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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第二章 機械仕掛けの夢
8/11

宗教潜入

「まったく…長い列だぜ…」


現在時刻11時55分。ビルとエージェントたちは、教会に潜入するためにボロボロの布をまとって教会に向かった。しかし、教会に向かうアンドロイドが想像以上に多く、やや長い列が形成されていた。五人は列に加わり、目と鼻の先にある教会内部への潜入を息をひそめて待っていた。


「しかし便利だな、このインカム。『テレパシーインカム』って言うのか?」


「そう、あたしが開発した新装備でね。アンドロイドの装備者が口を動かさなくても会話ができるうえに、音声認識機能ともペアリングしてるから、聞き取ったこともリアルタイムで共有可能。さらに無線とリンクすることもできるスグレモノよ。おしゃべりなあんたにはピッタリじゃない?」


「一言余計だぜガジェットガール…それにしても、いつになったら入れんだ?」


「まだ列に加わってから10分ぐらいじゃないですか…」


「俺待つの大嫌いなんだよ…それに…」


ビルは教会の入り口に目を向ける。その目線を追うように、エージェントもそのポイントを見つめた。


入口に立っているローブをまとった二人の大柄な者、十中八九アンドロイドだろう。この二人、教会内部に入るアンドロイドたちを一度止めてから中に入れている。何か検問のようなことを行っているようだ。


「あれのせいで時間かかってんだよなぁ…宗教のくせに検問とは、いよいよカルトじみてきたな」


「どうします?物を渡してるようには見えませんし、恐らく合言葉なんでしょうが…我々はわかりませんよ?」


「だよなぁ…おい巌流、座標と日時の紙切れ渡した奴からなんか聞いてねぇのかよ?」


「何も聞かされていないな。紙を渡されてそのまま去っていった」


「そうかぁ…じゃ、聞き出すしかないよな」


そう言うと、ビルはたまたま足元に転がっていた杖になりそうな枝を手に取ると急によろめき、前のアンドロイドにぶつかっていった。大きく体勢が動いたアンドロイドは、怒りの表情でビルをにらみつけた。


「おい!いきなりなにするんだ!危ないだろ!」


「あぁすまん…最近、俺のご主人が足にハンマーを振り下ろして…歩くのが一苦労で…悪いな…」


ビルは右足を引きずりながら、弱弱しい声で弁明した。それを見て、前のアンドロイドは同情のまなざしを向ける。


「あ、あぁそうか…すまん、事情も知らず怒鳴って悪かった…手を貸そうか?」


「いや、大丈夫だ。ありがとう」


「俺も俺を買った奴のせいで、音声認識の具合が悪くてな…この列に並んでる奴らの大体がどこかしか壊れてるか、調子が悪い…気持ちはわかるよ」


「あぁ、お互い頑張ろうな」


「そうだな…まぁ、頑張る前に「母様」に悩みを聞いていただこう」


そう言ってアンドロイドは前に向き直った。それを見て、ビルはすかさず全体に通信する。


「サム、ここの奴らがあがめてるのは母様って言われてる奴だ。俺らが前に聞いたやつの声は男だったのを考えると、どうやらご神体は他にいそうだぞ」


「その名前だけでは、崇拝元の特定には厳しそうだな…それより、なんで急にぶつかったりなんかしたんだ?」


「あぁ、それはだな…」


ビルは自身と一緒にいるエージェントに、前のアンドロイドを見るように視線で促す。その視線につられてエージェントが見ると、アンドロイドの背中になにやら小型の球体がついていた。

