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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第二章 機械仕掛けの夢
6/11

小さな手掛かり

オーランド邸爆発事件から数日


あの爆発の後、オーランドはオリバーの事前通報によって駆けつけた警察により逮捕。今回の件のほかにも、資金の中抜きやアンドロイドパーツの違法取引など数々の悪事が芋づる式に明るみになり、最悪の汚職所長としてガーデハイト国内で大々的に報じられた。


身柄においては、サムの進言のもと更なる手掛かりを得られる可能性があるとされ、一時的にWDOに引き渡されるが


「私はただ金で雇われただけだ…詳しい目的も何も知らん…それより、私の家の保証はどうなるんだ…」


…と、新たな情報は得られることはなく、ガーデハイト合衆国の刑務所に送還された。


サム、ビル、オリバーは、唯一残されたチップをアマンダに手渡したのち、調査のため再びガーデハイト合衆国に向かった。が、三日間現地で調査をしても、新たな手掛かりを得ることはおろかアンドロイドに関する事件すら起こらなかったため、泣く泣く帰還した。

アマンダもチップの解析に相当てこずっているらしく、ここ数日間は研究室に引きこもりの状態であった。


一方、キッドマンと共に特訓をしているアナはというと…


「よーし良いぞアナ…そのままゆっくり持ち上げてみろ」


「んんん~…えい!」


「お、おぉ…っとと…」


「おお!やったではないかアナ!!練習のたまものだな!!」


「や…やったぁ…」


自身が射出する小型兵器、通称「ラプター」の意図的な操作に成功。今では、成人男性よりも少し重い程度…アレキサンダーぐらいであれば持ち上げられるまでに至った。しかし自在に操作するには、現状かなりの集中力が必要なようで、1機2機程度であるならば問題ないものの、16機すべての操作をするのは三分が限界だった。

さらに


「よーい…ドン!」


ダッ!!


キッドマンの合図で一斉に走り出す面々。特殊運動場で体力をつける訓練の一環で50メートル走を行っている。訓練当初はアレキサンダーが一着であったが…


「一着!アナ!」


「まじかぁ…ゼェゼェ…いよいよ本気でやっても勝てなくなってきたな…」


キッドマンの的確なアドバイスと特訓メニューにより、数日前と比べて体力、瞬発力が格段に向上。記録や持続時間もぐんぐんと伸び続け、今では身体能力だけでいえばSIUの中でもトップクラスの実力となった。


「ずいぶんと『ドラゴン』に近づいたんじゃねえか?アナ」


そう言いながら、キッドマンはペットボトル飲料水を投げ渡す。アナはそれを汗を拭きながらノールックでキャッチしふたを開けると、一気に半分ほどまで飲み干した。


「まだまだ…もっといけると思う」


「ゼェゼェ…それ以上行かれたら…ハァハァ…我はついていけんぞ…」


「レオンさん、あんたもういい年なんだから無理すんなよ。そのうち腰をいわすぞ?」


「なら俺はそのうち肺でも破裂しそうだな」


「よせ、キッドマン…我らの年を考えると、ほんとになりかねんぞ…フゥ…」


息を絶え絶えにしながらも四人が談笑していると、運動場のドアが開く。やってきたのは、サムとエリザベスだった。


「すごく頑張っているじゃないか、アナ」


「サム!」


「みんな疲れたでしょう、そろそろお昼にしましょ」


「もうそんな時間か…よし、午前の特訓は終了!戻るぞ皆!」


「ふぅ、飯だ飯だ。今日は何かな~」


「今日はハンバーガーよ。テリーからのリクエストなの」


「ハンバーガー…楽しみ」


雑談をしながら部屋に戻ってきた一行は、さっそく食卓についてすでに準備してある適温のハンバーガーをほおばる。口いっぱいに広がる肉汁と、みずみずしいレタス、ジューシーなトマトが口の中で混じりあい、素晴らしいハーモニーを奏でる。

ただでさえハンバーグが好きなアナにとってみれば、それは未知との遭遇でありながら、新たなおいしさを知る素晴らしい食材だった。だからこそ、自然ととろけるような笑みがこぼれる。それを見た一同は、思わず自分たちまでにやけてしまうのだった。


