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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第二章 機械仕掛けの夢
7/11

作戦前夜

作戦会議から次の日


サムによって選出されたメンバーたちは朝に身支度を整え、バトルホークでガーデハイト西部に向かっていた。朝早い出発だったこともありアナはスウスウと寝息を立てているが、ほかのメンバーは作戦が次の日だということもあり機内には緊張の空気はなく、皆が和気あいあいと話していた。


「到着したらなんか食おうぜ。サンドイッチのうまい店知ってんだ」


「え~?前に来た時もサンドイッチだったじゃない。なんか別のものが食べたいわ」


「デシタラ、チリコンカンナンテドウデス?オイシイデスヨ」


「俺はパスだ。豆アレルギーなんでね」


「嫌いなのはアレルギーって言わねえよキッド。サムは?何食いたい?」


「ん~…ガーリッククラブとか?」


「いいねぇ。久々に食べたいな、海鮮」


皆が話していると、陸地が徐々に見えてくる。

ゴロゴロとした岩地の海岸沿いを超えると、朝日に照らされキラキラと光る白い砂とそこから生えた低い草が一面に生い茂る。


ここはガーデハイト西部、サンフォルニア州。目的地ではないが、WDO本部の立地の関係でガーデハイトに入国するときにはいつもここの上空を通過する。先ほどまでにぎやかに話していた面々は、その雄大な自然の景色に感嘆していた。


「いつみても飽きないな。この雄大な景色は」


「不思議デスヨネ。ガーデハイト入国ノ時ハイツモ見テイルハズナンデスガ」


「自然ていうのはいつみても飽きないものだよ。同じ景色なんてのは二度と拝むことはできない。常に変わり続けるからこそ、その一瞬に思いをはせることができるんだ」


「ずいぶんと詩人みてえなこと言うんだな。前世はシェイクスピアか?」


「悪いが心理描写には疎くてね。それに悲劇も苦手だ」


景色を見ながら談笑を続けていると、「うぅん…」と声を上げながらアナが目を覚ました。まだぼんやりとしているのか、目をコシコシとこすっている。


「あ、おはようアナ」


「おはよ、アマンダ…もう到着?」


「モウソロソロ…ハイ、タッタ今到着デス」


オリバーの呼びかけと同時に機体がガタンと大きく揺れ、「プシュウ」という音と共に機体後部のハッチが開く。


機体から降りた皆の眼前に広がるのは、どこまでも続く赤土色の荒野と遠方の小さな町、そのはるか奥にひっそりとたたずむ件の教会のみであった。


「ふぅ、ついたついた。ようやく腰を伸ばせるぜ」


「さ、なんか食べよ。この際サンドイッチでもいいよ。なんだか急に食べたくなっちゃった」


「調子いいぜ全く…」


皆が背を伸ばす中、アナがきょろきょろと周りを見渡しながら訪ねる。


「ここは?」


「ん?あぁ、ここはな…」


ビルが説明しようとすると、突然付近の草むらから五匹の獣が躍り出た。

見た目は恐竜、さしずめラプトル種に酷似しているが、前足の爪が四本あるほか、首周りに小さな襟のようなものがあるなど独特な見た目をしている。


獣たちはアナたちをぐるりと取り囲むと、襟をかさかさと鳴らしながらその場を回り始めた。五人は即座に背中合わせになり、戦闘態勢をとる。お互い油断ならない膠着状態となってしまった。


「どうする?穏便には行けそうにないぞ」


「もしかしたら飼われてる奴らかもしれないぜ?ほら、お手…」


しかしビルの期待もむなしく、獣には「シャー!」と威嚇されて終わった。


「だぁ!ったく畜生!」


「そもそも、飼われてる奴らだとしても友好的なわけないでしょ?こんな襲う気満々なんだから…」


この五人にできた一瞬の隙を見逃さず、獣の一体が咆哮と共にビルにとびかかる。あわや、獣の後ろ脚のかぎづめが頭に直撃せんとしたその刹那…


バガン!


鈍い音とともに、とびかかってきたのとは別の獣が勢いよく吹き飛ばされる。ビルの眼前で二体は衝突し、ゴロゴロと地面に転がった。その場の全員が飛んできた方向を見ると、そこには一振りの刀を持つ、甲冑を着こんだ鎧武者が立っていた。


「行け」


その一声で、獣たちは「ギャー!」と威嚇すると踵を返してすさまじい速度で走り出し、あっという間に荒野に消えていった。それを見て鎧武者は刀を鞘に納めると、アナに近づきながら話し始める。


「ようこそみんな。ここはクレノア州の田舎町、ハルキンソン。荒野の小さな町だが、巨大カルテルのアンドロイド違法取引現場だった場所だ」


そう言いながら、鎧武者は右耳を軽く二回タップする。すると、身に着けていた面頬がガシャガシャと音を立てて兜に収納され始めた。完全に収納されると、武者はそっと兜を脱ぐ。


