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生贄の主殺人事件⑳(受け入れられぬ真実)

 のり子は切り出し方に悩んでいた。『一連の連続殺人で、もしかしたらあなたが狙われていたかもしれません、何か怪しい人物知りませんか?』などと言えるはずもない。ここは相手に失礼かもしれないが……


「その……殺された塩部珠緒さんと、仲良かったんですか?」

「ええ、それなりには。でも、どうして?」

「先程も言いましたけど、私も大切な友人を亡くした身でして。美雲さんは珠緒さんと仲が良かったって話を聞いていたんで、心の整理の仕方などを聞けたらなと」


 正直、かなり苦しい言い訳だ。それなら同学年の子や後輩の方が聞きやすい、そもそもクラスメイトに聞けって話である。


「……正直、今も心の整理は出来ていません。毎朝教室に来ると珠緒の席を見てしまって……今日はもしかしたらあの子が席に座って微笑んでいたりしないか、そう思ってしまうんです」

「……すいません、何だか辛い思いをさせてしまったみたいで」

「ううん、いいの、それは私だけじゃないんですから。あなたは頼りになるだけじゃなく、お優しいんですね」


 物腰が柔らかく、包容力のある人だ、頭も良さそうに見える。おそらく私の言い訳も見抜いているのだろう、その上で気付かないふりをしてくれているか……


「珠緒さんは、何か変わったことを言っていませんでしたか? 誰かに監視されていたとか」

「特には聞いてないわね」

「そうですか……では、美雲さんはどうです?」

「私、ですか?」

「珠緒さんの友人で傍にいた美雲さんなら、あるいはと思いまして」


 美雲がのり子の目をじっと見つめてくる。普通に考えたらかなり怪しい質問だ、事件は既に犯人の自殺で幕を閉じた(ということになっている)のに、犠牲者の近況にあれこれ聞いてくるのである。


「まるで探偵さんみたいですね、のり子さん」

「それは……」

「まあ、良いわ。そうね、監視とまではいかないけど……ある時期を境に身近でよく見かけるようになった子ならいるわね。下校時にも見かけたし」

「そ、それはどんな子ですか!?」

「名前は分からないけど、見た目の特徴としては……」


 美雲はその人物の特徴を話し始めた。それを聞いたのり子は……顔が青ざめ、意識が一瞬飛んだような気がした。


「え……」


***


 3年F組をあとにし、のり子は再び図書室に向かっていた。しかし、未だに放心状態のままだった。もちろん身近で見かけるようになっただけで、犯人扱いはできないが……


「……そうよ、それだけじゃ分からない。何か決め手になるものがないと」

「何の決め手?」

「わっ!! ……なんだ、萌希か」

「もう、ボーっとしてるなんて、のり子ちゃんらしくないなあ」


 いつの間にか図書室に着いていたのか。調べることはすべて調べたから、あとは帰るだけなのだけど……そういえば、萌希にはまだ生贄についてのイメージを聞いてなかったな、せっかくだから聞いてみるか。


「萌希はさ、生贄って聞いて何を思い浮かべる?」

「い、生贄!? どうしたの、急に」

「いやいや、萌希だってボーっとしてるじゃん、そんなに驚いて」

「してないよ、ボーっとなんて。そんなこと聞かれたら、驚いて当然でしょ」

「まあ、そうだよね……!!??」


 その瞬間、のり子の頭の中の記憶のピースが一気に合わさった。これは……まさか……まさかまさかまさか!!!!


「どうしたの、何かお化けでも見たような顔して」

「あ……ううん、何でもない」

「そう? で、私としては生贄って聞くと、イメージとしては」


 萌希が生贄のイメージについて話し始めた。それを聞いたのり子は……先程よりも更に顔が青ざめ、意識がしばらく飛んでいた。


「ちょっとのり子ちゃん! のり子ちゃん!」

「あ……ごめん、でも生贄って確か」

「まあ、多分のり子ちゃんが思い浮かべている方がメジャーだと思うけどね。そういう解釈もあるわけで」

「……」


***


 放課後になり、のり子は学園をあとにした。足元はおぼつかず、フラフラしている。正直自分でも今、何を考えているのかはっきりしない。美雲と萌希からの情報でのり子の頭の中に浮かんだ一つの仮説……


「違う……違う……違う違う違う!!!!」


 のり子は懸命にその仮説を拒絶した。正しい正しくないじゃない、それを受け入れられない……否定しようと必死に考えるが、考えれば考えるほどその仮説が強化される気がする。


「……今の私はおかしいんだ、疲れてるんだ……織絵ちゃんのところに行こう」


 太陽のように天真爛漫な織絵ちゃんに会えば、きっと正常な自分に戻れる。すがるように、のり子は織絵が入院している病院に向かった。


「今日も来てくださって嬉しいです、のり子さん!!」

「うん……こんにちは、織絵ちゃん」

「あれ、何か元気ないですね?」

「そんなこと、ないよ。すみれといりすちゃんは?」

「お姉ちゃんは結構前に来て、帰りましたよ。いりすは部活後でしょうね」


 どんだけ行動が速いんだ、あのシスコンお姉ちゃんは……と呆れながらも、のり子は織絵との会話を楽しんだ。やはり織絵ちゃんと話すと癒される、来てよかったとのり子は思った。


