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鮮血の花嫁殺人事件②(上渡真白)

「まあ、とりあえず雪奈ちゃんが戻ってくるまで彼女がいなくても出来ることをやるとして……ごめんねすみれちゃん、見苦しい所を見せちゃって」

「いえ、気にしないでください」

「良い子ね、すみれちゃん。本当、雪奈ちゃんも見習ってほしいわ」


 愛衣が頭を抱え、ため息をついた。どうやら雪奈さんのわがままには、みんな辟易しているようだ。人気モデルの裏の顔ってところだろうか、のり子も思わずため息をついた。


「そういえば編集長、ちょっとすみれの写真撮っていいですか? 友達に見せたいですし」

「ああ、構わないよ」

「な、何だか恥ずかしいわね」

「何言ってるの、織絵ちゃんとか絶対喜ぶよ」

「……まあ、写真撮るくらいなら」


 とか言いつつ、さりげなく嬉しそうな顔をしているのは、のり子にはバレバレである。


「織絵ちゃん、というのは?」

「えっと、私の妹です」

「この写真の子ですよ」


 のり子がスマホで織絵の写真を見せると、編集長と三空は目を輝かせて写真にくぎ付けになった。


「へえ!! こりゃまたとびっきり可愛い子だね、すみれちゃんに負けてない」

「すみれちゃんがモデルなら、この子はアイドルって感じですね。編集長、この子もスカウトしたらどうですか?」

「うん、良いねそれ。天性のスター性も感じるしね。どうかな、すみれちゃん」

「え、えっと、急に言われましても……えへへ」


 すみれは困惑しているようなことを言っているが、顔は満面の笑みである。織絵ちゃんがこれだけ褒められるのが嬉しくてたまらないのだろう、のり子は思わず微笑んだ。


 まったく、綺麗な花嫁姿になってもやっぱりすみれはすみれか……のり子は呆れながらも悪い気分はしなかった、のり子にとっても織絵は可愛い妹みたいな存在なだけに褒められるのはやはり嬉しいのだ。


「ちょっと編集長、フレッシュな新人にお熱なのは良いけど、専属モデルは私と雪奈なんだけど?」

「分かってるよ、冬夢ちゃん。俺はあくまで今後のことも考えて層を厚くしようとだね」

「どうだか。私も疲れちゃったし、楽屋で休憩してくるわね」


 明らかに不機嫌な声でそう言い、やはり編集長の返事も聞かずに冬夢も楽屋に行ってしまった。雪奈の時と同様に、みんな呆れ顔である。


「編集長、雪奈ちゃんと冬夢ちゃんのわがまま、どうにかならないんですかね。みんな迷惑してるんですよ」

「健土の気持ちも分かるけど、一応うちの専属モデルだしねえ。すみれちゃんものり子ちゃんも良い人材だけどまだ経験がないし、今あの2人に抜けられちゃ困るんだよね」

「多分嫉妬しているというか、危機感を抱いているんでしょうね。雪奈ちゃんも冬夢ちゃんも20代後半、自分達の地位が脅かされないか心配なのよ」

「……愛衣ちゃんの言う通り。今までは代わりがいないからわがまま言えたけど、すみれちゃんとのり子ちゃんが経験積んだら切られる可能性がある」

「わ、私がそんな簡単に雪奈さんや冬夢さんを超えられるとは思えないんですけど」


 いや、すみれの才能と性格の良さを考えれば、そう遠い未来とも思えない。あの2人が危機感を抱くのは分かるし、ないとは思うけど……万が一を考えてすみれの傍にいた方が良いだろう。


「すみれちゃん、あなたはもっと自信を持っていいと思うわ」

「だな、妹の織絵ちゃんも凄い逸材だよ。何ていうか、真白ちゃんを思い出すっていうか」

「「!?」」


 その瞬間、のり子とすみれを除く全員の顔色が変わった。何だ、真白って名前が出てからこの様子……誰なんだろう、その子は。


「おい健土、見学の子も来てるのに不謹慎だぞ」

「す、すいません編集長」

「私、雪奈ちゃんの様子見てきます。さすがにモデル2人がいないんじゃ」

「頼むよ、愛衣ちゃん。俺達はとりあえず、談話室にでも移動しよう」


***


 愛衣を除く全員が談話室に移動し、しばらく経って愛衣が戻ってきた。表情から何となく結果は予想できるが……


「どうだった?」

「駄目ですね、取り付く島もないです。毎度のことですが、機嫌が直るまで待つしかないかと」

「やはりそうですか……」

「その間は各人、自分の仕事を片付けるのに費やすというのはどうでしょう?」

「それしかないか。三空ちゃんは俺と今後について打ち合わせするとして、他はどうする?」


 三空さんの反応からして、普段からこんな感じなのだろう。編集長がすみれや織絵ちゃんにあれほどお熱なのも、もしかしたら本当にあの2人の代わりとして育てるつもりだからなのかもしれないとのり子は思った。


「私はすみれちゃんとのり子ちゃんと一緒に楽屋に行ってきます。ウエディングドレスの他にも色々着せてあげたいですし」

「あ、ありがとうございます、愛衣さん」

「俺は道具のメンテでもしようかな。三空ちゃん、どっか空き部屋2つ空いてない?」

「会議室が2つありますけど……どうして2つなんです?」

「俺は別にいいんだけど、安伸の奴が一緒の部屋だと嫌がるからさ」

「……1人じゃないと集中できない」


***


 各人の予定も決まり、それぞれの場所に移動した。動きにくいのですみれは既にウエディングドレスを脱いでいるが、楽屋で愛衣が色々な衣装を勧めてくる。どれも目移りしそうな程魅力的だ、それ程目立ってファッションに興味があるのり子ですら目を輝かせている。