その球体は、ビルがこっそりと腕のパッドを動かすのと同時に小さく動き、背中から横腹をつたって前のほうへと動いていった。


「…あれは?」


「小型潜入工作機「モノボール」だ。盗聴監視何でもできる便利な奴よ…なんて言ってたらそろそろ順番だな…準備しろ」


「結局合言葉はわからずじまいですよ!どうするんです?」


「なぁに、そのためのモノボールだ」


すると、全体通信の音声チャンネルにモノボールの名前が追加される。そこから流れてくる声は、先ほどビルがぶつかったアンドロイドの声だった。


「いつもどうも…」


「こんにちは。合言葉をどうぞ」


「ええ…(咳払い)『母なる慈愛の元に、救済の道をお示しください』」


「確認しました。ようこそ、信者様」


「ありがとうございます…」


門番の声とともに教会の門が開かれる。アンドロイドはそそくさと中に入っていった。


「よし、これで合言葉はわかったな。行くぞ」


合言葉がわかった五人は、危なげなく内部に潜入することに成功した。


内部は一般的な教会と大差ない。しかし、信者の向かう先は座席ではなく祭壇だった。信者たちは吸い込まれるように祭壇の裏手に一目散に向かっていく。ビルたちもほかの信者に続いて祭壇の裏手に向かう。

そこには、地下へと続く深い階段があった。


「地下で説教とは…こりゃカルト確定だな…今から潜入する」


「了解。気を付けるんだよ」


「わーってるよ。行くぞお前ら」


ビルたちは恐る恐る地下に下り、最下の木製の扉をゆっくりと開ける。


扉の先には、全体が土壁でおおわれオレンジのランタンがいくつか天井から吊り下げられているだけのやや広い簡素な地下空間が広がっていた。しかし、部屋の四隅にはローブをかぶった大型アンドロイドが身動き一つせず立っていた。

一番目を引くのはその空間の奥。金属でできたかなり大きい簡素な祭壇が中央に鎮座しており、座禅を組んだ金属製の人形のようなものが置かれていた。

その手前には、アンドロイドの信者たちが一切乱れのないきれいな列をなし、じっと正座をしている。その顔は、皆一様に暗い面持ちをしていた。


ビルたちはそれぞれ別の列の最後尾に座り、何かが始まるのを待つことにした。


「しかし…周りのアンドロイド、ボロボロなのが多いな…」


「俺に紙を渡した奴もそうだが、こんな宗教に来るくらいだ…相当過酷だったんだろう」


「人が追い詰められたときに漬け込むのが宗教ってものさ。カルトの場合は特にね」


「あたしの見立てだけど…アンドロイドを買い取った人たちが軒並み行方不明なのって、この宗教で復讐するよう扇動されて…?」


「それは聴取で聞けばわかるが…もしそうなら個々のアンドロイド全員を検挙しなきゃいけなくなる。そうなれば大ごとだぞ」


「何を吹き込んでるにしろ、武装してる時点でろくでもない連中なのは決まりなんだ。それに何を説いてるのかも今に分かる…そろそろ口を閉じてくれよ、誰か来る…!」


ビルの見つめる先にある祭壇がゆっくりと左にスライドし、三人のローブをまとった者がゆっくりと歩み出てきた。

左右の二人は門番と同じほどの背丈、恐らく大戦時のアンドロイドだろう。しかし真ん中の者は二人に比べ小柄…と言っても170cmはあるだろう。指先を下に向けて合掌しながらうつむいている。


と、ほかの信者たちが一斉に立ち上がり、同じ合掌のポーズをはじめたかと思うと、口々に同じ言葉を唱え始めた。


『偉大なる母様の使者様。我々をお導きください。偉大なる母様の使者様。我々をお導きください』


ひとしきり唱え終わると、合掌していた”使者”と呼ばれるものがゆっくりと片手をあげ、人差し指と中指を立てて群衆を静める。その手を見てアンドロイドたちの言葉がぴたりと止まり、静寂が訪れる。


「皆様ようこそお集まりくださいました。皆様の苦労…そのおいたわしい姿からひしひしと実感します。中には何人か…初めていらっしゃった方もいらっしゃるようですね。最後尾の何名か…もしよろしければどなたかおひとり、前へ出て自己紹介をしていただけますか?」