「そういえば聞きましたよ、のり子さん。私を襲った榎音三咲さんって人、自殺したって」

「……うん」

「何か私としては納得いかないんですよねえ。あの人、完全に狂ってましたもん。私を殺すのを楽しんでましたし、私が怖がったり命乞いしたら逆に興奮してましたし。犯人だとバレて自殺するような人にはとても見えなかったです」


 やっぱりそうか……三咲は自殺じゃない、これでもう確定だろう。ほぼ間違いはないと思っていたけど、これで最終確認が取れた。


「まあ、そこは警察が調べた結果だからね」

「そうなんですかねえ……あ、そうだもう一つ、例のダイイングメッセージですけど」


 そういえばその謎も解けていなかったか。もしこれが解ければ……例の仮説を否定することが出来るかもしれない、のり子は必死な気持ちを抑えつつ、織絵に聞いた。


「何かわかったの?」

「まあ、犯人が自殺した今となっては意味ないのかもしれないですけど……【ケガニン】じゃないような気がするんですよね」

「というと?」

「だって、何だかところどころ擦れてて、字として成立してるか怪しい感じじゃないですか。【ケ】の字は棒が出てるのか出てないのかはっきりしませんし、【ガ】の字も縦棒の位置とか長さとか妙に不格好ですし、【ン】に至ってはなぜか【二】の下にありますし」


 確かに言われてみると、その辺りは随分曖昧というか、どうとでも取れそうな感じがする。絵具みたいに筆にたっぷり絵具を付けて書くわけではなく、あくまで指に付いた血で書くんだから仕方がないのだが。


「あと、【ガ】と【ン】の点、妙に濃い感じしません? どこか丸っこいですし」


 確かにそうだ、他はところどころ擦れているのにここだけ妙に濃くて丸っこい。書いたというより、むしろ……!!??


 その瞬間、のり子の心は完全に凍り付いた。どうして……どうして……どうしてどうしてどうして!!!! もう……もう……受け入れるしかないじゃないか、あの仮説を。


「のり子さん! のり子さん! どうしたんですか、のり子さん!」

「……織絵ちゃん、一つお願いがあるの」

「何ですか?」

「織絵ちゃんの満面の笑み、見せてくれないかな?」

「そのくらいでしたら、お安い御用です、はい!!」


 その瞬間、太陽の光が射し込む向日葵畑のような満面の笑みを織絵は見せてくれた。今ののり子の心を救えるのは理屈でも科学でもない、温かい人の心だ……織絵が持つ天性の魅力、それがのり子の凍てついた心を溶かしてくれた。


「……ありがとう織絵ちゃん、これで私……前に進めるよ」

「よく分かりませんけど、のり子さんのお力になれたのなら幸いです!!」

「じゃあね織絵ちゃん、今日はもう帰るよ」

「……来て、くれますよね? また」


 織絵が心配そうにのり子に問いかけた。


「織絵ちゃん?」

「今ののり子さん、何だか凄く脆い感じがして……触れたら壊れてしまいそうで」

「……大丈夫だよ、織絵ちゃんにあれだけの元気貰ったんだから。明日も来るよ」

「……絶対、ですからね?」


 織絵は『約束破ったら、許しませんから!!』と言っているような目でのり子を見つめてきた。こんな可愛い妹を泣かせることは出来ない、のり子は更なる元気を得て病室を出た。


***


 病院を出ると、のり子は今井刑事に電話をかけた。


「もしもし」

「今井刑事……黒幕の正体、分かりました」

「……何だって!!??」


 今井刑事はスマホのスピーカーが壊れそうなほどの大声をあげて驚いた。まあ、内容からして無理もないが。


「だ、誰なんだ!?」

「……それはまだ言えません。今から私……その人に会ってきます」

「何だと!? 何を言ってるんだ、危険すぎる!!」

「分かってます。でも……今回ばかりは譲れません。この事件の黒幕は、私の手で捕まえないといけないんです……絶対に!!」

「しかし……」


 あまりに無茶なことを言っているのは重々承知だ、今井刑事が止めるのも当然だろう。だが……これだけは絶対に譲れない、のり子の決意は岩よりも硬かった。


「スマホを通話状態にしたままで黒幕と話します、それをスピーカー機能をオンにして録音してください。そうすれば自供になりますし、そっちに証拠として残りますから」

「……本来なら到底認めることは出来ないことだが、そこまで君の決意が硬いのなら、止められん」

「ありがとうございます」


 こんな事態になっても、のり子の気持ちを尊重し心配してくれる。本当に……良い刑事に出会ったものだ、のり子は今井刑事に心の底から感謝した。


「だがのり子君、一つ約束してくれ。絶対に……生きて帰るんだ」

「分かってます、可愛い妹と約束しちゃったんで」

「うむ。では……頼むぞ」

「はい」


 のり子は通話状態のままスマホをポケットにしまい、歩き出した。目指すは……黒幕がいる場所、この事件の終着点だ。

読んでくださり、ありがとうございました。


次回から解答編に入ります。『生贄の主』こと、この事件の黒幕は誰でしょうか?


みなさんも推理してみてください。

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