「ちょっとさっきはすみれちゃんばかりになっちゃったけど、のり子ちゃんにも私は期待してるからさ。どの服着たい?」

「わ、私はすみれみたいに綺麗じゃないですし、スタイルだって」

「これなんですよ、いつも。本当、のり子は自分のことを過小評価しすぎなのよね」


 そう言われても、すみれが普段女性雑誌とかを見ているのに対し私は推理小説ばかり読んでいたりするわけで……詩乃みたいに大和撫子ってわけじゃないし、織絵ちゃんみたいな天性のスター性があるわけでもない。女子力なるものに自信が持てないのだ……のり子は戸惑いの表情を浮かべた。


「んー、じゃあ私がのり子ちゃんに合いそうな服選んじゃう。この白いワンピース、着てみて」

「ええ!? わ、私にはそんな深層のお嬢様みたいな服は」

「いいからいいから、のり子は多少強引にやらないといつまでも着てくれないし」

「わわ、やめてー!!」


 愛衣とすみれに半ば強引に着せられる形になり、のり子は白いワンピースに麦わら帽子を被った姿で試着室から出てきた。何だか愛衣さんとすみれの目が輝いているが……のり子は恥ずかしくてモジモジしている。


「のり子ちゃん、可愛い……すみれちゃんとは違った素朴な可愛さがあるっていうか」

「のり子は心が透き通っているから、こういう服が似合うんですよ」

「あはは……」


 無理やり着せられたような形だが、のり子は悪い気はしなかった。自分の女子力に自信が持てないとはいえ、のり子とて可愛い服やお嬢様に憧れる年頃の女の子だ、自分がそういう服を着て称賛を浴びているということに笑顔を隠せなかった。


「それにしても、楽屋って複数あるんですね」

「そうね、雪奈ちゃんや冬夢ちゃんが休んでるのは別の個室よ。共同の楽屋とかだと怒るし」

「何と言いますか、皆さん色々苦労しているんですね……」

「もう慣れっこよ、2人とも実力は確かなだけにこちらとしても強く言えないのもあるけど」


 愛衣さんは大人の対応をしているけど、実際雪奈さんと冬夢さんに振り回されて苦労しているのは事実なんだろうな。芸能界というのも大変だ、のり子はしみじみ思いつつ気になっていることを聞いた。


「そういえば愛衣さん、さっき言ってた真白さんって」

「……以前、【スエジリ】の専属モデルオーディションを受けた子よ。上渡真白(うえと ましろ)っていうんだけど凄い才能を持った子でね、見た目の可愛らしさやスタイルの良さはもちろんなんだけど、その透明感が凄かったの。そう、健土君も言っていたけどすみれちゃん、君の妹の織絵ちゃんみたいな」

「織絵みたいな子……」

「私はその当時、まだ【スエジリ】のモデルを担当していなかったんだけど、編集長から真白ちゃんのことはよく聞かされたわ、あの透明感は天性のモノだって。オーディションの合格も即決したみたいだし」

「でも、今の専属モデルは雪奈さんと冬夢さんですよね?」

「……亡くなったの、交通事故で」


 亡くなった……その言葉が、あの大規模殺人事件の辛い記憶をのり子に思い出させた。第7のターゲットとして襲われ、瀕死の重傷を負った織絵……その織絵みたいな子と称される真白の死をのり子はどうしても他人事とは思えなかった。


「彼女に合格通知をした翌日の話だったみたい。雪奈ちゃんと冬夢ちゃんも同じオーディションを受けていて、最終審査まで残っていたから繰り上げで合格になったとか」

「そんなことが……だからみなさん、真白さんの話をしたがらないんですね」

「そういうこと。ごめんね2人とも、湿っぽい雰囲気にしちゃって」

「いえ、気にしないでください」


***


 その後、気を取り直して愛衣はすみれとのり子の服を嬉々として選んでくれた。プロが選んだ選りすぐりの可愛い服に、のり子のテンションも自然と上がったのだった。


「あ、そろそろ雪奈ちゃんを呼びにいかないと。悪いけどすみれちゃん、ちょっと付いてきてくれないかしら」

「私ですか?」

「私一人じゃ、またさっきみたいに門前払いされるかもしれないしさ」

「分かりました。のり子、ちょっと行ってくるね」

「うん、分かった」


 愛衣とすみれはそう言い残し、楽屋を出て行った。わがままな雪奈さんもさすがにそろそろ怒りが収まる頃だろう、のり子は椅子に座って2人の帰りを待った。


「……遅いな」


 呼びに行くだけにしては、随分時間がかかっている。また雪奈さんがわがままを言っているのだろうか、そうのり子が思っていたところにすみれが切羽詰まった様子で入ってきた。


「のり子!! すぐに来て、編集長を呼ばないと」

「どうしたの、そんなに慌てて」

「雪奈さんが……撮影室で血を流して倒れているの!!」

「……え?」


 その瞬間、高揚していたのり子の心は血の色に染まったのだった。

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