アナが口いっぱいにハンバーガーをほおばり楽しんでいると、不機嫌なアマンダとビル、しょんぼりとしたオリバーと眉をしかめて鼻をゴシゴシとこするテリーが入ってきた。


「あら、三人ともおかえり。それで、どうだったのかしら?数日調べた成果のほどは」


「どうもこうもないよエリー…」


そう言いながらアマンダは持っていた例のチップを机に投げると、開いている席にドカッと座り込んだ。


「既存企業のどの製品とも一致しない型番と種類なもんだから、製造元は不明。大方、どこぞの個人が作ったものなんだろうけどね」


「ソレニ使用履歴ヲ解読シヨウニモ、何重ニモロックガカカッテイルセイデ容易ニ調ベラレマセン…」


「さっきやっとこさそのロックを解除できたんだが、七つも解除していまだ底見えず…って感じだぜ、ちきしょう!」


「まぁ、お前さん方三人が調べるのはわかるんだが…なんでテリーがいるんだ?」


話している間にも鼻をごしごししているテリーを見ながら、キッドマンは心配そうに声をかける。


「あぁ…技術面であんまりにも進まないから、テリーの動物的な嗅覚を使って手がかりを得ようとしたんだけど…」


「金属臭とオイルみたいなにおいしかしなくて…なのに、ずーっと鼻につけられるからにおいがついちゃったよ…うぅ…」


「タダ、テリーサンノ嗅覚デワカッタコトハアリマシタヨ。コノチップハ、直近二週間以内デ生物ニ触レラレテイナイ、トイウコトデス」


「まぁ…今のところ有力な情報ではないね…」


四人は、皆無に等しい成果と湯水のごとくわく愚痴をこぼしながら食卓に着き、ハンバーガーを食べ始めた。。


「ボンブはどうしたのだ?あ奴ならわかるかもしれんだろう?」


「僕が別の用事で探してたけど、今取り組んでるプロジェクトの関係でセルドーニャ島にいるんだってさ。しばらく帰ってこないみたいだよ」


セルドーニャ島。南国にある諸島群で、気候や治安の良さから様々な企業、特にITやインターネット関係、アンドロイド製造の会社が多く本社を構えているほか、リゾート地としても有名な場所である。


SIU屈指の技術者にしてアマンダの師匠である『ボンブ・ダルラム』は、現在別途進行中のプロジェクトの都合で、セルドーニャの各企業と泊まり込みで相談をしているのだった。


そんな南国の話をしていると、アレキサンダーがうらやましそうにため息をついた。


「あの南国の島か.…いいなぁ…俺も行きたいもんだよ」


「なら、あの島で内戦が起きることでも期待しとけ。もっとも、戦争とは縁遠いほど平和な島だがな」


「それに、一応地政学的にはここも”南国の島”よ?」


「職場があるかないかで大違いだろ…」


話が脱線し雑談へと移っていく。しかし、昼食中ということもあってだれも止めるようなことはしなかった。このチームにとっての数少ない休息のひと時なのだから。


と、ビルが突然大声を上げた。


「あ!!セルドーニャで思い出した!今日、『行商人』が来る日じゃねえか!!」


「あれ、もうそんな時期だっけ」


「なら葉巻と酒をどっさり買っとかねえとな」


「一カ月デ来ルンデスカラ、ソコマデ買イコマナクテモ…」


「私も医療系の物か情報があるといいんだけど」


皆が浮足立つ中、一人知らないアナが尋ねる。


「ねぇ、行商人ってなに?」


「それこそセルドーニャ島を拠点にしてる、文字通りの各地を旅する商売人さ」


「情報とか珍しい物品とか、いろいろ取り扱っててね。ここみたいな孤島暮らしの人々にとっては、ありがたいよ」


アマンダとサムがアナに説明すると、オリバーが何かひらめいたようだ。


「ソウダ。今後オ世話ニナルト思イマスシ、セッカクデスカラ会ッテミマスカ?アナ」


「うん、どんなものがあるか気になるし、行ってみる」


「よし!善は急げだ!行くぞ!」


ビルは一気にハンバーガーを口に詰め込むと、バタバタと外へ向う。それを見た一同は「やれやれ」というふうに微笑すると、急いで食事を済ませビルの後を追った。


WDO本部基地から離れた海岸沿いにあるWDO海軍軍港。大量の軍艦や貨物船が各ふ頭にびっしりと並べられ、荷下ろしや整備などが行われている。そのうちの一隻から、一人のアンドロイドと大型車大の機械で出来た獣が軽快な足取りで降りてきた。


