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白い絆殺人事件②(ライバルの策略)

 三空と千尋が案内してくれた場所には、一台の車が停まっていた。千尋がドアウインドウをノックするとドアが開かれ、一人の男性が出てきた。のり子とすみれにとって懐かしい顔……彼は以前と変わらぬ気さくな笑顔を浮かべた。


「やあ、久しぶりだね。のり子ちゃん、すみれちゃん」

「お久しぶりです、編集長。半年ぶりくらい、でしょうか」

「そうだね。本当はもっと早く会う機会を作りたかったんだけど、なにせ忙しくてね……申し訳ない」


 潤はそう言うと、のり子に頭を下げた。人気女性雑誌の編集長という立場でありながら、偉ぶることのない丁寧さと親しみやすさ。【スエジリ】のチームワークの良さは、この人の人柄によるところが大きいんじゃないかと改めてのり子は思ったのだった。


「仕方がないですよ、今や【スエジリ】絶好調ですから。その前はあの事件の後遺症もあったでしょうし……」

「まあね……正直、楽ではなかった。俺も、三空ちゃんもね……だけど、色々な人が協力してくれた。健土(けんど)安伸(やすのぶ)も、【スエジリ】が好きだからって言ってくれてね」

「健土さんと安伸さん、ですか」

「残念ながら今日は来てないけど、近いうちに会う機会を設けたいと思う。二人とものり子ちゃんとすみれちゃんに会いたがってるしね」


 占部健土(うらべ けんど)日比安伸(ひび やすのぶ)、同じ【スエジリ】のヘアメイクとカメラマンだ。潤との会話でその名前が出てきて、のり子は懐かしい気持ちになった。彼らの協力があったからこそ、今の潤と三空があるのだろう。二人に会える日が楽しみだなとのり子は思った。


「ところで編集長、用事っていうのは?」

「その前に、まずは車に乗ってくれないかな。千尋ちゃんから聞いてるだろうけど、一応内密な話なんでね」


 すみれが潤に今日の目的を尋ね、潤はのり子とすみれを車内に案内した。ドアを開け、車の中に入ると、整理整頓が行き届いた空間が広がっていた。真面目な編集長らしいな、もしかしたら千尋さんの管理のおかげもあるのかもしれないけど。


「さて、本題に入る前に一応千尋ちゃんを紹介しておこうと思うんだけど……もしかしてもう、三空ちゃんから聞いたかい?」

「はい、新しいアシスタントの方だと。とても真面目で優秀だって」

「まさにその通りでね。千尋ちゃんの助力がなかったらと思うと、ゾッとするよ」

「私がいなくてもやっていけるだけの力はあるんですけどね、編集長は」

「買い被りすぎだよ、千尋ちゃんはもっと自分に自信を持っていい」

「……ありがとうございます」


 のり子が質問に答えると、潤は嬉々として千尋を褒めちぎり、千尋はお礼の言葉を述べた。実際、潤が優秀なのは半年ほど前に仕事っぷりを見ているだけに、のり子も何となく感じてはいた。


 とはいえ、以前もアシスタントを付けていたのに更に忙しくなった今、千尋さんの助力がなければ短期的には出来ても長期的には続かないだろうし、やっぱり千尋さんの力は大きいんだろうな。


「それで本題なんだけど……今度、雑誌の企画で【お友達特集】なるものをやるんだ」

「お友達特集、ですか?」

「うん、私と一緒にそのお友達が雑誌の写真に写るの。で、誰が良いかって話なんだけど……私としては是非とものり子ちゃんとすみれちゃんにお願いしたいのよ!!」

「わ、私とのり子に、ですか!?」

「そ、以前専属モデルの話は断られちゃったけど、限定企画として写るだけならどうかなって思って。それなら気軽にできるでしょ?」


 三空の説明を受け、すみれは目を丸くして驚いていた。スカウトの話は以前断っただけに、またこんな形で依頼されるとは思っていなかったのだろう。


「……やっぱりスカウトの話、諦めてないんじゃないですか?」

「そりゃもちろん。で、のり子ちゃんはどうだい?」

「……すいませんけど、私は今回もお断りさせてください」

「……そうか」

「お気持ちは嬉しいんです。ですけど、知っての通り私は探偵で……あまり積極的に顔を売るようなことは避けたいんです」


 潤の残念そうな表情に、のり子の心は痛んだ。女の子としての魅力に自信が持てない自分を今でもこれだけ評価してくれる、のり子の潤への感謝の気持ちに嘘偽りはない。だが、やはりのり子にとって一番優先したいのは探偵としての自分だ。探偵にとって、名前や顔が売れるのは好ましいことばかりではない……高校生という未熟な身なら猶更だ。


