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生贄の主殺人事件⑬(涙)

「今井刑事、これってダイイングメッセージじゃないですか?」

「何だと!!」


 心美の指の先付近に血で書かれた文字らしきものがある。ところどころ擦れたり曖昧なところがあるが……【ケガニン】だろうか? 【ン】の字が少し下にあるのが気になるが。


「怪我人……何でしょうか?」

「犯人はどこかに怪我を負っているということか?」

「心美の口や爪に犯人の皮膚が残っていたとかはないんですか?」

「ないな、あればさすがに報告がある」


 となると、元々パッと見で分かる外傷が犯人にあったということだろうか。これはヒントになりそうだ。のり子はもう一つの気になった点を今井刑事に告げた。


「今井刑事、心美の顔を見たんですが……随分大きな涙の跡があったんです」

「涙? 襲われた恐怖や刺された痛みのせいじゃないのか?」

「もちろんそれもあるでしょうが、それにしても大きすぎです。状況からして不意に襲われて刺された感じですし、それだけじゃ説明がつかないんですよ」


 つまり、刺された後に大粒の涙を流したということになる。それが意味することは……悲しいが認めるしかない。


「まさか……」

「犯人は……顔見知りってことです」


 そう、だから刺された後にあまりのショックと悲しさに涙を流した。そして、心美にとって顔見知りということは、のり子にとっても顔見知りの可能性が高い。そうなると、あのことをまずは確認しないといけないだろう。


「今井刑事、朝福いりすの尾行の結果、どうだったんですか?」

「ああ、まだ伝えていなかったな。結果は……白だ。学園を出てから帰宅するまで、そして両親が帰宅した21:00頃まで尾行し見張っていたが特に怪しい行動はなかった。今回の事件のが起こったのが18:00~19:00頃だから、彼女に犯行は不可能ということになる」


 いりすちゃんは犯人ではない……ホッとした反面、なぜ生贄=サクリファイスのアナグラムとして一致したのか気になる。偶然にしては出来すぎだ、違う形で事件に関係しているのだろうか。


「また一から考え直しですね……私、今日はこれで帰ります」

「ああ、お疲れ様。今夜はゆっくり休んでくれ。身体も…心もな」


 今井刑事の気遣いに頭を下げ、のり子は帰宅した。今日は色々なことがありすぎた、今井刑事の言う通りゆっくり休もう。のり子は懸命に強く張っていた心を解除した。今夜は……涙が止まりそうにない。


***


 翌日、のり子は学園に向かい、教室の扉を開けた。覚悟はしていたが……そこは、かつてなく悲しみと不安に満ちていた。心美の机に花瓶が置かれ、多くのクラスメイトがとめどなく涙を流していた。身体をガタガタと震わせ、怯える子も散見された。クラスメイトが殺された、その事実が恐怖のどん底にいざなっているのだ。


「あ……のり子」

「さくら……」

「のり子ぉ!! 心美が……心美がぁ!!」


 さくらがのり子の胸の中で泣き出した。さくらだけじゃない、すみれも萌希も同じように大粒の涙を流していた。怖くはあったがどこか他人事だった今までと違い、大切な友人を失ったという悲しみは彼女達の心に深い傷を負わせていた。


「どうしてよ……何でこんなことになっちゃったの……わけわかんない!!!!」

「……ひぐっ」


 さくらのやり場のない怒りに共鳴したのか、のり子の中に再び昨日の耐えきれないほどの悲しみが蘇る。もうこれ以上は流せないほどの量の涙を流したと思った、しかし今はそれが間違いだと気づいた。今もこうして、大粒の涙が流れてくるのだから。


***


 昼休みになり、のり子は捜査を開始した。辛いがいつまでも泣いてばかりではいられない。心美の為にも、心美の死を悲しむ友人達の為にも、犯人を捕まえないといけない。まずは昨日のダイイングメッセージをヒントに、心美と仲がいい子で怪我をしている子がいないか見て回ってみる。死の間際に分かるくらいだから、それなりに目立つ怪我限定だろう。


