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奈良旅館殺人事件⑦(悲しい真実)

「え~、殺されたのは原崎音美さん。左胸を鋭利な刃物で刺されたことによる失血死やね」


 音美の部屋に再び関係者全員が集められ、警察からの説明が行われている。涼葉はやはり青い顔をしてガタガタ震えている、二日続けて殺人事件が起きれば無理もない。


「涼葉さん、今回もあなたが第一発見者の様やけど、説明お願いできまっか?」

「は、はい。奏子さんと音美さんには、いつも朝にモーニングコーヒーを持ってくるよう頼まれとんねん。昨日も今日も部屋に持っていったら、お二人とも亡くなっていまして……」

「なるほど、部屋の鍵はかかっとりましたん?」

「いえ、昨日も今日もかかっていまへんでした」

「ふむ、ちなみに合鍵は?」

「受付に全部屋分あります。金庫に収納されていて、金庫の鍵はウチとおかんが一本ずつ肌身離さず持っとります」


 つまり、裏を返せば涼葉さんと菜葉さんならば施錠されていようがいまいが部屋に侵入できるということか。最も、今回は密室殺人というわけではないので、さほど影響はないが。


「死亡推定時刻は昨晩0:00~1:00です。さて、今回も皆さんのアリバイを調べさせていただきますが」

「ウチは一人で作業をしておりましたので、ございまへん。最も、この時間となるとアリバイがある人の方が少ないと思いますが」


 菜葉の言う通り、食事も風呂もほぼ済んでいるであろうこの時間帯にアリバイがあったのは、合い部屋であるのり子と萌希だけだった。涼葉と菜葉は作業で色々と歩き回り、夕香梨・由介・麻事は部屋に一人でいたという感じだ。


「となると、のり子さんと萌希さん以外はアリバイがあれへんちゅうことになりますね。これといった痕跡も残っておりまへんでしたし、絞り込みがややこいやけど」

「今回もお前じゃないのか、由介」

「ふざけんな!! そもそも奏子を殺したのも俺じゃないし、音美に関してはお前の方が怪しいだろうが麻事」

「なっ!! そりゃ音美のわがままには辟易してたけどよ……でも、さすがに殺しまではしねえよ」

「何だか昨日も同じような会話を聞いたような気がするけどね」


 夕香梨が由介と麻事の会話に呆れながら呟いた。まあ、この2人はいわば奴隷みたいな感じだったから同情の余地はあるが、それにしても見苦しい。


「まあ、今回に関しては麻事さん、あんた方が怪しいとウチも見とりますけどね」

「ど、どういうことだよ」

「部屋の鍵が開いとったわけやから音美さんが部屋に入れたちゅうことになりまっけど、奏子さん殺しで一番疑われたのは由介さんやで。その由介さんが尋ねてきて、素直に部屋に入れるとは考えづらいんですわ」

「その通りだよ、奏子を殺したのもお前だろ麻事!!」

「じょ、冗談じゃねえ!!」


 確かに五條刑事の言う通り、今回に関しては麻事さんが一番怪しい。アリバイの有無を考えても、奏子さんは由介さんが、音美さんは麻事さんが殺害したと考えるのが無難だ。動機もしっかりしているわけだし、警察もその方針のようだが……


***


「ねえのり子ちゃん、やっぱり犯人はあの迷惑4人……今は2人になっちゃったけど、その連中なんじゃないかな」

「可能性がないとは言えないけど……」

「そりゃ動機という面では涼葉ちゃんも菜葉さんも夕香梨さんもあるけどさ、やっぱり奏子さん殺しの時のアリバイがあるわけだし」

「アリバイか……」


 やはりそこが最大の謎だろう。もう一度情報を整理してみるか、のり子は涼葉から貰った見取り図を広げ、萌希と一緒に時系列に沿って追うことにした。


「事件が起こったのは一階の奏子さんの部屋。一階は長方形の形で部屋が配置されていて、奏子さんの部屋は西側に位置するみたい。音美さんは同じく西側で、由介さんと麻事さんは東側、全員一人部屋か」

「私とのり子ちゃんが食事を取ってその後お喋りしていた食堂兼談話室は南側で、フロントも南側、共同トイレと大浴場は北側だね。それほど広くないから、食堂からトイレも数分で行けるみたい」

「21:55に奏子さんからの内線電話がフロントにあって涼葉さんがそれを受けて、奏子さんの部屋にジュースを持って行ったのが22:05、食堂に戻ってきたのが22:10。そこから23:00くらいまで私と萌希と夕香梨さんと一緒に涼葉さんはお喋りしてたし、合間の作業も食堂でやってたから見かけたし」