「まあ、仕方がないことか。俺ものり子ちゃんの探偵業を邪魔はしたくないんでね」

「すいません。だけど、すみれは考えても良いんじゃないかなって思うよ」

「わ、私はのり子が断るなら私もって思ってたんだけど」

「すみれは探偵じゃないから気にする必要ないし、私と違ってモデルに向いていると思うの。お試しっていう意味では、良い機会じゃない?」


 のり子からの推薦を受け、すみれは悩んでいるような表情を浮かべた。すぐに断らないということは、すみれ自身モデルという職業に興味がないわけではないんだろう。


「すみれちゃん、とりあえず今は経験してみないか? 将来のこととかはじっくり考えていけば良い」

「編集長……」

「すみれちゃん、私も20代後半だからいつまでもモデルを出来るわけじゃない。すみれちゃんが後継者になってくれたら、これ程嬉しいことはないの。だけど今いきなりそんなこと言われてもプレッシャーだろうから、今回は気軽に、ね?」

「三空さん……即答は出来ませんけど、前向きに検討したいと思います」


 潤と三空の真っすぐな熱意に打たれたのか、すみれは軽い微笑みを浮かべて返答した。この人達は本当にすみれを高く評価してくれているんだなと、のり子も嬉しい気持ちになった。


「うん、その言葉を聞けただけで十分だ。年明けにまた聞くから、それまでに決めておいてくれ」

「分かりました」

「編集長、返答も頂けたので、そろそろ。次の予定がありますので」

「もうそんな時間か。本当は2人ともっと話したかったんだけど、仕方がないか」


 千尋が手帳を確認し、潤に伝えた。忙しいと本人も言っていたが、想像以上かもしれない。


「あ……編集長、その前にちょっと近くのコンビニ寄っても良いですか? ハンドクリームが無くなってしまったんで」

「それなら私が買ってきますが」

「ううん、そのくらい自分で行くから。ついでにちょっとお菓子も欲しいしね」

「三空さん、先程も言いましたけど今のご自分の人気を考えてください。変装したとしても分かる人には分かるんです」

「うーん……でもなあ」


 ちょっと窮屈で過保護に見えるかもしれないけど、千尋さんの言っていることは間違ってはいない。三空さんも理解しているからこそ、無下には出来ないのだろうな。人気モデルも大変だ。


「それなら、私とすみれが一緒に行くのはどうですか? 三空さんとお話し、まだしたいですし」

「あ、それ良いかも!! 編集長、どうですか?」

「ふむ……のり子ちゃんとすみれちゃんなら安心だし、逆にそっちの方がバレないかもね」

「決まりですね。それじゃ、行ってきます」


 三空は嬉しそうな顔で手を合わせ、コンビニに向けて歩き出した。少しでも窮屈にならないように気を遣ったのもあるだろう。本当、部下思いの良い編集長だ。


***


「あのー、こっちは決まったんですけど、そっちは?」

「こっちもあと少しで決まるから、先に行ってていいよ」

「ですけど」

「大丈夫大丈夫、すぐに私も行くから」


 のり子は三空が会計を済ませるまで待っていようとしたが、三空に何度も大丈夫だと言われたので、すみれと一緒に先に会計を済ませて店を出て、潤の車へと向かっていた。


「大丈夫かなあ。一応私達、ボディーガードみたいな役割なのに、離れちゃって」

「結局バレなかったし、大丈夫じゃない? 編集長の車は、店からすぐだし」

「うん……」


 すみれの言葉で一度は納得したが、のり子はどうしても完全に割り切ることが出来なかった。考えすぎと言えば、それまでだが……


「ごめん、やっぱり気になるからちょっと様子見てくる。すみれ、ちょっとここで待ってて」

「わ、分かった」


 すみれにそう告げ、のり子は急いで三空のもとへ向かった。程無くしてコンビニの近くで三空を発見したが、誰かと話をしているようだ。50代くらいの男性……誰だろう? のり子は物陰に隠れ、様子を伺うことにした。


