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奈良旅館殺人事件④(アリバイ検証)

 涼葉に奏子の部屋番号を聞き、のり子と萌希はすぐに向かった。着くと、涼葉が青い顔をして腰を抜かしていた。


「涼葉ちゃん!!」

「あ……萌希ちゃん!! あ、あ、あれ……」

「!?」


 涼葉が指さす場所を見た瞬間、萌希も青い顔をして腰を抜かしてしまった。おそらく2人とも死体を見たことがないのだろう、当然と言えば当然の反応だ。


「の、のり子ちゃん……」

「……任せて」


 のり子は涼葉が指さした方向に向かった。ベッドの上に女性が倒れている、間違いなくあの粕谷奏子という女性だ。左胸の辺りが赤く染まっている、刺殺か……


「涼葉さん、警察を呼んで!!」

「は、はい!!」


***


「奈良県警の五條(ごじょう)です」

「ご苦労様です、この旅館の女将の吉野菜葉でございます」

「犠牲者は?」

「……こちらに」


 警察が到着し、現場検証が行われた。その後、昨晩から今朝にかけて旅館にいたメンバーが奏子の部屋に集められ、警察からの話を聞くことになった。


「えっと、これで全員でっか?」

「はい、スタッフも含めてこれで全員です」

「はっ、これで全員とか悲しい話ね」


 例の迷惑4人組の一人の原崎音美という女性が嫌味を言う。こんな時にまで嫌がらせとか、どこまで性根が腐っているのか。そもそも友達が死んだのだ、もっと悲しそうにしていてもいいものだが……所詮、その程度の仲だったのだろう。


 旅館にいたメンバーはのり子と萌希の他には、スタッフである涼葉と菜葉、宿泊客である夕香梨と例の迷惑4人組の残りの音美・由介・麻事だ。


「一応聞きまっけど、外部から侵入とかは可能でっか?」

「そらおまへん(ありません)。昨日の予約はここにおる方達だけで、全員到着した時点で入口の鍵は閉めましたし、その後裏口も含めて鍵はずっとかけたままでしたから」

「窓も鍵がかかっとるのをすべての部屋の分確認しましたし、閉め忘れがあったとしても僅かしか開かんタイプのやから、人が通ることは出来まへん」


 五條刑事の質問に、菜葉と涼葉が答えた。涼葉はまだ気分がすぐれないようだ、初めて死体を見たのだろうから無理もない、のり子は心配そうに涼葉を見つめた。


「なるほど、外部犯の可能性はないと。ちなみに、防犯カメラは?」

「あるにはありまっけど、入口と裏口くらいでして」

「さいでっか。では次に、みなさんの昨晩のアリバイを調べさせてもらいまっせ」

「アリバイ、ですか……?」

「ええ、外部犯の可能性があれへんとすると、犯人はこのメンバーの中の誰ぞちゅうことになるさかい」


 涼葉の質問に五條刑事が答えた。まあ、そういうことになるだろう。防犯カメラが客室や廊下にないとすると、犠牲者の部屋のドアを開けることさえ出来れば誰でもこっそり犯行は可能だ。となると、あとはアリバイの問題になる。


「死亡推定時刻は昨日の21:30~22:30の間くらい。そん時間の皆さんのアリバイを教えてもらいまっせ」

「五條刑事、正確には死亡推定時刻は22:00以降です」

「何、どういうことや?」

「そのくらいの時間に、奏子さんの部屋からフロントに内線電話があったんです、ジュースの注文のね。それを涼葉さんが受けて、部屋に持っていったんです」

「は、はい、その通りや。ウチが持って行った時、奏子さん普通に受け答えしとったさかい、そん時点では生きとったかと」


 のり子の指摘に、涼葉が答えた。つまり、奏子が殺されたのはその後ということになる。五條刑事はどこか渋い顔を浮かべた。まあ、見るからに高校生くらいの女の子に指摘されれば、そんな顔にもなるか。