急な氏名に一瞬固まるが、ビルがゆっくりと立ち上がり使者の前へ立つと、”自己紹介”を始めた。


「あー…”ルービル”です。俺を買った奴から暴行を受けて…そのことを知り合いに相談したらここを紹介されたので来てみました…」


「そうですか…暴力など最も忌むべき行いです。それを受け続け耐え忍ぶのはとても勇気のある…それでいて難しいことです。よく耐えましたね…もう大丈夫です。我々があなたの救いのお手伝いをしましょう」


そう言って使者はビルの肩にポンと手を置く。その際に一瞬見えたローブの奥には、赤いダイヤ型の光がぼんやりとともっていた。


使者はビルから手を離すと列に戻るよう手で促す。ビルは軽くうなずくと、ゆっくりと元の列に戻った。


「まさか急にご指名されるとはな…焦ったぜ」


「すみませんサムさん…」


「いいってことよ。リスクは俺がしょえばいい」


「しかし…ルービルとは…ずいぶん安直な偽名じゃない…フフフ」


「うるせーぞアマンダ。とっさに考え付いた割にはいいもんだろ」


「二人とも、ふざけるのはあとにしてくれ。ビル、引き続き頼む」


「あいよ」


使者はビルが列に戻ったのを見届けると、ふたたび話し始めた。


「それではみなさん、初めての方のためにもしっかりと祈りましょう…皆様が救われるように…」


その言葉を聞くと、信者たちは膝立ちになるとまた同じ合掌のポーズを始めた。それを見て、使者は両手を大きく広げ、祈りの言葉を唱え始めた。

ビルたちは他の信者と同じポーズをとりながら、周りの様子をうかがっていた。


十数分がたってもなお祈りの言葉は続いている。しかし、膝立ちがつらくなってきたのか祈りの言葉を聞くのが苦痛になってきたのか、ビルはだんだんグラグラと動き始めた。


「…?どうしたビル?」


「いやぁ…長っげえ説法は嫌いでなぁ…じっとしてられねぇんだよ…」


「なんだそんなことか…我慢してろ。もう十分以上たってる。じき終わるだろ」


「ならあんたも体験してみろよキッド。これは現場にいないとわからない苦痛だぜ…」


「ごめんだね。酒があるなら話は別だが」


「…キッドってお酒が大好きなんだね」


「ほら、アナもあきれてる…」


口を動かさないことをいいことにビルがインカムで会話をしていると、突如全員の祈りの言葉がぴたりと止まる。そして使者が、小声でぶつぶつと何かを唱え始めた。


「?なんだ急に…?」


しばらくの間同じ分を唱え続けた後、使者がビルを見て手招きをした。


「ルービルさん。もう一度前へ出てきていただけますか?」


「え。は、はい」


「…エージェント閣員。念のためいつでも銃を取り出せるようにしておいてくれ」


「了解」


サムが他のエージェントに戦闘準備を促すのを聞いて、ビルはゆっくりと使者の前に歩みよった。眼前に立ち尽くすビルに、使者はゆっくりと手を伸ばし再び肩にポンと手を置くと、優しい声色で話し始めた。



「あなた…誰と通話しているのですか?」



ビルは思わず息をのんだ。確かに通話はしていたが、口は一切動かしていない。ましてや声を出すこともなく通話できるデバイスなのだ。ばれる可能性は殆どゼロに近い。それでも知られた。しかしここで言葉に詰まっては余計に疑われる。そう考えたビルは口を開いた。


「通話…ですか?いったい何のことでしょう」


「とぼけなくともよいのですよ。こちらはわかっておりますから。会話の内容もね」


言葉が終わると同時に、「ガシャッ」という音と共に左右の大柄なアンドロイドの腕が銃に変形し、ビルの頭に標準が向く。周りの信者たちがざわつく中、使者がまたゆっくりと話し始める。しかしその声色と話し方は、先ほどの融和なものではなかった。


