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のり子達の日常:二人分の幸せと約束

 とある休日に、清水美雲は墓参りに来ていた。学園を震撼させた連続殺人の犠牲になったクラスメイトの塩部珠緒のだ。事件は解決し、学園に平和が戻ってきたが……美雲の心は晴れないままだ。未だに珠緒の姿を探してしまう自分がいる。


「……思った以上に、引きずるほうなのかな」


 お淑やかで聡明で大人っぽい、周囲の美雲に対する評価だ、慕っている人も多い。だが美雲自身、自分がそんな立派な人ではないと思っている。わがままも言うし、知らないことも多いし、今回のように心が強いとも言えない。しかし周りは美雲を持ち上げる、そんな【理想の美雲】を演じるようになったのはいつのことか、気付いたらそれはやめられなくなっていた。


「……思えば、珠緒はそれを見抜いていたのかも。珠緒はそういう理想の押し付けとかをしてこなくて、私は自然体でいれて……だから、思った以上に一緒にいて楽しかったのかな」


 失ってから気付いた、自分の中での珠緒の存在の大きさ。気付いた今、改めてお礼を言いたかった。しかし、もう珠緒はこの世にいない……そう思うと、涙が一筋すっと流れた。


「……そういえば、私と同じく大切な人を失った人がいたな」


 美雲はそう言い、自分と珠緒のことを聞いてきた少女のことを思い出した。彼女も大切な友人が連続殺人の犠牲者になり、心に傷を負った。しかし、それでも前を向いて何かを調べようとしていた……強い子だ。


「もう一度、あの子と話してみたい……!?」


 墓地に着くと、見覚えのある姿を見かけた。今、美雲が心の中で思い浮かべている少女、河澄のり子である。


「あ……美雲さん?」

「またお会いしましたね、のり子さん」


 美雲の喋り方が丁寧な感じになる。人前ではいつもそうだ、後輩相手だから先輩っぽくありたいという気持ちもあるのかもしれない。思えば、珠緒に対してはこういう喋り方はしていなかったな……それだけ自然体でいれたということか。


「美雲さんも、お墓参りですか?」

「ええ、珠緒の。のり子さんは、心美さんの?」

「はい……」


 のり子も辛そうな顔をしている。強い子であっても、辛い気持ちがなくなるわけではない、いつでもどこでもそれを表に出さないというのは酷というものだろう。


「……のり子さん、珠緒だけじゃなく私を監視している人もいないかって聞きましたよね。で、結果私を監視していた人が事件の黒幕だった」

「はい」

「私も……場合によっては命を狙われていたのでしょうか?」

「……はい」

「肯定、するのですね」

「私は……探偵ですから」


 予想通り、という感じか。彼女の言動からそうだと、美雲は思っていた。あの時ははっきりと答えなかったが、彼女の中で折り合いがついたのだろう。おそらく、事件を解決したのも彼女だろう。


「私は……どうすれば良いのでしょうか?」

「美雲さん?」

「結果として珠緒は殺され、私は助かった。こうして生きていられるのはありがたいことですが……分からないんです、珠緒とどう向き合ったらいいのか。聞くことも、もう出来ないのですから」


 今の私を珠緒は天国でどのように見ているのか、それが不安でたまらない。それに縛られ、迷路に迷い込んでいる、美雲はどこかのり子にすがるように言った。


「私は……珠緒さんに会ったこともありませんし、話したこともありません。ですから珠緒さんがどう思っているかは分かりません。ですけど……私の心美に対する姿勢と大きくは変わらないと思うんです」

「え……?」

「亡くなった人を生き返らせることは出来ませんし、私は心美の代わりにはなれません。ですから、私は……心美の分まで人生を精一杯生きて、心美の親友に河澄のり子として支えになれたらと思っています。それが、残された私の出来ることなんじゃないかと」

「のり子さん……」

「ですから美雲さん、精一杯生きてください、珠緒さんの分まで。河澄のり子として、美雲さんの支えになれるのであれば、私はそうありたいと思います」


 ああ、なるほど、多くの人がこの子を頼りにする理由が分かった気がする。この子は探偵として優秀なだけじゃない、人の心の痛みに対して寄り添い力になれるからこそなのだ。彼女のそんな透き通った心に尊敬の念を抱く一方で、それゆえの脆さも美雲は感じた。


「ありがとう……頑張っていけそうな気がするわ」

「お力になれたのなら、何よりです」

「それじゃ、私はこれで失礼するわ。連絡先はこれだから、何かあったら連絡してね」

「分かりました」


 のり子に連絡先を教え、美雲は珠緒の墓に向かった。珠緒の分まで精一杯生きる、珠緒に胸を張って幸せだと言えるように前を向いて生きていこう。そして……のり子の為にも生きていこう。


「今回の恩、絶対に忘れない……」


 透き通った心を持つゆえに、黒い心と相対した時に耐えていくことが出来るのか、美雲は心配だった。のり子は確かに強い子だが、まだ幼い少女ゆえに普通に傷つき普通に泣く子である。だからこそ、周りのサポートがなくてはいけない。


 もし彼女が傷ついたら……泣いていたら……傍に寄り添って支えてあげよう。それが美雲にとって彼女への恩返しであり、友人としてそうでありたい姿であった。


「またね、のり子さん。私の……大切なお友達」


             ~のり子達の日常:二人分の幸せと約束 完~


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