「いつきても、ここは穏やかでいい場所だねぇ。なぁ?」


「キュルル」


「おーい!!シモンズー!」


一人と一体が息つく間もなく、奥のほうからビルたちが走ってきた。


「やれやれ…入港して早々とは…ずいぶんせっかちだな、ビル」


「ハァハァ…誰かさんに歯磨き粉全部使われちまってな…すぐにでも欲しいんだ」


「はいはい~いつもの~…っと。はいこれ、二十本セット。額はいつも通りな」


「お~ありがとよ~」


「ありがとうも何も、これが仕事だからなぁ」


「次は俺だ」


「酒と葉巻。だろう?キッド。ブランドはいつもの、酒は二ダースで葉巻は三ダース」


「そうそう、頼むぜ」


「じゃあ僕はねぇ…」


口々に言われる商品を、シモンズは慣れた手つきでさばいていく。皆の買い物がひと段落すると、少し後ろに隠れているアナの手をつなぎながら、サムが話しかけた。


「やぁシモンズ」


「あぁサムのダンナ!二か月ぶりじゃないか…その子は?隠し子?」


「彼女は新メンバーだよ。さ、自己紹介を」


「初めまして…アナって言います。よろしく…」


「アナちゃんかぁ~かわいいなあ。初めまして、僕は『シモンズ』。通り名だけどね。そこのでっかいのは『シドニー』、僕の相棒さ。かわいがってやってね」


「うん!…二人は行商人って言われてたけど、今までいろんなとこを旅してきたの?」


「もちろんさ!雨が降る密林、灼熱の砂漠、足の踏み場もない険しい山…銃弾が降る戦場とか…」


「そうなんだ…」


聞いておきながら、アナは話半分にシドニーのことをちらちらと横目で何度も見つめる。身振り手振りを用いながら話しているシモンズはそれに気づくと優しく声をかけた。


「…遊んでみるかい?」


「いいの!?」


「もちろん!おーいシドニー!彼女と遊んでやってくれ!」


それを聞いたシドニーは、嬉しそうにキュルキュルと音を鳴らすと、しっぽをぶんぶんと振りながら赤く光る一つ目でアナに目線を向ける。アナも、サムのお許しが出たため笑顔でシドニーにかけより、二人で遊び始めた。ほかの皆は心配そうにアナを見つめているが、シモンズは違った。


「ほほえましい光景だよ。まるで、公園で大型犬と戯れてるみたいだ。…体格差はすごいが」


「…けがさせるんじゃないぞ。大型車大の金属の塊に踏まれたらえらいことになる」


「うちのシドニーはそんなへましないさダンナ。例え輸送船レベルの大きさでも」


「ならいいんだが…」


仲よく遊ぶ光景を見守っているサムは、「さて」と一言つぶやくと、シモンズのほうに向きなおった。


「それはそうと、シモンズ。情報が欲しい」


その一言を聞き、にこにこしていたシモンズの表情は、一気に仕事の顔になる。


「わかることならなんだって。何が聞きたい?」


「このチップについてなんだけど…何かわかるかい?」


そう言いながら、サムは胸のポケットから件のチップを取り出す。軍港に向かう前に、こっそり持ってきていたのだ。シモンズは、チップを受け取るとまじまじと眺める。


「見たことのないタイプだな…どこで手に入れた?」


「廃棄場でアンドロイドが動いた事件、知ってるかい?」


「あぁ、あの汚職所長んとこの」


「その動いたアンドロイドと関係がありそうなんだ」


「なるほど…?」


さらに入念に多方向からチップを見つめるシモンズ。


「…これ見覚えがあるな」


「なんだって!?どこで見た!?」


「確か、ガーデハイト西部の小さな町だ。俺が見かけた限りだが、あそこのアンドロイド全員がこれとよく似たネックレスをしてた。あんまりにも多いもんだから、お使い中の奴を呼び止めて聞いてみたほどさ」


