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鮮血の花嫁殺人事件④(不自然な点)

「それでは、まず小雨愛衣さん、お願いできますか?」

「私はのり子ちゃんとすみれちゃんと一緒に、ずっと楽屋で2人の衣装合わせをしていました。それは2人に聞いていただければ分かるかと」

「そうなんですか、のり子く……いや、のり子さんにすみれさん」

「はい」

「愛衣さんの言う通りです、途中で抜けたりとかもありませんでしたし」


 今井刑事が思わず『のり子君』と言いだしそうになったのは、のり子も少し驚いた。仲間内には話したとはいえ、のり子が探偵だということは基本的に内緒なのだから。


「ふむ。で、雪奈さんを呼びに行く頃合いになったので、すみれさんと一緒に撮影室に行って雪奈さんの死体を見つけたと。ちなみに、発見したのは何時頃ですか?」

「正確な時刻までは覚えてないですけど、16:00くらいだったと思います」

「私が愛衣さんと楽屋を出たのが15:50くらいでしたから、大体そのくらいかと」

「なるほど、となるとあなたのアリバイは完璧ですね、ありがとうございました」


 今井刑事の言う通り、愛衣さんに犯行は不可能だろう。ずっと私かすみれと一緒にいたのでは疑いようがない、のり子は納得の表情を浮かべた。


「では、次は占部健土さん、お願いします」

「俺は会議室でずっと道具のメンテしたり、事務作業してたよ」

「それを証明できるモノや人は?」

「残念だけどないよ。こんなことになるんだったら、安伸と一緒の部屋でやればよかったか」

「一緒の部屋でやらなかった理由でもあるんですか?」

「安伸は一人じゃないと集中出来ない性格なんだよ」


 そういえば、そんなことを健土さんが言っていたか。まあ、もし編集長や三空さんと共犯なら一緒の部屋でやるわけにはいかなかっただろうが、のり子は頷いた。


「そうなのですか、日比安伸さん?」

「……間違いない。ちなみに僕もずっと部屋で一人だったから、アリバイはない」

「ふっ、となると2人ともやっぱり犯行は可能だったというわけね」


 またしても冬夢が口を突っ込んできた。どうしてこの人は言葉にいちいち棘があるのだろう、亡くなった雪奈さんもそうだがスタッフの人達の苦労が伺える、のり子は頭を抱えた。


「それを言うなら冬夢ちゃん、君はどうなんだよ。死亡推定時刻に、どこで何してたんだ?」

「……私は楽屋にずっといたわよ」

「それを証明できるモノや人は?」

「1人だったんだから、仕方がないでしょ!!」

「ほれみろ、冬夢ちゃんにだって犯行は可能じゃないか」

「ふんっ」


 健土さんと冬夢さんの言い争いみたいになってしまっているが、冬夢さんにもアリバイがないのは確かの様だ。動機も安伸さんが言っていた【専属モデルの座の独り占め】というのは一定の説得力がある、のり子は可能性の一つとして頭の片隅に入れた。


「なるほど。そうなると、アリバイがあるのは管理人さんを除くと、のり子さんとすみれさんと愛衣さんの3人。それ以外の人達には犯行が可能だったということになりますね」

「勘弁してくださいよ刑事さん、俺達はただ撮影の下見に来ただけなのに」

「そうはいっても、この後の防犯カメラチェックで誰も怪しい者が映っていなかった場合、犯行が可能なのはこの場にいる人達だけということになるんです。引き続き捜査には協力してもらいますよ」


 その後、防犯カメラのチェックが行われ、どこにも怪しい者が出入りした形跡はなく管理人は管理人室にずっといたことが確認された。


「ということですので、この後も捜査は続きますので、今日はみなさんこのスタジオにずっといていただけませんか?」

「まあ、今日も明日も会社自体は休みだから問題ないですが」

「編集長が良いのであれば、私も異論ありません」

「管理人さん、ここに泊まることって出来ますか?」

「一応、仮眠用の布団は人数分ありますし、部屋もこの人数なら一人一部屋用意できますが。鍵は各部屋1人に1本ずつ渡しますので」


 のり子としても謎が全く解けていない以上、そうしてくれる方がありがたかった。そこは今井刑事に感謝である。


「まあ、仕方がないけど、その他の鍵はすべて管理人さん、あなたが持っていて頂戴よ。怖くて寝ることもできないわ」

「冬夢ちゃん、それはどういう意味だ?」

「そのまんまの意味よ。この中の誰が犯人か分からないんだから、当然でしょ」

「あのな、いくらなんでも言っていいことと悪いことが」

「いいんです、編集長。私とて疑われたくないですから、管理人さんが持っていてくださる方が助かります」

「……まあ、三空ちゃんがそう言うなら」

「ふんっ、編集長は三空には優しいからねえ」


 それはあなたの普段の傲慢な態度が原因では、というツッコミを冬夢に入れたかったが、のり子は我慢した。とりあえずこれで一時解散となり、このスタジオ内で一人一人自分の仕事をすることになった。


