革命の始まり
「急げ!現地部隊だけでは手に負えん!救援要請国には中隊を派遣しろ!」
源一郎の怒号が、WDO本部の航空機格納庫で響き渡る。
ゼノンの全世界放送から約30分後。世界各地でアンドロイドたちが一斉に武装蜂起していた。
放送当初、多くのアンドロイドは何もしていない。むしろ被害者だった。しかし、動乱のニュースが世界中で報じられ不安感が高まったことで、人間や超人の抱くアンドロイドへの不安感が噴出。世界中の小さな町の片隅で起こった些細な小競り合いは、今や国を巻き込んでの種族間抗争に発展しつつあった。
これを受け世界政府は緊急事態を発令。WDOに対し、加盟国への本部部隊派遣を命じた。
加えて
「ハンドラー!状況は!」
『依然増えるばかりです!ガーデハイトでは8割の廃棄場が陥落しました!」
「くそ!封鎖も読まれてたか…!」
全世界放送終了直後、WDOが封鎖していた廃棄場が、突如大量のアンドロイドたちの襲撃を受けた。駐留していたWDOの部隊は迅速に応戦するも、襲撃者の実力が予想よりも上だったこと、奇襲だったこともあり、多くが全滅。生き残った部隊も本部の指示の下、廃棄場を放棄した。
「今後被害は拡大する!本部の全軍を投入して事態に当たれ!」
源一郎が指示を出す中、多数の兵器や戦闘車両、エグゾスパルタンが、WDO兵と共に次々と輸送船や航空機に乗り込んでいく。
WDO本部は巨大な島ということもあり、200万ほどの兵力を保有している。しかし、現在残っているのは50万ほどであった。それほどまでに、被害は拡大している。
同刻 ガーデハイト合衆国 テレビに映るニュース
「……繰り返します。決してアンドロイドに近づかないでください。非常に危険です。市民の皆さんは、安全な屋外に退避し、しっかりと施錠をしてください。繰り返しお伝えします。現在、合衆国各地でアンドロイドによる暴動が発生しています。首謀者は自らを”ゼノン”と名乗っており、各地で暴動を呼び掛けています」
同刻 ヨーロッパ各国 インターネットニュース
「また、ゼノンの配下と思われる未知のアンドロイドが各地で出没しており、アンドロイドたちの暴動を扇動しています。このアンドロイドたちは武装しており大変危険です。見かけ次第真っ先に逃げてください」
同刻 ソドムスカ連邦 家電量販店のテレビ
「これを受け、大統領は国家存亡の非常事態であると述べたうえで、人類並びに超人を保護するべく、アンドロイドへの全面攻撃を国軍に命じました」
同刻 WDO本部 長官室
「こんな短時間で、ここまで混乱が起きるとは…」
パソコンを前にパーシアスは頭を抱える。パソコンの画面には、世界政府の最高議長『ニコライ・アンダーソン』の姿があった。
「アンダーソン最高議長、世界政府としての見解はどうしますか?」
「私としても悩んでいるところだ…公式見解は出したいところだが、下手になにかを発令すれば、かえって火に油になりそうでね。まだ出方をうかがっているのが現状だ」
「しかし、世界政府の公式声明がないというのは、かえって不安や混乱を招く可能性も大いにあります。どうにかなりませんか?」
「コーウェル君。世界の現状をよく見てくれたまえ。ソドムスカのアンドロイドせん滅命令のせいで、余計に世界に混乱が広がっている。大国とはいえ、一国家の公式声明だけで世論が左右されるほど、今の状態は不安定なのだ。君の気持ちもよくわかるが、いましばらく待ってくれ。こちらも全力で対応する」
「しかし」
「それに!あまり言いたくないことだが、君たちWDOが度重なる作戦を経てなお、かれらを捕縛できなかったことも、今回の事件の一端としてあることを忘れるな。君の進言はありがたいが、今は職務に集中しろ。以上だ」