「いきなりそんなことを言われましても」

「考えてもみろ、今は調子がいいかもしれないが、必ず上手くいかない時期が来る。うちの方が企業としての体力はあるし、当然金もそちらより出す。悪い話じゃないだろ?」

「ですけど私はずっと【スエジリ】でやってきた人間です、今更よそになんて」

「おいおい、今の時代転職なんて普通だろ。浪花節に縛られる必要なんてない」


 これは……いわゆる引き抜きというやつか。ヘッドハンティング自体は自由かもしれないけど……三空さんが明らかに困っている以上、見過ごすわけにはいかない!! のり子は気を引き締め、三空のもとへ向かった。


「三空さん、お待たせしました。時間もないですし、行きましょう」

「あ、のり子ちゃん!! そうだね、急がないと」

「おい、今話しているのは俺だぞ。部外者が邪魔しないでほしいな」

「部外者? 私は三空さんの友人で、今日約束をしているんですけど、そちらもですか?」


 三空はのり子の姿を見つけると、ホッとした表情で駆け寄ってきた。男性の方はどこか威圧的な態度だったが、そんなのは探偵であるのり子にとっては日常茶飯事だ。


「……分かったよ。この話はまた後日に」

「申し訳ないですけど、私は【スエジリ】の専属モデルを辞めるつもりはありません。なので、改めて話をする必要もないですね」

「く……」


 三空にはっきりと断られ、男は悔しそうな表情を浮かべた。のり子は三空を連れ、早足でその場をあとにした。


「すいません三空さん、肝心な時に傍にいれずに」

「ううん、先に行ってって言ったのは私よ、のり子ちゃんは何も悪くない」

「のり子」


 先程の男から見えない位置にのり子は三空と一緒に移動すると、そこにすみれがやってきた。三空が絡まれているのを見た時に、急いでくるようメールを送っておいたのだ。


「すみれ、ありがとう。悪いけど、三空さんを連れて先に編集長のところに戻ってくれないかな?」

「それは構わないけど……何かあったの?」

「うん、実は……」


 のり子はすみれに、事の顛末を話した。すみれはそれを聞くと、目を丸くして驚いた後顔を曇らせた。


「それは……穏やかじゃないね」

「だからさ、三空さんの傍にいてあげて。今、三空さんを一人にするのは危ない」

「分かった。のり子は、どうするの?」

「残って情報を集めてくる。大丈夫、危ない真似はしないからさ」

「……分かった、何かあったら連絡して。三空さん、行きましょう」

「う、うん……」


 のり子の言葉に頷き、すみれは三空を連れて編集長のもとへ向かった。三空が心配そうな顔をしていたので、のり子は笑顔を返した。それからのり子は物陰に隠れ、先程の男の様子を伺っていた。


 のり子も自分はいち女子高生だということは認識している。相手はおそらく業界人、ヘッドハンティングしていることを考えればそれなりに立場のある人だろう。強硬手段に出られたら勝ち目はない、バレないように様子を伺っていると2人の女性が現れた。


「編集長、本気で白崎三空を引き抜く気ですか? そんな手段を使わなくても、うちはやっていけると思うのですが」

陽奈(ひな)、今の【スエジリ】の勢いはお前だって知っているだろう? 油断は禁物だ」

「ですけど……うちには四鈴(よすず)ちゃんっていう立派な専属モデルがいるんですよ、なのに」


 陽奈と呼ばれた女性は、どうやら編集長と思われる男性の意向に不満のようだ。20代後半くらいだろうか、髪型も服装も全体的に落ち着いており真面目なキャリアウーマンという印象を受ける。顔は整っており、性格もどこか高圧的な目の前の男性と対照的に温和そうだ。


「そうですよ、編集長。もっと若い子なら次代のホープってことで納得できますけど、三空さんは私の一つ先輩です。私じゃ力不足だって言うんですか?」

「四鈴、お前を信頼していないわけじゃない。けどな、お前だって分かっているだろう、今の【スエジリ】の絶好調振りの要因」

「それは……三空さんの力によるところが大きいでしょうけど」


 四鈴と呼ばれた女性も、やはり編集長と思われる男性の意向に不満の様だ。年齢は三空の一つ下……となると、陽奈と近い年齢ということになる。陽奈の話だとこの人が専属モデルなのだろう、さすがに美人であり華もある。


