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生贄の主殺人事件②(親友)

「まったく、心美は相変わらず人騒がせなんだから」

「その割にはいつも一緒にいるよね、心美と詩乃」

「う……まあそうだけさ。それにしても、のり子さすがだね、ありがとう」


 痛いところを突かれたという表情を浮かべながら、詩乃はのり子に感謝の意を述べた。


「どういたしまして。そんな褒められるようなことはしてないけどね」

「謙虚だなあ、もう。テストの点とかは普通なのに、こういう謎解きみたいのは妙に得意じゃん、のり子って」

「褒められてるんだか、貶されてるんだか」

「あはは、その辺りは私に頼りがちだよね」


 実際詩乃の言う通り、のり子は学校の成績は並である。毎回テストの時は、さくらに教えてもらっている。推理と学校の勉強はイコールではないということか。


「実際のところ、のり子は探偵になる気はないの? 私達2年生じゃん、そろそろ将来を考え始める時期だと思うんだけど」

「……まだそういうことは考えてないかな」


 詩乃はのり子が探偵として実際の事件に携わっていることを知らない。詩乃だけじゃない、さくらも心美も萌希もだ、知っているのは今井刑事のみ。なぜ隠しているのか、それは……危険だからだ。


『刑事や探偵に関わるということは、危険とも関わるということだ』


 中学生になってから、いの一番に今井刑事に言われた言葉をのり子は思い出した。犯人にとって刑事や探偵は危険な存在であり、ゆえにそれに関わる人は刑事や探偵にとって弱みになりかねない。犯人が人質に取ったり、傷つけて心を乱すという行動に走らない保証はないのだ。


 だからこそ、将来探偵を職業とするかに関しての答えは未だに出ない。謎を解くのは好きだ、しかし周囲の人達を危険にさらすのは……。まして人の心の迷路に迷い込んでいつまでも抜け出せないような自分が果たして今後探偵としてやっていけるか、そういう不安ものり子にはあるのだ。


「のり子が探偵なら、私は助手かな。二人で探偵事務所でも開く?」

「それ良いかも、しっかりもののさくらが傍にいれば安心だし」


 のり子が暗い顔をしているのを見かねてか、さくらがちょっと冗談めいた提案をし、詩乃がそれに便乗した。気遣いの出来る本当に良い子である、さくらには頭が上がらないなあ。


―――


 のり子がさくらと出会ったのは中学生の時だ。その頃、のり子は小学生の時の【探偵ごっこ】と現実の事件の違いに悩んでいた。今井刑事に言われた人の【心の闇】が理解できず、探偵としての自信を失っていた。


「こんなに悩むなら、辞めちゃおうかな……」

「何を辞めるの?」

「え……あ、いや、ちょっと人の心について悩んでて」


 さすがに探偵としてとは言えないが、まあ間違ってはいないだろう。この子は……星嶋さくらだったか。クラスメイトで穏やかな、いかにも優等生という印象だ。


「何か哲学的なこと考えてるね。それとも友達関係とか?」

「う~ん、両方かな。あの人何でこんなことしたんだろうとか、そういうの」

「なるほどね。でも、そんなの分からないのは当然なんじゃない?」

「え……」


 のり子は驚いた。分かろう、分かろうとしている自分に対して、分からないのが

当然だなんて……思いもしなかった。


「人間10人いたら10人の考えがあるわけで、それを全部理解するなんて無理だよ。私だって河澄さんのことは分からないし、河澄さんも私のことは分からないでしょ」

「そうだけど……でも分かりたいよ、分からないといけない時もあるじゃん」

「だったら、聞けば良いんじゃない?」

「聞く……」

「どう思ってるかとか、どうしてそう思ってるかとかさ。それを聞けば理解出来るかもしれないし、他の人の時にも役立つでしょ?」


 その通りだと思った。ただ頭の中でうんうん唸っていても分からないのは当然だ、他人の心の中は直接覗けないのだから。だから人は会話する、そんな基本的な時点で間違っていたとは……恥ずかしい限りだ。


「ありがとう星嶋さん、何か元気出てきた気がする」

「さくらで良いよ、よろしくねのり子」

「うん、こちらこそよろしく、さくら」


―――


 あれからのり子は自信を取り戻し、探偵として経験を積むことが出来た。今でもあれこれ悩みはするけど、その度にさくらの心遣いに救われてきた気がする。のり子にとってさくらは自慢の親友だ。


「まあ、もしそうなったらよろしくね、さくら」

「うん。そういえば、すみれはまだ来てないの?」

「そうだね、まだみたい。そろそろ来るとは思うけど」


 詩乃が周りをきょろきょろ見渡し、指を口に添えて考え込んでいるとウェーブのかかった茶色のロングヘアの子が教室に入ってきた。


「おはよう、間に合ってよかった!!」


 絵波すみれ(えなみ すみれ)、のり子のもう一人の親友である。

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