「ふむ、その電話があった正確な時刻は分かるかね?」

「おそらくは。涼葉さん、その時の電話、録音した?」

「は、はい」

「録音だと、何でまた?」

「実は犠牲者の奏子さんはかなりのカスハラをずっと行っていまして、それを見かねた私が涼葉さんに証拠として録音した方が良いってアドバイスしたんです」

「はぁ? カスハラって、何わけわかんないこと言ってんのよ!!」


 当然のごとく、音美が文句を言ってくる。とはいえ、こればっかりは言わないわけにはいかない、言わなければ明らかに涼葉が怪しまれるのだから。


「お静かに!! カスハラでっか、せやったらまあ分からんこともあれへんですな」

「涼葉さん、録音した音声を再生してもらえるかな?」

「は、はい」


 音声を聴くと、確かに奏子が強い口調で涼葉にジュースを持ってくるよう命令している様子がうかがえる。電話機に表示された時刻は……


「21:55か、この後すぐに部屋にジュースを持って行ったのかね?」

「はい、一応その時の様子も録音してあんねん、スマホのボイスレコーダーで」


 音声を聴くと、涼葉が奏子の部屋にジュースを持っていき、置いておくよう奏子がやはり強い口調で命令している様子がうかがえる。スマホに表示された時刻は……


「22:05か、そうなると死亡推定時刻は22:05~22:30やな」

「そういうことになりますね」

「……ほなまず、君からその時間のアリバイを教えてもらおうか?」


 どこか不機嫌そうな口調で五條刑事はのり子に聞いてきた。まあ、もうこれは仕方がないだろう。のり子は気にせず、話し始めた。


「私はその時間は食堂でずっとお喋りしていました、こちらの萌希と夕香梨さんと涼葉さんと一緒にです」

「私も同じです」

「なるほどな、となると君……河澄のり子さんと蓑里萌希さんはアリバイ成立か。そちらの早瀬夕香梨さんは?」

「私はその電話の5分くらい前にトイレに行きました。といっても、5分~10分くらいで戻ってきましたけど」

「その通りや、夕香梨さんはウチが奏子さんの部屋にジュースを持っていこうとするのとほぼいっぺん(同時)に戻ってきましたから」

「その後はずっと私達とお喋りしていました、間違いないです」


 涼葉と萌希だけじゃなく、これはのり子も見ているから間違いない。


「つまり、早瀬夕香梨さんもアリバイ成立ですね。次は……吉野涼葉さん、どうですか?」

「ウ、ウチは先程も言うたけど奏子さんの部屋にジュースを持っていきまして、すぐに食堂に戻ってきましてん。そこからは食堂で作業をしもって、夕香梨さん達と合間でお喋りをしとりました」

「ふむ……ちなみに、ジュースを持って行ってから、どのくらいで戻ってきましたん?」

「22:10くらいには戻ってきたわよ。そこからは作業中も食堂で見かけたし」


 夕香梨が丁寧に五條刑事に説明した。『涼葉ちゃんが犯人なわけないでしょうが!!』という怒りが口調から感じられる。


「吉野涼葉さんもアリバイ成立でっか。お母様の、吉野菜葉さんは?」

「ウチは食堂とフロントを行ったり来たりしもって、作業をずっとしとりました」

「ほう、ちなみに食堂とフロントはどのくらいで往復できるんでっか?」

「ものの数分や」

「おかんが席を外すのは2回あったけど、どれも5分くらいやったし、あとは食堂で作業しとんのを確かに見とります」


 お喋りしていたのもあって、正直菜葉の姿はのり子はあまり確認できなかったが、涼葉が見ていたのだからそこは間違いないだろう。


「なるほどな、吉野菜葉さんもアリバイ成立と。そうなると、残るは……原崎音美さんと坂上由介さん、沢野麻事さんの3人やね」


 食堂にいたメンバーは全員アリバイ成立、となると犯人はあの3人の中にいるということか。のり子は気を引き締め、頭の中の情報を整理し始めた。


「……ここからか」

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