「もう一度聞く。誰と通話をしていた。貴様は何者だ」


「…今更隠すのは無理そうだな」


そう言うと、ビルは素早く太もも型のホルスターに隠していたハンドガンを取り出し、左右のアンドロイドに向けて発砲する。途端に二体のアンドロイドに電流がに走り動きは硬直。膝をつきシャットダウン状態になった。それを見て他のエージェントたちも立ち上がり、部屋の四方のアンドロイドに銃を向ける。

それを確認すると、ビルは一歩引いて使者を名乗る男に銃を向けた。


「全員その場を動くな!WDOだ!ガーデハイトのアンドロイド処理施設でのアンドロイド稼働事件に関与した疑いがある。そのため聴取に協力してもらおうと思ったが…銃を向けられちゃ仕方がない。教団関係者は全員、違法武装と公務執行妨害で拘束させてもらう」


信者たちがざわつき始める。しかし、銃を向けられている使者を名乗る男は平然としていた。


「WDO…”あの方”がおっしゃっていたな。しかしもう嗅ぎつけてくるとは。存外人間も侮るべきではないな」


「やっぱりまだ上がいるんだな?さしずめ崇拝対象ってところか」


「馬鹿を言うな。崇拝するのは母様だけ…あの方は選ばれし”救い主”なのだ」


「そんな世迷言でもなにがしか手掛かりにはなるだろうな。続きは調書で聞く!両手を上げて後ろを向け!」


「いいだろう。後ろを向けばいいんだな?」


以外にも使者は素直に両手を上げ後ろを向く。少々あっけにとられながらも、ビルは腰部分に内蔵していた電子錠をとりだすと、ゆっくりと近づいた。


バガァン!!


突如ビルが大きく後方に吹き飛ばされ、信者の中に倒れこむ。ビルが急いで前を見ると、四本の爪を携えたホース状のアームのようなものが6本、ローブを突き破りうねうねと動きながらビルのほうを向いていた。


そして使者もゆっくりとビルに向きなおり、顔のローブをめくる。そこにはトランプのダイヤのようなマークが中央に刻まれている白い仮面をつけた細身のアンドロイドが顔を見せた。


エージェントたちの注意が一瞬ビルたちに向く。その隙を逃さず、ほかのアンドロイドたちの腕も銃に変形し、エージェントたちに照準を向ける。完全な拮抗状態が完成してしまったのだ。

ビルは使者に銃口を向けつつ、ゆっくりと立ち上がる。


「ここで暴れる気か?あんたらの信者にも当たるぞ」


「その点は心配ない。さあ信者の皆さん!私の元へおいでなさい」


その言葉を聞くと、周りにいた信者たちが一斉に使者の周りに集まり始めた。ビルやエージェントたちも「動くな!」と制止を命令するが、だれも聞き入れることはなく使者の元へと足を進めた。

全員が集まったのを確認すると、使者は背中のアームの一つを使って祭壇をずらした。


「信者の皆さん。救われたくばこの先にお進みなさい。私の仲間が待っています」


「おいおい信者の皆さんよ。行ったらこちらも協力者として拘束しなきゃいけなくなる。とどまってくれれば聴取だけで家に帰れる!お尋ね者にはなりたくないだろ?」


「…わかってないな、WDO。ここにいる者たちにその脅しは通用しないぞ」


その言葉通り、ビルの指示に従いその場にとどまるものは誰もおらず、全員がドアを通過していってしまった。

そして信者と入れ替わる形で、四隅のアンドロイドと同型のアンドロイドが複数体姿を現した。全員が白無地の仮面をつけ、黒紫の金属プレートでコーティングされたボディ。オーランド邸を襲撃したモノと全く同じだった。

