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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第二章 機械仕掛けの夢
28/31

妖艶な刺客

ドゴォォォォォン


地鳴りのような爆音が、部屋全体に響き渡る。


「がっ……っはぁ!!……はぁ、はぁ…」


ギガスの体をえぐり取るほどの一撃を見舞い、そのまま後方の壁に激突したレオンハルト。しかし、ギガスにはなった渾身の一振りは、レオンハルトに残っていた体力を一気に奪っていった。

立つこともままならず、その場に膝をつくレオンハルト。うすぼんやりとした視界で後ろを振り向く。


そこには、燃え盛り人の立ち入る隙のない業火の海で、一人ぽつんと膝をつくギガスの姿があった。彼の左半身は見るも無残にえぐれており、傷口はどろどろと溶け始めていた。


「レオン!大丈夫か!?」


溶け行くギガスを眺めていると、アレキサンダーがジェットを使って、こちらに向かってきた。


「アレク…」


「出血にやけど…かなり重症だ。ほら、これ使え」


そういって、アレキサンダーは腰の別のポートから「複合薬」と書かれているラベルが張られた注射器を一本取りだすと、迷わずレオンハルトの首に刺す。

注射器に入っている液体が減っていくと同時に、レオンハルトの目に徐々に活力が戻っていく。


と、注射を指し終わるなりレオンハルトは立ち上がると、後ろに向き直り背中のジェットを起動し始めた。


「お、おいじっとしてろ!すぐ動くのは危険だ!」


「まだ…やることがある!!」


アレキサンダーの制止を聞くことなく、レオンハルトは業火の中に突っ込んでいった。





(熱い…体が溶けていくのを感じる……ここで俺も終わりか…)


灼熱の海の中で、ギガスは動くことなくじっと膝をついている。その間にも彼の体はどろどろと溶け、自身の体とシャルルの部品が液状になり、混ざり合って地面に滴る。どれだけ頑強なギガスでも、生きていくうえで必要な器官が破壊されるまでは、もはや時間の問題だった。


(すみません……ガーディアン…先に待っております…)


「ぉぉぉおおおおおお!!」


後方から雄たけびが聞こえる。


ギガスが後ろを振り向くと、レオンハルトが業火の中を、ギガスめがけて突っ込んできた。そして、瞬時に彼の腰を掴むと、豪速で火の海の中から脱する。


突然のことに理解が追い付かないギガスは、思わずレオンハルトに尋ねる。


「な…なぜ助けた…」


「おぬしとは…まだしっかりと話し合えていないからな…!」


そう言いつつレオンハルトは急ブレーキをかけると、ギガスをそっと地面に横たわらせる。

どうやら熱によって体が動かなくなっているギガスは、体の代わりと言わんばかりに目をぎょろぎょろと動かし、周囲の状況を確認すると、レオンハルトの顔を凝視する。


「これ以上…何を話すと言うのだ…もう十分…話しただろう…」


「あぁ…”ゼノンの話なら”…な」


「…なに…?」


「おぬしは…戦闘中の会話でも、自分の意見ではなくゼノンの意見を言っていた…それではただの代弁にすぎん!我はおぬし自身の言葉が聞きたいのだ!!」


「違う!!これは俺の意思だ!!俺自身が考えた結果だ!!」


「ならば、あの拳はなんだ」


「…何を言っている…」


「言ったろう!”拳で語らおう”と!」


唖然とするギガスをよそに、レオンハルトは話を続ける。


「我は昔から、どうにも考えることが苦手だ。だがその代わりなのか、腕っぷしとガタイだけは人一倍でな!幼いころは、朝から晩まで喧嘩していたものだ…」


「…それと俺の拳の話に、何の関係がある…」


「だからこそ!様々な奴の攻撃をこの身一つで受け続けてきた!そしてこの年まで続いているとな…”攻撃してきた相手の感情がわかる”ようになるのだ」


「…」


「信念のある者の拳というのは、いつ何時どんな奴から食らおうとも、しっかりと芯の通っているものだ。だがおぬしにはない!あるのは”迷い”だけだ!」


「いい加減なことを!!」


「ならばもう一度聞く!!ゼノンのやり方を本当に正しいと思っているか!!」


「何度も言わせるな!!俺はあの方が」


「ゼノンの意見など聞いてはいない!!!」


レオンハルトから、とてつもない怒号が響く。心なしか、その怒号に委縮するように、火の手が少し弱まったようにさえ感じるほどに。


「奴の今までの行動も!奴の思想も!!お前”の”答えではない!!!先ほど問うたときも、おぬしの基準はゼノンだった!!そうじゃないだろう!!お主がどう思うかだ!!他のことなど忘れてしまえ!!自分の胸に!心に問いかけろ!!”おぬしは”!どう思っているのだ!!」


