蛇行する旅路
蛇王の申し出を受けたアナたち一行が、邂逅地点を出発してから数分。
蛇王の圧倒的な速度によって、一行の道のりは、当初の到達予定よりも大きく上回る形で進行していた。
しかしそれは、とてつもない速度で森を進んでいることになる。
背に乗るメンバーたちは、振り落とされないことに精一杯だった。
「ぬぁああああ!はへはああああ!!」
「情けないもんだなぁ、ビル。これしきで音をあげるとは…」
「ううへぇひっほ!!へほんほふひほひはふへはははひふんはへぇ!!」
風で空きっぱなしになる口をそのままに、ビルは文句を垂らす。
そんなビルの首根っこを掴み、レオンハルトは自身の真ん前に彼を移した。
「そら、これで問題ないだろう!」
「ひ~……助かったぜ……」
「すごい顔してたわよ?」
「強風なんてもんじゃねぇぞこりゃ……よく平気だな、レオン」
「はっはっは!!ゼノンや超獣より何倍も弱い!これしきでは倒れん!!」
と、そんなレオンハルトの宣誓を聞いたジャンクボットたちが、這いつくばりながらレオンハルトの元へ集まってきた。
「みんな必死だな……」
「大型の方々のほうが、風を避けられるのでは?」
シェリーの問いを聞いたカメラマンが、背後にいる大型のジャンクボットたちを指さす。
彼らも彼らで、その巨体ゆえに受ける風の量が多く、他の面々を守れるほどの余裕はない。振り落とされないよう、必死でしがみついていた。
が、そんな当人たちの気など知らず、運よく洗濯機内部に入り込むことができたカメラマンたちは、ひらひらと手を振っていた。
「みんな食らいつくので必死なようだね……」
「だってのに、アナときたら……」
そう言いながら、皆は蛇王の頭部に座るアナを見つめる。
「はやーい!」
まるで暴風のように吹き荒れる強風をものともすることなく、アナは喜びと興奮の入り混じった声を上げていた。
「なんで平気なんだ……」
「俺が鍛えた結果かな」
「体感は教えてないだろう、キッド」
「やっぱり、もともとの実力なのかしら……ここ数ヶ月で、最初に会ったときから目に見えて変わったわ」
「呑み込みが早いのか、元からの力か……ルーツも関係ありそうだが」
「やっぱり、ついて回るのは肉体の謎……か……せめて血縁だけでもわかればいいんだけど……」
キッドマン、エリザベス、サムの保護者三人組がうんうんと唸る中、アナはそんなことも知らず、目まぐるしく変わっていく景色に思いをはせていた。
と、蛇王がアナに話しかける。
「ノリゴゴチハ ドウダ」
「すごくいいよ!風も気持ち良いし、景色もきれい!」
「ソレハ ヨカッタ。フツウナラ トバサレテ イルトコロダガ。 サスガ ジュウオウノケツゾク」
そう言いながら、蛇王は口角を少しばかり上へと上げる。
そんな中、アナが先ほどの問答の続きを聞く。
「そういえば、さっき言ってたシンケツ?ってなぁに?」
「カミノチノコトダ。ワレワレヲカエ ヒトヲカエ セカイヲカエタ。ワタシノコノカラダモ コノモリノホカノモノタチモ スベテシンケツニヨルモノ。 ジュウオウモソウダ」
「変えた?…………あ、もしかして”ゲノムワン”のこと?」
「ゲノムワン?」
「私達の世界ではそう呼んでるの。あと、変化した人は超人。あなたみたいなのは、超獣って呼んでるんだよ」
「チョウジン…… ソウイエバ ジュウオウモ ソウイッテイタナ」
「その獣王って人も超人なの?」
「ソウトモ。 ヒトノミデアリナガラ オオシイタテガミト ハクギンノケヲハヤシタ シシダッタ」
「獅子……ライオン?だから獣王なの?」
「イヤ カレハ アマタノヘンカシタ…… アー……」
「超人?」
「ソウ チョウジンヲ シタガエテイタ。ソシテ ワレワレ…… チョウジュウ?トモ シンミツナカンケイヲ キズイテイタ」
「獣の見た目をして、獣を従えて……あれ?」
と、アナに一つの疑問が残る。それは疑問というよりも、記憶の引っ掛かりに近かった。
「その話、最近どこかで聞いたような……」
「キミノ センゾノ ハナシダ。 アルダロウトモ」
「うーん……ねぇ蛇王さん。その、獣王って人の名前はわかる?」
「タシカ…… ”ゴルルムンバ・ナバロウ” ト ナノッテイタ」
「ゴルルムンバ……あ!!」
その名を聞いたアナの脳内に、鮮明な記憶が思い起こされる。
SIUに来たての頃、エリザベスによる座学で出てきた名。
数多の超人と超獣を従え、世界に宣戦布告をなした獅子のごとき者の名。
そんな歴史に名を刻むほどの存在が、自身の血縁に当たる。
自身の身元に近づいた反面、その事実は、アナをさらに苛むこととなった。
数分後 小休憩中
「ゴルルムンバ!?」
皆が一息つく中、アナの話を聞いたSIUの面々は、驚愕の声を上げる。
「うん。さっき蛇王さんがそう言ってた」
「ありえん……奴には血縁はおろか、伴侶すらいないはずだ……」
「隠し子でしょうか?」
「ありえなくはないが、当時の軍団の司令官だ。四六時中やりあってたあの時代に、そんな余裕あるか?」
「ますますわからなくなったわね……一歩進んで二歩下がった気分よ……」
皆がうんうんと唸る中、サムは一人冷静に、皆に声をかける。
「ともかく、今悩んでも仕方がない。どのみち、詳しい調査は帰還しなければできないからね。アナ、他に何か、蛇王から聞いたかい?」
「うぅん」
「なら、この道中で出来るだけのことを聞いてほしい。蛇王と話せるのは、現状アナだけだ。頼めるかい?」
「もちろん。私の事なんだもん、私が聞かなきゃ!」
「ありがとう。さ、目的地まであと少しだ。みんな、それぞれ気を抜かないように!」
「「「了解」」」
休憩から数分
アナは蛇王に、ゴルルムンバに関するいくつかの質問を行った。
「ゴルルムンバに、奥さんとか子供はいたの?」
「ここに来て、誰かを好きになったとかは?」
しかし、蛇王もそこまでは知らないようで、あまり有力な返答は得られなかった。
「どうだった?」
「彼もわからないって……」
「やはりか……」
「ゴルルムンバに関する書類もデータも、機械大戦で大半が紛失、破壊されたそうですし……調べようがないのでは……?」
「やるだけやってみるさ。何より、彼女の身元がわかるかもしれないんだ。あきらめるわけにはいかない」
「その通りだが……」
と、蛇王の動きが徐々に緩やかになっていく。
それと同時に、うっそうと茂っていた森林地帯の景色が、開けた広場へと変わっていった。
皆は、蛇王の背中から顔をのぞかせ、周囲を見渡す。
そこは、一面の花畑であった。
「ツイタゾ。 ココガ キミタチノモクテキチダ」
こここそ、本来三日間の日程でたどりつくはずだった目的地。
ベルセルクの原材料、サルファ・アデモネラこと、ドーピングフラワーの群生地である。
to be continued




