生贄の主殺人事件⑪(悪夢)
「私、本当にダメだね。怖い事件がずっと起こってて、みんな悲しくて辛くて、それでも耐えて頑張ってるのに……私だけ弱音吐いて迷惑かけて」
「弱音なんてみんな吐いてるよ。私だって同じ、心美だけじゃない」
「でも、態度に出さないでしょ。詩乃だって本当は辛いと思うんだ。でも、それを表に出さずに私のこと支えてくれて……私、何も出来ないのに」
人への気遣いが出来る本当にいい子だ、のり子は改めて心美のことをそう思った。普段はわがままを言うこともあるが、あくまでそれは思ったことをすぐ言ってしまう性格ゆえのことであり、自分が悪ければしっかり認めて謝り、人一倍そのことを真剣に考える。だからこそ心美はクラスのみんなに好かれているのだろう。
「何もできないなんてことはないよ心美、態度に出してくれるからこそ嬉しいの」
「え……」
「人間相手の考えてることが分からないから、どうしたらいいか分からないことが結構あると思うんだ。心美は態度に出してくれるから、こっちもあれこれしてあげたいと思えるの」
「でも、私はわがまま言ってるだけだよ?」
「誰だってわがままくらい言うし、変に隠されるよりは言ってくれた方が私はありがたいけどね。心美のわがままに悪意はないことは分かってるしさ」
これは詩乃が言っていたことだが、のり子も同感だった。心美は話していてとにかく気持ちがいい、包み隠さず話せるというのはこれだけ良いモノなのだと実感する。それも心美の生来の正直さと優しさがあってこそなのだろう。
「……本当にのり子は優しいね、詩乃も。こんな私を、そういう風に思ってくれるなんて」
「詩乃とはいつ仲良くなったの?」
「1年生の時だね。クラス一緒だったんだけど、私こんな性格だからなかなか友達出来なくてさ」
思ったことをすぐ言ってしまう心美は、確かに誤解されやすいタイプではある。それに悪意がないことや気遣いがちゃんとできる子だということに気付くことが出来れば良いのだが、それが出来ないケースもそれなりにあるのだろう。
「でも、そんな私とちゃんと向き合ってくれたのが、詩乃だったの。避けたりとか適当に合わせたりとかせずに、言うべきことはしっかり言ってくれて時にはぶつかって。それが凄く嬉しかった…こんな子がいたんだなって」
「心美……」
「詩乃は私の憧れなの。頼ってばかりだけど、いつか詩乃に頼られるようになれたらなって思う」
「私は、心美も詩乃も今のままでいいと思うけどな。良いコンビだよ、周りから見ても」
お互い言いたいことを言い、相手のことをしっかり見て尊重しあえる、羨ましいくらい良い関係だとのり子は思っている。詩乃が心美のことを大切に思ってることは本人の口から聞いたし、それを伝えてもいいのだが、やはりこういうのは本人の口から言うべきだろう。
「のり子は本当に凄いな、悩んでいてものり子に相談すれば何とかなりそうな気がするんだよね」
「大袈裟だよ」
「ううん、そんなことない、他の人も言ってるし。本当にありがとうね、のり子」
「お役に立てたなら、幸いかな」
自分が探偵としてまだまだ未熟だということはのり子も自覚しているが、友達に頼りにされて役に立てるのはやはり嬉しい。頑張った甲斐があるというものだ。
「私はもう大丈夫だから、また明日ねのり子」
「帰るの? それじゃ一緒に」
「ううん、あとちょっとだけ休んでから帰るから」
「そっか、それじゃまた明日ね心美」
心美に挨拶し、のり子は保健室をあとにした。もう大丈夫だろう、また明日から心美と詩乃が元気に話してる姿が見れると思うと、のり子の心も自然と弾んだのだった。
***
下校しようとしたのり子の目に、三咲の姿が入った。そういえば、いりすちゃんが言っていた花壇の件については未解決だったか。仮にいりすちゃんが犯人な場合、いりすちゃんの嘘という可能性もあるけど。
「三咲、今から帰り?」
「あ、のり子。そうよ」
「それじゃ、一緒に帰らない?」
「分かったわ」
花壇の件を聞きたいのもあるが、三咲と帰るのも随分と久しぶりなだけに、それを楽しみたいのものり子にはあった。
「今日は園芸部の活動はないの?」
「毎日私だけが世話しているわけじゃないからね、今日は活動に使う備品の買い出しもあるから」
「となると、商店街に寄るの?」
「そうね。だからそろそろ別れることになるけど」
のり子の家と商店街は別方向になる。のり子としては急いで帰る用事もないし、三咲についていっても良いのだが。
「何なら一緒に行ってもいいんだけど」
「悪いけど、一人で行かせて」
「……三咲?」
のり子は少し驚いた。確かに三咲は騒がしいのはあまり好まないし、買い物はゆっくり一人で楽しみたいタイプの可能性もあるからおかしくはないのだが……断るにしても、もうちょっとソフトな言い方をする子だった印象がある。
『前にあの人同じように花壇で見かけたことあるんですけど…花を踏み荒らしていたんですよ』
いりすの言葉が脳裏をよぎる。三咲とは2年生になってからクラスが別になり、少々疎遠になっていた。元々目立って仲が良かったというわけでもないけど……私が知らない間に何かあったのかな。
「ちょっと専門的な店に行くから一緒に来ても面白くないだろうし、時間もかかりそうだからのり子に悪いしさ」
「うん……分かった」
「それじゃ、また」
花壇の件をそれとなく聞こうと思っていたけど、どこか有無を言わさず逃げられてしまった感じがする。もちろん本当に気を使った可能性もあるし、急いでいたのかもしれないけど……どこか消化不良な気持ちを抱いたままのり子は帰路に着いたのだった。
***
家に帰ってから、のり子は先程の三咲のことを考えていた。以前とは違うどこかドライな印象、それにいりすちゃんが言っていた花壇荒らしのこと。一連の事件に何か関係があるのかな。
いりすちゃんと言えば、今日は警察の人が下校時から尾行をしてくれることになっている。今のところ5日連続で殺人事件が起きているだけに、今夜も起きると考えるのが自然で、だけど尾行がいれば事前に防ぐことができる。そのはず、なんだけど。
「何だろう、この胸騒ぎ。嫌な予感が……する」
のり子の心の中は不安な気持ちで溢れていた。これだけ連続で殺人事件が起きており、先程の三咲の件でナーバスになっているのもあるのだろうが……それにしてもここまで過剰なのは妙である。何かが、起きそうな気がしていた。
ピリリリリ!!!!
静寂を破るように、のり子の部屋にスマホの着信音が鳴り響いた。誰だろう、のり子は画面を覗き込んだ。
「詩乃?」
のり子はスマホを手に取り、通話ボタンを押した。
「もしもし」
「のり子……のり子ぉ……」
のり子は大きく目を見開いた、明らかに詩乃の様子がおかしい。
「詩乃!! どうしたの詩乃!!」
「お願い……お願い、助けてぇ、のり子ぉ」
「落ち着いて詩乃、何があったか説明して!!」
「心美が……心美が……殺された」
その瞬間、のり子の心は凍り付いた。
「え……」