ツーブロックの髪型に大きく澄んだ目、スッと通った鼻筋に顎髭を少し生やした男が顔を出した。かなりのイケメンだ。男はアナの前でそっとしゃがみ込むと、ぎこちないながらも少し微笑んだ。


「俺は本宮巌流。初めましてだな、アナ。サムから話は聞いている」


「はじめまして。あなたはお侍さんなの?」


「そうだ。代々続く由緒ある家のな」


「さっきの子たちは切っちゃったの?」


「いいや、刀の背中でたたいただけ…いわゆる”峰打ち”ってやつさ」


「ミネウチ…かっこいい…!」


「はは、ありがとう」


キラキラと目を輝かせるアナを横目に、巌流は立ち上がり膝の砂を軽く払うと一呼吸おいて話し始めた。


「さ、こんなとこでの立ち話もなんだから俺の家へ行こう。飯もそのあとでも遅くないはずだ。だろ?」


「たしかに。じゃあお言葉に甘えてお邪魔させてもらうよ。みんな、行く準備を整えろ。すぐ出発だ」


「ミンナ準備万端、イツデモ出発デキマスヨ」


すでにみんなは荷物をもって出発準備は完了していた。巌流が話しているときにすでに準備を終わらせていたようだ。

一団は皆の様子を見たサムの「では出発!」という一声でハルキンソンへと歩き出した。


「そういや巌流。さっきの恐竜どもはなんなんだ?あんな奴ら、前までクレノアにはいなかったろ?」


「あれは『ケーベリオンラプトル』、俺が検挙したとこのカルテルが飼ってた番犬…いや、”番竜”だ」


「その子、たしかカナダ領域にしかいないんじゃなかった?」


「お、物知りだな。どこかで習ったのか?アナ」


「いつもエリーと一緒にお勉強してるから(^-^)」


「なるほど、それなら納得だ。たしかにアナの言う通り、本来ガーデハイトのカナダ領にしかいなかった。だが、カルテルが持ってきた内の数体がここ数年で野生化してな。今じゃこの荒野1の狩人だ」


「迷惑な話だぜまったく。生態維持局は何してる?」


「捕獲に躍起になってはいるが、生態維持局の連中が来ても姿一つ見せない。今まで何度か大規模な捕獲作戦をやってはいるが成果なしだ」


「怖イデスネ…外来種ガ生態系ノトップデスカ…」


「悪いことばかりじゃないぞ。最近じゃ、ここらでラプトルのハンティングが合法化されてもっぱらのイベントでな。国内だけでもかなり人気で、前年よりも観光客が増えたそうだ。もっとも…奴らなにぶん頭がいい。逆に”ハンティング”されることのほうが多いそうだが」


「じゃあ…あの人だかりはもしや?」


アマンダが指さす先、ハルキンソンのはずれだというのに多くの人でごった返しており、露店もかなりの量が出店している。


「噂をすれば。今日はハンティングフェスの二日目だ。そうだ、飯ならここで済ませるといい。町の飯屋はみんなここで出店してるから店に行ってもしまってるからな」


「そうか…よしみんな、各々食べたいものを買って後でみんなで食べよう!」


「やったー!私ガーリッククラブ買って来る!」


「俺サンドイッチ!」


「俺は酒だな。つまみになりそうなものも買ってくる」


「ワタシ、チリコンカン買ッテキマス!」


そう言うと皆は露店へと一目散に向かっていった。サムと巌流が皆の後姿をほほえましく見つめていると、アナがくいくいとサムの服の裾を引っ張った。


「どうしたんだい?アナ、みんなと一緒に行かないのかい?」


「その…サム、良かったら一緒に見て回らない?とっても楽しそう」


「一緒に?」


「いや?」


「いやいや、そんなことはないよ。そうだなぁ、お祭りは久しぶりだし…うん、一緒に回ろうか」


その一言でアナの顔は一段と明るくなる。そして祭り会場へ一目散に走りだしたかと思うと、急かすようにこちらを振り向き手招きをするのだった。


「ずいぶんとなつかれてるんだな、あの子に」


「あぁ、子供に好いてもらえるのはうれしいことだ。それじゃ、行ってくる」


そういって、サムはアナの元に駆け出していった。


同日 夜


一通り祭りを楽しんだ一行は、予定通り巌流の家に到着。余分に買っていた食べ物と酒で軽い宴会をしながら、明日の作戦のブリーフィングをしていた。


「それで?明日の詳しい作戦は?」


「まずはこれを見てくれ」


そういってサムは部屋の中のホログラムデスクをいじる。すると、例の教会の3Dモデルが出てきた。それを見て皆はデスクの周りに集まった。


「この教会の周辺は、町全体を見下ろせる小高い岩山の崖上にある。入口も山の壁面に面している以上、必然侵入経路も限られてくるわけだ。そこで…」


サムがボタンを押すと、兵士やヘリコプターの形をしたチェスの駒大のホログラムが複数出現した。サムは慣れた手つきで駒をいじり、教会の周りに配置する。


「まず、ビルはカメラ付きインカムを隠してWDOアンドロイドエージェントと共に内部に潜入してもらう。オリバーはビルのインカムに入って、状況を逐一こちらに伝達してほしい」