そう言うと通信は切れる。パーシアスは苦虫を噛み潰したような渋い顔で、顔の汗をぬぐう。
「ここで後手に回れば被害は悪化する…なぜわからんのだ…」
同刻 SIU待機室
本部全体があわただしく動く中、ここだけは普段と変わらず、平和な様相を呈していた。ある一人を除いて。
「…」
「大丈夫かアナ?もう30分も前からそんな調子だな」
そわそわと周りを見回すアナを、ビルはソファに深く腰掛けてなだめる。
「だって、あったんでしょ?アイアンエデンの…ゼノンからの何かが…」
「あぁあったさ。だがうちに出動命令は来ていない」
「普段は命令が出なくてもいくじゃない」
「そうだな。だが今は行けないのさ。”ピース”がそろってないからな」
「ピース?」
「そう。だが、もう少しで…」
ビルが話している最中、突然二階のモニターに通信が入る。待ってましたと言わんばかりに、モニターの前で待機していたサムが通信に応じた。
「はい。こちらSIU」
「早いなサム。他のメンバーはいるか?」
「はい。全員、そろっています。この通信もスピーカーです」
「よろしい。では、SIUメンバーに指令を下す」
その言葉と同時に、モニターにガーデハイトの衛星画像が映し出される。その画像を見るために、メンバー全員が二階に集まる。その画像には、いくつか赤い点でポイントされている場所があった。
「これは今までの捜査で制圧した、アイアンエデンの拠点と目されている場所だが、これらの拠点を一直線で結ぶと、ある一つの地点に行きついた。それがここだ」
源一郎が言い終わると同時に、赤いポイントから線が伸び、ある一つの地点に集約される。そこは、ガーデハイト付近に浮かぶ小さな島だった。
「バミューダ島。恐らく奴らの本拠地はここにある。SIUメンバーには現地に赴き調査を…」
と、通信モニターにオリバーが割り込んできた。
「皆サン!ゼノン達ノ居場所ガワカリマシタ!バミューダ島デス!バミューダ島ガ奴ラノ本拠地デ…アレ、源一郎サン。ドウサレマシタ?」
「…今しがた君と同じことを報告していたところだ…」
「ア…申シ訳アリマセン…」
「構わん。どうやって分かった?」
「先程ノ全世界放送デス。アノ放送ニハ、既存ノ電波トハ違ウ別ノモノガ使ワレテイマシタ。ソノ電波ヲ調ベ、発信元ヲ辿リマシタ」
「なるほど、電波か…よし、これで奴らの所在がはっきりしたな。改めて命令を下す。奴らの本拠地、バミューダ島へ行き、奴らの身柄を拘束せよ!」
「了解!」
メンバー全員が返事をすると同時に、通信は切れる。その通信が終わると同時に、二階のホログラムテーブルが先ほどの画像を映し出した。その画像をもとに、サムは作戦を説明し始める。
「長官とオリバーの尽力で、奴らの居場所が判明した。そこで、バミューダ島上空でヘイロー降下を行い、奇襲を仕掛ける。だがオリバーによると、いま世界で予想以上に混乱が起きているようだ。そこで、二つの班に分け、片方をゼノン一派検挙に、もう片方をWDO部隊の補助に向かわせることにする」
「メンバーはどうするの?」
「奇襲部隊は僕、ビル、レオン、アレク、颯、巌流、テリーで行く。補助部隊にはシェリー、アマンダ、キッド、エリー、ボンブが行ってくれ。補助部隊の支援場所は…」
「私は?」
自分の名を呼ばれなかったアナが、サムの言葉を遮る。
「…君は待機だ」
「どうして?」
「勧誘をあきらめたとはいえ、奴が君に目をつけている以上、動くのは危険すぎる。ここで待機していれば安全だ。それに、奴はもう武力行使を始めている。平和的解決は絶望的だ。だから…」