現れたアンドロイドたちは腕を銃に変形させ照準をビルたちに向けると、使者を守るように扇状に広がる。

それと同時に、先ほどビルが発砲した二体も再び起き上がり銃口を向けた。


「な…!?動き出した!?」


「生物に使えば感電死するレベルのテーザー弾だぞ!」


「おまけにこの数…まずいですよビルさん…」


「そうだな…全員背中合わせ!四方を全員でカバーする!」


もはや拮抗状態どころか追い詰められてしまった五人は、ビルの指示で全員が背中合わせになり四方のアンドロイドたちに銃を向けた。しかし、実に二倍以上の戦力差を前に、使者は自慢げに話し始めた。


「素晴らしいだろう、この者たちは。”バックラー”と呼んでいる。教祖様に忠誠を誓っているうえに、全員が高い耐久性と継戦能力を持つ…まさに神に仕える”兵隊”だよ」


「いまどきアンドロイドをモノ扱いしたら差別になるって知ってるか?教団率いてるならそれぐらい把握しとけ」


「あぁわかっているとも。”意志があれば”な」


「…なんだと?」


「こいつらに意志はない。命令遂行のために合理的に動くただの機械にすぎん」


「…そんなの”戦争”時に作られたやつだけ…オーパーツもいいとこだ。そんなの持ってるとは…お前たち何者だ。何が目的だ!」


「悪いがそろそろおしゃべりは終わりだ…教祖様が貴様らの死を望んでおられる」


その言葉と共にバックラーたちの銃口に赤い光が灯る。


「撃て」


瞬間、四方のバックラー達が一斉にビーム弾を放つ。絶え間なく放射されるエネルギー弾はただ一点、ビルたちに降り注いだ。広範囲の殲滅に特化しているエネルギー弾は、ビルたちと共に周囲の地面を巻き込み小規模の爆発を幾度となく引き起こす。地下室全体を土煙が覆うまで、そう長くはかからなかった。


「撃ち方やめ」


使者の合図とともに、すさまじい発射音と赤色の光が収まった。使者が自身の近くにいるバックラーの一体に確認に行かせるよう合図を出す。指示を出されたバックラーはゆっくりと確認のため近づいた。


バババン!


