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鮮血の花嫁殺人事件⑤(第2の殺人とドレス)

「えー、犠牲者は横石冬夢さん、昨日殺された春好雪奈さんと同じ【スエジリ】の専属モデルです。死因は窒息死、口元にあったウエディンググローブが凶器ですね」

「ウエディンググローブが凶器、ですか?」

「はい、犠牲者の唾液が付いていたので間違いないでしょう。少々濡らし、犠牲者の鼻と口をそれで塞いで窒息死させたものと思われます」

「ひ、酷い……」


 今井刑事の説明に、愛衣が顔を青くして驚いている。幸せの象徴であるウエディングドレスを彩るウエディンググローブが命を奪ったのだから、気持ちはわかる。しかも、冬夢さんの死体はウエディングベールも着けていたのだ、のり子はそのアンマッチさに頭を抱えた。


「死亡推定時刻は昨晩0:00~1:00の間、手に縄の跡が残っていたので犯人は冬夢さんを縄で縛って動けなくし、殺害したと考えられます」

「0:00~1:00の間か……となると基本アリバイがある人はいないだろうね、基本個室だし」


 編集長の言う通り、その後行われたアリバイ検証では相部屋だったのり子とすみれ以外の人は全員アリバイがなかった。


「ところで三空さん、第一発見者はあなたの様ですが、その時の状況を教えていただけますか?」

「は、はい。朝食が出来たので冬夢さんを呼びに行ったんですが、ノックしても返事がなかったんです。まだ寝てるのかと思ったんですが、ドアノブに手をかけたら鍵がかかっていなくて。部屋に入ったら、冬夢ちゃんが倒れてて……息していなくて」

「なるほど、鍵がかかっていなかったのならアリバイもありませんし、のり子さんとすみれさん以外の全員に犯行は可能ですな」

「しかし刑事さん、犯人はどうやって冬夢ちゃんの部屋に入ったんだ? 昨日殺人事件が起こったんだから、さすがに冬夢ちゃんも部屋の鍵はかけただろうし、誰かが訪ねてきても簡単には開けないだろ」

「……実際冬夢ちゃん、昨日編集長や三空ちゃん、健土、僕のこと疑ってた」


 確かに健土さんと安伸さんの言う通り、冬夢さんがそう簡単に部屋の鍵を開けるとは思えない。ただ、もし冬夢さん自身が雪奈さんが殺された動機に気付いていたとしたら……やりようはある、のり子は今井刑事にそれを伝えた。


「刑事さん、おそらくですが……犯人はドアの隙間からメモみたいのを入れたんだと思います」

「メモだと、それでどうやって鍵を開けたんだ?」

「脅迫ですよ。冬夢さんにとってバレたらまずいようなことを書いて、バラされたくなければこの場所に来い、みたいなことを書いておけば冬夢さんは部屋のドアを開けてそこに向かうでしょうからね」

「な、なるほど。それで、出てきた冬夢さんをクロロホルム辺りで眠らせて、部屋に運び込んで殺害すればいいというわけか」


 さすがに『今井刑事』と言うわけにはいかないので、呼び方を変えた。何とももどかしいというか、やりにくいというか……のり子は頭を抱えた。


「凄いなのり子ちゃん、まるで探偵みたいだよ!!」

「あ、あはは……割と推理小説とか好きなんで」


 本当に探偵なんだけどね……編集長がのり子を絶賛し、のり子は苦笑いを浮かべた。すみれが何か言いたげな感じだが、何となく予想は付く。気持ちは分かるが、基本探偵だというのは秘密なのだ、のり子はすみれの方を向いて口に人差し指を添えた。


