゃん……頼みがあるんだけど」
「はい、何でしょう?」
「私の胸……揉んでくれない?」
「……はいい!!??」
その後、必死に頼んでくる萌希をいりすは困惑しながら落ち着かせたのだった。
***
「はぁ……何だかいりすちゃんに心配されちゃったな」
萌希は肩を落としながら歩いていた。『暑さにやられたんですか!?』といりすちゃんに心配されるほど暴走した自分が恥ずかしい……
「どうしたの萌希、何だか落ち込んでいるみたいだけど」
「あ、詩乃ちゃん。今日もお弁当?」
「そうよ、今日は調理部の友達と食べようと思って」
調理室の近くで萌希は詩乃に会った。詩乃ものり子と親しい面子の中では胸が大きい方だ。そして綺麗な黒髪を持つ大和撫子な美人、同じく黒髪な萌希にとって憧れの一人だ。
「お弁当……料理……もしかして!?」
「な、何よ萌希、そんな興奮して」
「ねえ詩乃ちゃん、胸が大きくなるメニューとかない?」
「……ええ!!??」
詩乃は仲間内でも一番の料理上手だ。もしかしたら胸が大きくなる秘密のメニューを知っているかもしれない……そんな思いに夢中の萌希には、困惑している詩乃の姿は目に入らなかった。
「牛乳はもちろん毎日飲んでるよ、それ以外に何かない!?」
「お、落ち着いて萌希。確かにイソフラボンが含まれている大豆食品とか、ミネラルの一種のボロンが含まれているキャベツやナッツ類、たんぱく質が豊富なサラダチキンとかは手軽に手に入る食品の中で胸を大きくするのに効果的って言われるけど」
「おお!!」
「でもね、何でも食べすぎは良くないし、急に胸が大きくなるような効果はないから」
「そ、そうなんだ……」
***
詩乃から残酷な現実を告げられ、萌希はとぼとぼと廊下を歩いていた。やっぱり持って生まれたモノですべて決まってしまうのかなあ……望みをすべて断たれたような気分のところに、向こうから知った顔が歩いて来るのを萌希は見つけた。
「のり子ちゃん……」
「ど、どうしたのよ萌希、そんな世界の終わりみたいな顔して」
「実は……」
萌希は事の顛末をすべてのり子に話した。のり子は頭を抱え、ため息をついて萌希に語りかけた。
「あのね萌希、前も言ったけど萌希は自分を過小評価しすぎなの」
「だから、それはのり子ちゃんが【ある】側だから言えることなの!!」
「……ねえ萌希、先日私とすみれが【スエジリ】の殺人事件に巻き込まれたって言ったよね」
「う、うん」
有名雑誌【スエジリ】の専属モデル2人が殺された事件、犯人はスタイリストの女性で動機は大切な妹を殺されたことの復讐……とても悲しい事件だったと萌希はのり子から聞き、心を痛めた。
「きっかけは私とすみれが読者モデルにスカウトされたことだったんだけど……すみれはともかく、私は最初自分は場違いだと思ったの」
「えー、のり子ちゃんは十分美人じゃない。なのにどうして」
「萌希はそう言ってくれるけど、私は普段推理のことばっかりで女子力に自信がなかったの。それは、私が十分魅力的って言ってるのに納得しない萌希と同じでしょ?」
「そ、そうかもしれないけど」
萌希からすれば、類まれなる推理力で事件を解決している敏腕探偵であり、読者モデルにスカウトされるほどの美人であるのり子は才色兼備の憧れの一人である。そんなのり子が自分に自信を持てない、理解し難いことだ。
「でもスタイリストの人は演技とかじゃなく本気で私の素朴な可愛さを認めてくれて、素敵な服を色々着せてくれた。私はそれが嬉しくて……まだ確固とした自信は持てないけど、前よりは自分の女の子としての魅力に自信を持てるようになったの」
「のり子ちゃん……」
「だからさ、自分に自信が持てなくても認めてくれる人のことは信じていいんじゃないかな。そうやって改めて自分に向き合えば、今まで見えてこなかったことも見えるようになるかもしれないよ」
……本当に、どうしてこの人は人の心をこうも優しく救ってくれるのだろうか。どこまでも純粋な心で飾らず同じ目線で本気で想ってくれる、これだけ素晴らしい人を友達に持つことが出来ている自分を萌希は誇りに思った。
「分かった。まだ自信は持てないけど、のり子ちゃんを信じるよ」
「ありがと。そういえばさ、萌希の髪おろしたところって見たことないんだけど」
「そう?」
「奈良の時も、お風呂では髪結い上げてたでしょ。すぐに三つ編みに戻しちゃったし」
「まあ、昔からずっと三つ編みだし、同じ黒髪ストレートじゃ詩乃ちゃんに見劣りしちゃうしね。分かった、見せてあげる」
萌希はそう言い、三つ編みをほどいた。それを見たのり子は目を丸くし、ため息をついて呟いた。
「はぁ……萌希、やっぱりもっと自分に自信持つべきだよ」
「だから、それは少しずつ努力していくってさっき言ったじゃない」
「……詩乃に見劣りなんて全然してないんだけどなあ」
「え、何のり子ちゃん、聞こえなかったんだけど」
「何でもない。とりあえず街中では三つ編みの方が良いかも、ナンパが絶えなそうだし」
「えー、私がナンパされるなんてないよ」
まだまだ自分に自信を持つことは出来ないけど、少しずつ頑張っていこう。大切な人達の気持ちを……無駄にしないためにも。萌希は笑顔でそう決心したのだった。
~のり子達の日常:素朴な魅力 完~
読んでくださりありがとうございました。今回はコメディー路線でしたが、いかがでしたでしょうか。
これに加え、『鮮血の花嫁殺人事件』の登場人物の名前の秘密について今回は語っていきます。
①春好雪奈、横石冬夢
両者の頭文字と語尾を合わせると、『花嫁』。どちらも真ん中に『し=死』が付きます。要は作中で殺される『死の花嫁』という意味ですね。
②六川潤、白崎三空、小雨愛衣、占部健土、日比安伸
5人の語尾を合わせると、『ジューンブライド』になります。
③上渡真白
『真っ白なウエディングドレス=純白のウエディングドレス』となります。ちなみに、雪奈・冬夢・三空とモデル経験者はそれぞれ『雪』『冬』『白』と純白をイメージするワードが入っています。
みなさん、どのくらいお分かりになりましたか?




