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生贄の主殺人事件㉑(黒幕の正体)

 のり子は公園に向かっていた。もちろん……一連の連続殺人の黒幕と会うためだ。事前に連絡を取り、二人で会う約束をした。静かだ……人を見かけない。時間が時間というのもあるが、犯人が判明し自殺した(ということになっている)とはいえあれだけの大量殺人が起きたのだ、外に出ようと思う人が極端に少ないのも無理はない。黒幕と話すには都合がいいが。


「今井刑事、すいません。でも……今回ばかりはわがままを言わせてください」


 警察でもない女子高生が一連の連続殺人の黒幕に一人で会いに行く、とんでもない話だ。誰がどう聞いても自殺行為である、そんなことはのり子も重々承知だ。それでも……こればかりは譲れない、絶対に自分の手で決着をつけないといけない。のり子の心の中はそんな強固な決心と……悲しみで溢れていた。


「……いた」


 公園に着くと、既に黒幕はいた。変わらない……普段学園で見る雰囲気と。しかし、その中に隠しているのは冷酷非道な殺人鬼【生贄の主】の姿である。始めよう……この事件のフィナーレを。


「早いね」

「暇だったし。それで、話って何?」

「……分かってるでしょ。一連の連続殺人の、真相を話すためだよ!!」

「真相って……犯人が自殺して終わったんでしょ?」

「それは偽りの真相だよ。確かに三咲は犯人の一人だけど、殺されたの。この事件の……黒幕にね!!」


 のり子は黒幕に向かって強い口調で告げた。全く動じる様子はない……むしろ余裕綽々な感じだ、向こうからすれば予想通りなのだろう。


「黒幕ねえ……面白いとは思うけど、理由は?」

「三咲の遺書だよ、警察に追われてるのになぜかパソコン書きだった。家には帰れないし、ネットカフェは危険。手書きで十分なのにそうした理由は、筆跡鑑定されるとまずいから。つまりは……もう一人犯人がいたってこと」

「事前に書いておいたって可能性は?」

「ないよ、事前に織絵ちゃんを殺し損ねることを前提で遺書書くわけないでしょ。つまり、あれは織絵ちゃんを殺し損ねたことを確認してから書いたものってわけ」


 ふ~んと人差し指を口に当て、黒幕は笑みを浮かべた。状況を楽しんでいるように見える、このくらいは解けて当然かなという表情だ。


「そもそも、犯人が自分が犯人だってメッセージで伝えるわけがないしね」

「メッセージ?」

「犠牲者の名前の頭文字と語尾を並び替えて繋げると、それぞれ【いけにえのぬし】と【えのおとみさき】になるの。三咲はそれを知らずに殺していただけ、黒幕は最初から三咲にすべての罪を擦り付けて自殺に偽装して殺すつもりだったのよ。犠牲者を選んだ基準も、それらのワードを完成させるために必要な名前を持っているかどうかってこと」

「なるほどねえ、随分と凝った演出というか」


 自分がすべて企んだことなのに、白々しい……のり子は黒幕に憤りを感じながらも、深呼吸し冷静さを保った。


「だけど、三咲が織絵ちゃんを殺し損ねたことで計算が狂った。織絵ちゃんの生死を確かめないことには遺書が書けない、内容が変わってしまうからね。警察に追われている三咲は病院に行けないから無理、可能なのは……病院に行った面子と私が織絵ちゃんが助かったと連絡をした面子だけになってしまった」

「その面子って?」

「すみれにいりすちゃん、そしてさくらと詩乃と萌希の5人だよ」

「……とても信じられないけど、それが真実なんだね」


 しっかりと悲しむふりも忘れないか……簡単には尻尾は出してくれないようだ。ならば……こちらから捕まえに行くまで!!