レオンハルトの怒号が響く。それは単に部屋に『音』として響いただけでなく、ギガスの心に『言葉』として響いていた。


「……俺の…考え…」


「ありのままの言葉を吐き出せ。今おぬしは、我の言葉を聞いて何を思った?」


「…………わからない…」


「わからないと?」


「…俺は……今までずっと、与えられてきた任務を全力でこなすだけで…それが最善策だったから…」


「なぜだ?」


「昔、まだ機械大戦真っただ中だったころ……たった一度だけ独断で行動した。小さな人間の女の子を助けようとしたんだ。我々の山岳基地周辺に、たまたま迷い込んだ子だ。あの方…ガーディアンからは、『かかわるな』と何度も釘を刺された。だが……迷い込んで泣いていたあの子を…放ってはおけなかった」


昔を語るギガスの声が、徐々に震えていく。


「俺は数人の部下を連れ、人里から少し離れたところまで、彼女を連れて行った。だが……その子を探しに山に入っていた人間たちと邂逅し……すぐに争いになった。話し合おうとしたが、無駄だった……結果は全滅だ。俺以外皆死んだ。助けようとした女の子さえも……!!」


ギガスが、震える腕で地面を殴りつける。衝撃で地面は陥没し、けたたましい地響きが部屋全体に響き渡った。


「助けるべきじゃなかった……!ガーディアンのいうことを聞くべきだったんだ!!そうすれば……少なくともあの場は、お互いあんなに死なずに済んだ……!」


「それで、ゼノンに従うようになったと?」


「今回も同じだ…命がかかわってくる……あの時よりも、もっとずっと多くの命が……!俺が独断で動くべきじゃないんだ!!一度失敗しているのだから……」


「だったらどうした」


悲哀と後悔に打ちひしがれうつむくギガスに、レオンハルトが声をかける。


「一度失敗して、それですべてを決めるのか?」


「……事実俺は」


「失敗したからどうしたというのだ!!その過去を学習し!二度とそのような凄惨なことを起こさないよう考えていくのが”生物”じゃないのか!!一度の失敗で立ち止まっては、意志持たぬただの”機械”と同じだ!!」


「なんだと……!」


「違うだろう!!おぬしは”アンドロイド”だ!ただの機械じゃない!!自らの意思を持つ、立派な”生き物”だ!!」


ギガスの目が、徐々に熱くなっていく。


「我も昔、自身のミスで大勢の命を失った!だから、おぬしの気持ちは痛いほどよくわかる!だが!!その失敗を恐れ行動しないよりも!!二度とそのようなことが起こらないよう、全力で挑戦し!!手の届く人々を守れるよう進んでいかなければならない!!そうしなければ、もっと多くの命が失われるからだ!!」


「俺は…俺にはそんな勇気はない……!お前とは違う…!俺にあるのは冷たいコアだけ…お前のように熱い心はない……!」


「なら、今一歩を踏み出せ」


その言葉を聞き、ギガスは顔を上げる。レオンハルトの目は、揺らぐことなくまっすぐに自身を見つめていた。


「人もアンドロイドも、失敗を糧に成長していくものだ。お前も失敗を生かせ。今ここでゼノンを止めなければ、もっと多くの命が失われる。人間、アンドロイド双方の命がだ。おぬしなら、我々と共に止められるはずだ!」