「その人、何か言ってたかい?」


「西部のアンドロイドたちの間ではやってる宗教の「お守り」なんだと」


「”宗教”か…」


サムはひとしきり考えた後シモンズからチップを受け取り、再び胸のポケットにしまった。


「ありがとう、有用なことが聞けたよ。いくらだい?」


「50クレジットくらいでいいよ。俺にとってはただの雑談だが、ダンナにしてみたら重要そうだからな、値があるだけ得ってもんさ」


「わかった」


サムは慣れた手つきでハンドパッドを動かす。と、シモンズの携帯から【入金完了】の通知が届いた。


「毎度あり。…ダンナ、西部に調査しに行くならくれぐれも気を付けてな。あそこの奴らは血の気が多いうえに、排外主義の奴がほとんどだ。何されるかわからないぞ」


「忠告ありがとう。肝に銘じておくよ」


「いいのさ。お得意さんが減ったらいやなんでね」


シモンズはぱちりとウィンクをすると、シドニーに「そろそろ行くぞ」と声をかけた。アナを背に乗せ遊んでいたシドニーは悲しそうにモーターを鳴らすと、背中のアナをしっぽでやさしくおろしほほを擦り付ける。アナも、名残惜しそうにシドニーをやさしくなでた。


「それじゃあ、そろそろ別の地点に行こうかねっと…そう落ち込まないでくれアナちゃん。また来月来るからさ」


「一ヶ月も会えないのは寂しいわ…」


「うーん…そうだ!これをあげよう」


シモンズはシドニーの後ろ脚をコンコンと二回たたく。すると、太ももの部分が開き中くらいの箱が出てきた。シモンズが、がさがさと中をひとしきりあさると目的のものを見つけたらしく、アナの小さな手のひらに乗せる。それは少し大きな金色のペンダントだった。先端には水色の宝石のようなものがついている。


「これは?」


「それは、シドニーが見つけた宝石を僕が加工したものなんだ。出会った記念と、僕からの入団祝いとして取っておいておくれ。お代はいらないよ」


「早速かけてみたらどうかな?きっと似合うと思うよ」


サムに促され、アナはさっそく首にかける。

少しの重さはあれど、苦しくもなくサイズもぴったりと合っている。先端の宝石が、太陽に照らされきらきらと輝いていた。アナは先端の宝石と同じように目を輝かせ、ペンダントを眺める。どうやら気に入ったようだ。


「付け心地はどうだい?苦しくない?」


「大丈夫よ。それにとってもきれい…ありがとう、シモンズ!」


「それならよかった…いいかいアナ、それは君が困ったときに必ず役に立つ。任務に行くときにでもかけておくんだよ。それと…時々それを見て僕らを思い出しておくれ」


「うん、大切にする!」


その言葉を聞いてシモンズは笑顔でうなずくと、軽やかに飛び上がりシドニーの背に乗る。


「それじゃあ皆さん、また来月!」


その一言をきっかけに、シドニーは脱兎のごとく走り出す。SIUの一同が見送る中、すぐに二人の影は小さくなり、消えてしまった。


「しかし、あの守銭奴がただで物を渡すなんてなぁ…」


「しかも、一人称聞いたかよ?「僕」だってよ。普段は「俺」なのにな(笑い)」


周りが茶化す中、アナはいまだにキラキラとした目でペンダントを見つめていた。


「よっぽど気に入ったのね。とっても似合ってるわよ」


「ありがとうエリー!初めて服以外のものを身につけたわ」


「なら、これからもっともっとおしゃれしようじゃない!私たちがいろいろ選んであげる!」


「ほんと!?楽しみにしてるわ!」


女性陣が話に花を咲かせていると、サムが一同に呼び掛ける。


「みんな!急いで戻るよ!」


「どうしたのサム?そんなに慌てて…」


「このチップの手がかりをつかんだ。類似の情報がないか調べるよ」


そういってサムは女性陣とテリーと共に車へ乗り込むと、エンジンをかけ基地へ出発した。他の一同は買ったものを協力しながら運び、トラックに積み込むとその後を追った。帰りの車内で、サムはハンドパッドをいじっている。それは、誰かへのメッセージのようだった。


