生贄の主殺人事件⑮(犠牲者の共通点)
自宅に帰り、のり子は犠牲者6人の繋がりについて再び考えていた。第7の殺人を防ぐには、次に誰が狙われるかを突き止めないといけない。そのためには、やはり犠牲者6人の繋がりを暴くしかないのだ。
「とは言っても、何度考えてもわからないなあ。共通するのは、私が通っている学園の生徒ってだけだし」
学年、クラス、部活、交友関係、どれもバラバラだ。無差別殺人なのかもしれないが、その割には【生贄の主】などという二つ名を語ったメモを毎回現場に残したり、毎日1人ずつ犠牲者を出したりと妙にこだわっているような面も見受けられる。
「一度最初から整理してみようかな。えっと、第1の犠牲者はこの子で、第2の犠牲者は」
のり子は改めて第1の犠牲者から第6の犠牲者を紙に書いて並べてみた。二原夏野、沼井美琴、石堂渚紗、剣持小秋、塩部珠緒、野咲心美……!?
「まさか!!」
のり子は6人の犠牲者の名前を平仮名に直した。にはらなつの、ぬまいみこと、いしどうなぎさ、けんもちこあき、しおべたまお、のざきここみ。更に頭文字を並び替え、第7の犠牲者の名前の頭文字は分からないので、〇として挿入すると。
【いけに〇のぬし】
「【生贄の主】……まさかこれを完成させるためにターゲットを選定したというの?」
信じられない話だが、偶然にしては出来すぎている。しかし、これだけでは犯人も第7の犠牲者も特定はできない。そもそも頭文字が同じ子などごまんといる、その中でこの子達を選定したのはなぜなのか。他にも何か繋がりがあるのだろうか。
「頭文字、頭文字……。対義語は……語尾?」
のり子はすぐに6人の犠牲者の語尾を並び替えた。第7の犠牲者の名前の語尾は分からないので、やはり〇として挿入すると。
【〇のおとみさき】
「榎音三咲……つまり、三咲が【生贄の主】!?」
そう考えれば、この6人が犠牲者に選定されたのも頷ける。頭文字に語尾、どちらも犯人の二つ名と名前に含まれているとなればかなり絞られるからだ。しかし……この仮説が正しいとしたら、何て冷酷非道な動機だろう。二つ名と名前を完成させるために、何の罪もないたまたま条件に一致しただけの子を6人も殺すなんて。
「こんな……こんなふざけた動機のために心美は!!!!」
のり子は心の底から湧き上がってくる巨大な怒りを抑えることが出来ず、部屋の天井が吹っ飛んでしまいそうなほど大声で叫んだ。怒りに支配されてはいけない、冷静な判断が出来なくなる。のり子はそう自分に言い聞かせ、一度深呼吸をした。
「……三咲が、こんな人の道を外れたようなことをしたっていうの? あのおっとりとした、花壇で花を世話しているような子が」
のり子にはとても信じられなかった。しかし、以前いりすが言っていた花壇を踏み荒らしていた話、そして先日一緒に帰った時のドライな言動……もう三咲は、のり子が知っている三咲ではないのかもしれない。
「……今井刑事に電話して三咲を、ってちょっと待って!?」
確かに三咲を追うべきだが、その前にやることがある。第7の犠牲者として狙われているが誰なのか、だ。【いけに〇のぬし】に【〇のおとみさき】、これらのワードを完成させるために〇に入れるべき文字は……両方【え】だ。犠牲者の学年は、現在1年生が1人に2年生が3人に3年生が2人、バランスを考えると1年生の可能性が高い。
「頭文字と語尾が両方【え】の1年生……!!??」
のり子の頭に想像もしたくない最悪の可能性が浮かんだ。まさかそんなことが……そんなことが……あるわけが。
「絵波織絵……織絵ちゃん!!??」
のり子はすぐにスマホを取り出し、織絵に電話をかけた。呼び出しの数秒が数時間に感じるほど、のり子はあせっていた。『お願い、出て織絵ちゃん!!』、そう願うばかりだった。しかし……織絵は電話に出ない。
「くっ!!」
のり子は織絵との電話を切り、大急ぎで家を出て、学園へ向かった。走りながら、次はいりすに電話をかけた。今、織絵がどこにいるのか、何をしているのか知る必要があるからだ。
「はい、もしもし」
「いりすちゃん、織絵ちゃん今どこにいるの!!」
「ど、どうしたんですか、そんなに慌てて」
「いいから!! 早く教えて!!」
つい大声できつい口調になってしまうが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。時は一刻を争うのだ。
「お、織絵は20分くらい前に部活が終わって、すぐにすみれ先輩のところに行きましたよ」
「すみれのところに……いりすちゃんは今どこにいるの?」
「私はもう下校していますけど。あの……何かあったんですか?」
「ありがとういりすちゃん、事情は後で説明するから」
のり子はいりすとの電話を切り、すぐにすみれに電話をかけた。既に織絵ちゃんと合流していればいいけど、そうじゃない場合は……
「はい、もしもし」
「すみれ、織絵ちゃんは!!」
「お、織絵ならまだ来てないわよ」
そんな馬鹿な……バドミントン部の部室から2年C組まで20分もかかるわけがない。あり得るとすれば途中で違う場所に寄ったかだけど…自動販売機はバドミントン部の部室に近いし、買うだけでそんなに時間はかからない。他にあるとすれば……
「……1年E組、織絵ちゃんの教室!!」
そうだとすればそれなりの距離があるし、忘れ物を思い出して取りに行ったと考えれば辻褄が合う。ただ、そうだとしても20分もかかるとは思えないし、どうして電話に出ないのかが説明できないけど……
「ねえ、どうしたのよのり子、そんなにあせって」
「すみれ、大至急織絵ちゃんの教室に行って!!」
「ど、どういうこと?」
「織絵ちゃんが……連続殺人の次のターゲットかもしれないの!!」
織絵ちゃんがそこにいるという確たる証拠はない。だけど、今は少しでも可能性が高い選択肢にかけるしかない、のり子はすみれに大声で妹の危機を伝えた。
「え……何、それ……冗談はやめてよのり子」
「いいから、早く行ってすみれ!!」
「わ、分かった!!」
のり子のただごとじゃない様子に、悪夢のような可能性を受け入れられなかったすみれも察したのだろう。すみれは織絵の名前を叫びながら、1年E組に向かった。
(お願い織絵ちゃん、無事でいて!!)
のり子は心の中でそう繰り返しながら、全力で学園へ向かって走った。残念だが、まだ学園に着くまでそれなりにかかる、いりすも既に下校中。すみれに、かけるしかないのだ。すみれと通話状態のままスマホのスピーカー機能をオンにし、のり子は走り続けた。
「織絵!! 織絵!!」
悲痛なすみれの叫び声と同時に、ドアを開けたような音が聞こえる。1年E組に着いたのだろうか。のり子の脳裏に、昨晩心美の死体を目の当たりにした時の悪夢が蘇る。もうあんな思いはしたくない……大切な人の死を見たくない……そんな気持ちでいっぱいだった。
「!!!!」
「すみれ?」
すみれが何か恐ろしいモノでも見たかのような声をあげた。のり子の心臓が更に速くバクバクと鳴り、冷や汗が溢れ出てきた。まさか……まさか……
「いやああああああ!!!!!!」
その瞬間、のり子の心は再び凍り付いた。