「ええ。で、ここで鍵となってくるのは、さっき言った犠牲者の名前の頭文字と語尾を並び替える件だけど、実は【えのおとみさき】を並び替えると【みのさとおえき】で、ほとんど萌希の名前になるの」

「それじゃあまさか……犯人は萌希!?」

「名前を変えることは出来ないから、あくまでこれは偶然だよ。だけど、それを黒幕は利用しようとした。つまり、もし共犯の誘いを三咲が断ったら三咲を殺して代わりに萌希を誘うつもりだった。その場合は、犠牲者の語尾を【お】から【も】に変更する必要がある」

「……」


 黒幕は言葉を発さず、のり子の推理を黙って聞き始めた。どういう意図があるのか分からないが……のり子は手を緩めずに話を続けた。


「語尾が【お】の犠牲者は塩部珠緒、もし萌希を誘う場合はその子の代わりに語尾が【も】の清水美雲って子を殺すつもりだった」

「……」

「彼女は言ったの、ある時期を境に身近でよく見かけるようになった子がいたって、下校時にも見かけたって。黒幕は事前にターゲットについて調べてから殺害している。つまり……彼女が見かけるようになったその子こそ、黒幕ってことになる」


 遂にここまで来た、のり子の心臓がバクバクと大きく鳴り始めた。黒幕は目の前にいる人物で間違いない、しかし……いざそれを告げるのは怖かった。その瞬間、完全に答えが確定してしまう。黒幕であってほしくない……そういう思いがのり子の中にはまだ僅かにあった。


「その子の特徴は……セミロングの黒髪を二つ結びにし、温和そうな雰囲気を持っている。顔写真も見せたけど、一致したわ」

「黒幕の正体は……正体は……」


 辛い……あまりにも辛い……理不尽すぎる現実に、のり子は俯き大粒の涙を流した。こんな時に何をしているのか、愚かだということは十分すぎるほど分かっている。しかし……感情を抑えることが出来ない、今までのり子を支えてきたものが……崩壊しようとしている。


「どうしてよ……どうしてなのよ……さくら!!!!」

「……」


 黒幕の正体は……星嶋さくら。酷い……酷すぎる……こんな結末ないよ。のり子は目の前に佇む親友に、やり場のない怒りと抑えきれない悲しみを大声で伝えた。


「ふふふ……」

「さくら……?」

「あはは、面白いこと言うね、のり子。私が黒幕かあ、でもさすがに身近で見かけただけじゃ根拠として弱くない?」

「……」


 さくらはあくまで余裕の態度を崩さない。のり子は涙を拭き一度深呼吸をし、心を落ち着けた。感情に支配されてはいけない、自分を取り戻しのり子は推理を再開した。


「根拠はまだあるよ。前にさくらに【生贄】についてのイメージについて聞いたよね?」

「うん、【サクリファイス】って答えたけど」

「思えば、それは並び替えるといりすちゃんの名前になるっていう推理に誘導するためだったんだね。最も、萌希が言っていたけど生贄は英訳すると【スケープゴート】にもなるから、いりすちゃんは白ってことになる、あくまで三咲を自殺に偽装して殺すまでの目くらましみたいなものかな」


 なぜいりすちゃんをスケープゴートに選んだのかは正直、分からない。結果として織絵ちゃんがすみれと一緒に下校することになり、狙いづらくなっただけに疑問だ。


「他に三咲が【神】、詩乃が【何かを得るために、何かを犠牲にする】って言っていたけど、前者は三咲がさくらを神のように崇めてた、後者は【いけにえのぬし】と【えのおとみさき】ってワードを得るために、ターゲットの子に犠牲になってもらったってところかな。本当、色々な意味を込めて【生贄の主】って二つ名を名乗っていたんだね、さくら」


 犯人の二つ名一つに、これだけ色々な意味が詰め込まれていたのは驚くしかない。まさに黒幕であり、支配者である。


「私は別にそんなこと考えてないけどね、パッと思いついたこと言っただけだし」

「言った内容じゃないよ、問題は私が尋ねた時の反応」

「反応?」

「他の子は【生贄】って言ったら驚いていたのに、さくらは全く驚いていなかったよね? あの時はそれほど気にしなかったけど、考えてみたらそれはさくらが【生贄の主】なんだから当然であって」

「……へえ」


 犯人の一人である三咲でさえしっかりと驚いた演技をしていただけに、さくららしくないミスと言えばそうである。【サクリファイス】と伝えるのに意識を取られていたのだろうか。


「状況証拠としてはアリかもしれないけど、やっぱり断定するにはもう少しじゃないかな。物的証拠がないと」

「……あるよ、物的証拠」

「……面白いね、見せてみて」


 これが最後のカードだ。心美が残してくれた、とっておきのカード。心美の為にも……詩乃のためにも……これでとどめを刺す。


「さくら、これで……終わりよ!!」

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