突如三発の銃声が響き渡り、確認に向かったバックラーが電流を放ち倒れる。あまりの電流の威力に関節部から見える回路が発火、たちまち火だるまになった。


「…なに?」


土煙が晴れる。そこには水色のエネルギー上の幕を張ったドームと、その中で硝煙が立ち上るハンドガンを持ったビルと四人のエージェントがいた。


「ふぃ~危なかったぜ」


「なぜ生きてる…?」


「うちの特殊装備『エネルギーバリア』さ。ミサイルにも耐えられる。お前らのエネルギー弾なんざ目じゃねぇ」


「しかしよく持ってましたね…」


「パンパンだった格納部に無理やり入れといてよかったぜ」


普通に話すビルたちを見て、使者は怒りに満ちた声色で叫ぶ。


「…ならその幕が破れるまで撃ち続けるだけだ!全員撃…」


使者が言い終わる前に、地下室の入り口が勢いよく開き、一つの影がどろりと液体のごとくなだれ込む。その影はビルたちを突っ切り、バックラーの中に躍り込んだ。


破天一刀流(はてんいっとうりゅう) 昇爪(しょうそう)!!』


瞬間、使者の眼前にいたバックラーが斜めに両断された。両断されたバックラーの半身がゴトリと力なく地面に落ち、再び景色が広がる。

そこには赤熱した刀を手にした巌流が立っていた。


バックラー達の照準は瞬時に巌流に切り替わる。その一瞬のうちに、もう一つの影が部屋に入ってきた。

もう一つの影は入るなり入口に向き直ったかと思うと、両手の銃を入口近くにいる左右のバックラーに乱射する。

たちまち左右のバックラーの体には無数の弾痕が刻まれる。高レートで発射される銃の威力に耐えられず、バックラー達は勢いよく壁にぶつかると機能を停止した。


「大丈夫かいみんな!?」


硝煙立ち上る小型のマシンガンを二丁携えたサムが、装備したジェット装備で宙に浮きつつビルたちに呼び掛ける。その声にエージェントたちは親指を上げ答えた。


「まったくおせぇぞ!ほかの皆は?」


「な…!?なぜこんなに異分子が入り込んでいる!?上の門番はどうした!!?」


「今こっちに向かってるはずさ。君の門番たちの相手もじきに終わるだろうね。さて、君たちを逮捕する。抵抗するものは…わかるね?」



数分前 教会包囲部隊正面班



オリバーが各班に通達する。


「戦闘発生!繰リ返ス!戦闘発生!包囲部隊ハ突入セヨ!!」


その報告がされているさなか、巌流とサムはすでに突入の準備を始めていた。


「ジェットパックとブーツの具合はどうだ?サム」


「万端さ。君も筋肉が温まり切っていないんじゃないかい?巌流」


「まさか。…さて、俺たち二人は先に突入しビルの援護を始める。みんなは他の部隊と合流後に突入してくれ」


「了解!」


「よし、突入!」


サムの掛け声とともに突入作戦が決行された。


掛け声と同時に地面からかなり高い位置にある洞窟の入り口を巌流は勢いよく飛び出すと、そのまま急斜面をすさまじい速度で駆け降りる。その後に続く形で、サムはジェットパックで飛行しながら後に続く。

二体のバックラー達が入口の横に陣取り門番をしていた中、アンドロイドである彼らの目にすらとまらないスピードで、二人が扉を破壊し教会内に突入。勢いそのままに地下室に躍り込んだ。


そして現在 教会入口


突然の侵入者と銃撃音に、門番のバックラー達は唖然としながら教会内をのぞく。


「よお。お二人さん」


突如後ろから声が聞こえたかと思うと、カチャっという金属音が複数聞こえる。

二体がゆっくりと後ろを振り向くと、ホルスターにしまっている愛銃に手をかけているキッドマンと、銃口を向けた包囲部隊が周囲を囲んでいた。

バックラー達は即座に腕を銃に変形させ発射体制にうつるが


「やめとけ。お互いケガせず済ませたい。だろ?」


キッドマンがゆっくり銃の撃鉄を下ろしけん制する。しかし、説得とけん制もむなしくバックラー達は銃口をキッドマンにためらいなく向けた。


あたりに銃声が鳴り響く。しかし倒れたのはバックラー達のほうだった。


「俺の早撃ちを甘く見たな。年はとったがまだまだいける…さ。俺たちも突入だ、行くぞ」


三発の特殊徹甲弾を放った愛銃に弾を込め、ホルスターにしまうキッドマンの号令と共に部隊は素早く教会へと歩を進める。だからこそ気づかなかった。後ろで起き上がる一体のバックラーに。戦争用に開発された特殊合金のボディに徹甲弾一発では、再起不能にするには足りなかったのだ。バックラーの銃に赤い光が灯る。


ガン!!


