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白い絆殺人事件⑦(掴みどころがない)

 四鈴の三空への誤解が解けたところで、のり子は潤に最後の人へオンラインの会話を繋いでもらった。千尋はどこか身構えている様子だが……そこは昨日の話を聞く限り、仕方がないことだろう。


「こんにちは、須藤さん。お忙しい中、申し訳ございません」

「いえ、お気になさらず。私よりもそちらの方が忙しいでしょうしね」

「お気遣い、感謝いたします」


 立場的には編集長である潤の方が上だが、この業界でのキャリアは里士の方が長いと聞く。落ち着いた対応は、のり子としてもありがたかった。


「里士さん、知っていることを話していただけませんか? キャリアの長いあなたのことです、陽奈さんや四鈴さんが知らないことも知っている可能性がありますし」

「とはいってもねえ、俺が知っていることは大体昨日話したしね」

「何でも良いですから」

「……編集長は非道なだけじゃなく、女癖も悪かったよ。権力を振りかざしたり、相手の弱みに付け込んで関係を迫っていたという噂はよく聞いていた」


 里士の言葉に、全員が眉をひそめた。ただでさえ悪い印象が、もはや青天井状態と言ったところだ。


「でも、そんなことがあればさすがに訴える人の一人や二人は」

「さっきも言ったけど、権力や弱みで押さえつけていたという感じだな。証拠も残さなかった、本当悪知恵だけはよく働く人だったよ」

「となると、モデルの女性も被害に遭ったりとか?」

「まあな、四鈴ちゃんの前の専属モデルもそれが理由で辞めたという噂だし。四鈴ちゃんはそういう話は聞かないけど、実際のところは俺も分からないよ」


 そう考えると、専属モデルを三空さんに変更して四鈴さんはお払い箱、という話以前に四鈴さんが柿澤編集長に殺意を抱いていた可能性もあるか。それに、標的はモデルだけではないだろうし、それこそ……のり子は更に里士に聞いた。


「里士さんも六川編集長の連絡を受けて、三空さんが監禁されていた廃墟に駆け付けたんですよね?」

「そうだな。他の可能性もあるとは思ったけど、実際に見てやっぱりねと。いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていたよ」

「里士さんから見て、柿澤編集長の死体に何か変わったところはありませんでしたか?」

「うーん……そういえば、胸ポケットが見た感じ空だったな。編集長は車で出かける時はいつも胸ポケットに車のキーを入れる習慣があるだけに、どうしたのかなと」

「……分かりました。ご協力ありがとうございました」

「どうしたしまして、それじゃ」


 里士は朗らかな笑みを浮かべ、通信を切った。さすがにキャリアが長いだけはある、良い情報を聞けた。


「これで昨日のメンバーには一通り話を聞けたけど、どうするのり子ちゃん?」

「……もう一度昨日の廃墟に行ってみます、もう一度現場を見ておきたいので」

「分かった。俺も行きたいところなんだが、仕事があるんで……申し訳ない」

「気にしないでください。のり子、私の方から今井刑事に連絡しておくよ」

「ごめんね、すみれ。千尋さん、それではまた」

「お力になれずに申し訳ございませんが……よろしくお願いします」


***


 今井刑事が【スエジリ】の事務所にパトカーで迎えに来てくれたので、のり子はすみれと一緒に現場である廃墟へ向かった。車内で考え込むのり子を、すみれが心配そうな目で見つめている。