「あいよ」


「ワカリマシタ」


「その後、僕らSIUメンバーとガーデハイト西部のWDO特殊作戦部隊と共に教会周囲を包囲。戦闘が起き次第、教会内部に突入する作戦で行く」


作戦の概要が話されたところで、アマンダがサムの言葉を遮る。


「ちょっと待って、うち(WDO)の部隊も動員するの?それにヘリまで…宗教検挙にどこまで大規模な作戦決行する気?」


「念には念をってやつさ。オーランド邸の一件を考えると、ディスクの回収なんて簡単な”お使い”にすら”大戦”時のアンドロイドを使者としてよこすほど、戦力に余裕があると考えられる。今回の集会にも多かれ少なかれ兵士は配置されるだろう。町にまで被害が拡大する前に未然に防がなければならない…そのための包囲さ。ヘリは最終防衛ラインとして崖側から監視。万が一町にまで被害が及びそうな場合、対地攻撃を実行してもらう」


そう言いながら、次にサムはSIUメンバーの顔がついた駒を教会の四方に設置した。


「包囲は教会右、左、正面で班分けをしている。僕と巌流は正面、キッドとアナは左、アマンダは右で包囲部隊に参加することになっている」


「お前さんと巌流が正面とは…突入する気満々だな」


「潜入するから考えたくはないが、オーランド邸のことを考えるとほぼ確実に戦闘は起きる。スピードと制圧力を考えると妥当な配置だな」


「ただ、戦闘規模によっては左右の三人にも援護に回ってもらう。心構えを頼むよ」


「了解」


「それじゃあ、作戦会議はこれで終了だ。正午とはいえ明日も早い、みんなしっかり休むように!」


サムの掛け声で皆は解散する。だが、唯一アナだけが心配そうな面持ちで教会の3Dモデルを見つめていた。


「やっぱり怖いかい?アナ」


「うん…役に立てるかどうかが不安で…」


「大丈夫。今まで練習したことは絶対に君を裏切らない。信じて」


「…わかった。明日はできることをやるわ」


「その意気だ!さ、もう寝たほうがいい。明日は忙しいからね…おやすみ、アナ」


「おやすみなさい、サム」


そういってアナはベッドルームに向かった。サムが少し考えたような顔をしていると、キッドマンと巌流がウイスキーの入ったグラス片手に近づいてきた。


「あの子のことが心配か?サム」


「もちろん。本人にああ言った手前、表には出せないけどね…」


「訓練を間近で見てきたからこそ断言できる。あの子は問題ない、たとえ戦闘になってもな。それに俺もついてる。安心しろ」


「ええ…頼みますよ」


三人が話す背後のホログラムデスクには、いまだ不気味な教会が映っていた。



翌日 正午前 教会右側


「教会側に何か動きはあった?」


「先ほど、教会内部からローブをまとった大柄のやつが二人出てきました。現在入り口の左右で立っています。恐らく見張りでしょう」


「教会内部?外から来たんじゃなくて?」


「はい、内部です」


同刻 教会正面 洞穴の中


「おかしな話だ…奴ら、ここを根城にしてるのか?」


「何か別の移動ルートがあるのかも…っと。アナ、どうだった?」


同刻 教会左


「今ラプターで周りを見てみたけど…トンネルとかそれっぽいとこは見つからなかった…」


「ならここが拠点の一つかもな。気を引き締めていくとするかね…」


各メンバーは数十分前に包囲部隊と合流、各々教会に到着し偵察を行っていた。

到着前に、教会内部からローブをまとった者が出てきたことで入口が別にあることを疑い調べていたものの、結果は何も見つからなかった。


「ドウシマス?他ニ入口ガアッタラ、包囲作戦自体無駄ニナリマスヨ…」


「だからってもっかい考える暇もねぇだろ。やるっきゃない」


教会道中の茂みでは、ビルとエージェント四人が待機していた。


「…よし、時間だ。行くぞ」


ビルの掛け声とともに、五人は教会へ向かう。


「それでは…午前11時45分、教団検挙作戦を開始する!」


to be continued

投稿が遅くなり申し訳ありません…次回はかなり文字数が多くなると思いますので、今回は箸休めとして文字数少なめ(今までと比べて)です。それではまた次回をお楽しみに~

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