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生贄の主殺人事件⑨(可愛い後輩への疑惑)

 放課後になり、のり子は校舎を一人で歩いていた。いりすが言っていた三咲の意外な行動に【ちょっと怖い雰囲気】、普段の三咲のおっとりした雰囲気とは全く正反対である。昼休みにいりすと別れてからずっと考えていたが、考えがまとまらない。


 本人に聞いたところで、はぐらかされるのが関の山である。となるとこっそり観察するしかないが、いつも花壇にいるとは限らない、教室にもいなかった。どうすればいいか頭を抱えながら歩いていると、調理室の目の前にいた。


「調理室か……詩乃に会っていこうかな」


 詩乃は調理部に所属している。気持ちが煮詰まってる感がある今、息抜きも必要だろう。のり子は調理室のドアをノックし、中に入った。


「失礼します、高原詩乃さんはいらっしゃいますか?」

「あ、のり子。こっちこっち」


 詩乃は手招きして歓迎してくれた、どうやら調理の最中らしい。見た感じハンバーグだろうか、良い匂いがする。


「そろそろ出来るから、一緒に食べよ」

「ごめんね、何かつまみ食いするみたいで」

「気にしない気にしない、いつも心美がやってることだしね」

「今日、心美は?」

「うん……気分がすぐれないみたいだから、早めに帰ったよ」


 昨日もそうだったが、心美は勝気な性格に反して案外打たれ弱い。昨日の時点で辛そうだったから、今日は更にまいっていたのだろう。事件のことばかり考えずにちゃんと心美のことも気にしてあげるべきだった、のり子は自分の配慮のなさを恥じた。


「さ、とりあえず今は食事を楽しもう、出来上がったよ」


 暗い顔をしているのを見て、気を利かせてくれたのだろう。本当に詩乃は優しくて芯の強い子だと、のり子は改めて感じたのだった。


「お、美味しい!!」

「ふふ、ありがとう」


 詩乃はのり子の知り合いの中で一番の料理上手だ、何でもそつなくこなせるタイプであるさくらやすみれでも、こと料理に関しては詩乃には敵わない。ハンバーグはシンプルな料理だが、逆に言えば誤魔化しがきかず、純粋に技量が求められる。いかに詩乃の腕が高いかが分かるだろう。


「詩乃をお嫁さんに貰う旦那さんは幸せ者だよね、こんな美味しい料理毎日食べられるわけだし。私のお嫁さんにならない?」

「またまた御冗談を。そもそも、のり子のお嫁さんはさくらでしょ?」

「それを言うなら、詩乃の旦那さんは心美か。むむ、何か心美が羨ましくなってきたぞ」


 詩乃と談笑する時間は楽しく、のり子の先程までの暗い気分はすっかり吹き飛んでいた。実際、詩乃は良いお嫁さんになると思う。料理上手なのはもちろんだけど、それ以外の家事もそれなりに出来るらしいし、面倒見がよくて芯も強い。綺麗な長い黒髪をしているのもあって、理想の大和撫子だ。


「ご馳走様、本当に美味しかったよ」

「お粗末様、元気になったみたいで何よりかな」

「……気づいてたんだ、やっぱり」

「何となくね。そういう時はやっぱり美味しいモノ食べるに限るよ、三大欲求は偉大です」


 詩乃の優しさが心に沁みる。こういう包み込むような優しさが詩乃の魅力だなとのり子は改めて感じた、心美が詩乃のことを特別に気に入っているのも納得である。そして、それは詩乃にとっても同様だ。


「詩乃はさ、心美のこと凄く気に入ってるよね、今更だけど」

「何、急に」

「大切にしてるなって思ってさ」

「……まあ、否定はしないよ」


 2人の出会いや仲良くなったきっかけについては、のり子は知らない。聞く機会がなかったというのが正直なところだけど、丁度いい機会かもしれない、のり子はそう思った。


「詩乃は心美のどういうところが好きなの?」

「う~ん……わがままなところかな」

「ほうほう、これはまた意外な答えね」


 わがままというのは基本、マイナスな意味に使われる。それが相手の魅力だというのは随分変わっているなとのり子は思った。


「心美のわがままって自爆してるだけで、他人を傷つけようと思ってやることはないの。だから話せば分かるし、自分に非があればちゃんと誠心誠意謝ってくれる。むしろ人を傷つけることに人一倍臆病なんだよね、あの子は」