「現地にいる君にしか頼めないんだ。情報収集頼んだよ」




「ようやくひと段落だ…」


「オツカレサマデス、サム」


シモンズとの買い物から数時間後。サム、ビル、オリバーはシモンズから経た情報をもとに、基地2階の作戦会議室でガーデハイト西部の宗教、事件に関する情報を収集していた。その結果、西部のみならず南部でも例のネックレスが流行り始めていることを突き止める。

さらに


「ネックレスノ流行リ始メタ時期ト分布状況ガ、人間、超人ノ失踪事件ガ増エタ時期ト一致シテイマスネ」


「その前まではそんな事件、殆どなかったのにな」


「やはり”宗教”が関係しているとみていいだろうね」


「しかしなぁ…チップと関連した情報にしちゃ決定打には欠けるんだよなぁ…」


「イカンセン、コレダロウトイウ情報ガ極端ニタリナイデスカラネェ…」


宗教と失踪事件。この二つの共通点を紐解くためには、まだ確たる情報が足りないのが現状であった。


三人がうんうん悩んでいると、備え付けのモニターに電話のマークと共にcallの文字が表示され、呼び出し音が鳴る。間髪入れずに「待ってました!」とサムは通話に出た。


「巌流!何かわかったかい!?」


サムが通話に出ると、モニターに映像が映し出される。通話の先にいた人物は、和風の甲冑のようなパワードスーツを身に着けた鎧武者だった。顔にも仮面をしているため、素顔はわからない。


「…久しぶりに顔を見せたかと思えば、即座に任務の話か。相変わらずだな、サム」


「ご、ごめんごめん…久しぶりだね巌流、カルテル検挙の任務お疲れ様。三か月ぶりぐらいかな?」


「四か月だ。ガーデハイトの友人も何人かできたぞ」


「あんなに人とつるまない巌流に友達…?相当まいってんだな…」


巌流の気迫のある苦言に、おもわずサムはたじろぐ。だが今はもっと重要なことがあった


「今度は長期の休みが取れるように掛け合うよ…それより」


「例の宗教のことだな?いくつか気になる情報をつかんだぞ」


そう言って巌流はハンドパッドをいじる。すると、モニターに複数枚の画像が添付された。そこには、世代も制作会社も違う複数のアンドロイドたちが映っていた。


「コレハ?」


「ガーデハイト西部には、ここ数か月間でアンドロイドの出入りが妙に増加した建物がいくつかある。大体は大規模カルテルのアンドロイド違法取引の市場として使われてるんだが…今回の任務で市場と思われるポイントの一つに張ってた時に、出入りしてたアンドロイドの画像だ。全員、くだんのネックレスを身に着けてる」


「それ以外の規則性はないように見えるが…?」


「問題はこいつらの身元だ」


次に、複数の書類が映し出された。


「これは直近数か月以内の行方不明者リストと…今回の任務で手に入れた、違法なアンドロイドの購入履歴だ。本来は忌むべき行為だが、今回の場合違法取引の商品だったのが吉と出たぞ」


「どういうことだい?」


と、数枚のアンドロイドの画像が拡大される。映っているのは型番や、製造会社のロゴだった。


「さっきの画像のアンドロイドたち、その中の身元が特定できる奴らを調べた結果、全員がカルテルの違法取引で商品として出されていたのがわかった。それと、行方不明になったやつら…この中の九割が、この市場でアンドロイドを購入した奴らだ」


「なるほど…違法取引か…それなら、奴の発言も納得がいく」


「『同胞たちを救うため』…か?」


「シカシアノチップハナンデス?未ダニ使用目的モワカリマセンシ…」


「それは、ここのボスに直接聞いてみたほうが早いだろうな」


巌流は位置情報と共に、新たに数枚のアンドロイドの画像を映し出した。


「ここ最近、カルテル検挙後にもかかわらずアンドロイドの出入りが多い場所があってな。そこに入り浸ってる奴の一人を酒場で見つけたんで、仲良くなった後『友達のアンドロイドが思い悩んでる』ってのを話した。そしたら”お誘い”を受けたよ」