「のり子、どうしたの。何だかいつもより困っているような感じだけど」

「……すみれには敵わないな。何というかね……絞れないの」

「絞れない?」

「アリバイにしても基本みんな無いし、動機もみんなある。だけど、これといった証拠も見当たらない。みんな怪しく見えちゃうというか……」


 今までの事件だと、調査を進めていくうちに消去法的に絞っていくことが出来た。しかし、今回はそれが出来ない……どこか掴みどころがないのだ。


「のり子にしては珍しいね、いつもバシッと真実を言い当てるのに」

「……何かを見落としているような気がする。とても大事な、何かを」


 のり子は頭をフル回転させ、その正体を探ろうとした。何となくだけど……それさえ分かれば、芋づる式に色々分かっていくのではないかと思った。


「まあのり子君、あまり気を張りすぎない方が良い。現場に着くまで、ちょっとリフレッシュしたらどうだ?」

「今井刑事の言う通りだよのり子、根を詰めすぎるのも良くない」

「……そうだね」


 今井刑事とすみれの言う通り、確かに考えすぎて脳が疲弊しているような気もする。ちょっと休もう。


「丁度そこに眠気覚まし用のガムがあるから、食べていいぞ」

「ありがとうございます、これですね……あれ、隣に名刺みたいのが」

「ああ、それは俺の名刺だ」

「今井生支……いまい、せいじ?」

「違う違う、【しょうじ】だよ」


 すみれの読み間違いを、今井刑事が指摘した。考えてみると、すみれには今井刑事のフルネームを話してなかったな。


「そうだったんですか、すいません」

「いやいや、割と珍しい名前だから仕方がないさ。普通に【せいじ】とも読めるしな」

「……!!??」


 のり子はハッとした。まさか……いや、偶然かもしれないけど、だとすれば私はとんでもない思い違いをしていたことになる。


「のり子、はいガム」

「うん……」


 すみれからガムを受け取り、それを噛みながらのり子はもう一度頭の中で推理を組み立てるのであった。


***


 廃墟に着き、のり子はすみれと今井刑事と一緒に三空を発見した部屋に向かった。


「現場は、昨日と同じ状態で保存してある」

「……そういえば、柿澤編集長が乗ってきた車がまだ見つかっていませんね」

「む、言われてみれば。昨日はほぼほぼ廃墟の中を捜索してたからな」

「探してもらえますか? 里士さんが言ってたことが気になるんですよ。胸ポケットが見た感じ空で、編集長は車で出かける時はいつも胸ポケットに車のキーを入れる習慣があるだけに変だなっていう」

「分かった、他の警官に探してもらうとしよう」


 今井刑事が廃墟の外を捜索するよう他の警官に指示を出しに行っている間、のり子はすみれと一緒に廃墟の捜索にあたっていた。


「のり子、何か新しく気づいたことある?」

「いや、今のところは」

「そっか……」

「だけど……もしかしたら、っていう疑惑はある。それを確信に変えるモノが欲しいんだよね、状況証拠でも何でもいいから」


 そう、あくまで現段階ではまだ疑惑の域を出ない。のり子は必死に捜索を続けたが、これといった成果はあげられなかった。


「もう一度順を追って見てみようかな。ここに来たら、そこに柿澤編集長の死体を見つけて、その後すぐに気絶してる三空さんを見つけて」

「……ごめん、何だか少し気分悪くなってきたかも」

「すみれ、大丈夫? いいよ、無理して付き合わなくて」

「ううん、平気。ちょっと死体思い出しちゃっただけだから、もう慣れたと思ったんだけど」

「そりゃ人間の死体なんて、そう簡単に慣れるもんじゃ……!!??」


 その時、のり子の頭脳に電撃が走った。そうか……どうして今まで気が付かなかったんだろう。のり子は頭を抱えた。


「すみれ……見つかったよ、疑惑を確信に変える状況証拠が」

「え、それじゃあ」

「うん、犯人は分かった。あとは証拠だね。さっきのでもある程度は追い詰めることは出来ると思うけど、言い逃れ出来ないことはないから」


 のり子は最後の一手を探したが、廃墟の中は何だかんだで警察が昨日からくまなく探したのだ、そう簡単に見つかるモノじゃない。となると、可能性があるとすれば廃墟の外、か。


「のり子君!! 見つかったぞ、柿澤編集長が乗ってきた車が」

「本当ですか?」

「ああ、ナンバーも一致したし、間違いない」

「すぐ行きます」


 今井刑事からの吉報に、のり子はすみれと一緒にすぐに指定の場所に向かった。到着すると、若い警官が車内を調べていた。


「どうだ、何か見つかったか?」

「いえ、今のところはこれといったものは。車内の指紋はこれから調べるところです」

「指紋か……とはいっても、彼は編集長という立場なだけに他の人を乗せたとしても何も不自然じゃないだけにな」


 若い警官からの報告に、今井刑事は頭を抱えていた。確かに柿澤編集長以外の指紋が車内から見つかったとしても、それは証拠にはならない。


「見つかったモノ、見せてもらえますか?」

「かしこまりました、こちらです」

「……あれ、これって」


 のり子が若い警官に頼み、証拠品を見せてもらったところ、すみれが何かに気付いたようだ。


「……今井刑事、柿澤編集長の死体のどこに車のキー、入ってました?」

「ズボンのポケットだが?」

「……見つけましたよ、決定的な証拠を」

「え、のり子、それじゃあ」

「今井刑事、今すぐ事件関係者を廃墟に集めてください。事件の真実を……明らかにします」

「分かった!!」


 今井刑事はのり子の言葉を聞き、スマホを取り出して軽やかな足取りで去っていった。一方ですみれは、心配そうな表情を浮かべてのり子に尋ねた。


「ねえのり子、三空さんと千尋さんは……」

「……すべては、この後明らかにするから」

読んでくださり、ありがとうございました。


次回から解答編に入ります、この事件の犯人は誰でしょうか?


みなさんも推理してみてください。

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