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生贄の主殺人事件⑯(希望を繋げ)

 スマホのスピーカーが壊れそうなほど大きなすみれの悲鳴を聞き、のり子の心は絶望に満たされた。また大切な人の命が失われるのか……凍り付いたのり子の心はピクリとも動かず、今にも割れて崩壊してしまいそうなほど脆かった。


「織絵!! 織絵!! しっかりして!!」


 すみれの悲しみに満ち溢れた声に、のり子は我に返った。自分は何をしているんだ……何を勝手に希望を投げ出しているんだ。電話先で悲しんでいる親友を、苦しんでいる可愛い妹を救いたいのなら……最善を尽くせ!!


「すみれ!! 織絵ちゃんの状態は!?」

「ひぐ……胸の辺りが血に染まってる」

「脈をとって!!」

「……ある」

「え……」

「僅かだけど脈がある。織絵は……まだ生きてる!!!!」


 生き、てる……? のり子の心は瞬時に解凍され、体が動くようになった。希望がある……ならば、今度こそは……逃さない!!


「すみれ、今すぐに救急車を呼んで!! 私もそっちに向かってるから」

「わ、分かった!!」


 すみれとの電話を切り、のり子は今井刑事に電話をかけた。次にすべきは……三咲を追うことだ!!


「もしもし、のり子君どうした?」

「今井刑事、2年A組の榎音三咲を至急追ってください!!」

「どういうことだ?」

「彼女が一連の連続殺人の犯人の可能性が高いんです!!」


 織絵ちゃんがまだ生きているということは、襲われてからそれほど時間が経っていないということ。ならば、まだ学園内や学園周辺にいる可能性が高い。包囲網を敷けば、捕まえることが出来るかもしれない。


「何だと!? どうして分かったんだ?」

「6人の犠牲者の繋がりを調べたら分かったんです。今は時間がないので、詳しいことは後で話します、学園に向かってください」

「わ、分かった。しかし、なぜ学園と分かる?」


 当然と言えば当然の疑問か。今までの6件の殺人事件はすべて学園から離れた、人通りの少ない場所で起こったのだから。


「……ついさっき、7人目のターゲットが学園で襲われたんです。幸い、まだ息がありますが」

「な、名前は?」

「1年E組、絵波織絵。私の……親友の妹です」

「何ということだ……分かった、今すぐに学園に向かう!!」


 今井刑事との電話を切り、のり子は学園に急いだ。三咲を追うのは警察に任せる、私は……すみれの傍に行き、2人で織絵ちゃんを励まそう。


***


 のり子は学園に到着し、すみれと合流した。程無くして救急車が到着し、織絵が運ばれていく。のり子はすみれと一緒に救急車に乗り、病院に向かった。


「織絵……織絵……どうして」

「すみれ……」


 救急車の中で、すみれは絶え間なく大粒の涙を流し、織絵の名前を呼び続けていた。すみれが織絵のことをどれだけ大切に思っているか、のり子は痛いほどよく分かっている。それだけに、かける言葉が見つからなかった。


 病院に到着し、織絵は手術室に運ばれていった。しばらくして医師が出てきて、現状を告げた。


「先生!! 織絵は……織絵はどうなんですか!!??」

「幸い急所は外れているんですが、出血が酷いので……今夜が峠かと」

「織絵……うう」


 すみれが涙でぐしゃぐしゃの顔を両手で覆った。今夜が峠……のり子は言葉にできない程大きな不安を胸に抱き、手術室の外ですみれと椅子に座って待つことにした。


「ねえ……のり子。どうして……織絵なの?」

「すみれ?」

「身内贔屓かもしれないけど……織絵程良い子を私は知らない。織絵が傍にいれば、織絵と話していれば、どんな辛いことも乗り越えられる、どんな暗い雰囲気も明るくなる……私は、そう思ってる」


 身内贔屓ではない、と思う。織絵ちゃんはそういう子だ、自然体で人の心を癒し明るくすることが出来る、天性の魅力を持っている。


「私は織絵にずっと助けられてきたの。お姉ちゃんぶってるけど、実は私の方が織絵に頼ってるのも自覚してる。そんな織絵が……どうしてこんな目に遭わないといけないのよ!!!! 酷すぎる……理不尽にも程があるでしょ……」


 すみれは耐えきれないほどの悲しみをのり子に伝え、やり場のない怒りを病院の廊下の空間にぶつけた。改めて知ったすみれと織絵の深い絆、のり子は黙ってそれを聞くしか出来なかった。


「のり子先輩!! すみれ先輩!!」

「いりすちゃん……」


 悲壮な声をあげ、いりすがやってきた。織絵を救うのに夢中で、いりすに連絡をするのが遅れてしまったのだ。いりすちゃんには悪いことをした、のり子は心の中でいりすに謝罪した。


「織絵は、織絵はどうなんですか!!??」

「今夜が峠、だって……」

「そんな……」


 いりすはがっくりと膝をつき、大粒の涙を流した。すがるようにのり子の両肩に手を置き、必死に尋ねた。


「ねえ、織絵助かりますよね!? 死んじゃったりなんか……しないですよね!?」

「……」

「織絵は私の大切な友達なんです!! 織絵みたいな友達がいるってこと、私の自慢で……太陽みたいにみんなに元気を与えられる織絵の隣にいれること、凄く嬉しいんです」

「いりすちゃん……」

「そんな織絵が殺されるなんて……死んじゃうなんて……あっていいわけ、ないじゃないですか!!!!」


 いりすはあまりに理不尽な現実に抗議するように、大声で叫んだ。織絵ちゃんは本当に多くの人達に愛されているんだと、のり子は改めて実感した。そして、そんな織絵の命を奪おうとした犯人に、激しい怒りを抱いた。


「絶対に……許さない!!!!」


***


 どれだけの時間が経ったのだろうか、もはや永遠と感じられるほどその感覚はなくなっていた。のり子もすみれもいりすも、誰も言葉を発しない。ただただ、祈るだけだった。祈って怪我が治るとは思えない、神様なんていないのかもしれない。しかし、すがれるものには全てすがりたい、0%に近くても0%じゃないのならそれに賭けたい……思いは同じだった。


「!?」


 のり子は廊下の遠くから足音が近づいてくるのに気付いた。先程の医師だ、何かあったのだろうか……?


「みなさん、来てください」


 医師に連れられ、のり子とすみれといりすは病室に入った。織絵がベッドに寝ている、目は閉じたままだ。まさか……まさか……


「おり……え?」


 すみれはゆっくり織絵のもとに近づき、手を取り顔を見つめた。のり子と同じ不安を抱いたのだろうか、瞳からすっと一筋の涙が流れた。いりすも同じだった。


「……えちゃん」

「え……?」

「お姉ちゃん」

「……織絵!!!!」


 その瞬間、のり子とすみれといりすの心に太陽の光が射し込んだ。

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