次に送られたのは、五桁の数字が書かれたメモだった。


「最初の三桁は”座標”だ。その通りに打ち込んだらこの場所がヒットした」


「残り二桁は?」


「”日にち”と”時間”だろう。このメモを見るに…明後日の正午だな」


「アサッテ…モウスグデスネ」


「これは絶好のタイミングかもしれないぞ…オリバー、みんなを呼んでくれ。これから会議を開く」


「ナルホド、ワカリマシタ!」


サムの指示に従い、オリバーはほかのメンバーに召集命令を発令した。


数分後、SIU基地二階に在駐しているメンバーが一堂に会する。


「みんな、集まってくれてありがとう」


「全員集めたってことは…何かわかったのか?」


「えぇ、分かったことは三つ。一つめはこのチップと類似したネックレスが、ガーデハイト西部と南部のアンドロイドたちの間ではやっていること。二つめは、そのネックレスの出所が、ある宗教であることだ」


「ならば、そこから組織の全容がつかめそうだな!」


「でも、それだけならあたしらの出る幕じゃない。ガーデハイト支部のお仕事…でしょ?」


「なら呼ばれた理由は三つ目だね」


「そのとおり!」


サムの言葉とともに、モニターに先ほどの資料と位置情報が示された。


「これは、さっき巌流が送ってきてくれた情報の資料だ。分かったことの三つめとして、明後日の正午にこの教団の集会があるらしい。しかも、崇拝者からの”お誘い”までいただいた。今こそ関係者の身柄拘束のまたとないチャンスだ」


その言葉とともに、モニターにある教会の画像が映し出される。


「先ほどの座標をもとに衛星画像を解析した結果、この教会がヒットした。ここで行われるとみてまず間違いないだろう」


「小高い崖にポツンと立っていて周りには民家もない。包囲するにはもってこいの場所だな」


「そこで、ここに包囲網を敷くことにした。我々のほかにも、ガーデハイト支部の協力の元実行する。すでに長官とガーデハイト支部には通達済みだ」


「なら次はメンバー決めね。誰が出るのかしら?」


「それもこちらで事前に決めておいた」


そういってサムはみんなに名簿を渡す。


「まずは僕とビル、補佐としてオリバーだ。初手で事件にかかわったからね。次にキッドマン、アマンダ、巌流の三人だ。巌流は現地エージェントとして。アマンダはアンドロイドに詳しい、技術者観点から見える打開策もあるだろう。キッドマン、あなたは後方支援をお願いします。手荒いことになった場合、あなたがいると心強い。そして…」


サムは少し言いよどむ。だが、何かを決めたような表情で軽くうなずき、言葉をつづけた。


「最後にアナ。君にも出てもらいたい」


「わたし…?」


「アナにはキッドマンと一緒に後方支援として動いてほしい。詳しい指示は現地ですると思うけど…できるかい?」


アナは迷いのない眼でサムを見つめ、強く答えた。


「私やってみる…いつまでもみんなに頼りきりじゃいられないもの!」


「はっはっは!よく言ったアナ!」


アナの言葉を聞き、キッドマンは笑いながらアナの背中をたたく。しかし、その場にいる者の大半はアナの出陣に不安を感じていた。


「大丈夫なのサム…?訓練してたとはいえ、まだ前線に出すには早いんじゃないかしら?」


「今日のアナの『ラプター』の操作能力と身体能力を見て、出しても問題ないと判断した。それに、キッドマンにも全力で援護してもらう。彼もその真意はわかってるはずだ」


「でも…」


「心配すんなエリー、俺らも全力でカバーする。大丈夫だ」


心配するエリザベスをビルはなだめる。そして詳しい概要が続けて話され、包囲作戦の概要が決まった。


「決行は明後日だが、準備があるため明日の昼にはガーデハイトに向かう。アンドロイドが動き出す事件とも何か関係性があるかもしれない。みんな、しっかりと休んで作戦に臨むように!」


サムの激励と共に会議は終了する。アナは喜びながらも、本心では不安が勝っていた。それを見透かしたかのように、サムはアナに語り掛ける。


「大丈夫だよアナ。僕らが絶対に君を守るからね」


「ありがとうサム。私頑張るからね」


アナは自身の頬をパン!とたたき気合を入れなおす。謎の教団とSIU、二つの思惑が混ざり合う中、アナの初陣がついに始まろうとしていた。


to be continued

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