「何はともあれ、この後も捜査は続くので、みなさんこのスタジオに待機お願いしますね」


***


 警察による聞き取り調査が終わり、再び解散となった。それぞれ個別の仕事に戻っていく中、のり子とすみれは今井刑事のもとに向かった。


「ふぅ。全く、のり子君に積極的に意見を聞けないのはやりづらいな」

「それは私も同じです……呼び方も変えないといけないですし」

「辛いね、女子高生探偵も」

「まあ、今更だけどね、もう慣れたというか」

「それにしても、今回も犯人を絞れる証拠は出てこなかったな。困ったものだ」


 実際、今回は密室ではない上に死亡推定時刻のアリバイが自分とすみれ以外ないので、絞りようがないのだ。ただ、新たに疑問点も生まれた。


「今井刑事、どうして犯人はウエディンググローブを凶器に選んだんでしょうか? 窒息死させるなら、もっと適したものがたくさんあると思うんですが」

「確かに、そうだな」

「しかも、ご丁寧にウエディングベールまで冬夢さんに着せているわけで」

「確かに、妙にウエディングドレスにこだわっているような印象があるよね、犯人は」


 すみれと同じことをのり子も思っていた。ウエディングドレスに何か執着があるのか、恨みがあるのか……


「今井刑事、ちょっと雪奈さんの死体の写真って見えてもらえますか? 今回の事件、ウエディングドレスが鍵になっているような気がするんです」

「分かった、今すぐ持ってくる」


今井刑事が持ってきた雪奈の死体の写真を、のり子は凝視した。ウエディングドレスの色は純白、形状は……すみれが着ていたのとちょっと違うな。


「すみれ、昨日すみれが着ていたウエディングドレスの形状って何ていうんだっけ?」

「【Aライン】だよ、アルファベットのAの形に見えるのが由来なんだって」

「雪奈さんが着ていたのは?」

「【プリンセスライン】だよ、ボリュームのあるスカートをパニエでふんわりと膨らませてお姫様のドレスみたいにしているのが名前の由来みたい。一番人気のデザインなんだって」

「確かに、世の中的にも【プリンセスライン】のウエディングドレスが一番見かけるような気がするな」


 となると、チョイスとしては王道ということか。確かにお姫様みたいで可愛く、女の子なら憧れるデザインだ。私も結婚する時はプリンセスラインに……いや、Aラインも良いな……って何を考えているんだ!! のり子は妙な想像をかき消し、再び写真を凝視した。


「……あれ、ウエディングベールが下りてる。普通上げるものじゃないの?」

「ふむ、それは俺も気にはなっていたんだが、君やすみれ君の言っていたように今回の犯人はウエディングドレスに執着があるようだし、一種のこだわりなのかもしれんな」

「ちなみに、ウエディングベールを下すことはあるよ。ベールダウンっていうんだけどね、昔ヨーロッパの一部地方で『結婚式の日に、花嫁が教会へ向かう道中で悪魔にさらわれる』って言い伝えがあって、母親が悪魔から花嫁を見えなくするために被せたんだって」

「へえ、そんな理由があったんだ。でも、上げている状態の方が多くみる印象があるけど」

「まあ、新郎新婦が誓いのキスをする時に上げるわけだしね。そもそも今回みたいな雑誌の撮影とかだとモデルの顔が見えにくくなっちゃうし、モデル自身も前が見にくいだろうから上げているんじゃないかな」


 なるほど、神秘的な理由だ。ウエディングドレスに執着がある者なら、下りた状態を好むのも不思議じゃないか。


「それにしてもすみれ、妙にウエディングドレスに詳しいね」

「女性雑誌で綺麗な花嫁さん見て、興味湧いて色々調べたことがあるのよ。まさか自分が着せられることになるとは思わなかったけど」

「ふふ、凄く可愛くて綺麗だったよ、すみれ」

「あ、ありがと……そうだ、事件解決したらのり子もウエディングドレス着てよ」

「……ええ!? 何言ってるのよすみれ、私なんかが似合うわけが」


 突然何を言い出すんだ、すみれは。あれはすみれだから衣装に負けなかったのであって、私なんかが着たら馬子に衣装みたいなことに……のり子はあわあわしながら否定した。


「またのり子の過小評価が始まった。愛衣さんだって可愛いって言っていたわけだし、絶対にのり子も似合うよ」

「はっはっは、俺もぜひとも見てみたいな。これは何としても事件を解決しないと」

「うう……二人ともテンション高すぎだよ」


 やる気があるのは良いことだが、その動機が不純というか……のり子は2人の協力を頼もしいと思いつつも、事件解決後のことを考えると頭が痛くなるのであった。


「まあ、写真についてはこのくらいにして。動機の面もちょっと探っていきたいんです」

「動機か。犠牲者2人はかなりわがままで周りも辟易していたらしいから、それが理由ではないのか?」

「そうじゃないと断定はできませんが、私は違うと思うんです。殺し方からしても、そんな単純な理由ではなく、もっと深い怨恨があるんじゃないかと」

「怨恨……何か心当たりは?」


 【スエジリ】のスタッフに会ったのは昨日が初めてであり、詳しいことは分からないが、おそらくは……あのことだ。


「上渡真白……」

「誰だ、その子は?」

「以前、【スエジリ】の専属モデルオーディションを受けた子です。凄い才能の持ち主で文句なしの合格だったんですけど、合格発表の翌日に交通事故で亡くなったそうです。それを受けて、繰り上げで合格したのが雪奈さんと冬夢さんとか」

「なるほど、何かありそうだな」

「聞くとしたら、やっぱり編集長かな」

「そうだね。じゃ、行こう」


 専属モデルオーディションの裏の事情を暴きに、のり子は編集長のもとに向かった。

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