 三空さんと比べても遜色ないくらい綺麗だけど……この人の方がちょっと気が強い印象がするな。確かに既に専属モデルがいて実績も残していることを考えると、この人が不満に思う気持ちは分かる。


「そうだ、つまりは白崎三空さえいなくなれば【スエジリ】はガタガタだ。だから引き抜く、あとは知ったこっちゃない、専属モデルはそのまま四鈴さ」

「ちょ、いくらなんでもそれは」

「何が悪い? さっきも言ったが、転職なんて普通の世の中だ。でもな、採用した後しっかり面倒見るなんて言ってない」

「しかし……」


 編集長と思われる男の暴論に、陽奈もさすがについていけないようだ。のり子の顔は怒りに満ちていた。三空さんを必要として採用するならともかく、戦力を削ぐためだけに取って後はポイだなんて……


「編集長、私と三空さんの関係知っていますよね?」

「もちろん。これで確実にお前が勝てるんだ、感謝してほしいくらいだな」

「ですけど、こんな形で勝っても私は……」

「四鈴、お前は世の中を分かっていない。この業界、勝てば官軍だ、綺麗事は捨てろ」


 編集長と思われる男の威圧的な言葉に四鈴は黙るしかなかったが、その顔は明らかに納得していない様子だった。のり子は黙ってその場をあとにし、潤のもとへ向かった。正直、これ以上こんな不快な会話は聞きたくない……のり子の表情は険しいままだった。


***


「あ、のり子お帰り」

「ごめんねすみれ、心配かけて」

「ううん、気にしないで。三空さんも落ち着いたし、大丈夫だよ」


 潤のもとに戻るなり、すみれが安堵した表情でのり子を迎えてくれた。三空も大丈夫という報告を受け、のり子も胸を撫でおろした。


「のり子ちゃん、本当にありがとう。話は聞いたよ、三空ちゃんを守ってくれたって」

「いえ、元はと言えば私が目を逸らしたのが悪いですから」

「もう、それは私が大丈夫って言ったからだって、さっきも……」


 三空は心底申し訳ない表情を浮かべていた。仮に本人が言ったとしても、それで簡単に納得してはいけない……自分の甘さをのり子は改めて痛感していた。


「それで、さっきの男性は誰なんですか? 編集長とか呼ばれていましたけど」

「……彼は柿澤影行(かきざわ かげゆき)、【ラルブエ】の編集長だ。三空ちゃんから特徴を聞いたけど、間違いない」

「【ラルブエ】って……あの人気女性雑誌ですよね!? 【スエジリ】のライバルの」


 すみれが潤から【ラルブエ】という言葉を聞き、目を丸くして驚いていた。その雑誌名は、ファッションに疎いのり子でも聞いたことがあった。あの雑誌の編集長……道理であんなに貫禄があったのか。


「一緒に2人の女性もいました。ヒナとか、ヨスズとか呼ばれていましたけど」

「……ヒナと呼ばれている方は秋瀬陽奈(あきせ ひな)、【ラルブエ】のアシスタントだ。柿澤影行の傍に控えているその名前の女性と言えば、彼女しかいない」

「私も話したことあるわ」


 のり子からの質問に、潤も三空も彼女の正体に確信を持っているようだった。秋瀬陽奈……要はかつての三空さんや今の千尋さんと同じ立場の人か。


「ヨスズと呼ばれていた人は? 何だか三空さんと知り合いっぽい感じでしたけど」

「……彼女は栗原四鈴(くりはら よすず)、【ラルブエ】の専属モデルよ。昔、私がモデルを目指していた時の後輩なの。最近はぱったり連絡を取らなくなっちゃったけど」

「何か……あったんですか? 三空さんに勝つだのなんだの言っていましたが」

「四鈴ちゃんと私は仲の良い先輩後輩で、ライバル同士でもあったの。お互い立派なモデルになろうねって。だけど私が【スエジリ】の専属モデルオーディションに落ちて、モデルの夢を諦めてアシスタントになった時に四鈴ちゃんに随分責められたの。『どうしてそんな簡単に夢を諦めちゃうんですか!!』って」