「夕香梨さんは奏子さんからの電話の前にトイレに立ったけど5分~10分くらいで戻ってきて、そこからはずっと私達とお喋りしていたし、菜葉さんは食堂とフロントを行ったり来たりしていたけど往復数分の距離で涼葉ちゃんが見かけたし。やっぱり無理だよ、この3人には」


 確かに萌希の言う通り、一見不可能に見えるが……何だろう、この引っかかっている感じ。見取り図だけでは、分からないかもしれない。


「涼葉さんのところに行こう、萌希」

「う、うん」


***


「涼葉さん、ごめんなさい忙しい時に」

「ううん、気にせんとって。またなんぞ聞きたい事でも?」


 涼葉は少し濃いめの茶色のツーサイドアップのミディアムヘアーを可愛く揺らしながら、明るく微笑んだ。


「何度も申し訳ないんだけど、奏子さんからの電話の録音と部屋に行った時の録音を聞かせてくれないかな?」

「分かった、ちょっと待っとって」


 涼葉が用意してくれた2つの録音を聞き、のり子の頭の中のピースがピタリと合わさった。そういう……ことか。


「ありがとう涼葉さん、それじゃ」

「う、うん」


 のり子は涼葉にお礼を言い、次の目的地に向かった。もう今日の夜には奈良を出ないといけない、時間が……ない。


「ねえのり子ちゃん、何か分かったの?」

「うん、分かったよ……犯人が」

「ええ!!??」

「でも証拠がない、今からそれを見つけに行くの」


***


 のり子は奏子の部屋に向かった。着くと、そこには五條刑事がいた。


「君達か、どうしたんや?」

「五條刑事、お願いします。この部屋を、調べさせてください」

「……分かっとるよね、のり子さん。なんぼ君が優秀な探偵でも、警察関係者やない人を」

「お願いします!!」


 のり子は姿勢を正し、深々とお辞儀をした。五條刑事は驚き、目を丸くした。


「私は……探偵とはいえまだまだ幼いですし未熟です、五條刑事のおっしゃることも分かります。ですけど…大切な人が困っているのを見過ごすことは出来ないんです!!」

「のり子ちゃん……」

「……なるほどな、君は少なくとも自分の利益のために動くような子ではなさそうや」

「五條刑事?」

「分かった、特別に許可しよか。もちろん、ウチの監視付きだがね」

「あ、ありがとうございます!!」


 のり子は再び深々とお辞儀をし、部屋を調べ始めた。奏子の死体はベッドにあったが……


「五條刑事、奏子さんの死体って確か布団がかかっていましたよね?」

「ああ、それがどうしたんや?」

「それって、布団越しに刺したってことですか?」

「いや、そらないわ。布団自体に穴は開いとらへんかった、刺した後布団をかけたってところやろ」

「……なるほど。で、ベッドの近くにテーブルがあって、その上に固定電話か」


 ここからフロントに電話をかけたのだろう。受話器を取り、1つのボタンを押すだけでフロントに繋がるタイプか。のり子はふと部屋の中の入口付近に目をやると、床の一部が汚れているのが見受けられた。


「あそこって、何かがこぼれたりしたんですか?」

「ああ、どうやらジュースがこぼれた跡のようや」

「ジュース……!?」


 よく見ると、こぼれた跡が不自然に途切れている。角ばった感じだが、何か四角いものが置いてあったのだろうか。のり子はその後も色々と調べ、五條刑事にお礼を言って部屋を出た。


***


「う~ん……」


 のり子は悩んでいた。あと一息なのだが、どうしても証拠が見つからない。頭を抱えているところに、萌希が何かを持ってきてくれた。


「はいのり子ちゃん、これ食べて」

「萌希?」

「悩んでいるときは糖分補給だよ」

「ありがとう。……美味しい、これは葛で出来たお餅?」

「うん、奈良の名物なの」


 萌希の気遣いに心が洗われる、確かにちょっと気を詰めすぎていたようだ。


「ご馳走様、ありがとう萌希」

「あ、のり子ちゃん、口に蜜と粉がついてるよ、拭いてあげる」

「い、いいよ、子供じゃないんだし」

「気にしないで、のり子ちゃんは推理で疲れてるんだから」


 萌希がのり子の口をハンカチで拭いてくれた。まったく、さすがにこの歳になってこれは恥ずかしいというか……!!??


「どうしたの、のり子ちゃん?」

「……ありがとう萌希、おかげで分かったよ」

「え、分かったって」

「……事件の真相が、だよ」

「えええ!!??」


 それと同時に、のり子は少し悲しい顔をした。覚悟はしていたが……確定となるとやはり辛い。しかし……前を向いて、向き合わないといけない。


「行こう……事件の終幕へ」

読んでくださり、ありがとうございました。


次回から解答編に入ります、この事件の犯人は誰でしょうか?


みなさんも推理してみてください。

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