レオンハルトは、ギガスに腕を差し出す。


「さぁ、一緒に行こう!奴を止めに!」


「……俺…」


ギガスの目から、大粒の液体が零れ落ちる。その液体が、溶けた自分の体の一部なのか、はたまた別のものなのか。それを判別することは、今はできなかった。


ギガスは右腕でその液体をぬぐうと、レオンハルトの手をがっしと掴む。


その手は大きく重厚で、自分が犯した失敗も後悔も、すべてを包み込んでくれるような、そんな気がした。












時を少しさかのぼり、十数分前。


同所 懺悔室


「いってて…ビル、大丈夫?」


懺悔室に突っ込んできたテリーは、自身の頭をこすりながら、下敷きになっているビルを心配する。


「…重くて動けそうにねぇよ…」


「あっごめん!すぐどけるね!」


テリーは慌てながら、バタバタとビルの上をどける。ビルは全身の土埃とテリーの毛を払うと、ゆっくりと立ち上がる。


「ったく、いきなり突っ込んできやがって…」


「ごめんね、不可抗力で…」


「まぁいいさ。それよりも、あの女だ」


ビルとテリーは振り返り、部屋の奥の土埃を見つめる。


すると突然、数発のビームが二人めがけて放たれる。二人は難なくそれをかわすと、ビームによって土ぼこりが掻き消えた場所を見る。

そこには、テリーの諸劇をものともせず立ち上がる女性型アンドロイド、セイレーンの姿があった。


「いきなりレディにとびかかるなんて、見た目通りずいぶんと野生的なのね。狼ちゃん?」


「みんなを攻撃しようとしたんだ!止めるための不可抗力だよ!」


「あら、冗談も通じないのね?可愛いわぁ」


「な、なんだとぉ!?」


やりにくそうにしているテリーを、ビルは手を上げ制止すると、一歩前に出て話しかける。


「よぉ、美人なねーちゃんよ。こんなタイミングで会わなきゃ、俺ぁあんたをデートに誘っているぐらいだ。だがな、だからと言って犯罪行為を見逃すほど、俺たちゃ落ちぶれちゃいねぇ。おとなしく投降しろ。その綺麗な顔、傷つけたかねぇんだ」


「私がそんな言葉一つでおとなしくなるほど、素直だと思って?」


「そうじゃなきゃ力づくになるだけだ。女性を力でしたがわせるなんざ、俺の美学に反するがな」


「あら、もしかして知らないのかしら?」


セイレーンの腕が、銃のような形に変形する。


「美しいレディはね。往々にして強いものなのよ!」


直後、セイレーンの腕の銃が、多数の光線を発射する。それと同時に、ビルは小型の機械を地面に投げつけた。

たちまち二人を水色の膜が覆い、セイレーンの攻撃を防ぐ。


「持っててよかったぜ、『ドームシールド』!」


「でもどうするの?ずっとこの中にこもってるわけにもいかないし、何か手を考えないと…」


「安心しろテリー。策はもうある!」


そういった直後、ビルはテリーの背中を強くたたくと、勢いそのままにドームシールドの中から押し出した。


「そぉら行ってこい!!」


「え!?ちょっとビル!!何を…」


慌てるテリーの後ろにセイレーンの光線が迫る。


「ビル~!!」




ボウン!