***


「ふう、やっと君と普通に話せるよ、のり子君」

「すいません、色々気を使わせてしまって」

「いや、こっちがいつも君の力に頼ってしまっているんでね」

「そんなことないです。今井刑事がいないと、私は事件の情報を集めることすら出来ないんですから」

「ふふ、持ちつ持たれつで良いコンビだと思いますよ」


 すみれが微笑ましそうな顔で、のり子と今井刑事を称えた。のり子は少し照れ臭そうに頬をかいた。実際のり子としても今井刑事に色々支えられているのは自覚しており、心の底から感謝しているのだ。


「しかし、今回の事件は単純なようで犯人を絞り込むのが難しそうだな。これといった証拠があるわけでもないし、動機もみんなあるわけで」

「……私としてはそれ以上に、不自然な点が多すぎるのが気になるんです」

「不自然な点?」

「第一に、なぜ部屋を密室にしたのかということです。編集長も言っていましたが、密室にしたら鍵を持っている人が疑われるのは当然なわけで。今日はこのスタジオはほぼ【スエジリ】が貸し切り状態でしたから、撮影室は基本鍵はかかっていませんでしたし、そのままにしておけば誰もが犯行が可能な状況にできたのに」

「確かにそうね」


 すみれが頭を縦に振って頷いた。共犯説にしても、そもそも密室にしておかなければ単独犯で十分な犯行だった、共犯というリスクを負うには割に合わない。


「第二に、なぜ凶器を死体から抜いたのかということです。刺したままにしておけば自殺も考えられるわけで、それこそ密室にする意味も出てくるわけです」

「ふむ、確かに密室にするメリットと言えば、自殺に見せかけることが出来ることだからな」

「ですが、今回はなぜか犯人がそれを放棄しているんです。血は凶器を抜いてから多く出ますから返り血の危険性もあるわけですし、何か凶器を隠したい理由があるのかと思ったら部屋のゴミ箱から出てきているわけで」

「うーん、確かに色々ちぐはぐな印象を受けるわね」


 そう、密室にしたことといい凶器を死体から抜いたことといい、犯人自らメリットを放棄しているようなちぐはぐさを感じるのだ。


「ちなみに今井刑事、合鍵を作っておいた可能性は?」

「それはないな、管理人に聞いたが複製できるタイプのものではないらしい」

「部屋の外から糸とかで鍵をかけたりとかは?」

「それも無理だ。色々試してみたが、鍵のタイプや扉の構造上不可能だった」

「うーん、となるとやっぱり編集長と三空さんが持っていた鍵で閉めたとしか」


 色々不自然な点はあるものの、やはりそこが壁となってしまう。3人であれこれ考えたが結論は出ず、のり子とすみれは同室で夜を明かすことになった。個別の部屋にすることも出来たが、のり子としてはすみれと話していた方が色々思いつくと思ったのだ。


「ごめんねすみれ、部屋一緒にしちゃって」

「ううん、むしろありがたいよ。やっぱり殺人事件が起こった後じゃ、1人だと怖いもの」

「……まあ、そうだよね、慣れちゃってる私が変なのかも」

「そんなことないよ、のり子がそうやって頑張ってくれてるからみんな助かってるんじゃない」

「……ありがと、すみれ」


 先日の大規模連続殺人の時もそうだった、探偵を続けるべきか悩んでいた時にすみれは飾り気のない素直で優しい言葉をくれた。あれがなかったら、今の私は探偵を続けていなかっただろう。すみれと一緒にいると心地いい、困った時にいつも欲しい言葉をくれる、改めてのり子はすみれが親友であることに心の底から感謝した。


「……ねえすみれ。今回の事件、本当に動機は雪奈さんのわがままっぷりだと思う?」

「どういうこと?」

「私は……そうじゃない気がする。やり場のない激しい憎悪が犯人を突き動かしているような、そんな感じがするの」

「のり子……」


***


「のり子ちゃん、すみれちゃん、開けて!!」


 この声は……三空さん?


 朝になり、部屋のドアを叩く音と三空の声が聞こえたので、のり子は目を覚ました。むくりと布団から出て、部屋のドアを開けた。


「どうしたんですか三空さん、そんなに慌てて」

「冬夢ちゃんが……冬夢ちゃんが部屋で死んでるの!!」

「……え?」


 その瞬間、のり子の眼は完全に覚醒した。死のジューンブライドは……終わらない。

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