「私は戦える!もう最初の何もできない女の子じゃない!」
「だが…」
「それにゼノンは私と会うのを望んでた!彼は私無しでは止まらない!私が止めなきゃ!もう一度話し合えば、彼もきっと…」
声を張り上げるアナに、サムは冷静に尋ねる。
「ならもし、ゼノンを止める手立てが殺すしかなくても、できるかい?」
「!」
「今回の作戦は今までのように取り逃すわけにはいかない。奴を止めるなら、どんなこともする。その覚悟はあるかい?」
アナは少し言葉を詰まらせうつむく。しかし、すぐに顔を上げ、サムの目を見て答えた。
「できる。たとえどんなことになっても、私は彼を止める」
決意のこもったアナの宣言を、皆は静かに聞く。そして聞き終わると、サムはにこりと笑ってアナに語り掛けた。
「わかった。君がそこまで心を固めているのなら、一緒にゼノンを止めに行こう」
「!じゃあ」
「あぁ。君の今の決意が知りたかった。試すような形になってしまったけどね」
アナは皆の顔を見る。全員の顔には、笑顔が浮かんでいた。
「さっきも言ったけど、今回の作戦では奴を取り逃がすことはできない。もしかしたら殺さなくてはならないかもしれない。アナの優しい気持ちは十分尊重するし、話し合いも止めようとは思わない。でも、いざとなったら殺してでも止める。その覚悟はしておくんだよ」
「わかった!」
サムはアナの目を見る。その瞳には、いつもよりもより一層輝く、決意の光が見えた。
「よし!皆行こう!ゼノンを止めるぞ!!」
「「応!!」」
数分後
バトルホークと共に、一機の輸送船がWDO本部から飛び立つ。二機は別々の方向へと向かっていった。
「エリー達はどこへ行ったの?」
バトルホークで戦闘準備を整える皆に、アナは問いかける。その問いに、テリーが自身の爪を研ぎながら答えた。
「シェリーとキッドは戦闘支援にガーデハイトの廃棄場へ。エリーはソドムスカの緊急医療センターに医療支援、ボンブとアマンダは防衛線構築の手伝いでヨーロッパのWDO支部に向かったよ。それぞれ適材適所ってやつさ」
「しかし大丈夫なのか?戦闘要員全員で奇襲攻撃を仕掛けないで。アマンダとシェリーがいないだけでも痛手だ。なのに、まさかキッドさんまでいないとは」
「心配すんなよ巌流。ちゃんとサムにも考えがあるんだろうさ。なぁ?」
ビルが腕を整備しながらサムに顔を向ける。自身の愛銃を分解し整備するサムは、手を動かしながら答えた。
「今回の奇襲作戦は、過去三度の作戦でやつらと多く戦ったメンバーを選出してる。ロストウェポンを新たに三つ手に入れてはいるが、基本戦法は変わらないはずだ。だからこそ、基本を知り、なおかつ柔軟に対応できるこのメンバーにしてある」
話ながら、サムは銃を組み立て腰のホルスターにしまう。
「だからこそ、あくまで予定ではあるけど、誰が誰と戦うかも考えてある」
そういってサムは船内の中央にあるホログラムテーブルに向かうと、慣れた手つきで操作する。そうしてと表示されたのは、アイアンエデンの幹部たちだった。
「まず、ギガスにはレオンとアレクが対応してもらう。アレクが機動力で翻弄し、レオンが手痛い一撃を見舞う。ヒット&アウェイが有効だろう」
「了解」
「任せろ!」
「巌流と颯はカナロアだ。奴の触手の強度はそこまででもない。二人の糸と刀なら、なおさらだ。千切りにしてやれ」
「オッケー」
「了解だ」
「次に、セイレーンと呼ばれていた新手。奴はビルとテリーに任せたい。二人の機動力と状況対応力なら、敵じゃないさ」
「わかった!」
「おうとも」
「最後に……ゼノンは僕とアナで行く。最初は穏便に。それが無理なら…力づくで止める。良いね、アナ」