 それは分かる気がする、のり子は頷いた。心美は単純で感情的になりやすいから先走ってしまうことも結構あるけど、それが自分の悪い癖だとちゃんと理解しており、非はちゃんと認めることのできる子だ。打たれ弱いのも、人を傷つけることに臆病ゆえのことだ。


「わがままなのも逆に言えば裏がないってこと。思った事そのまま言ってくるからこっちも変に勘繰る必要ないし、人の心を気遣える優しい子なのは分かってるから色々オープンに話せるのが楽しいの。ああいうアグレッシブさは私にはないから刺激的でもあるしね」


 ああ、なるほど。のり子は二人の仲の良さの秘密が何となくわかった気がした。ありのままの自分をさらけだし、それに正面から向き合って理解してくれる。加えて自分にないモノを相手が持っているとなれば、居心地がいいのも当然か。


「何か羨ましいかも、詩乃と心美の関係。大事にしてあげてね、心美のこと」

「うん。今日は色々な話が出来て楽しかったよ、ありがと」

「それはこっちの台詞だよ」


 詩乃に感謝の意を述べ、帰ろうとしたのり子はもう一つの用事のことを思い出した。


「詩乃、最後に聞きたいんだけどさ……生贄って聞いて何を思い浮かべる?」

「え、生贄? どうしたのよ、急に」

「怖い事件が続いてるからさ、私としても色々と調べてるの」

「そっか、う~ん……【何かを得るために、何かを犠牲する】とか?」

「なるほど……」

「ごめんね、何かそのまんまで」

「ううん、参考になった。それじゃ、また明日ね」


 詩乃に挨拶し、のり子は調理室を出た。犠牲は当然殺された子達のことだろうけど、得るものって何だろう。殺人の快感? 今回の事件の犯人のような愉快犯ならそれも該当するだろうけど、それだけではないような気がする。のり子は考えながら、学園をあとにした。


***


 夜、のり子は自室で今日さくらと詩乃から聞いた生贄についてのイメージについて考えていた。【サクリファイス】と【何かを得るために、何かを犠牲にする】か……どうにもピンと来ない。まずはシンプルな前者に絞って考えてみるか。


 生贄を英訳するとサクリファイス、スペルはsacrifice。逆さに読んでも、スペルに変換しても全く意味が分からない。特に関係ないのかな。


「サクリファイス……さくりふぁいす……!?」


 のり子はすぐにペンを取り出し、紙に平仮名で小さい【ぁ】を大きい【あ】に変換して書き、それを並び替えてみた。額に冷や汗が浮かび、心臓がバクバクしてきた。まさか……まさか……


【あさふく いりす】


「朝福……いりす……」


 のり子の顔は真っ青になり、目はこれ以上なく見開かれた。手はガクガクと震え、持っていたペンを床に落とした。そこに書いてあったのは紛れもなく、妹のように可愛がっている後輩の名前だった。


「いりすちゃんが犯人……いや、そんなわけない!! あんな良い子が、織絵ちゃんの親友が犯人だなんて、あるわけない!!」


 のり子は完全に混乱状態の頭を両腕で抱え、自分に言い聞かせるように大声で自身の仮説を否定した。そんなことあり得ない、あってほしくない……すがるような想いで否定の言葉を繰り返した。涙が流れ、座っている机にポトリと落ちた。


「これだけじゃ……分からない、もっと調べないと」


 現実から目を背けたい気持ちを抑え、のり子は冷静さを取り戻そうと必死だった。確かにいりすが疑わしいのは事実だが、これだけで犯人と断定するわけにはいかない。


 いりすちゃんについて色々と調べなくてはいけない、結論を出すのはそれからだ。のり子は涙を手で拭き、頭と体を休めるために早めに眠りについた。明日は……大きな一日になる。

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