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生贄の主殺人事件㉒(悪魔)

 のり子は心美が残したダイイングメッセージが写った写真をさくらに見せた。さくらは少しきょとんとした顔をした。当然だろう、ダイイングメッセージのことは世の中には公表されておらず、のり子がこれを見せたのは詩乃とすみれと織絵といりすだけだ。


「これは……ダイイングメッセージ? 【ケガニン】かな、じゃあ私じゃないよ、見ての通りどこも怪我してないし」

「これは【ケガニン】じゃないよ。相手のことを知らないならともかく、今回は顔見知りの犯行なんだから書くとすれば犯人の名前だし」

「だとしても同じでしょ、私の名前なんてどこにも書いてないし」

「果たしてそうかな? このダイイングメッセージ全体に言えることだけど、結構擦れたり崩れたりで曖昧な部分があるんだよね。まあ心美も意識が朦朧とする中で書いたわけだし、周囲も暗かったからこうなったんだろうけど」


 さくらは先程までの茶化すような態度をやめ、じっとこちらを見つめてきた。自分のあずかり知らぬ証拠だけに、気になるのだろう。


「じゃ、一つずつ見ていくよ。まずは【ケ】、左の縦棒から真ん中の横棒が僅かにはみ出てるし、右の縦棒も真ん中の横棒から僅かにはみ出てるから、これは正しくは【サ】」

「……」

「次に【ガ】。これはそもそも右斜め上の点が他に比べて明らかに血の色が濃くて、丸くて周りに少し飛び散ってる。つまり、これは書いたのではなく書く前に指から垂れて地面に落ちた分ってこと」

「そうなると【カ】ってことになるけど、これも左の縦棒が短くて左斜め下気味にあるし右の縦棒の下が跳ねてない、つまりは正しくは【ク】」


 さくらは先程から態度を崩さない、茶化す余裕がなくなってきたのだろうか。ならば……一気に攻め立てるまで!!


「そして【二】と【ン】。【二】はそのままとして、【ン】はなぜか【二】の右横ではなく下の方に書いてある。加えて、左の点は先程と同じく指から垂れて地面に落ちたような色と形状だから、実はこれは2文字じゃなくて1文字が分散されたものなの」

「……」

「【二】と【ン】の左側の点を無くしたものを上下で合わせると、【ラ】。3つ合わせると……【サクラ】!!」


 のり子はさくらにダイイングメッセージの真の意味を突き付けた。心美が死の直前に残したメッセージは、いつも教室で一緒に笑い合っていた友人の名前だったのだ。だからこそ、心美は大粒の涙を流した……


「もう逃げられないよ、さくら。あなたこそがこの一連の連続殺人の黒幕、【生贄の主】なの!!」


 のり子はさくらを指さし、大声で真実を告げた。黒幕の化けの皮は剥がれた……のり子はさくらの顔をずっと見つめている、さくらは沈黙を守っているが……


「……ふふふ」


 先程と同様に、さくらが笑い始めた。でも……何かが違う。のり子はさくらが纏う雰囲気が様変わりし始めているのを肌で感じ取った。これは……恐怖?


「あはは、さすがだねのり子。やっぱり凄いよ、私が見込んだだけはある」


 のり子は背筋が急激に寒くなるのを感じた。寒いなんてレベルじゃない、凍てつくような極寒……普段の春の陽気のような温かい雰囲気とは全く正反対。これが……さくらの本性だというの?


「さくら……なの?」

「当たり前じゃない、何を言ってるの?」

「だって、いつものさくらは穏やかで、温かくて……」

「そんなの演技に決まってるじゃない。それよりもさ」


 さくらは凍てつくような極寒の雰囲気を纏いながら、暗黒の笑みを浮かべた。のり子はただただ混乱していた、目の前にいる人物がさくらだと受け入れることが出来ない、のり子の知っているさくらはもうそこにはいなかった……


「織絵ちゃんが襲われた事件の全貌は分かったの? 謎が多かったでしょ、あの事件」

「……織絵ちゃんを刺した後、思ったより早くすみれが来たから三咲はまだ現場近くにいた。それですみれの口から織絵ちゃんがまだ生きていることを知り、逃亡した」

「ふむふむ」

「今までと違って教室で織絵ちゃんを襲ったのは、織絵ちゃんがすみれと一緒に下校し始めたから。いりすちゃんと一緒に下校する場合は別れた後に襲えるけど、すみれと織絵ちゃんは同じ家に帰るからそれが出来ないしね」