「う~ん、いないなあ……!?」


 いた、足にパッと見で分かる怪我がある。でも……まさかそんな……


「ねえ萌希、その足の怪我どうしたの、昨日はなかったよね?」

「あ、これはね、昨日転んで擦りむいちゃったんだ」


 萌希が犯人……いや、これだけで断定はできないし、そもそもダイイングメッセージの解釈が正しいかも現状では分からない。一つの仮説として保留しておくことにしよう。


 次にのり子が考えたのは、今までの犠牲者6人の共通点だ。うちの学園の生徒を狙った無差別殺人と今までは定義づけてきたが、本当にそうなのだろうか。何か繋がりがあるのではないか、もし見つかれば次に狙われる子が分かるかもしれないし、犯人の特定にも役立つかもしれない。


「1年生1人に2年生3人、3年生2人……比較的2年生が多いから次も2年生か、バランスを考えると次は1年生か、う~ん」


 学年はダメか、完全にバラけているから次に狙われる子の学年を特定するのは難しい。クラスも同様だ。あとは入ってる部活とか交友関係とか、これもどうもピンと来ない。心美は帰宅部だったし、他の犠牲者と仲が良かったというような話も全く聞かなかった。


「はぁ、まるで分からない。そもそもいつまで続くんだろう、この連続殺人は」


 犠牲者同士の繋がりが全く掴めないのもそうだが、この連続殺人の終着点がどこなのかも掴めない。快楽殺人だからずっと続くのか、それともどこかで一区切りするのか、本当にこの事件は動機に関しては分からないことだらけだ。何もつかめないまま、時間だけがすぎていくことになった。


***


 放課後になり、のり子は詩乃の席に目を向けた。結局来なかったか……詩乃が来てないことは他のクラスメイトも気にしていたようで、同時に無理もないと理解もしていたようだ。親友が殺されたのだ、外に出る気力など湧くわけがないと。


「……詩乃の家に行ってみようかな」


 詩乃の様子が気になるし、詩乃は心美殺害事件の第一発見者だ、新しい情報を得ることが出来るかもしれない。計6件の殺人事件で、唯一手掛かりらしい手掛かりがあるのがその事件だけなだけに、そこを突破口にするしかない。


「のり子、この後どうするの?」

「うん、詩乃の家に行ってみる」

「そっか……詩乃のことお願い。ごめん、力になれなくて」

「気にしないで、こちらだって織絵ちゃんのこと頼むわけだしさ」

「ありがと、織絵のことは任せて」


 織絵と一緒に帰るために織絵が部活が終わるまで教室で待っているすみれに挨拶をし、のり子は詩乃の家に向かった。さくらもすみれも織絵ちゃんも詩乃も萌希もいりすちゃんも、どうかみんな無事に明日を迎えられますように、のり子はそう祈らざるを得なかった。


***


「本当にありがとう、詩乃のこと心配して来てくれて」

「いえ、お気になさらないでください」


 詩乃の家に着き、詩乃のお母さんに出迎えられた。詩乃の家には過去に数回行ったことがあり、食事を頂いたこともある。詩乃の料理の腕はのり子の知り合いの中では一番だが、お母さんの腕はそれ以上である、詩乃の料理の才能は親譲りなのだろう。


「昨日家に帰ってから部屋から出てこなくてね、ご飯も持っていっても食べようとしないのよ。心美ちゃんが殺されたんだから、無理もないのは分かっているんだけどね……」

「……」

「こういうのは同年代の子同士じゃないと分からないこともあると思うの。詩乃も常々言ってたわ、のり子ちゃんは凄く頼りになるって。だから……お願いできるかしら?」

「はい」


 娘思いの本当に良いお母さんだと思う。詩乃の包み込むような優しさも、親譲りなのかもしれない。


「詩乃、のり子ちゃんが来てくれたわよ」

「……のり子が?」


 小さな声で詩乃の返事が聞こえた、相当にまいっているのはその声色だけで分かる。部屋のドアが開かれ、のり子を出迎えてくれた。


「どうぞ」

「ありがとう、詩乃」

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