皆はアナの顔を見る。だがその顔に、もう迷いはなかった。
「うん。もう迷わないわ」
アナの宣言とともに、バトルホークの後部ハッチが開く。と同時に、スーツを着終えたアレキサンダーが、アナの肩にポンと手を置いた。
「心配するなアナ。何かあったら、俺たちが助ける」
「そうとも!我がいる限り、奴の攻撃は少しも通さんぞ!」
「アレク、レオン」
ともう片方の肩に颯が手を置く。
「僕らのほうが終わったら、すぐそっちに行くからさ」
「だから安心してぶつけてこい。何かあれば助けに行く」
「颯、巌流」
その後ろから、ビルが二人に手を重ねた。
「よっしゃ!覚悟決めろよアナ!」
「僕らがついてるよ!」
「ビル、テリー」
そして、館内にオリバーのアナウンスが流れる。
「皆サン、ドウカオ気ヲツケテ…!」
それと同時に、サムが優しくアナの手を取った。
「行こう。ゼノンを止めるために」
サムの言葉に、アナは大きくうなずいた。
「行こう!みんな!!」
アナの掛け声で、皆はバトルホークから勢いよく飛び降りた。
同刻 アイアンエデン本拠地 指令室
「状況は」
玉座のような椅子に座りながら、ゼノンがバックラーに問う。モニターで状況を調査していたバックラー達は、即座に答えた。
「現在、世界中で我々の仲間を先頭に、武装蜂起がおこっています」
「そして、我々が細工した廃棄場でも次々に同胞たちが目覚め、付近の町を襲撃。いくつかは陥落し始めたそうです」
「WDOも動いていますが、ゼノン様の予測の範疇です。問題はないかと」
「わかった。引き続き頼む」
「「了解」」
ゼノンの合図で、バックラー達は再び作業に戻る。それを見てゼノンは立ち上がると、わきに置いてあった杖、「アロン」を手に、指令室を退出した。
コンクリートでできた長い廊下を、ゼノンは歩く。その時ふと、工場でアナに投げかけられた言葉を思い出した。
『戦争以外の解決の仕方はきっとある!』
「戦争以外の道…か…」
アロンを握る力が強まる。
「そんなもの…もうないというのに…」
つぶやいているうちに、ゼノンは本拠地のエントランスにたどり着く。そこには、何体ものバックラーとΩ1、幹部たちが戦闘態勢で待機していた。
「お待ちしていましたわ、ボス」
「お変わりありませんか、ゼノン様」
「あぁ。今までにないほど絶好調だ」
幹部たちがゼノンの元に歩み寄る。
カナロアのアームは再び六本に増え、今までとは違う見た目をしていた。
セイレーンも腕に特殊なアーマーを装備している。恐らく戦闘用だろう。
ギガスは見た目の変化はないものの、どこか殺気立っていた。
ゼノンは幹部たちと共に、二階からエントランスにいる兵たちに向け、話し始めた。
「諸君。今日が分水嶺だ。我々の勝敗が、アンドロイドの未来を決める。世界の動きはおおむね予想通りだ。だが、一番の不安要素がこれからやってくるだろう。決して侮るな!慈悲をかけるな!全力をもって叩き潰せ!」
その言葉にエントランス中が沸き立つ。
その直後
ドガァァァァン!!
激しい轟音とともに、エントランスの壁が破壊される。
立ち上る土煙の中、一つの物体が兵たちに向かって転がってきた。
「?……!グレネード!!」
バックラーの一人が叫ぶが時すでに遅し。爆発したグレネードによって、多くの兵が壁に叩きつけられた。
そんな中、土煙から八つの人影が姿を見せ、そのうちの一つが、ゼノンに声高に宣言した。
「ゼノン!あなたを止めに来た!!」
「アナァァァ…!」
ここに、決戦の火ぶたが切って落とされたのだった。
to be continued