とてつもない金属音で部隊は振り返る。それと同時にバックラーが力なく倒れた。その後ろには、二機の小型ドローン「ラプター」を浮かせたアナが立っていた。


「みんな、大丈夫?」


「あ、あぁ…何をしたんだ?」


「ラプターをおもいっきり頭にぶつけたの。壊さなくてもこれで動作が止まると思って」


そういってニコリと笑みを見せるアナを、キッドマンは笑いながら頭をなでる。しかし頭から手を離したと同時にキッドマンの顔つきが変わる。


「アナ、お前は優しい。それはいいことだ。だが地下ではそうはいかないぞ。すでに銃撃戦が始まってる。前線に立たせる気はないが…非常な決断も必要だと覚えておくんだぞ」


「…わかった」


二人が真剣な話をしていると、アマンダ率いる右側の部隊、洞窟から降りてきた正面部隊が合流した。


「あれ、このアンドロイド生きてる。どうしたの?」


「私がたおしたのよ。壊さずに」


「ホント!?すごいじゃんアナ~。これで証人一人確保、大手柄だよ!」


アマンダは手慣れた動きで電子錠をバックラーの腕に取り付ける。そして自身の所属部隊に監視を命令した。


「さて?全員集まったことだし、援護に向かうとしよう。行くぞ!」


キッドマンの掛け声とともに、全員は地下に向かって走り始めた。


教会地下



地下では戦闘がますます激化していた。


エージェントとビルは設置したエネルギーシールドを遮蔽物に、サムは素早く動き回り多方向からバックラー達を攻撃、すでにニ体を撃破していた。


「破天一刀流 流石(ながれいし)!」


巌流も雨のように降り注ぐ敵の光弾をはじき返し善戦。実に四体を切り伏せていた。そのかいあって敵は目に見えて減少、次第に弾幕も酸くなってきた。


戦局は確実にビルたちへと傾いている。それは使者もひしひしと感じていた。


(くそっ!!なぜだ?!なぜ人間ごときにここまで追いつめられる?!)


六本のアームの先端から光弾を放ちつつ、使者の思考は徐々に乱れていく。様々考えている間にも、バックラー達は一人また一人と撃破されていく。


「もはやこれまでか…」


そうつぶやくと、使者は自身の耳に指をあてた。


「申し訳ありません、緊急事態発生につき撤退します!ゲートと援護の用意を!」


「逃がすか!」


使者のどこかへの通信を聞き、巌流はとてつもない速度で使者の元に向かう。


「いいや逃げさせてもらう!!貴様ら人間ごときにおめおめとつかまってたまるか!!」


半ば半狂乱になりながら、使者はアームを使って祭壇を破壊、巌流へと投げつける。

しかしそれが仇となった。


六本あるからこそ近寄りがたかった使者のアームの弾幕が、祭壇の破壊とがれきの投石にリソースが裂かれ手薄になるのを巌流は好機と見、一気に懐へと潜り込む。使者も負けじとアームを二つ用いてガードするが、巌流は苦にするでもなくその二本を素早く切り落とす。

使者が光る手のひらを巌流に向ける。どうやらビーム兵器が内蔵されているようだ。

抵抗やむなしと、巌流が刀を横一線に振るった。

今まさに、刀の刃が使者の首を切り飛ばさんと迫る。


その刹那


一筋の光線が、祭壇奥の空間から巌流に照射される。

とっさに刀を持ち替え防御に徹した巌流は後方に大きく吹き飛ばされ、入り口の階段に体を強く打ち付けた。ちょうど到着した後続のアナたちが、キッドマンの身を案じつつ部屋の奥を見る。


「手ひドクヤラれたな。カナロア」


「まさかあなたが直々に出向くとは…申し訳ありません…」


「かまわん。ちョウドこの者たチノ実力が知りたかったとこロだ」


破壊された祭壇の奥の空間はまばゆく輝いている。その光の中から、長い杖を持った大柄なアンドロイドが顔を出した。地面につきそうなほどの長いマントと仮面を身に着け、体の至る所からギシギシと機械音を響かせ、マントの隙間から配線をのぞかせている。その声にはノイズが混じり、ザラザラとした音を放っていた。

使者…もといカナロアと呼ばれたアンドロイドは、敵前であるにもかかわらずそのアンドロイドに深々と頭を下げている。


新手が来たと周りの皆は身構える。しかしビルとサムは違った。


「よおデカブツ。オーランド邸での通信以来か」


「まさかそちらから出てくるとはね。聞き出す手間が省けたよ」


その言葉を聞いたアンドロイドは、冷たく静かな目で二人を見た。


「そウカ、貴様らか。またも邪魔しテクレタな」


「悪だくみしてる奴の邪魔をするお仕事なんでね。邪魔ついでに君も拘束させてもらう!」


「オモシロい。やっテミろ、WDO」


そういってアンドロイドは身構える。アンドロイドが持つ杖の先端は、不気味な深い紫色に光り輝いていた。


to be continued

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