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生贄の主殺人事件⑱(黒幕)

「三咲が……自殺?」


 どういうこと? 三咲が犯人だというのはもう間違いないだろう、今井刑事に今までの犠牲者の名前の繋がりから【生贄の主=榎音三咲】だということが分かったことは既に伝えてあるし、何より襲われた織絵ちゃん本人の証言が決定的だ。


 もう逃げきれないと判断し自殺、確かに筋は通っている。だけど、逆に言えば【あまりにもよく出来すぎている】。そもそも織絵ちゃんが襲われてからまだ一日も経っていない、逃げ切れないと判断するにはあまりに早急すぎる。


「のり子君! 聞いてるか、のり子君!」

「あ……すいません、今井刑事」


 落としたスマホから今井刑事の声が聞こえ、のり子は慌ててスマホを拾い上げた。


「自殺って……本当なんですか?」

「ああ、死亡推定時刻は深夜3時~4時の間、場所は公園だ。服毒自殺で、遺書もあったぞ」

「遺書、どんな内容でした?」

「遺書を写真に撮ったものがあるから、今から読むぞ」


『一連の連続殺人の犯人はこの私、榎音三咲です。私は元々破壊願望があり、色々な物を破壊して楽しんでいましたが、物だけでは満足できなくなっていました。人間を破壊したい、その願望に逆らえなくなり、今回実行に移しました。


 より楽しめるようにゲーム方式でターゲットを決めることにし、【生贄の主】を名乗って行う殺人ゲームは私の願望を十分すぎるほど満たしてくれました。ですが7人目のターゲットを殺し損ね、その子の証言から私が犯人だとすぐにバレるでしょう。もう殺人ゲームは終わりです、警察に捕まるくらいなら私は死を選びます』


「破壊願望……」


 のり子はいりすから聞いた、三咲が花壇を踏み荒らしていたという話を思い出した。あれは三咲が破壊願望を満たすために、自分で花を育て自分で踏み荒らしていたということなのだろうか。さすがにここまで一致すると、三咲の犯行の動機に間違いはないだろうけど……


「確かに状況から見ても自殺が濃厚でしょう、動機に関しても私が調べた彼女の過去の行動にも合致します」

「となると、これで事件は解決か。あまりにも後味の悪い事件だったな……こんな身勝手な動機で何の罪もない多くの少女達が命を落とすことになるとは」

「……今井刑事、私はこれで事件が終わったとは思えません」

「何だと!? 自殺じゃないというのか?」

「はっきりとした根拠はありません。ですけど、どこか違和感を感じるんです」


 状況があまりに良く出来すぎていること、逃げ切れないと判断するのは早急すぎること、それをのり子は今井刑事に伝えた。更にもう一つ、のり子は確認しないといけないことがあった。


「遺書って、何で書かれてました?」

「パソコンだな」

「……変ですね、警察に追われている身でどうやってパソコンで遺書を作るんです?」

「た、確かに。家には行けないし、ネットカフェで作ったとも考えられるがわざわざそんな手間をかける必要性がない」

「逃亡者がネットカフェを使うのは警察も予測できるので、危険でもありますしね。なのに手書きではなくパソコン書きにした理由は……一つしかありません」

「筆跡鑑定されたらまずいから、か」

「そう、つまり三咲は自殺したんじゃなく……自殺に偽装して殺されたんです!!」


 そう考えればすべての辻褄が合う。要はこの一連の連続殺人の犯人は2人いて、三咲が織絵ちゃんを殺し損ねたことでもう一人の犯人が警察に犯人だとバレるであろう三咲を自殺に偽装して殺害した、そういうことだろう。いや、もしかしたら……


「もう一人犯人がいて、そいつが榎音三咲が警察に捕まり自分も犯人だと発覚するのを避けるために自殺に偽装して殺した、というわけか」

「今井刑事、おそらくですが……そのもう一人の犯人こそが、一連の連続殺人の黒幕です」

「何だと、どういうことだ!?」

「例の今までの犠牲者達の名前の頭文字と語尾を繋げた結果、犯人が三咲だと分かった件ですよ。そもそもなぜ犯人が、メッセージで自分が犯人だと伝えるのかという話です、普通は逆でしょ?」