「でも三咲が織絵ちゃんを襲えたのは、織絵ちゃんがたまたま自分の教室に忘れ物を取りに行ったからでしょ? そんな偶然に賭けるのは」


 それは確かに謎だった。さすがに忘れ物を予想することは出来ない。しかし……教室に誘導することならできる。


「偶然じゃないよ。三咲は織絵ちゃんにバレないように物陰からこう言えば良い、『明日の英語の抜き打ちテスト、嫌だな~』ってね」

「……」

「別に英語でも国語でも数学でもいい、誰が言ったかとか何だか怪しいとかもどうでもいい。とにかく、明日抜き打ちテストがあるということを匂わせればいい。そうすると、普段教科書を机に入れっぱなしの織絵ちゃんはどうする?」

「……家でテスト勉強するために、教科書を取りに1年E組に行く、かな」


 言ってしまえば、織絵ちゃんのちょっとルーズなところを利用した心理トリックだ。織絵ちゃんのことをよく分かっているさくらが考え付きそうなやり方である。


「そういうこと、織絵ちゃんにも聞いて確認済だしね。誰の声だったかは覚えてないみたいだけど、それこそ事前に声を変えて録音しておいても良いわけだし」

「お見事、その通りだよのり子。三咲も結構手際よく殺人をこなしてくれてたんだけど、織絵ちゃん殺害を任せたのは失敗だったかな、ちょっと楽しみすぎて手元が狂ったんだろうね」


 さくらはまるでゲームで敵キャラを倒すみたいに、楽しそうに犯行を語った。分からない……今のさくらの考えていることが、のり子にはまるで分からなかった。いや……分かりたくなかった。


「……三咲の遺書に書いてあった破壊願望ってのは、本当なの?」

「うん。あの子は元々人付き合いとか青春とかに抵抗があってね、むしろそういうのを盛大に壊したいって思ってた。でも機会がない、だからこそ殺人ゲームに誘ったの。最初は殺人に抵抗があったけど、私が第一の殺人でお手本を見せたら嬉々としてやるようになったよ」

「……何て恐ろしい」

「本当は織絵ちゃんも私が担当する予定だったんだけどね、三咲が『すみれが最愛の妹を殺されてどんな顔するか見たい』って駄々こねるものだから、仕方がなく譲ったの。まあ、結果的に失敗だったけどね。ちゃんと織絵ちゃんを殺せていたら、遺書の件で三咲が自殺じゃないってことがバレることもなかったわけで」


 三咲が現場付近にとどまっていたのは、そういう理由もあったのか。何て身勝手で外道な理由だろうか……のり子は三咲に激しい憤りを抱いた。しかし……その破壊願望を実際に殺人にまで誘導したのは、さくらなのだ。同情の余地は一切ないが、三咲も被害者の一人と言えるのかもしれない。


「……三咲に共犯を断られたら、本当に萌希を誘うつもりだったの?」

「そうだね、基本はのり子の言った通りだけど……途中で三咲が犠牲者の繋がりと【いけにえのぬし】【えのおとみさき】の2つのワードに気付いた場合の保険って意味もあったよ」

「保険……?」

「そうなった場合、三咲は行方不明扱いにして殺して、萌希にすべての罪を着せて自殺に偽装して殺すつもりだったの。まあ、結果的に三咲は気付かなかったけどね」


 保険……何を言ってるんださくらは。全く罪のない人一人の命を、そんな玩具を買い替えるみたいに……


「……いりすちゃんをスケープゴートにしたのはなぜ?」

「ああ、それはね、殺人ゲームをより楽しむためだよ」

「……は?」

「ターゲットを決める時、織絵ちゃんは絶対入れたいなって思ったの。あんなに可愛くて良い子、なかなかいないからね。で、偶然にも生贄を英訳したサクリファイスといりすちゃんの名前がアナグラムで一致することに気付いてね、これはって思ったんだ。天真爛漫な可愛い後輩の親友が犯人、凄く面白い展開でしょ?」

「……いい加減にして」


 のり子の中の積もりに積もった怒りが、遂に頂点に達した。いや、頂点などとっくの昔に超越している。


「さっきから聞いていればゲームだの保険だの面白い展開だの……人の命を何だと思ってるのよ!!!! 友達に悪戯するのとは全く違うのよ」

「……同じだよ」

「え……」

「私にとっては同じ。友達を殺すのも、友達に悪戯するのも」


 さくらは凍てつくような極寒の雰囲気を纏いながら、悪魔の笑みを浮かべた。


「私の行動原理はシンプルだよ。楽しいか否か、面白いか否か、それだけ」

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