 そう言い、三空は顔を曇らせて俯いた。三空さんの後輩か……そういえば【ラルブエ】の表紙で見かけたことがあるような気がする。かつてのり子が巻き込まれた【スエジリ】を巡る殺人事件……あの発端となった出来事はこんなところにまで影響を及ぼしていたという事実は、のり子の心を痛めた。


「それで気まずくなって、連絡をお互い取らなくなってしまったってことですか……」

「うん……事情が事情だけに説明もしづらくてね。だから、四鈴ちゃんも私に負けたくないんじゃないかな。実際、四鈴ちゃんはその後モデルとして大成して、実績なら私より上だし」

「……実を言うと、陽奈さんと四鈴さんは三空さんをヘッドハンティングすることに反対していたんです、専属モデルなら四鈴さんがいるからって。ですけど、柿澤編集長が『今の【スエジリ】は白崎三空がいなくなればガタガタだから、引き抜くだけで良い。あとは知ったことじゃない、専属モデルはそのまま四鈴だ』って言っていました」

「!?」

「何、それ……三空さんはただ戦力を削ぐためだけの存在ってこと!?」


 のり子が伝えた影行の言葉に、三空はショックを受けた表情を浮かべ、すみれは怒りを抑えられないようだった。当然の反応だろう、のり子も今でも怒りが収まらないのだから。


「何というか……あの人らしいな」

「そんなに悪名高い人なんですか?」

「腕自体は良いんだよ、【ラルブエ】を人気雑誌に成長させたわけだしね。だけどやり方が強引で冷酷でね……人の入れ替えも多いと聞く」

「……」


 潤の説明を聞き、のり子は心底納得した。千尋も影行の非道なやり方に呆れているようだった、当然の反応だろう。


「ただねえ、彼が指摘していたことはあながち間違いではないんだよ」

「『今の【スエジリ】は白崎三空がいなくなればガタガタ』、ですか?」

「そんな、みんなで力を合わせた結果が今じゃないですか。編集長も、千尋さんも、健土君も、安伸君も」

「確かにそうかもしれないけど、現実にはやはり三空ちゃんの力で持っている面が強い。非道ではあるけど、腕自体は立つんだよ、あの人は」


 三空は否定したが、潤の言っていることは客観的に見ても間違いではない。【スエジリ】の躍進は、三空の人気の急上昇っぷりと比例している。三空の人気に支えられている、と判断するのが妥当だろう。ファッションに詳しいすみれが無言なのも、それを裏付けていると言えなくもない。


「とにかく、今後しばらく向こうの動向には気を付けるとしよう。三空ちゃん、ちょっと窮屈な思いをさせてしまうかもしれないけど……」

「気にしないでください。千尋さんの言う通りでした、私が……甘かったです」

「三空さん……あなたが悪いわけでは、ないです」


 潤が気を遣っているような声で三空に確認を取り、三空は申し訳なさそうな声で答えた。千尋は気まずそうだった……自分の言葉が三空を追い詰めてしまったと感じているのかもしれない。


 その後、のり子とすみれは学園に送ってもらった。少し前までの明るい雰囲気は吹き飛び、暗い雰囲気が立ち込めていた。芸能界という跳梁跋扈の世界、そこで人気を得るということがどういうことなのか。のり子は改めて人の心の闇について考えざるを得なかった。


***


 翌日の朝早くに、のり子のスマホの着信音が鳴った。クリスマスイブ前日だが、昨日のこともありのり子は今一つクリスマスの雰囲気を楽しめる気分ではなかった。スマホの画面を覗き込むと、そこには意外な名前が表示されていた。


「編集長……?」


 のり子は正直、戸惑った。確かに昨日会ったし連絡先も教えたが……向こうは多忙の身。実際、昨日も会う機会を設けるのに苦労したと言っていたのだが。


「もしもし」

「のり子ちゃん!? すまないね、朝早くから」

「いえ、構いませんが……何かあったんですか?」


 朝早くからの電話、そして潤の言葉に焦りの色が感じられたこと……何か嫌な予感がするとのり子は感じた。


「……三空ちゃんが、誘拐された」

「……え?」

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