表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/143

生贄の主殺人事件①(女子高生な名探偵)

「ちょっと、誰よ私のジュース飲んだの。楽しみにしてたのに」


 朝の教室に、野咲心美(のざき ここみ)の声が響き渡った。


「私は知らないわよ、自分で飲んで忘れちゃってるとかじゃないの?」


 彼女の友人の高原詩乃(たかはら しの)が呆れた様子で答えた。大雑把な心美のことだ、いつものうっかりだろうと言いたげな表情を詩乃は浮かべた。


「ないない、ちゃんと半分以上残したの覚えてるし。詩乃こそ、今日遅刻しそうになって走ってきたじゃない。喉乾いてこっそり飲んじゃったんじゃないの?」

「そんなことしないわよ、もう」

「ま、まあ落ち着いて二人とも」


 クラスメイトの蓑里萌希(みのさと もえき)が二人をなだめた。と、そこに栗色のミディアムくらいの長さの髪をした子が教室のドアを開けて入ってきた。


「朝から何の騒ぎ?」

「あ、のり子。聞いてよ、詩乃が私のジュース盗み飲みしてさ」

「だから、私はやってないって!!」


 河澄のり子(かわすみ のりこ)は頭を抱えた、そんなことで言い争いしていたのかと。ジュースくらい自動販売機でまた買ってくればいいものを。


「あはは、のり子の気持ちも分かるけど、ここははっきりさせないと収まらないと思うよ?」

「はぁ……分かったわよ、さくら」


 乗り気じゃないのり子の背中を押したのは、彼女の友人の星嶋さくら(ほしじま さくら)

セミロングの黒髪を二つ結びにした温和な子であり、場を和ましたり調整したりするのは彼女の十八番である。


「これがそのジュース?」

「そうよ、詩乃は私が飲んで忘れちゃってるとか言ってるけど、絶対そんなことないし」


 のり子はジュースのパックをじっくり観察した、同時にクラスメイトの子達のこともだ。……なるほど、そういうことか。


「そうだね、確かに心美が忘れてるってことはなさそう」

「どういうこと?」


 詩乃が黒いロングヘアをなびかせ、不思議そうにのり子の顔を覗き込んできた。


「そこに食べ終わったお菓子の箱が入ったビニール袋があるでしょ。詩乃はもしパックのジュースを飲み終えたらどうする?」

「そりゃ、ビニール袋に一緒に入れて捨てるけど……あ!!」

「そ、心美が飲み終えたならビニール袋に入れてるはずでしょ、でもそうじゃない。まあ、一度出したのかもしれないけど、ビニール袋にジュースの水滴も付いてないしね」

「確かに、パックジュースってビニール袋に入れると飲み終えたものでも案外付くよね」


 さくらが腕を組んでうんうんと頷く。


「ほらみなさい、やっぱり詩乃の仕業じゃない!!」

「だから、違うって!!」

「その通り、詩乃が飲んだわけでもないよ」

「へ?」


 心美が茶色のボブカットの癖っ毛を揺らしながら、きょとんとしている。


「詩乃さ、今日いつもより濃いめの口紅付けてるでしょ。もし詩乃が飲んでたら、口紅がストローに付いてるはずなんだよね」

「で、でも拭いたかもしれないし」

「だったら心美の口紅も拭き取られているはずでしょ、でも見たところ心美の色の口紅しか付いてないし」

「た、確かにそうだけど」

「でしょ? でも、そうなると一体誰が……」


 心美がバツが悪そうに頭をかく一方で、詩乃が不思議そうに首をかしげた。


「ストローの周辺見てみて、何か赤っぽい粉が付いてるでしょ」

「本当だ。これは……唐辛子かな?」

「そうだね。で、萌希?」

「えっ!! な、何?」


 唐突に話を振られ、萌希はビクッと肩を震わせた。


「制服の袖に付いてる、その赤い粉は何?」

「そ、それは……」

「まさか萌希……あなたが? 口紅も私と似た感じの色だし」

「まあ大方、朝唐辛子系のスナックを食べて、水飲んでも辛さが収まらずに心美のジュースを思わず飲んじゃったってところでしょ」


 そもそも朝からスナック菓子食べるなって話だが、実際夜とか朝に食べるお菓子は美味しいからなあ。真面目な萌希にも背徳感はあるんだと、のり子はしみじみ感じた。


「うう……ご、ごめんなさい!!」

「はぁ、まさか萌希だったなんて」

「全部のり子ちゃんの言う通りです。心美ちゃんに悪いとは思ったんだけど、つい」


 萌希が黒い三つ編みを手でいじりながら、申し訳なさそうに告白した。


「もう良いよ萌希、そういう事情があったわけだし。で、辛さは収まったの?」

「実は……まだ」

「萌希、唐辛子系の辛さは水じゃ収まらないよ、むしろ辛さを広げちゃうだけ。牛乳とかヨーグルトとかがお勧めだよ」


 さくらがひょっこり出てきてアドバイスした。相変わらず気遣いの出来る子だと、のり子は感心した。


「あ、ありがとうさくらちゃん」

「それじゃ、一緒に自動販売機行こうか萌希。私の分もお願いね」

「う、うん!! 本当にごめんね心美ちゃん」

「へーきへーき。それと……ごめんね詩乃、疑って」

「気にしない気にしない。それじゃ、行ってらっしゃい」


 心美と萌希が一緒にジュースを買いに行った。心美と詩乃も問題なさそうだ。ちょくちょく喧嘩はするけど、何だかんだでこの2人は仲がいいのだ。こうして、朝の時間帯に起きた小さな事件は解決したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