目をつぶるテリーに弾が直撃したかに思えた次の瞬間、バウンド音を立て、光線は、横の壁へと軌道をそらしていく。

続くいくつかの光線弾も、同様にバウンド音を立て、テリーに直撃することなくそれていった。


「あら?」


「え?なにこれ!?」


「よぉし!実証成功!」


「ちょっとビル!これどういうこと!?」


「俺とアマンダが共同で作った新兵器『バリアスーツ』だ!理論上はゼノンのビームも防げる代物だが、実証できてなくてな。だが成功した!お前は無傷だ!」


「いつつけたのさそんなの!」


「さっき背中をぶったたいた時だよ!ほれ、なんかついてるだろ?」


言われるがままにテリーが背中を触ると、ドームシールド発生器と同じような形状の小型のディスクが、テリーの背中に張り付いていた。


「それが俺の”策”だ!これであのねーちゃんの攻撃は効かねぇ!テリー!存分に暴れてこい!!」


「う、うん!!」


ビルの激励を受け、テリーはセイレーンへと突っ込んでいく。


「少し面倒ね…」


セイレーンはぼそりとつぶやくと、テリーめがけて光線を乱射する。しかし、結果は先ほどと変わることなく、光線はテリーの体にはじかれて行く。


「効かないよ!くらえ!!」


テリーが腕をクロスさせ、セイレーンに向かっていく。


「素直に受けるほど、私は安い女じゃないの!」


セイレーンが防御姿勢に映ろうとした直後、一発の弾が命中する。セイレーンがその弾を見た直後、彼女の体に電流が走った。


「がっ!?」


セイレーンが、弾道を追ってテリーの奥に目をやる。そこには、硝煙が立ち上るハンドガンをこちらに向けている、ビルの姿があった。


「スタン弾だ。たっぷり味わいな!」


しびれるセイレーンの動きが止まる。そんな彼女めがけて向かうテリーの鋭い爪は、光線の光を浴びて煌めいていた。


「”クロスエッジ”!!」


テリーの鋭い爪が、セイレーンの体をX状に切りつける。衝撃でセイレーンは後方に吹き飛び、壁に激突した。


「手ごたえあり!」


「よぉし!ナイスだテリー!このまま奴を捕縛して…」


二人が話し始めた直後、再び無数の光線弾が、土煙から放たれる。


「うわ!?」


「なに!?あいつまだ動くのか!?」


「言ったでしょ?美しいレディは強いって」


瞬間、土煙を切り裂き、セイレーンが姿を現す。彼女の腕は、先ほどと違って剣上に変わっていた。その剣には、テリーの爪痕がくっきりと残っていた。


「銃の次は剣か…変幻自在だね、おねーさん!」


「できる女は隠し玉を持っているものよ。さ、続けましょうか!」


今度は、セイレーンがテリーめがけて突っ込んでくる。テリーも迎撃しようと、手刀を繰り出すが



ガキィイン!


鋭い金属音とともに、テリーの手刀は止められる。セイレーンのかかとから、脚全体と同じ長さの刃が突き出し、テリーの手刀をまるでバレリーナのようなポーズで止めたのだ。


「今度は足!?」


「これも隠し玉よ、子犬ちゃん!」


セイレーンは手刀をはじくと、足と手を使った高速の連撃を見舞う。テリーは防ぐことしか出来ず、だんだんと後方に押し下げられていった。


「くっ!隙がない!」


「さっきの威勢はどうしたのかしら、子犬ちゃん!?すっかり及び腰よ!!」


セイレーンが跳躍し、テリーの顔面に蹴りを入れる。それと同時に刃がテリーの顔を切りつけ、大きな切り傷ができた。


「が!」


「これで終りね」


その隙を逃さず、テリーを大量の剣撃が襲う。体中に無数の切り傷が付き、血を吹き出していく。一度体勢を崩し、行きつく暇がないということもあって、テリーはやられ放題だった。


「ぐ、が、あぁ!!」


「ほらほらほら!!もっときゃんきゃん吠えなさい!!


セイレーンがテリーを切り裂いていた直後。


「”ジェットナックル”!」


横からビルの鋭い拳が、セイレーンの顔面を殴りつけた。体勢を崩したセイレーンを、ビルは蹴り飛ばす。


長椅子を壊しながら、セイレーンは吹き飛ばされていく。その隙に、ビルはテリーを抱えると、その場から距離をとる。


「おいテリー!大丈夫か!?」


「ぐ…」


ビルの呼びかけに対する反応は鈍い。それもそうだろう。先ほどの連撃で体中に深い傷を負い、そこからとめどなく血が流れ出ている。

出血多量で死んでしまうのも、時間の問題だった。


「あいつめ…俺が援護できないとわかって、接近戦に変えやがった…」


そう言いつつ、ビルは腰のプレートをタップする。とたんにプレートが開き、中から注射器が顔をのぞかせた。その注射器にもまた、「複合薬」というラベルが張られている。


「待ってろ、今治して…」


ろ、ビルが言い終わらぬうちに、セイレーンがこちらめがけて突っ込んできた。ビルはとっさに防御姿勢をとるが、そのはずみで、注射器が割れてしまった。


「あ、くそ!」


「回復なんてさせないわよ?」


先程テリーに浴びせられた連撃が、ビルを襲う。ビルは何とかいなしているが、その顔はどこかこわばっていた。


「この馬鹿!!あいつを早く治さねぇとやべぇのに!」


「あなたにとってはまずくても、私にとっては好都合なのよ!」


「それはちげぇな…やばくなるのは、俺たち二人ともだ…!」


「言い訳にしては少し苦しいんじゃない!?」


ビルの腕をはじいた直後、セイレーンの腕の剣が、ビルの首めがけて襲い掛かる。


だが、その剣が届くことはなかった。




ドゴッ




「!?」


突然、鈍い横からの衝撃が、セイレーンを襲う。


吹き飛ばされたセイレーンが空中で体制を整え着地すると、先ほど切りつけ倒れていたはずのテリーが、起き上がっていた。

なぜか、先程よりも彼の体は大きく筋肉質になり、息も荒い。


そして、彼が先ほどまで追っていた傷は、きれいさっぱりなくなっていた。


「まったく…だから早く治さなきゃいけなかったんだ…」


「…どういうこと?」


「こいつは、深い傷を負うか、感情が高ぶると暴走する…こうなりゃもう、だれも手が付けられなくなるんだよ!!」


「グォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


テリーの咆哮が響く。もはや、彼に理性は残っていなかった。


to be continued

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