 そうなのだ、普通犯人は自分が犯人だということを隠すもの。なのになぜか今回の犯人は自分が犯人だとメッセージで伝えている。


「ゲーム方式で楽しんでいたからじゃないのか? 榎音三咲の遺書にも書いてあったし」

「でもその遺書は三咲が書いたものじゃないって先程判明しましたし、警察から逃げきれないから自殺する人がいくらゲームとはいえ自分が犯人だってメッセージ残します?」

「た、確かにな。しかし、そうなるとどういうことなんだ?」

「つまり……犠牲者の名前の頭文字と語尾を並び替えると、犯人は三咲だということが判明するということを三咲自身が知らなかったということですよ」

「何だと!?」


 今井刑事は心底驚いたような、素っ頓狂な声をあげた。まあ無理もない、先程まで犯人の三咲が自殺してこの事件は終わり、という流れだったのだから。


「要は誰を殺すかはもう一人の犯人が全て決めて、三咲はその意味も知らずにただ殺人を行っていただけということです。つまり、最初から7人のターゲットを殺し終えたら、もう一人の犯人は三咲を自殺に偽装して殺すつもりだった……」

「なるほど、まさにそいつが黒幕ということか。榎音三咲はその黒幕に利用されたと」

「黒幕にとっての【生贄】、ということでしょうね。まさに黒幕は【生贄の主】ですよ」


 いりすちゃんの証言から、三咲に破壊願望があったのは事実だろう。おそらく黒幕はそれに目をつけて、その破壊願望を殺意に昇華させて殺人ゲームの手駒として操った。そして、最後には罪を着せて葬った……恐ろしく残虐非道な人物だ、黒幕は。


「しかし、一体誰なんだ、その黒幕というのは」

「現時点ではわかりません。ですけど、候補はかなり絞り込めると思います」

「というと?」

「織絵ちゃんの生死に関わらず三咲を殺すつもりだったとはいえ、死んだか否かを確かめないことには遺書は書けません。内容が変わってしまいますからね」

「確かに、死んだのに遺書に殺し損ねたなんて書いてあったら偽装はバレバレだからな」

「つまり、織絵ちゃんが犯人に襲われたこと、結果一命をとりとめたことを知ることが出来た人物に限られるということです」


 そもそも織絵ちゃんが犯人に襲われてすぐにすみれが発見して救急車を呼んだので、織絵ちゃんが犯人に襲われたことを知る人物自体が警察関係者と織絵ちゃんの両親以外、かなり少ない。


「知っているのは、警察関係者に織絵君の両親。榎音三咲は犯行現場で監視していたならば、救急車に運ばれる時点では生きていたことを知ることは出来るだろうが……病院で結果として助かった否かまでは知ることは出来んだろうな」

「ええ、そもそも今回の事件の犯人は学園関係者であり心美の顔見知りです。そうなると、容疑者はたったの5人です」

「5人……」

「私と一緒に病院に駆け付けたすみれといりすちゃん。そして、織絵ちゃんが襲われたけど助かったと私が連絡を入れた、さくらに詩乃に萌希……」


 さくらと詩乃と萌希は私が連絡を入れたから知ることが出来たわけだけど、仮に私が連絡を入れなくても別件で向こうから連絡を入れれば、私は織絵ちゃんが襲われたが一命をとりとめたことを間違いなく話しただろう。


 三咲の死亡推定時刻は深夜の3時~4時の間、家族に内緒で家を抜け出し三咲を殺しに行くのは十分に可能だ。


「5人全員、君の友達……ということか?」

「ええ……残念ですが」


 可能性の一つとして考えてはいた。しかし……一方であり得ないとも思っていた。いりすちゃんの時も、詩乃の時も、疑いながらも受け入れることのできない自分がいた。だけど……もう認めるしかないだろう。


 黒幕は……私の友達の中にいる!!


***


 今井刑事との話が終わり、のり子は学園に向かった。今井刑事には黒幕の存在は世間には伏せるようお願いしてある、事件は解決したと警察は判断したと犯人に思わせて、ボロを出させて黒幕の正体を暴くためだ。


 いよいよここまで来たんだな……思えばこの連続殺人が始まってから、みんなで励ましあって頑張ってきたんだっけ。


 同じ学園の子が次々と殺されていく恐怖をのり子が乗り越えることが出来たのは、間違いなく大切な人達のおかげだった。しかし、その人達の中に黒幕がいたとは……本当に現実とはどこまで理不尽なのだろうか。のり子は悲しい気持ちを抱きつつ、現実と戦う決心を改めて固めた。


「私は……逃げない、この先どんなに悲しい結末が待っていたとしても!!」

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