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のり子達の日常:太陽はあなたの傍で

「それじゃ、お世話になりました」

「お大事に、絵波さん」


 織絵は病院を出て、自宅に向かっていた。長く怪我の治療で入院していたが、今日は退院の日なのだ。外の空気と景色が新鮮だ、もちろん病院生活で建物の外に出ることもあったが、あくまで病院の敷地内の話である。同じ屋外であっても、雰囲気というか空気というか、そういうのが違うのだ。やはり外は解放的であってほしい。


「家にもずっと帰ってないなあ。といっても、お姉ちゃんは毎日来てたから寂しくはなかったけど」


 織絵の頭の中に過保護な姉の姿が思い浮かんだ。本人は否定しているが、世間一般的に見ても姉のすみれはかなり過保護である。病院の看護師も最初は『妹想いの優しいお姉さんねえ』と言っていたが、段々と『もしかして、シスコン?』と織絵に呟くようになっていた。


 織絵も度々呆れてしまうのだが、織絵自身そんなすみれのことが大好きなだけに強く言えないところがある。それに、数か月前に織絵が巻き込まれたあの恐ろしい大規模連続殺人事件のことを思うと、すみれがそういう気持ちを抱くのも無理はない……


「……あれからもう、こんなに時が経ったんだなあ」


 織絵が通っている学園の生徒が次々と殺された大規模連続殺人事件で、織絵は第7のターゲットとして犯人に命を狙われた。幸い、すみれとのり子のおかげで一命をとりとめたが、あの時のことは今でも織絵にとってトラウマになっている。


 あの日、織絵はすみれと一緒に下校するためにすみれの教室に向かっていたところ、翌日に抜き打ちテストがあると聞き、自分の教室に教科書を取りに行った。後日、のり子に聞いたところそれ自体が罠だったらしいのだが……


「榎音三咲さん、か……」


 榎音三咲、教室で織絵を殺害しようとした張本人である。すみれとのり子の1年生の時のクラスメイトであり、その繋がりで織絵のことを知っていたらしい。織絵自身は話したことはないが、顔は知っていた。温和な雰囲気で、実際園芸部に所属していたらしい。


―――


 そんな三咲が突然教室に現れ、人が変わったかのように猟奇的な笑みを浮かべて殺そうとしてきたので、織絵はただただ恐怖に怯えるしかなかった。頭の中は真っ白になり、体はガクガク震え思うように動かない。命乞いをしながら後ずさる、織絵はそれしか出来なかった。


「や、やめてください……殺さないで」

「ふふふ、良いわねその怯えた顔。可愛くて……そそるわ」

「ひっ!!」

「最愛の妹を殺されて、すみれがどんな顔するか楽しみね」

「い、いや……」

「それじゃ、さよなら……織絵ちゃん♪」

「うっ!!」


 三咲に刺され、強い痛みと絶望を感じて織絵はその場に力なく倒れた。


 私、死んじゃうのかな……意識が朦朧とする中、織絵は涙を流し、すみれの顔を思い浮かべながらそう思った。


「お姉ちゃん……助けて」


 それが、織絵が意識を失う前に口にした最後の言葉だった……


 その後、織絵が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。すみれのこれ以上ない程悲しそうな声が聞こえる……織絵は目を覚まし、すみれの名前を呼んだ。すると、すみれはこれ以上ない程嬉しそうな顔を見せ、これ以上ない程嬉しそうな声をあげた。生きている……大好きな姉と会える……織絵の心の中も喜びに溢れていた。


―――


「本当に……お姉ちゃんとのり子さんには感謝しかないな」


 お姉ちゃんの話では、のり子さんが今までの犠牲者の名前の繋がりから犯人が三咲さんであり、次のターゲットが私だと見抜き、私の教室に大至急向かうようお姉ちゃんに指示してくれたらしい。もしのり子さんがいなかったら……私は死んでいただろう、織絵はのり子にどれだけ感謝しても足りないと改めて思った。


 元々織絵は鋭く頼りになるのり子のことを尊敬し慕っていたが、今回の件で更にその思いは強くなった。恩は一生をかけて返していきたいと思っている。


「でも……のり子さんも辛いだろうなあ……さくらさんのこと」


 織絵を殺そうとしたのは三咲だが、その三咲を操っていた大規模連続殺人事件の黒幕は、命の恩人であるのり子の親友の星嶋さくらだった。のり子のことを慕っている織絵は当然さくらのことも知っており、温和で優しい人と思っていただけに、ショックは大きかった。


 親友が事件の黒幕……あまりに辛すぎる現実だ、私なら耐えられるか自信がない。私で言えば、いりすが事件の黒幕だと言っているようなものだ。だけど、のり子さんは逃げずに立ち向かい、事件の真相を暴いた……本当に立派な人だ。一方で、いつか壊れてしまうのではないかと織絵は心配だった。


「そんなこと……絶対にさせない!!」


 織絵は先日、すみれが話してくれた【スエジリ】での殺人事件のことを思いだした。お姉ちゃんとのり子さんが読者モデルにスカウトされて、見学に行ったスタジオで殺人事件が起きたらしい。犯人の動機は、大切な妹を殺されたことへの復讐……


 どこか私とお姉ちゃんに被るようなところがある、お姉ちゃんも同じ意見だったらしい。その子は死んでしまったが、私は幸いにも生きている。ならば……出来ることがある。織絵は自分の胸に手を当て、呟いた。


「私に人を明るくさせる力があるんだとしたら……支えたい」


 のり子さんはもちろんのこと、周囲の人はこぞって私のことをムードメーカーだと言ってくれる。人に明るさと元気を与えてくれる、と。私に出来ることがあるとしたら、それしかない。織絵はのり子のことを思い浮かべた。


「のり子さんの心が折れそうな時に、支えることが出来たら……」


 【スエジリ】での殺人事件も、裏で糸を引いていたのはさくらさんらしい。のり子さんも人には見せないが、心の傷を負っただろう。私と話すことでそれを少しでも癒すことが出来るのなら……喜んで力になりたい、織絵は心の底からそう思った。


「明日、学園に行ったら……のり子さんに会いに行こう!!」


 そう決心し、織絵は自宅へ急いだ。明日はそうするとして、まずは帰りを待ちわびている過保護な姉に会わなくては。自宅に着き、インターホンを押した。


「お帰り、織絵!!!!」


 すみれが満面の笑みで織絵を出迎えた。いつも支えてくれる大好きな姉、そして命の恩人でありどんな困難にも立ち向かう尊敬すべき人。織絵はこの人達のためにずっと傍で笑っていたいと心の底から思い、太陽のような笑顔を浮かべたのだった。


          ~のり子達の日常:太陽はあなたの傍で 完~

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